422 『さよならドッペルゲンガー①』
王都西門から徒歩五分、飛んだら二十秒ぐらい? 外壁沿いのちょっとイイ宿『ヒスイ亭』に元日から滞在すること二日目――。
おれことキンパチ・ヤマギワと、羽根頭の白髪少女エリナさん七歳とそれから、体長およそ20㎝のオナモミ妖精は、予定になかった正月休みを満喫していた。
昨夜初めて、エリナさんにオナモミ妖精を紹介した時にはずいぶんと驚いていたけど、二人と一匹でボードゲームなどして遊んだら、すぐに仲良くなっていた。
ケケケ……! エリナ、オマエのおっぱいがもっと大きくなったらオレサマのヨメにしてやるゼー! とかオナモミ妖精が言っていたが、「そんなことはおれが許さん!」と言っておいた。どうしてもというなら、おれを超えてから言え! ちんちんの大きさ的な意味でな。
朝食バイキングでは、おれとエリナさん、お互いがチョイスした料理の組み合わせをスキル【天の声】さんに採点してもらって競いあった。
アンサー! ヤマギワのプレート、カロリー>評価C。栄養>評価B。見た目の美しさ>評価D。総合評価35点――とかなんとか。
おれの敗因は、ポテトサラダにサラダ枠を任せたことだろうか? いや、ポテトサラダに罪はない。それでも、【天の声】の中の人は緑色が足りないとかなんとか、ぐぬぬ……。
でもまあ、ポテトサラダが美味しかったので悔いはない。
お昼前、おれとエリナさんは商店街まで買い物に出た。旅立つ前に、エリナさんの着替えとか装備を整えるためだ。
なんとなく足が向かったのは、先日”エロくノ一衣装”を買ったリサイクルショップ。
とはいえ、エリナさん七歳にあの衣装はまだ早いよな……とか迷っていたら――、
「あーっ!! 旦那、いたー!!」
――と、ちょっと甲高い声が店内に響く。
その声は一昨日ぶり、犬耳のドリィさんであった。
「あー、ドリイさん、新年あけましておめでとうございます」
「ああうん、おめでとうございます。今年もヨロシクだで――って、そうじゃなぐって! 旦那、オイラに何のあいさつもなぐ家さ出てぐなんてヒドイんでねーがっ!?」
どうやら自慢の鼻をスンスンさせて、おれを捜してくれていたらしい。なんだか悪いことをしてしまったようだ。
「すいませんドリィさん、ちょっとまあ、なんかいろいろとありまして……」
「なんがって――なっ……お? よっ……?」
お、よ? 急に目を見開いたまま固まるドリィさん。その視線は、おれの背後から顔を覗かせたエリナさんに注がれていた。
……何だ? この妙な雰囲気は……?
「えーっと、こちらは、おれが面倒みることになったエリナさんです」
言い知れぬ緊張感に気圧されたおれは、あわててドリィさんにエリナさんを紹介する。
しかしあわてすぎたせいで、いらぬ誤解を招いてしまったようだ。
「だ、旦那、子持ちだったのけ!?」
まあ確かに、年齢的にはエリナさんぐらいの子どもがいてもおかしくないおれだけどもさ。
その後どうにかこうにか、それでも肝心な部分はふわっとぼかしつつ説明して、エリナさんはおれの弟子2号ということで落ち着いた。もちろん、弟子1号はドリィさんということにしておく。……てか多分、エリナさんっておれよりレベル上だけどな。
「アンサー! エリナです、ヨロシクおねがいします姉サマ!」
「ね、姉様だなんて、エヘヘ……なんか照れるで、ウヘヘ……。オイラ、ドリィ! よろしくねエリナちゃん!」
すかさず空気を読める七歳児エリナさんが「姉サマ」とか言って持ち上げると、すっかり気をよくしてしまうドリィさん。
こうして秒で仲良くなった二人にホッとするおれだったが、妹弟子のためにドリィさんが選んだ衣装は例の”エロくノ一衣装”であった。
いや、待ってよドリィさん。エリナさんは、そういうキャラじゃないでしょうよ。――ん? え? エリナさん、それがいいの? ……そ、そうかー。
エリナさん本人がそう言うなら是非もなし。おれは、店主に蔑みの目で見られながら、”エロくノ一衣装”を購入する。
ただし、ドリィさんが首に巻いている長いマフラーの代わりに、エリナさんにはフード付きのマントを合わせてもらうことにする。その方がいくぶんか温かそうだから、おへその辺りとか。
買い物を終え、ちびっ子くノ一二人を連れて店を出るおれ。時刻はすっかりお昼をまわっていた。
話さなければいけないこともあるし、どこかでランチにしようかとメインストリートから路地を分け入り裏町商店街方面へと歩き出す。
どこかお手頃価格で美味しいお店はないかな? と、ちょうど地元っ子のドリィさんに尋ねようとしたときだった。
「おいアンタさん、やっぱり無事だったのかい!」
かけられた声に振りかえれば、大きな袋を肩にかついだガタイのいい女性がおれを見下ろしている。
鋭い眼光、口の端に覗く尖った犬歯、そして狼のケモミミ。彼女は元傭兵、肉屋のロミオさんだった。
「……先日はどうも、お騒がせしまして」
「アンタさん、無事なら無事で顔ぐらい見せにきなよ!? みんな……ではないけども、少なくともドリィちゃんは心配してただろうさ! ……まあ、パン屋に顔を出しずらいって気持ちは、ウチにも解らんでもないけどね」
「あン人の――ジェイDさんの言ったとおりだったさ! 旦那はきっと生きてるって、オイラも自分の鼻を信じて、さっきやっと見つけてやったんさ!」
「はは……なんかごめんね、ドリィさん」
「まあ元気そうでなによりだ。ウチも、ほんのちょっと気になってはいたからね」
「ところでロミオさんは、配達け?」
「まあね。――ああ、そうだ! アンタら、昼飯はまだかい?」
ロミオさんがかついでいる大きな袋の中味はオーク肉の塊とのこと。それをこれから配達するお店で、ランチを一緒にどうかと誘われた。
なんでも、王都でも珍しい料理を出す店で、ビックリするほど美味いのだと彼女は、ウキウキした様子で語る。
王都歓楽街の外れ、昼間だからいいけど夜だったらちょっと近づくのを遠慮したい感じの怪しくて寂しい路地の奥の奥に、知る人ぞ知るというその店はあった。
「えーっと、『ターメリック倶楽部』? ……ショーパブってありますけど?」
「夜はな。昼はランチもやっている――といっても、商売というよりは店長の趣味みたいなものだけどね」
身をかがめて正面入口から入店するロミオさんに、おれ達三人も続く。
その瞬間、懐かしくも芳しい香りが嗅覚を刺激する。……この匂いは、まさか……アレなのか……?
陽の光の入らない薄暗い店内には、テーブル席がいくつかと小さくて低い舞台があった。きっとあの舞台で、夜になるとエッチなショーが繰り広げられているに違いない、ドキドキ……。
「いらっしゃい――って、ロミオちゃんか」
カウンターの奥からオールバックの中年男が出迎えた。……あの人がここの店長さんだろうか? こんな薄暗い店内でもサングラスを外さないとは、元ミュージシャンとかかな?
「こんにちはタメさん。オーク肉、おまたせです!」
「配達、お疲れー。貯蔵庫まで頼むよ。ところで――?」
「いつものランチ、お願いしますよ! ウチと、今日はそっちの三人にもタメさんのうどんを食わせてやりたいと思って連れてきたんですが」
「はいよ。そう来ると思ってさ、鍋を温めといたからね」
――待つこと数分。
テーブルに並んだのは、紛うことなきカレーうどんだった。
聞けば、かつて異世界日本からの召喚者が語った「カレーとコーラを異世界で再現できれば、天下が取れるだろう」という言葉を真に受けて、わずかな手がかりを頼りに、カレーとコーラの再現に人生を捧げた者達がいたそうな。
ここの店長ミスター・ターメリックは、長い研究の末、不完全ながらも異世界の料理カレーの再現に成功したのだという。
正直言うとここのカレーは、日本のそれとは一味も二味も足りないカレー風味のなにかだったが、ロミオさんはもちろん、ドリィさんやエリナさんもかなり満足していたようなので、おれも余計な事は言わずに、ただ素直に久しぶりのカレー風味を楽しませてもらった。
是非ともターメリック氏には、いつか本当に本物のカレーを再現して欲しいものである。
「ごちそうさん! カレー、美味かったですタメさん。また寄らせてもらいますね!」
「はいよ。――ああそうだ。ロミオちゃん、またここのバイト頼めんかね? バイト代、はずませてもらうんで」
「うーんそうさねぇ、まかないにカレーが出るなら考えないでもないですけど」
なんて一幕もありつつ、ロミオさんとおれ達は『ターメリック倶楽部』を後にした。
……この店でバイトって? 昼かな夜かな? 筋肉質で腹筋割れてそうなロミオさんだけど、顔はまあ美人といえなくもないし、もしかして夜の方だったり、ドキドキ……。
ロミオさんと別れて三人になったが、まだドリィさんに話すべきことを話せていなかった。
そのまま三人並んで、おれとエリナさんが滞在する宿『ヒスイ亭』の前まで歩く。
そこまで来てドリィさんとの別れ際に、おれとエリナさんが近いうちに王都を去ることを告げた。
こっちが思っていた以上にショックだったらしく、尻尾を丸めて涙ぐむドリィさん。
その姿がことのほか憐れに見えて、おれはついつい気休めの言葉をかけてしまう。
「もし一緒に行くなら、ウルラリィさんの許可がないとダメだぜ?」
「……! わ、分かっただ!」
おれの言葉に、尻尾をブンブンふって喜んでいるドリィさん。
しかしその言葉は気休めでしかない。なぜなら、彼女の姉ウルラリィさんが、おれとの同行なんか許すはずがないのだから。
宿に戻ったおれとエリナさんは、部屋でボードゲームなどして過ごし、夕食前には地下大浴場へと向かった。
こりずに”サーフィンごっこ”で盛り上がっていたら途中で、完全武装した女騎士が男湯にやって来てこっぴどく怒られた。
何も知らない無垢な少女を男湯に連れ込み何をやっているかキサマ!!? とのこと。
彼女は確か、金髪縦ロールのアントニア嬢を護衛していた女騎士さんの一人である。甲冑の奥から、おれのちんちんを凝視する目線を感じたが、「まあまあ」と割って入ったチンチコールさんの長いちんちんを見てギョッとしていた。
逃げ出すように男湯を去る女騎士さんに、エリナさんはタオルを巻かれて連れてかれてしまった。
少しハラハラしたが、ほどなくして仕切り壁の向こう側、女湯からアントニア嬢達とエリナさんがキャッキャと楽しそうにしている声が聞こえ始めてホッとした。
なっはっはっ!! どうにも頭の固い娘でしての――と、ちんちんの長いオジサンことチンチコールさん。
彼とは昨日、女風呂を覗いた一件で、アントニア嬢達から一緒にたっぷりお説教されてから妙に仲良くなってしまった。
その時にこのオジサンの正体が、アントニア嬢の実のパパさんで、なんと三大侯爵家の内一家、チンチコール侯爵家当主のフルアヘッド・チンチコール様なのだと知ったのだが、ご本人が「侯爵様」とか「閣下」とか呼ぶのはカンベンしてくれとのことなので、おれとエリナさんは気安く「チンチコールさん」と呼ばせてもらっている。
「時にヤマギワ殿、ここの宿にはいつまでご滞在の予定ですかな?」
「いやぁ、実は決めてませんで。友人の用事が済みしだい、さっさと王都を出たいとは思っているのですが」
「おや、『勇者選考会』には参加されないので?」
「アハハ、おれなんかとてもとても……。チンチコールさんは、アントニアお嬢様の応援で、もうしばらく王都に滞在されるのでしょう?」
「なっはっはっ、そうしたいのは山々ですが、決勝トーナメントは来月からとのこと。予選にも興味はありますが、領地を長々と留守にしておくわけにもいきませぬからな。――なあに、聖剣を代々受け継ぐ我が家の名をもって娘アントニアは予選免除が決まっております故」
「あー、そうなんですね」
「…………」
「……? どうかしましたか、チンチコールさん? 何か心配事でも?」
「実は……此度、ワシが王都に来た理由は年末の『護国祭』のためでしての。一日目の『ベリアス対ヤマダの決闘』でベリアスが勝利したときには大司教ユーシーが純潔を奪われると聞きましてな。ワシは居ても立っても居られず、とるものもとりあえず駆けつけたしだい。もしかすると、ことによると、ワシのアイドル、ユーシー様のおっぱいやお尻とかが見られるかもしれないとワクワクが抑えきれなかったものでしての!」
「な、なるほど……、ユーシーさん推しでしたか」
「推しも推したり! ユーシー様は聖女時代、我がクルミナ領の教会支部を長く担当しておられましてな、ワシは公務にかこつけて食事に誘ったり、観劇に誘ったり、プレゼントを贈ったりと手を変え品を変え何度も何度も口説いておったのですが遂に果たせず悔しい思いをしておったのです! ――だというのに、ワシときたら……」
「ははーん、見逃してしまったわけですね? あの日、円形闘技場の全員全裸騒動で、周囲の若い聖女様とかにうっかり目移りしてしまった――とか? てか、あの人確か、強力な【認識阻害】も使っていたようですし、無理もないかと」
「――いや、ワシはあの日どういうわけか、『ベリアス対ヤマダの決闘』を観戦することもなく、円形闘技場からこの宿へと引き返してしまったのです。直前まで、あんなにもワクワクして股間を滾らせていたというのに、なぜか急に宿で休みたくなってしまいまして……、部屋のベッドで夕刻まで眠ってしまっていたというわけなのです。……目覚めた時には、全てが終わった後でした。どうやらワシも耄碌したようで――」
そう言って、「なはは……」と力なく笑うチンチコールさん。昨日の覗き失敗といい、老いによる衰えを感じているのかも知れない。おれだって、朝食バイキングで自然と焼き魚を選んでしまったりしたときに、昔のおれだったら迷わず肉だったかもとか思って焦燥に駆られたりすることはなくもない。
ちょっと掛ける言葉に迷っていると、チンチコールさんの方が先に言葉を続けた。
「――なのでヤマギワ殿、王都を離れる前に、一緒に夜の歓楽街へと繰り出しませぬか?」
「お供します」
若干くい気味に、おれは応じた。
***
――その夜。ちょうど同室のエリナさんが規則正しい寝息を立て始めた頃、部屋の窓ガラスを外からコツコツと叩く音が聞こえた。
何事かと恐る恐るカーテンを開くと、ガラス窓の外側にへばりついたチンチコールさんの姿があった。
おれ達の部屋は四階で、窓の外の足場は狭い。正直言ってかなり危なっかしい。
「なんでわざわざ窓から?」
「しーっ! エリナ殿は寝入りましたな?」
窓を開けて招き入れると、えっちらおっちらと窓枠にまたがるチンチコールさん。どうやら、護衛の人達には内緒で出かけたいらしい。
「……物騒な世の中ですよ? 強い人に付いてきてもらったほうが」
「グランギニョルさんのことを耳にしましたかな? なあに、老いたりとはいえワシも元聖剣継承者、そこら辺のごろつきどもにおくれを取ることなど万に一つもありえませぬ。それに、ヤマギワ殿だって相当お強いとお見受けしますぞ?」
同じ三大侯爵家であるグランギニョル侯爵様が暗殺された件、チンチコールさんも知っていたようだ。
噂によると、グランギニョル侯爵様って人は典型的な変態クソ貴族だったらしい。方々から恨みを買いまくっていたらしく、そんなヤツとこの人のいいオッサンを一緒にするのは、またちょっと違うのかもしれない。
おれは、ベッドで寝息を立て続けているエリナさんをちらりと確認してから、隣の空いているベッドに「寝ているおれ」の立体映像をスキル【空間記憶再生】でループ再生する。――これで留守中にエリナさんが目を覚ましても、触られたりしない限りごまかせるはずだ。
それを見ていたチンチコールさんが、「なんと、これはすごい! ワシも、ワシも」とか言うので、出かける前に、隣室のベッドに「寝ているチンチコールさん」の立体映像もループ再生しておいた。
チンチコールさんを背中に乗っけて、王都の夜空を【飛翔】するおれ。
目指すは、王都でも指折りの高級娼館、『ハニー・ハート・メスイヌ王都本店』!! 懐には、ルルさんにもらった半額サービス券だってあるのだ。ハァハァ……。
ああ、ドキドキしてきた。
オナモミ妖精、今夜こそ見せてやる、セックスってヤツをな!!
(オイオイオイオイ、その「メスイヌ」には妖精のメスはいねーのかよー! ずるいぞー!)
さあ、いねーだろ? まあ、いたら金出してやらんでもないけど?
(ヤッタゼ!! さがしてくるー!!)
捕まるなよー! ――あーあ、行っちゃったよオナモミ妖精のヤツ。
まあ、ヤツも強力な【認識阻害】持ってるから、滅多なことはないと思うけど。
――おっと、見えてきたぞ!! 見覚えのある、派手派手な巨大メスイヌの看板!!
「『ハニー・ハート・メスイヌ王都本店』!!」
「待ちなされヤマギワ殿、いきなり娼館とは血気に逸りすぎではないのかな? 夜は長い、先ずは旨い酒など酌み交わしてですな――」
おれの背中で王都の夜景を楽しんでいたチンチコールさんが、行き先を知って「待ちなされ」とか言い出す。
……待ちなされ……だって? いいや、もう待てない。限界だ。おれの相棒よ、お待たせいたしました! いや、お待たせしすぎたのかもしれません!!
「チンチコールさん、夜は短いんです!! そして、青春も短い!!」
「……むう、そ、そうか。そう言われると、そうかもしれませぬな。あの娼館にも酒ぐらいあるでしょう」
そう、青春は短い。あの頃に何もできなかったおれに残された時間は少ない。
四六時中おっぱいやお尻のことばかり考えていたあの頃のおれはもういない。いつの間にか高齢童貞になっていたんだから仕方がない。
しかし、青春の残り火は消えず! てか、酒とかどうでもいいんで。おれ酒飲めないし。
――とか内心思いつつ、目立たない路地裏に着地する。
……え? ええっ!?
ふと目に入った光景に我が目を疑うおれ。
いかがわしい雰囲気の酒場から、なんだかちょっと知っている人が出てきたような気がして、思わず足を止めた。
……で、でもまあ遠目だし、見間違いだったのかもしれない。
(オイオイオイオイ! あれって、大司教のネーチャンとパラディン№6のオッサンじゃねーの!?)
……うん。まあ、そう見えなくもないね。
てか、もう戻って来てたんだオナモミ妖精くんよ。
(ケケケ……! あの店ってどういう店~ぇ? 今どんな気分だよヤマギワー?)
二人が出てきたあの店の一階は、おっぱい出した女の子が踊ってる感じの、普通にいかがわしい酒場だね。そして二階は多分、ラブホテル的な宿泊施設になっていると見た。
あの店から出てきたユーシーさんとランポウさん。二人の距離は、童貞のおれから見てもただ事じゃない感じがあって――。
つまりは、そういうことなんじゃね……?
(ケケケ……! そういうことなのかヨー!)
しかしまあ、ユーシーさんはヤマダのヒロインなので、おれにはまったく関係ないのだ。少しショックではあったが、同じオッサンでもヤマダよりランポウさんの方がどう見ても長身でイケメンだし、おれから見ても二人はお似合いって感じだしね。
そもそも、ヤマダのヤツは調子に乗りすぎたのだ。シーラさまにユーシーさん、マデリンちゃんまで、節操なく婚約者を増やしやがってヤマダのくせに! ハーレム主人公様気取りかっつーの!
(ヤマダに言いつけねーのかよー?)
言いつけねーよ。ユーシーさんの相手がチャラい若僧とかだったら、こっそり警告とかしたかもだけど、ランポウさんだしなー。
ヤマダとくっつくより、ユーシーさんにとって幸せなんじゃないかと思えてしまう。
……ところで、オナモミ妖精くんはどうしたよ? 妖精のメスはいたのか?
(……いたんだけどさー、金なんか欲しくないてさー)
ぷすすーっ、それってオマエ、フラれたんじゃね? と、ちょっと煽ってやると、何事かギャーギャーと反論していたが無視してやった。
「どうかしましたかなヤマギワ殿? くだんの娼館は、ほれ直ぐそこですぞ?」
チンチコールさんに呼ばれて、おれは慌てて後を追う。
……スマンなヤマダ、オナモミ妖精くんも。おれってば今、キミらの事に関わってる場合じゃねーんだ。