423 『さよならドッペルゲンガー②』
「いらっしゃいませぇ! 二名様と一匹様、ごあんな~い!」
……と、とうとう来たぞ『ハニー・ハート・メスイヌ王都本店』!!
尖ったケモミミの年齢不詳の美女がおれとチンチコールさんを出迎える。
てか、何気にこの人、【認識阻害】MAXのオナモミ妖精が見えてるっぽい?
「小バエでも連れてきてしまいましたかな? なっはっはっ! 今宵は王都での遊び収め、座敷に可愛い子を何人か見繕っておくれ。――そうだね~、楽器や踊りのできる子がイイねぇ。ああ、ワシは年齢や種族にこだわらないが……、ヤマギワさんは何か要望などありますかな?」
「……あっ、あのっ! ルルさん、いまふか!?」
「おや、ルルですね? すぐに呼びに行かせますよぉ」
「なんだ、イヤに急ぐと思ったら、お目当ての子がいたのですね? ヤマギワさんも隅に置けませんなぁ」
「ハァハァ……」
「お、お客さん、なんか光ってますよぉ!? だいじょうぶですかぁ!?」
……イイイ、イカン。ついうっかり【勇気百倍】してしまった。
だって、なんかほら、ドキドキが止まらない。身体の震えが止まらない。
「ご指名ありがとうございま~す! ルルで~す――って、ヤマなんとかさん!? うわあっ、ホントに来たっ!!」
「これ、ルル! お客様に対して、なんて言い草ですかぁ!?」
「ほほう、これはこれは。かわいらしいお嬢さんだ、なっはっはっ!」
ほどなくして、ルルさんが姿を現した。なんていうかフォーマルな装いでちょっと新鮮。
……にちゃり、来ましたよぉ、ルルさん。ヤマギワです。
チンチコールさんは知らないだろうけど、ルルさんの見た目は日本の美人女優木ノ原ルルさんの若い頃にそっくりなのだ! 二時間ドラマ『混浴温泉美女連続殺人事件シリーズ』とかでお馴染みの――。
ぬふふ……今夜、あのおっぱいやお尻を思うさま……ハァハァ……。
知ってる顔を見たおかげでだいぶ落ち着いてきたけど、今度は股間の相棒が落ち着きをなくしてきた。――待て! もうちょっとだけ、待ってくれ相棒!
「そういうわけでチンチコールさん、ここからは別行動ということで」
「なっはっはっ! ワシとて重ねた恋と流した浮名は数知れず、愛し合う二人の逢瀬を邪魔するような野暮天ではないですぞ。そうですな、帰宅の時にはお声をかけさせていただきますよ。――ああ、そうそう、お勘定の方はワシが持ちますのでご心配なく。ご祝儀とでも思ってくだされ、なっはっはっ! それではヤマギワ殿、お互いよい青春を!」
ご祝儀? お年玉的な意味かな? チンチコールさん、なんていい人だ。あの意地悪なアントニア嬢のパパさんとは思えん。
***
――その十数分後。
おれは個室で一人、腕立て伏せをしていた。
「……221…………222…………223……」
いやあ、久しぶりに腕立て伏せしてみたけど、こんなに続くなんて自分でもビックリだ。日本にいた頃だったら、30回ぐらいで限界だったけどな。
これがレベルアップの恩恵ってやつか? どのぐらいまでやれるのか、いけるところまでいってみようかなっと。
「……224…………225…………226……」
……しかしルルさん、遅いな。手こずってるんだろうか? まあ、そこそこの売れっ子嬢だっていうし、しょうがないかな?
およそ五分前――。
おれとルルさんは、このいかにも何かアレなことしますっていう感じの個室にやって来て、床に向かい合って正座した。
「てへへ……、ルルさん、おれ、来ちゃいました。……実は、おれ、言いにくいんですが……そのー……ど、童貞でして……あのー、ルルさんになんとか、そのー……卒業させてもらえないかなーって、てへへ……」
「あ~ヤマギワさん? 今、ちょっと通話中なんで……待っててもらえますか~?」
「はぁ……?」
通話中? ルルさんは頭をかかえるようにして、手で耳を押さえている。
そういえば、おれがオナモミ妖精と遠隔で会話する時の様子に似てなくもない。
「――そんなこと言ったって、来ちゃったものはしょうがないじゃないですか~! ――とりあえず、やっちゃっても~? ――ええっ!? そんな今更帰れとか……」
……え? 帰れ? なんだか不穏な会話が聞こえた気が……?
さすがにおれに聞かれてはマズいと思ったのか、ルルさんは声を落として通話を続ける。
「――え? え? 今からですか? ――もう、めんどくさ~……え、いえ、なんでもないです――は~い。――ああ、そうですか~なるほどです。分かりました~。――え? しっかりしてくださいよ、元娼婦のくせに~。――ああ、はいはい。分かりました~」
あの……ルルさん? どうやら通話を終えたらしいルルさんに、おれはおずおずと声をかけた。
「おれは、その……もしもルルさんの都合が悪いようなら、その……別の子に代わってもらっても……」
……ぐすん。おれの心は折れかけていた。ルルさんの代わりに、とんでもないブサイクが出てきたとしても、何も言わずに童貞を捧げてしまったことだろう。
「いえいえいえ、ダイジョウブですよヤマギワさん! ただちょ~っと、先にやっつけなければならないお客さんが来てしまいまして~、でもダイジョウブですよヤマギワさん! そいつは『シューティングスター』って呼ばれてて、五分もあればすんでしまいますから~! ですからヤマギワさんは、この部屋で腕立て伏せでもして待っててくださ~い!」
――とまあそんなわけで、おれは今、腕立て伏せの自己新記録を更新し続けているというわけだ。
あれからもう二十数分が過ぎた。五分で済むって言ってたのにな……。
「……722…………723…………」
(――オイ! オイ、ヤマギワ! このマクラってさ、なかみなんだろ!?)
はあ? 知らんけど――って、おいバカ! なんか大人しいと思ったら、枕を壊すんじゃねーよ!
一体何がしたいんだ、オナモミ妖精くんよ!?
(これで、ハネ作れねーかなー?)
ハネ? 羽根か? なんでそんなもんが必要なんだよ?
(ニッキちゃんにあげるんだよ! 金はいらなくても、ハネなら欲しいって言うんだもんよー!)
え? ニッキちゃん? もしかして、メス妖精か?
てか、「羽根なら欲しい」ってどういう趣味だよ……?
おれはオナモミ妖精に急かされるまま、スキル【世界創造】を使用する。枕からほじくり出したスポンジみたいな何かを素材に、オナモミ妖精の昆虫っぽい四枚の羽根を複製した。
(サンキュー、ヤマギワー! コレさえあれば、ケケケ……!)
おい、そのニッキちゃんってどういう子? もしかして、カマキリが化けてたりしない?
(セックスするぜ――!!)
作りたての羽根四枚をかかえたオナモミ妖精は、換気窓の隙間を抜けて、夜の歓楽街へと飛び去ってしまう。
――って、聞いちゃいねえし。頼むから、捕まんなよ……?
個室に一人残されたおれは、腕立て伏せを再開する。
……ちぇ、せっかく七百回も続いてたのにな。
「……1…………2…………3……ぐすん……4…………」
――その後、腕立て伏せの自己記録だいたい千回を達成したおれは、そのまま顔を伏せた。……もう帰ろう。もう疲れた。チンチコールさんには悪いけど、先に帰らせてもらうとしよう。
……!? いや、待てよ――。
よく考えたら、ここってルルさんの職場……。ルルさんが日々いろんなお客さんと、何回も何回も何回も何回もナニした場所ってことだよな……!!?
おれには神スキル【空間記憶再生】があるじゃないか!! この部屋に残された過去の記憶を再生しようものなら……くっくっくっ……はっはっはっ……!! なんと邪悪な所業だろうか!!?
でも悪いのはルルさんなんだぜ!? おれをほったらかして、別のお客の所に行ってしまったルルさんが悪いんや!! おれは悪くねぇ、おれは悪くねぇ!!
で、では早速。……いや、待ておれ。慌てるな。
急に帰ってこられたら、かなり気まずい。念のため廊下を確認しておくとしよう。
おれは機敏に立ち上がり、ドアの前へ飛んだ。
「きゃっ!」
廊下の様子を窺おうとドアを開けたら、ドアの前でルルさんがM字開脚をしていた。どうやら、突き飛ばしてしまったらしい。
「……え、ルルさん? 戻って来てくれたんですか?」
「お、お待たふぇしましたヤ、ヤマギワさん……え、えーっと、そうです、たった今来たんです! け、決して、ドアの前で聞き耳をたてていたわけじゃないんでふ――って、なんで泣いてるんですか?」
「あはは。いや、ちょっと、案外清楚な純白が目にしみて……。てかルルさん、その格好は?」
「……これは、その……コスプレです。さっきのお客さんの趣味で」
ルルさんは、まるでネムジア教会の神殿騎士みたいな格好をしていた。とても似合っている。
ほほう……コスプレか。それも悪くない。
おれはルルさんを助け起こすと、その手を繋いだまま個室へと戻った。
改めて、床に向かい合って座るおれとルルさん。
「てへへ……、ルルさん、ヨ、ヨロシクおねがいしまふ!」
「こちらこそっ、フツツカモノですが……あ、いや……、ル、ルルです!」
「…………」
「…………」
え? え? 何? 何? この沈黙は何? おれが何か言うターン?
お互いに挨拶を交わした後、なぜか沈黙するルルさん。
こういうお店のルール的なやつ? やばい、判らんのだが?
この後どう続ければ、プレイが始まるんだ……!?
プレイ……そ、そうか! どんなプレイをするか、そこのところをお客であるおれがルルさんに伝えなければ何も始まりっこないよ。それが需要と供給! 経済のしくみというやつじゃありませんか。
であれば――、
「あー、はい、『昇天ユニコーンMAXハート! 触手モリモリコース』でお願いします」
「えっ!?」
「『昇天ユニコーンMAXハート! 触手モリモリコース』で」
「え、ああーはいぃ、……いえ、そのコースは、今日はちょっと売り切れでして……あの、『大奥ひとり大回転だいじょぶだぁコース』でよければ……が、がんばればなんとか……」
「そ、そっかぁ、売り切れとかあるんだぁ……残念だけど仕方ないか。とはいえ『大奥ひとり大回転だいじょぶだぁコース』は、おれにはまだ早いと思うんだよなー、童貞だし」
「ええっ!? ヤマギワさん、もしかしてまだ童貞なんですか?」
あれ? さっき言ったのに、聞いてなかったのかな?
おいおい、勘弁してくれよ……、こっちは恥を忍んで言ってるっつーの。
「……そうです。だから、プロのルルさんにですね、イイ感じで卒業させて欲しいなってことなんですけど、なんかおススメのコースとかないですかね?」
「なぜですか?」
「え!? なぜかと言われれば……その、なんていうか、いつか自分だけの天使が空から降ってくるかもとか思っていたらあっという間に月日は流れ……」
「なぜ、ルルなんですか?」
あれ? なんかおれ、怒られる感じ?
風俗嬢に説教するオジサンというのはなんか聞いたことあるけど、逆に説教されるオジサンというのはそういうプレイならともかく……あ、待てよ。よくよく考えたら、ルルさんからしてみると今のおれって「顔見知りがお客として来店してきやがった」みたいな状況と言えなくもないのか? そう考えると、おれってばかなりイヤなお客なのかもしれない。いや、間違いなくイヤな客だな。
……でも、半額サービス券とかくれて誘ったのはルルさんの方だよね? なんか、釈然としないんだが。
「確かにあのー、今回の御前様との一件ではルルさんや、ルルさんの上司的な立場のヘルガさんにも大変お世話になりましたし、こんな形でルルさんを指名するのはマナー違反だったのかもしれませんが……おれはそのー、ルルさんにお誘いを受けたものとばかり思っていたものでして……い、いや、別に……、ルルさんがおれに興味があってとかそういう意味で誘ったとかうぬぼれるつもりは全くなくてですね、ただなんかその……”お店の売上”とか”ルルさんの成績とか”そういうやつにちょっとでも貢献できたらなとか思ってですね……」
「その、上司的な立場の人に、何か思うところはないのですか!?」
「あああえっ? …………あー違います違います! た、確かにおれは、ルルさんの上司的な人に対して未だ冷めやらぬ恋心みたいのをくすぶらせてはいますけども……、だからといって、ルルさんを当て馬にしてやろうだとか、ヘルガさんに当てつけてやろうだとかって意図は全くないですから! むしろ今日来店したことは内密に願いたいところでして……」
「……うちの上司的な立場のあの方のことが、まだ好きだとおっしゃる?」
「……この前、おれはヤマダの分身という話はしましたよね? ヤマダが魔族領で【エナジードレイン】を受けて記憶を失った時に、おれという別人格が生まれました。一度キレイに忘れてしまったのがヤマダで、忘れなかったのがおれ、ヤマギワです。最近になってヤマダも失われていた記憶の全てを取り戻しましたが、……あの時の気持ちを忘れずにずっと引きずっているのは、分身であるおれの方だけじゃないかと思うんです」
「――それなのに……、だったら、なんで……」
「いいえ、きっとそんな素敵な話じゃないんです。……結局おれは、聖女ラダ様の姿をしたあの人が好きだったんだと思うんですよね。例え中の人が同じだとしても、ヘルガさんのことを代わりに好きになるかどうか、好きになったとしてもそれはまた別の恋だと思うんですよ。……だから、もう、ホンモノが復活した以上、二度と現れないであろうあのニセモノのラダ様にきっぱりサヨナラすることに決めたわけです。……えーと、何の話でしたっけ? あーそうそう、なので、ここでのことは、ヘルガさんにはどうかご内密にひとつ……」
「……そうですか、確かにそうですね。ヤマギワさんが心変わりして、ルルのことが好きになっちゃった! とかでないなら、別にいいのです」
「いえ、ルルさんの気持ちも立場も考えず来店しちゃって、すんませんです。なんなら、誰か別のカワイイ子を紹介してもらってもおれとしては……」
「いいえ、ヤマギワさんの初めてを素敵に叶えるために、私のとっておきコースをご案内しましょう」
――!! とっておき……だと!?
そ、それはっ、『昇天ユニコーンMAXハート! 触手モリモリコース』や『大奥ひとり大回転だいじょぶだぁコース』よりも凄いのだろうか、ワクワク……。
おれはルルさんに促されるまま、隣室のお風呂場へと移動する。
とりあえず、腕立て伏せの汗を流せということだろうか? ……いや、もしかすると、憧れの泡のお風呂系プレイかもしれない。
鎮まれ……鎮まれ、相棒……!
一気に服を脱ぎ捨て全裸になったおれは、温めの湯船に浸かってその時を待つ。
ぶくぶくぶくぶく……。
ぶくぶくぶくぶく……。
ぶくぶくぶくぶく……。
おれはぶくぶくしながらルルさんを待つが、彼女は一向に現れない。
ははーん。さては、泡のお風呂系プレイじゃないな……。
あはは、勘違いしちゃったよおれ。
――うん。洗うとこ洗ったら、さっさと上がろう。
「失礼します……」
不意にかけられた声に振り向くと、タオル一枚のルルさんが……? ――え? ルルさんじゃない? 誰だ? 銀髪でおでこの美女……なぜかそこには、聖女グレイス様がいた。
「え? ええっ!?」
おれの見ている前で聖女グレイス様は、金髪ぶりっ子風美女……聖女セリオラ様に【変化】した。聖女セリオラ様は聖女アイダ様に、聖女アイダ様はまた少しお姉さんぽい聖女様にと、次々に【変化】して姿を変えていく。
――【変化】!! そ、そうか、【変化】だ!! ルルさんは、スキル【変化】が得意だった……!!
「私のとっておき裏メニュー。その名も『夢道楽、艶姿ミダラ娘変化! 秘宴聖女三昧コース』です。さるすじから禁止命令が出ている、いわく付きのコースですが、今夜だけ特別に解禁します……内緒ですよ?」
う、裏メニュー!? 『夢道楽、艶姿ミダラ娘変化! 秘宴聖女三昧コース』だとお!?
要するに、スキル【変化】を使って「ネムジア教会の聖女様達がいる風俗店」を顕現させてしまおうという試みか……!! そりゃ、禁止命令もでるだろうさ。
深い感動と、とある期待にふるえるおれ。
そんなおれを知ってか知らずか、ルルさんの【変化】パフォーマンスは着々と進む。
デイジーちゃんやエリエス様、マデリンちゃんを経て、最後の最後に姿を現したのは……、
「……ラ、ラダ様!!?」
「お客様のリクエストにお応えして、今宵は聖女ラダ様の姿でお相手させていただきます。もちろん『聖女三昧』ですから、本来どの聖女様の姿でもお相手できるのですが、ヤマギワさんに関しては、他の聖女様にチェンジすることは対応いたしかね……きゃっ!!? ど、どうしたんですか!? ヤマギワさん、大丈夫なんですか!?」
鼻水かと思ったら、鼻血だった。
血痕が、ぼたぼたっと風呂場の床に落ちる。
タオル一枚のラダ様が、おれの大好きだったラダ様が目の前におる……!!
タオルの下は、きっと全裸だ。ハァハァハァハァハァハァハァハァ……!!
お湯をかけたら、きっとスケスケになってしまうに違いない。
ああ、お湯をかけたい!! お湯かけたい!! ハァハァハァハァハァ……!!
とか思っていたら、ラダ様は自分でかけ湯した。
ぬああああぁああああああぁああああぁぁ……!! ス、スケスケだぁぁぁ――!!
正直、お風呂場でのことはよく憶えていない。
ただただ、夢中だった。夢道楽だった。
それでも、ベッドに移動してからの二回戦目、三回戦目は鮮明に心に残っている。
三回戦目が終わったときに、「今度はヘルガさんに【変化】してみてもらえますか」とお願いしてみたが、「ダメに決まってるじゃないですか、そういう所ですよ?」と、怒られてしまった。
その後の四回戦目と五回戦目では、ラダ様の方から積極的におれにまたがって、一滴残らず搾り取られてしまいましたとさ。
めでたし、めでたし――。
***
「朝ですよ~ヤマギワさん、起きてくださ~い! お連れ様がお待ちですよ~?」
明け方に、ルルさんに起こされた。
飛び起きたおれは、思わず周囲を見回す。
どこかにラダ様がいるような気がして捜してしまったが、よく考えたら昨夜のラダ様は目の前のルルさんの【変化】した姿だったわけで、いるはずないことに気がつき苦笑する。
その代わりに窓辺に見つけたのは、オナモミ妖精ともう一匹のメス妖精?
……確か、ニッキちゃんだっけ? 身長は30㎝ぐらい、成人女性の身体に猫の頭部。ネコ耳とかではなく、頭部がまんま猫ちゃんなんだが……。あともしかして、背中のちょっとバランスの悪い羽根は、昨夜おれが創ってオナモミ妖精に持たせたやつだったり? ――まあ、カワイイっちゃカワイイし、サイズ的にもやれなくもないのかな? そこのところどうなんだい、オナモミ妖精くんよ?
おれに向かって親指を立て、「ケケケ……!」と笑うオナモミ妖精。
どうやら上手くことを成したらしい。ならいいか。
こっちも、オナモミ妖精に向かって親指を立てて見せる。
おれだって、これ以上ないだろうって形でことを成した。
世界はこんなにも広くて、色鮮やかだったのかと初めて知った。
砂を噛むような日々も、悲しい失恋も、無意味なことなんて一つもなかった。
産まれてきてよかった。産んでくれてありがとう、母さん。
ルルさんありがとう! ラダ様もありがとう! みんなありがとう!
レベルも上がったし、どうやら新しいスキルも増えたらしい。
ステータスは、ヤマダとはもう似て非なるものだ。
昨日までの孤独なおれにさようなら。
今日からまた始めよう、新しいおれだけの物語を。