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ずっこけ3紳士! はじめての異世界生活~でもなんかループしてね?(ネタばれ)~  作者: 犬者ラッシィ
第十一章 3紳士、無双したり成り上がったり、ずっこけたりする
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425 『ヒロイン達の事情~秘密の日記②~』

 アメリカ人エージェント、ブルース・ウォレスは魔術師の家に生まれた。――といっても、二十一世紀の現代までに、先祖代々受け継がれた魔導の知識はその大部分を忘れ去られて久しく、彼の父親に至っては日々アルコールに溺れ、息子への暴力が絶えない知性の欠片もない男でしかなかった。


 父親の死後、遺品の中から見つけた古い本がブルースの運命を変えた。

 驚くべき事に、その古い本『マゴットの秘儀』は16体の悪魔を封印し使役する正真正銘の魔導書であったのだ。

 かつてウォレス家の魔術師達は16体の使い魔を自在に操り、歴史の裏側で暗躍し、時の権力者達の偉業を陰で支え操り権勢を誇ったのだ――と、魔導書を1ページめくっただけで勝手に召喚された小悪魔ウコバクはブルースに語った。


 小悪魔ウコバクは、魔導書のあるじに悪巧みをささやき、魔導にいざなう案内の悪魔。

 ブルースはウコバクの案内で、更に3体の悪魔召喚に成功するが、残りの12体の召喚は叶わなかった。――なぜ召喚できないのか? 何かが足りないのだとなんとなく感じてはいたが、その時のブルースには何が足りないのかさっぱり判らなかったし、案内の悪魔も無責任に答えをはぐらかした。


 それでも4体の悪魔を操れば、ブルースは面白おかしく好き勝手に立ち回り、簡単に大金を手に入れることも、気に入った女達を自由にすることもできた。

 しかしほどなくして、彼のそんな享楽の日々はあっさりと終わる。

 

 たいした証拠もないままに犯罪者として政府に拘束されてしまうブルース。

 魔導書『マゴットの秘儀』は政府の管理するところとなった。

 為す術もなく禁固刑に処され絶望し全てを諦めかけていたブルースだったが、政府は彼の特殊な才能を埋もれさす気などさらさらなかった。


 こうしてブルースは、犯罪者でありながら悪魔召喚の技能を見込まれて、政府のエージェントとしてスカウトされたというのが、異世界に来る前の彼の簡単な経歴である。



異世界に来てから十六年、ブルースは新たに3体の悪魔召喚に成功していた。

 結局のところ、召喚のために足りなかったのはMPだった。レベルアップでMPが上昇したブルースは、16体の内7体まで悪魔召喚が可能となったのである。





 派手な壁紙の怪しい個室――。

 階下からは、蠱惑こわく的な音楽と酔客の喧噪が薄らと聞こえてくる。

 

 窓辺に腰掛けた身長およそ30㎝、猫の顔に成熟した女性の肉体――猫面の悪魔バスティスは、その個室に集まって何やら企みごとに精を出す人間達の様子を興味なさげに見守っていた。



 個室のベッドの上で手足を拘束され大の字に寝かされている全裸の女は、失神した大司教ユーシーであった。

 絶頂の余韻で紅潮しヌルヌルに汗ばんだ肉体を見下ろすのは下卑た笑いをうかべた四人の男達。



「ヤレヤレだヨ! 勝手に護衛のパラディンどもをまいてノコノコ自分からこんな場所まで来てくれるなんてね、寿命を一週間分も削ったかいがあったじゃんヨ!」


 ブルースが右手に持った魔導書『マゴットの秘儀』の開かれたページ。そこから伸びる細い鎖が、彼のオーバーアクションに合わせてジャラリと波打つ。

 細い鎖は、猫面の悪魔バスティスを魔導書に繋ぎ止める契約の鎖である。鎖は彼女の背中の羽根を無残に貫き、行動の自由を束縛していた。

 

 契約の鎖が波打つ度に、「ゴロゴロ」と不快そうに喉を鳴らす猫面の悪魔。それでも、その鎖に繋がれた悪魔達は魔導書の主に逆らうことはできないのだ。


 猫面の悪魔バスティスは日記の悪魔。彼女は対象者の「未来の日記」を盗み見る特殊な能力がある。もちろん対象者が実際に日記を付ける習慣があろうがなかろうが関係なく、要するに対象者の「未来のスケジュール」を事前に知ることができる能力だ。

 ただし、時間に干渉するその能力の行使には、相応の対価を要する。

 ブルース・ウォレスは、大司教ユーシーの一週間分のスケジュールを確認するために、自身の寿命一週間分を対価としてバスティスに支払っていた。――今日、この日のために。



「まじスゲーじゃん! まじヤベーじゃん! ブルースさん、まじ覚悟決まってんじゃん! オレちゃん達じゃ、ムリムリじゃ~ん!」


「悪魔と取引とか、寿命一週間分とか、大司教サマ拉致っちゃうとかちょーうムリムリー! ムリムリのムリーって感じー?」


 チャラいイケメン獣人の二人組が、ベッドの両サイドからユーシーの乳房を無造作にいじくりまわす。失神していても、女体は面白い様にびくんびくんと反応し、二人組をますます面白がらせた。



「ブルースさんさー、例の粉薬使うんでしょー? 早いとこやっちゃってくださいよー」


「オヤァ? 気に入ったのかヨ、ミチシゲ? お尻の大きい子が好みかヨ?」



「んー、この子ってさ大司教ユーシーちゃんっていったっけ? 偉い人なんだろー? そういう女子をさーグッチャグチャにしてやりたいんだよねー僕」


 ユーシーの股間をミチシゲの指が無遠慮に撫で上げると、四肢を拘束された女体は切なそうに腰をくねらせた。



「ヘーェ、でもさ粉薬はちょっと待ってヨ! 先に大司教様の右おっぱいから『大妖精の魔石』をほじくり出すじゃんヨ!」


 歴代の大司教が継承する「大妖精の魔石」には、最強スキル【世界破壊ワールドディストラクション】が内包されている。ブルースが寿命一週間分を費やしてでも成し遂げたかった目的は、スキル【世界破壊ワールドディストラクション】の奪取であった。


 銀色のナイフを光らせ、全裸のユーシーが横たわるベッドに歩み寄るブルース。――あ、暴れないように、手足抑えといてくれヨー? と彼に言われ、イケメン獣人の二人組とミチシゲは、イタズラの手を止めてユーシーの両肩と太ももを抑えつけた。




 ***




 その頃別室では、全裸の聖女二人が激しく身体をむさぼりあっていた。

 聖女メリルの上で、ヘコヘコと腰を振る聖女アイダ。

 二人を繋いでいるのは、スキル【フタナリ】でアイダの股間ににょっきり生えたグロテスクなイチモツである。

 呼吸も荒く、しだいに反復運動のペースが早まっていく。

 やがて、切なげな吐息をもらしながら今夜何度目かの絶頂をむかえるアイダ。



「ハァハァ……す、すごいな! すごいぞメリル! こんなにもすごいことが、この世にあったなんて……!! 今私は、モーレツに感動している! あえてもう一度言おう、私はモーレツに感動している!!」


「ハァハァ……ハァハァ……、激しすぎますアイダ様。だけど、悦んでいただけたみたいで、良かった……! 勇者選考会予選免除枠の件、くれぐれもお願いしますね?」



「ああ、私に任せておけ。教会から推薦予定の男、ヤマダには色々と悪い噂もあってな、ユーシーやエリエスがなんと言おうと、無理のない形でヤツを除外する流れにもっていけることだろう」


「うれしい、アイダ様!」



「だがメリル、お前の兄、エドヴァルト殿がレベル56であるというのは間違いないのか? ヤマダを推薦枠から外したとして、エドヴァルト殿の実力がイマイチでは話にならんぞ?」


「それはごもっともです! ですのでそろそろ、わたしの優しくて強い兄をアイダ様にご紹介したいと思うのですが、いかがでしょう?」



「ふむ。まあ、それは構わんが……、今夜これからか? 私はまだまだ、朝までメリルお前と――」


「もちろんですアイダ様、ですので――」


 そう言ってメリルは、両腕と両脚でアイダをがっちり抱き込んだ。そうなっては、繋がったままのイチモツを引き抜くこともできない。





「こんばんは。お初にお目にかかりますアイダ様。僕の名は、エドヴァルト・マイネリーベ、いつも妹がお世話になっております」


「きゃっ!!?」


 いつの間にか、アイダとメリルが重なり合ったベッドの脇に、黒光りするボンテージスーツを身に着けた美しい青年が立っていた。

 仰天し、思わず少女の様な悲鳴を上げてしまうアイダ。



「なんでもアイダ様におかれましては、勇者選考会の予選免除枠に、この僕をご推薦いただけますとか、妹共々深く御礼申し上げます」


 全裸のアイダの背中と尻を見下ろして、美しい青年――エドヴァルト・マイネリーベはニッコリと微笑む。



「バ、バカな!! いつの間に!? いつからこの部屋にいたんだ!?」


「最初から、ですかね? 僕が居たこの部屋にアイダ様が後からやって来たのですから。――ああ、もちろんアイダ様がベッドの上で、その太いモノを出したり戻したりしているところも一部始終拝見しておりましたよ? なんだかとても嬉しそうにしているものだから、僕はお邪魔にならぬよう黙って……」



「黙れっ!! ぐぬぅ、私としたことがなんたるブザマ……って、おいメリル、放せっ!! いつまで抱きついている!!? お前、エドヴァルトがいることを知っていたな!!?」


「大丈夫ですよ、アイダ様? 今夜のことはわたし達だけの秘密です。ですよね、お兄様?」


「もちろんさメリル、秘密は秘密でなければ意味がないよ」


 どうにかイチモツを引き抜こうと身をよじるアイダだったが、メリルの両腕と両脚にがっちりホールドされていてなかなか上手くいかない。


 なおも暴れるアイダの尻を、エドヴァルトが平手でベチン! としたたかに打った。



「いぎぃ!!? なっ……、何をするっ!!?」


「知っていますよ、アイダ様?」



「何を――いっ、いぎぃぃぃっ!!?」


 ベチン!! ベチン!! ベチン!! と繰り返しエドヴァルドに尻を叩かれ、言葉を失うアイダ。



「知っていますよアイダ様。本当は、痛くされるのがお好きなのでしょう? ですよね、お兄様?」


「何をバカなこ――いいいっ、いぎぃぃっ!!? いぎぃぃっ!!? や、止めて……! いぎぃぃぃぃっ!!?」


 ――ベチン!! ベチン!! ベチン!! ベチン!!

 ――ベチン!! ベチン!! ベチン!! ベチン!! 

 アイダが大人しくなるまで、エドヴァルトは繰り返し尻を叩き続ける。



「アイダ様、僕はね、八年間も大風俗都市『水龍馬ケルピーランド』のスタッフをやっていたものだから、女性がどうして欲しいかなんてお見通しなんですよ。――ええ、もちろん誰にも言いませんから、素直になってくださいよ?」




 ***




 不意に、窓際に腰掛けていた猫面の悪魔バスティスが白い羽根をパタパタはためかせて部屋の隅へと飛んだ。

 白い羽根を縫い止めている契約の鎖が、ギリギリまでぴんと張り詰める。鎖はブルースの所持する魔導書『マゴットの秘儀』から伸びていて、バスティスの行動範囲を制限していた。

 うにゃっ……と、小さく鳴いて床に落ちる猫面の悪魔。



「……? 子猫ちゃん、何をバタバタしてるんじゃんヨ? 大人しくしてないと、三味線しゃみせんにしちゃうゼ!?」


「……死ねばイイのだわ」



「んんー!? 何か言ったかヨー!?」


「別に……」


 急に反抗的な態度を取り始めた悪魔バスティスをいぶかしみつつも、ブルースは再びユーシーの裸体に視線を戻した。

 左手で右の乳房を持ち上げ手ぬぐいで汗を拭き取ると、ゆっくりと右手のナイフを近づけていった。







 ――パリン!! 窓ガラスが割れるのと同時に、ユーシーの太ももを抑えていたミチシゲが床に崩れ落ちた。

 続いて、無数の魔法【石礫】が部屋中を撃ち貫いていく。

 

 イケメン獣人の二人も、全身を穴だらけにして倒れる。

 

 ブルースも数発を食らったが、とっさに召喚した2体――みすぼらしい老人の姿をした悪魔ビフロンスと巨大な花のような悪魔ラビアを盾にして致命傷を免れた。

 

 あらゆる方向から降り注ぐ【石礫】が部屋の中を破壊していくが、ベッドの上の大司教ユーシーだけは一切の無傷。それに気がついたブルースはベッドの陰に身を潜める。

 

 彼の視界の隅に、部屋の隅で縮こまっている猫面の悪魔バスティスの姿が映った。

 彼女が窓辺から移動したのはこの攻撃を予知してのことか――と思い至るブルース。


 ブルースが見た「大司教ユーシーの日記」にこんな襲撃は記載されていなかったはずと、感情の読み取れない猫面を睨む――が、直ぐにそれどころではなくなる。



「……うちのユーシーに、なぁにしてくれてんだ、チンピラがーっ!!?」

 

 ボロボロになった窓枠を踏み越えて、長身の中年男がかつてない怒りに身を震わせて立っていた。――パラディン№6、ランポウ・バルザックである。


 あわてて追加の悪魔を呼ぼうとしたブルースだったが、右腕を【石礫】に貫かれて魔導書を落としてしまう。

 残った左腕で落とした魔導書を拾おうとするが、悪魔バスティスに鎖を引っ張られて届かなかった。



「性悪ネコがヨォ!! ――ビフロンス!! ラビア!!」


 狡猾こうかつな悪魔ビフロンスは、イケメン獣人二人の死体を操った。操られた獣人二人は、ランポウを無視してユーシーの裸体に覆い被さる。



「イヌ臭ぇ手で、その人に触るんじゃねぇ!!」


 激昂するランポウ。彼は獣人を差別するような男ではなかったが、その時ばかりは怒りで正気を保てなかった。

 

 ランポウがイケメン獣人二人の死体に気をとられている隙にブルースは、女陰のようにパックリ割れた悪魔ラビアの中に逃げ込んだ。

 ブルースを飲み込み、そのまま姿を消す悪魔ラビア。

 

 ランポウがイケメン獣人二人の四肢を切り落とすと、悪魔ビフロンスも青い炎となって姿を消す。



 荒れ果てたその部屋に残ったのは、ランポウとユーシーと、激しく損壊した死体が三つ。

 どさくさに紛れて、猫面の悪魔バスティスは魔導書『マゴットの秘儀』を拾って何処かへと飛び去っていた。




 ***




 建物全体が大きく揺れて、ボンテージスーツの美青年エドヴァルトは聖女アイダの尻を叩く手を止めた。



「おや、また地震かな? 最近多いね」


「いいえ、多分ケンカじゃないでしょうか? ここではよくある事です。わたしの【無音結界】でも建物の振動までは消せませんから」


「……め、ないで…………」



「ん、んー? なんか言ったかい、アイダ様?」


「……止めないで……もっと、痛くして……」


 エドヴァルトに尻を叩かれ続けたアイダは、だらしなくヨダレを垂らし、快感だけを求める女豹のように腰をそらした。



「ぷ、くくっ……やれやれ」


「うふふ、アイダ様ったら、こんなにかわいくなられて――」


「い、いじわるしないで、早く……もっと……」



「そうだねぇ、どうしたものかねぇ?」

 

 そう言って、エドヴァルトはアイダの尻を優しく撫でた。

 しかし、それではアイダは物足りない。開花しつつある嗜虐趣味しぎゃくしゅみは満たされない。



「そうだ、いいことを思いつきました。ねえアイダ様、お兄様に女にしていただいたら? ――お兄様、アイダ様ったら、まだ処女なのですって、もったいないと思いませんか?」


「ほほう! それはもったいないね!」


「ああっ……そ、それは……そうなのだけど……」



「うふふ、アイダ様ったら、エッチですね。今、おちんちんがまた大きくなりましたよ? 想像してしまったのでしょう? 男に貫かれて歓喜するご自分のブザマな姿を?」

 

「いやしかし、男のモノまで生やしておいて、女の方にも興味芯々とはね。エッチというよりは、むしろ変態だねアイダ様! 変態アイダ様と呼ぼう!」


「う、ぐぅ……」



「ほらぁ変態アイダ様、お兄様に頼んでみて? ”どうかアイダのカビ臭いピーを挿し貫いてフタナリ変態女にしてください!”って!」


「あははっ、それはいいね! 言ってみてよ、変態アイダ様?」


「ど……どうか……アイダのカビ臭い……」



「ダメダメー! 聞こえませーん!」


「ぷ、くくっ……、僕の妹はいつからこんなに意地悪になっちゃったのかな? このタイミングで、【無音結界】を解除するなんてね」


 聖女メリルがスキル【無音結界】を解除したことで、外の雑音が部屋の中まで入ってくる。それは同時に、この部屋の声も外に漏れ聞こえるようになったことを意味する。

 

 それでもアイダは、叫ぶように懇願する自分を止めることができなかった。  



「ど、どうかっ……どうかっ!! アイダのカビ臭いピーを挿し貫いてっっ!! フタナリ変態女にしてくださいいぃぃぃっ!!」


「うふふっ、アイダ様ったら、マジ変態!」


「あははっ、参ったなぁ」



「……どうかっ、早くっ!! エドヴァルト様っ!!」


「え、お兄様?」


「僕は嫌だよ、フタナリ変態処女のピーなんか」


 そう言ってエドヴァルトは、アイダの尻をひときわ強く――ベチン!! と叩くと続けた。



「――そうだな、彼なんてどうだい? ここの常連客の、シリカゲルさん。聖女アイダのファンだって言ってたよね? なんでも学院生時代、アイダ様の母上にフラれたことがあるんだって――って、あれ?」


「あらやだ、アイダ様ったら、今ので絶頂失神しちゃったみたい」



「そうか。僕としたことが、加減を誤るなんて失敗したな。もうちょっとで、とせたのに」


「えっ、まだ墜ちてないの?」



「三十路近いと女は案外図太いからね、きっと明日にはけろっとしているよ」


「でしたらまだ夜は長いですし――」



「いいや、なんだか外が静かすぎる。どうやら、さっきの建物の揺れは大司教様の方でなにかあったんじゃないかな? 今、僕はパラディンと事を構えるわけにはいかないし、今夜はここまでにしておくよ。秘密はもう共有できたし、予選免除枠は揺るがないはずさ」


「残念。せっかくアイダ様と一緒に踊れると思ったのに」



「あせらずにがんばろう。みんなが裸になれば、きっと服を着ている方が恥ずかしくなる。そうすれば、アリーシャもフリーダもレベッカもニールスも母上も、きっとまた誇りと笑顔を取り戻せるさ、きっと……」


 エドヴァルトは妹メリルにそう言い残すと、忽然と姿を消した。

 部屋のドアが開いて閉じる。たった今、エドヴァルトが部屋を出て行ったことをメリルは知った。



「おやすみなさい、アイダ様」 


 聖女メリルは再度スキル【無音結界】を発動し、やがて浅い眠りに落ちていく。




 ***




 荒れ果てた部屋のベッドで大司教ユーシーが気がついたとき、隣にはパラディン№6ランポウがいた。ホッとするのと同時に、自分のしでかした失敗を思い出し目を伏せる。

 なにより、その時の彼女の格好は、全裸をシーツで巻いた姿であった。身体は未だ熱を持ち、股間が濡れそぼっているのを意識してしまう。意識を失っている間に、最後までやられてしまったのだろうか? と、不安に心臓が高鳴る。


 そんなユーシーの心を知ってか知らずか、背中を向けたランポウが声をかける。



「あーっと、危機一髪ってやつでしたよ、多分」


「そ、そうですか。ご迷惑をおかけしたようで……、ごめんなさい」



「あー、大人の貴方に言うようなことじゃねぇですけど、こんなことをされますと……いや、そうじゃねぇな。俺が言いたいのは、そんなことじゃなかった」


「……?」



「あーっと、ユーシー様、俺、パラディン辞めますんで」


「え!? そ、そんな……もしかして、わたくしのことを怒ってるんですか!?」



「あーいや、そういうんじゃねーんで。ただちょっと、勇者になろうかなって思いまして」


「ええっ!? ランポウさん、勇者選考会に出るんですか?」



「がらじゃないって思ってはいたんですが、俺が勇者になったら、――ユーシーさん、俺の嫁になってくれませんかね?」


「へ?」


 その夜、パラディン№6ランポウ・バルザックはパラディンを辞める決心をした。合わせて、勇者選考会への参加意思を表明。間髪入れずに、ネムジア教会大司教ユーシー・クロソックス三十歳にプロポーズをする。


 大司教ユーシーは思わぬ出来事に一瞬意味が判らず、ただ一言「へ?」とだけ返答した。




 ***




 酒場の屋根の上で、猫面の悪魔バスティスは星空を見上げていた。

 魔導書『マゴットの秘儀』は、彼女の尻の下に敷かれている。



(おーい、ニッキちゃーん! ハネ、ハネ! ハネ持って来たぜー! ケケケ……!)


 身長20㎝ほどの妖精が、バスティスの下に四枚の羽根を持って飛んできた。

 彼女が考えていた羽毛の羽根とは違ったが、昆虫の様な透明な羽根でも羽根は羽根かと割り切ることにする。



「ありがとう、オナモミくん。これでワラワも自由になれそうよ」


(ケケケ……! いいって! それよりさ、はやいとこセックスしよーぜー!)



「あわてないで、先にこの忌々しい呪縛を断ち切ってからよ。この薄汚い本の7ページを破ってくださる? ワラワのことが書いてあって、不快なのよ」


(オーケー!)


 妖精は小さい身体で四苦八苦しつつも、魔導書『マゴットの秘儀』から7ページを破り捨てる。


 それを見届けた悪魔バスティスは、おもむろに自身の背中から二枚の白い翼を躊躇ちゅうちょなくむしり取った。



(エエ~ッ!? な、なにやってんのニッキちゃん!? 綺麗な羽根がもったいない!)


「へいきよ。ワラワには、オナモミくんの持って来てくれた羽根があるもの。こっちの羽根の方が、透明で綺麗だわ」


 猫面の悪魔バスティスは二枚の白い翼を投げ捨てた。彼女がパチンと指を弾くと、白い翼も魔導書から破り取ったページも同時に発火してまたたく間に燃え尽きる。

 

 続けてバスティスがもう一度パチンと指を弾くと今度は、妖精が持って来た透明な羽根四枚が浮かび上がり、彼女の背中にぴったりくっついて傷口を塞いでしまう。

 妖精サイズの羽根はどう見ても小さすぎるが、バスティスは新しい透明な四枚羽根をはためかせて、屋根の上でふわりと空中に浮かんでみせた。



(なんだよ、ビックリさせるなよー!)


「ふふふっ、さあオナモミくん来て。約束のセックスをしましょ? ワラワが悪魔のセックスを教えてあげる」



(ヒャッホーイ!!)


 星空の下、妖精が悪魔の乳房にむしゃぶりついた。

 


 その時、そろりそろりと魔導書『マゴットの秘儀』が屋根の上を動き始める。小悪魔ウコバクが、魔導書を背負ってゆっくりと移動していた。


 猫面の悪魔バスティスはそれを見て見ぬふりをする。

 ウコバクは魔導書をあるじであるブルース・ウォレスの下へと運ぶだろう。そのことをバスティスは知っていたが、その結果ブルースがどんな運命をたどるのかも知っていたので、彼女はあえてウコバクを見逃すことにしたのだ。

 

 ゴロゴロと、バスティスが喉を鳴らす。

 結局のところ、彼女は機嫌が良いときでも喉を鳴らすらしい。

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