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421 『ヒロインの条件~正月、王都にて③~』

 王都の正月は年末の「護国祭」四日間から続けて「新年の祭」が四日間続く。

 年をまたいで大騒ぎをして酔い潰れた王国民達が寝床から這い出して、街角がまた活気を取り戻し始めた頃――。

 

 ――ネムジア教会、大司教の執務室。



「ふあぁぁぁぁ、ねむい……」


「だがまあ情報は集まったし、体裁は取りつくろえそうだ」


 ユーシーもアイダも昨夜から寝ずに関係者からの聞き取りを続け、先ほどやっと最後の一人からの聴取を終えた所だった。午後、王に謁見し、”魔王発生”とその”討伐”についてなんとか報告できる目処がついた。



「エメリーは、60年前に討伐された『悪食の魔王アバラン』の破損した魔石をスキル【再生】で修復、養子にした少年テッドの右胸に埋め込みました。――ですが、あの方が期待したような”魔王の能力”を得られるでもなく、ただおよそ五年で大人並みの体格にまで急成長した少年テッド、彼はいつもお腹を空かして飢えていた……と」


「少年テッドが”土”を食っている所を見かけたときは、クリスティア・ハイポメサスもさすがに止めたと言っていたが、恐らく少年はスキル【魔界】で”土”を”肉”に変えていたのだろう。その効果範囲は彼の体内――胃袋からハミ出すことはなかった……昨夜まではな」



「昨夜の戦闘でテッド少年が重傷を負ったために体内の『魔王の魔石』が暴走、彼の身体を巻き込んで魔王化したというのが、クリスティアさんの見解でしたね」


「魔石には時に、持ち主のココロが宿ると云うしな――まあ、ありそうな話だ」



「……ですが、サルディナ様は妙なことを言っていましたね、”魔王発生”は女神ネムジアが用意したイベントであるとか、魔王の本当の天敵は勇者ではなく大司教であるとか、ラダが盗人で売女だとかなんとか」


「言ってたな、なんとかかんとか。一応メモったが……、ネムジア教会に伝わる”魔王発生”の秘儀は、『魔王の因子を持つ者』に『しかるべき場所』で、『踊り』と『音楽』と『セックス』と『血』を捧げること。ただしその儀式は、『勇者』と『大司教』と『ネムジア』の下で執り行われること」



「『魔王の因子を持つ者』とは、スキル【魔界】を持つ者のことでしょうか? ……それにしても、『踊り』? 『音楽』? 『セックス』って!? やれやれです。もしそれが本当なら、ネムジア教会はデイジーもびっくりの邪教集団じゃないですか」


「若いグレイスにゃんが『乱交』はしてたようだが……、『踊り』と『音楽』はさすがにな。しかし『ネムジア』というのは女神ネムジア様のことかな? エメリーの『女神降臨』は、ラダがいなければ始まらないはず……まあ、サルディナ様の言うことだし、全部カットでいいな?」


 前の前の大司教サルディナ・マングロブの話はとりとめがなく支離滅裂しりめつれつで、どこまでが本当のことでどこからが妄想なのか、ユーシーとアイダには判断がつかなかった。

 それでも粘り強く聴取を続けた二人だったが、途中でサルディナが意味不明の奇声を発し失禁するにつけ、彼女は窓に格子の付いた病室へと運ばれることになった。



「スキル【迷宮】という亜空間に十年以上閉じ込められて、元パラディンのルードルードという男に陵辱され続けていたそうです。あの方は、エメリーに輝かしい人生を台無しにされた哀しい被害者なのかもしれません」


「……どうかな、演技かもしれんぞ」



「サルディナ様がまだ何か隠しているとでも? エメリーが殺害されたというのに、誰に義理立てするんです? それとも保身のためですか?」


「さてな、サルディナ様のことは、今は置いておこう……それよりも、だ。そのエメリーを殺害したヒヒじじいジーナスのことだ。死んだはずのヤツが生きていたというのはやはり、ヤツの息子ベリアスが使ったような予備の身体を所持していて、それを乗り換えて自らの死を偽装していたということだろうな」


「王族ともあろう方が、なぜそんなことを? 死を偽装してまだ日も浅いというのに、動きが派手すぎるようですが?」



「さてな。ヤツが死ぬことで、王国軍とネムジア教会の対立をあおりたかったのか、あるいは大司教ユーシーとパラディン数名を罪人にしたかったのか。どっちにしろ、ネムジア教会に対する嫌がらせだと私は思うがな。――まあ、そのことも今は後回しだ。問題はヤツの持つ”身体を乗り換えるスキル”だろう、ベリアスと同じ【肉体共有】なのか、もっと別のスキルなのかは知らんが」


「そうですね、テッド少年の肉体を使って復活した『魔王アバラン』は、ヤマギワさんによって魔石を砕かれたことで一度討伐されたようです。しかしその魔王の死体に、ヒヒじじい……あ、いえ、ジーナス殿下が乗り換えを行いました。魔王の顔が変わったあの時点で、あれは『魔王ジーナス』になったと言えるでしょう」



「そこはカットしなくて大丈夫か? 仮にも王弟だぞ。エメリーの始末については、ヘルガ・ロンメルがほぼ半殺しにしていたというし」


「むしろカットしてしまうと、ヤマギワさんやヘルガさんを差し置いて、私がスキル【世界破壊ワールドディストラクション】を使用した理由が説明しにくいのです」



「そうか、確かにそうだな。既に魔石が砕かれているおよそ70mにまで成長した『魔王ジーナス』を討伐するのに、効果の見込めそうな大火力が【世界破壊ワールドディストラクション】意外になかったということだな」


「……そうです、なかったのです」



「……? どうしたユーシー、いいんじゃないか?」


「サルディナ様が言っていたことです……」


 狂気をはらんだ瞳でサルディナ・マングロブが語った言葉を思い出す二人。



 ――あんな大きな世界の傷だもの、元に戻るまで二週間は地震が続くし太陽だって昇らないハズなのに……なんでもう塞がってるの? なんで空が明るくなってきてるの? ねえ、なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? ……なんでよぉ~?





「……なんでと言われても知らんが、確かに、四十年前の戦争で【世界破壊ワールドディストラクション】が使われたときには、一週間夜が明けなかったとか聞いたが……そういえばあの時、結構でかい地震があったな」


「もしもあの規模の地震が、サルディナ様の言ったとおり二週間も続いたとしたら、きっと私は責任を感じて、ワインをガブ飲みしたうえにレーズンをむさぼり食わずにはいられなかったでしょう……」



「……ふむ、あの場にいた誰かが”世界の傷”を修復したとでも? しかし、エメリーが使ったというスキル【再生】でも、空間に開いた穴を元に戻せるものか?」


「私には一つだけ心当たりがあります。【世界破壊ワールドディストラクション】と対をなすと云われてはいますが、実のところ伝説の上位互換スキル――」



「そうか、スキル【世界創造ワールドクリエイト】か! ヤマダの複製体であるヤマギワが、ヤマダと同じスキルを持っているというなら」


「どうやら、私達と王都に暮らす人々はヤマギワさんに救われたのかもしれません」


 事情聴取を待たずに、いつの間にか姿を消していたヤマギワを悪し様にののしっていたことを少しだけ反省し、少しだけ評価を改める二人。



「だが、そのことは全面的にカットだな」


「ですね」



 こうして関係者からの聞き取りを終えたユーシーとアイダは、報告書の最後のとりまとめを急ぐのだった。




 ***




 昨夜遅くヤマギワとエリナがチェックインした宿屋「ヒスイ亭」はまれに見るいい宿だった。日本の温泉旅館と比べても見劣りしない、聞けば貴族も利用するという高級宿だった。

 そんな高級宿を深夜に訪れた貧相な小男と幼女、宿泊をお断りされても――、日本なら通報されても文句の言えない場面ではあったが、ヤマギワが身に着けていた「竜鱗りゅうりんの具足」がそれなりの高級装備だと見抜いた出来るスタッフのおかげで事なきを得た。

 

 「ヒスイ亭」の売りは客室風呂である。昨夜はヤマギワとエリナ、二人で一緒に風呂に浸かった。……あれ? と、ヤマギワは思わないでもなかったが、身近な人達――エメリーとテッドが死んで消沈しているに違いないエリナ七歳にあまり強いことも言えず、彼女の好きにさせた。手ぬぐいで前を隠しつつ、互いの背中を洗いあったりした。

 狭い湯船で向き合うと、あと十年もしたらきっとすごい美人になるんだろうな――とか考えてしまい、慌てて妙な気分を振り払うヤマギワだった。



 風呂から上がると、すぐに寝てしまった。二人共腹は減っていたが、それ以上に眠かった。

 ベッドは二つあったが、エリナがヤマギワのベッドに潜り込んできたのでそのまま寄り添って寝た。……あれ? と、ヤマギワは思わないでもなかったが、彼女の好きにさせた。



 「ヒスイ亭」のもう一つの売りは、地下大浴場である。バイキング形式の朝食を昨夜の分までたらふく食った後、ヤマギワとエリナは連れだって地下大浴場に向かった。

 ……あれ? と思ったヤマギワは、隣のエリナに声をかけた。



「ちょいちょいエリナさん、こっちは男湯ですよ?」


「わたしはダイジョウブなんです、7歳だから」


 男湯の脱衣所で――BA、BAN! BA! BAN! BAN! BAN~♪ という、どこかで聞いたような歌を口ずさみながらさっさと服を脱いでいくエリナ七歳。

 そういえば昨夜も歌ってたような……もしかして、エリナさん転生者? とか勘ぐってしまうヤマギワだった。



 五十人は入れそうな広い湯船。湯は無色透明、無臭。温泉ではないのかもしれない。

 壁面に埋め込まれた水槽には派手な色の魚が泳いでいる。

 まだ朝早いということもあり先客はまばらだ。全裸の幼女が入ってきたからといって、気にとめる者も居ないだろう。


 数十分湯に浸かり少しのぼせたヤマギワは、不意に思い立って、スキル【浮遊】で湯の上に立ち上がった。

 驚くエリナにご満悦のヤマギワ。


 やがて、湯の上に水平に浮かんだヤマギワにエリナが乗っかってサーフィンごっこが始まる。



「ちょ、ちょいちょいエリナさん! チンチン握っちゃダメだってー!」


 ハメを外しすぎて、何人かの客が迷惑そうに風呂から去って行った。

 口に指をあてて「しー」と、お互いに反省を促すヤマギワとエリナ。


 そろそろ上がろうかと二人が思い始めた頃、一人の初老の男が大浴場に姿を現した。

 前も隠さず堂々と歩く初老の男のイチモツは、だらりと尻尾のように長く、平常時であるにも関わらず30㎝近くありそうにヤマギワには見えた。



「ヤマギワさん見てください! あのオジサンのチンチン、すごく長いです!」


「ちょ、エリナさん、聞こえちゃうって……!」


 ヤマギワが慌ててたしなめるが、言われた男は嬉しそうに腰を振る。



「ほうれほれ、どうじゃわらべよ? ワシのイチモツは凄かろう! なっはっはっ!!」


「ヤマギワさんの6倍ぐらいありそうです!」


「うっ。……アハハ、うちのエリナさんが、なんかすいません」


 なっはっはっ!! よいよい――と気にしたふうもなく、数回かけ湯した後、どぷんと大胆に湯に浸かる初老の男。



「おっと、よく見たらお嬢さんではないか! これは失礼しましたな。――いやぁ、仲良し親娘で羨ましいですのう」


「ヤマギワさんは、親代わりなのです」


「アハハ……」


 まあそんな感じでして、と頭をかくヤマギワ。親代わりと言われても、子育てのことなど本当はさっぱり判らない。

 何やら複雑な事情がありそうだと察したのか、初老の男はそれ以上ヤマギワを追及せずに、自分の子ども達に対する愚痴ぐちなどを語り出す。どうやら子ども達の仲が悪くて、跡継ぎ問題などに頭を悩ませているのだと、異世界の知識に乏しいヤマギワにもなんとなく察することができた。



「――やはり、いかに武の才能に優れているとはいえ、娘に聖剣を継承させたのは誤りでしたかのう……?」


 そんな男の独り言のようなつぶやきに、エリナ七歳が応えた。



「アトツギの件と聖剣のケイショウを一緒に考えるから複雑になるのではないですか? ご長男にカトクを継がせることを公式にすれば、聖剣をケイショウした長女の方とナカタガイすることも少なくなるのではないでしょうか?」


 一瞬ぎょっとする初老の男だが、気を取り直したようにエリナと話し続ける。もはや、男の相談にエリナが乗っているという様相。


 会話について行けずにヤマギワは、――「聖剣」持ってるのって三大侯爵家とかじゃなかったっけ? とかぼんやり考えていた。





「ヤマギワさん、あそこのドアはナンでしょう?」


 ぼんやりしていたヤマギワに、エリナが話しかけた。どうやら、相談は一応の結論に至ったらしく、初老の男は目を閉じ考えをまとめているようだった。



「サウナだと思うけど? サウナ、知ってる?」


「……アンサー! 要するに蒸し風呂ですね。行ってきていいですか?」



 いいけど、変な人がいたら大声で呼んでね? と声をかけるヤマギワに「わかりましたー」と小走りで駆けていく全裸のエリナ七歳。


 かわいいお尻を見送るヤマギワに、初老の男が話しかけた。



「エリナ殿は賢いですのう、いったいどのような教育を?」


「いやぁ、おれにも判らんのです」


 あいまいに笑ってごまかすヤマギワ。



「ところで、ヤマギワ殿には羽根があるのですな。――もしや”妖精の魔石”を?」


「え、それは、その……」



「”妖精の魔石”に【不老】のスキルがあるというのは本当なのですか?」


「えっ!? いやぁ……そういうスキルは今のところ出てないですけど……?」



「そうですか……しかし、もしや飛べたりするのでは?」


「……【飛翔】というスキルはありますけど」


 おお、飛べるのですね!? と、嬉しそうな初老の男。彼が指さすのは、女風呂との仕切りの壁。天井近くで壁は途切れて、女風呂とつながっている。

 

 どうやら、初老の男を抱えて、もしくは背中に乗せて飛んでくれということらしい。

 いやいやいや……と、あまり乗り気でないヤマギワ。そもそも覗きは犯罪行為だし、全裸のおっさん同士で肌と肌を密着させるのがすごくイヤだった。


 その時折悪く、女風呂から数人の若い女の声が聞こえてくる。



「すごーい! 広いですねお嬢様」

「お待ちなさい、きちんと洗ってから入るのがマナーですよ! 股や脇はもちろん、耳の後ろや乳房の下も忘れずに!」

「あ、あの、お股は奥まで洗っていいのでしょうか? まだちょっと痛くて……」

「きゃっ、皆で洗いっこしませんか? 昔みたいに」

「ちょっと待って、前は自分でやりますからぁあん! や、やだそこはっ……!」





 仕切り壁の向こう側の嬌声に、どうしても妄想がはかどってしまう男湯の面々。

 煮え切らないヤマギワの態度に業を煮やした初老の男は、魔法で氷塊を作り出し、それを足場にして仕切りの壁へと飛びついた。


 あの歳ですごい性欲だな……と、男の汚い尻を見上げて少し感心するヤマギワ。



「ぬぐおっ!!?」

 

 初老の男が仕切り壁に取り付いたまではよかったが、足場の氷塊が崩れて、壁にぶら下がった危険な状態におちいる。



(あ、あれ、落ちたら尖った氷でおっさんの股間とかに深刻なダメージの予感……)


 見かねたヤマギワが男を抱えて【飛翔】すると、勢い余って女風呂が一望できた。


 やべぇ……!! と思ったときにはもう遅く――、四人がかりで乳房や股間を洗われてヨがっている金髪縦ロールの美女とばっちり目が合った。

 

 凍りつくヨがり顔。彼女の手には、いつの間にか『聖剣ボンバイエ』が握られていた。




 ***




 椅子の背もたれに身体を投げ出し延びをするユーシー。大口を開けて欠伸あくびする不細工な顔は、家族とアイダ以外にはなかなか見せられない。



「終わったな」


「ですね。なんとか間に合いました」



「ところでユーシー、エメリーの死体は見たか?」


「いいえ? なんでも、頭部以外は血を抜かれてシワシワだとか。無残ですね」



「ああ、シワシワだった。チンコまでシワシワで無残だった」


「チンコってあなた、何やってるの……!」


 アイダが同性愛者であることは、付き合いの長いユーシーも知るところだ。

 そんな彼女が、男性器を話題にするなど未だかつてなかった珍事である。



「ナニはともあれだ――、ユーシーは今年、ヤマダと結婚してシレンタ村に引っ込むって話だが、私だって来月めでたく三十歳だ。人生を考えずにはおれん」


「えぇ!? アイダ、まさかあなたまで辞めるとか言い出すんじゃ……」



「いいや、辞めないぞ? この職場は私にとって悪くない。ただまあ、大司教の役目は御免被ごめんこうむるがな」


「ええ~っ! アイダ以外の誰に任せられるの? やってよ大司教、お給料けっこう増えますよ」



「エリエスがやりたがってたじゃないか、やりたいヤツにやらせればいい。――そんなことよりも、前々から密かに計画していたことをだな、この三十歳という節目に決断し実行しようかという話さ。ユーシー、お前を友と見込んで、最初に話しておこうかと思ってな」


「そ、そう? そんな風に言われると、なんか不安になるんだけど……まあ、反社会的な計画じゃなければ、応援しますけど?」



「そう言ってくれると思っていた。――私は決断した。今年こそ、やそうと思う」


「……は? な、何を?」



「ナニを」


「ナっ……!!?」



「私は今年チンコを生やし、フタナリ・アイダとなるのだ!! くっくっくっ、はっはっはっ……!!」


「…………」


 生えている同性の友人と今後どう付き合えばいいのか、真剣に考え始めるユーシー。とりあえず妹達に注意喚起することを決心するのだった。


 


 ***




 サルディナ・マングロブは薄暗い病室で静かにその時を待っていた。

 彼女は信じていた「エメリー・サンドパイパーが死ぬはずない」と。

 だから、いつエメリーが迎えに来てもいいように、スキル【特殊メイク】で美しい20代の顔を作って待っている。


 サルディナはエメリーのために沈黙を守った。

 一つは、スキル【迷宮】の今の所有者が自分であること。ルードルードが死んだタイミングで、ダンジョンマスターである彼女がヤマギワ達をダンジョンから放出したのである。

 もう一つは、スキル【迷宮】で作り出した亜空間ダンジョンの最下層が、エメリーのゴーレム工房であったこと。工房には、まだ数十体のエリートゴーレムと四体の50m級巨大ゴーレムが格納されている。

 更に、ダンジョン最奥のボス部屋には、透明なカプセルの中で眠る八体の生体ゴーレムの姿があったこともサルディナは知っていた。


 生体ゴーレム八体の内一体は、エメリーにそっくりな美しい少女だった。  


 

 いつしか病室は完全な夜の闇に閉ざされる。

 ベッドの上で虚空を見つめるばかりだったサルディナの瞳に不意に光が宿った。



「……ああ、やっと迎えに来てくださったのですね」







 その夜、サルディナ・マングロブは病室から消失した。

 ベッドのシーツには、分厚い仮面のようなメイクがそのままべったりと張り付いて置き去りにされていた。

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