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420 『ヒロインの条件~正月、王都にて②~』

 元日早朝、王都の冒険者ギルドを訪ねた『黒金の勇者』シマムラ・スーザンとアンディ、ジェフ、マイの四人組パーティは、とある問題に直面していた。


 6日前に大迷宮の最深階層に到達するという偉業を成し遂げた面々。道中トラブルもあったが、どうにかこうにか地上まで帰還することができた。後は、そのことを冒険者ギルドに報告すれば、高額の賞金と名誉が手に入るはずである。

 だがしかし……、困ったことに最深階層到達を証明するはずだったステータスの >称号「王都の大迷宮最深階層到達記録保持者」が、四人とも別の >称号に変わってしまっていた。


 

 >称号「ガンバル・ギルギルガンの穴兄弟2号」

 

 ――それが、アンディのステータスに刻まれ、最深階層到達を証明するはずだった >称号「王都の大迷宮最深階層到達記録保持者」の称号を上書きしてしまっていた。


 他の三人も似たようなもので、ジェフの >称号は「ガンバル・ギルギルガンの穴兄弟1号」に、マイの >称号は「キマリ傭兵団の性処理担当」、スーザンの >称号は「ガンバル・ギルギルガンの情婦」となっていた。

 

 原因は、激闘の末S級冒険者ガンバル・ギルギルガンを倒したことによって……あるいは、童貞や処女を卒業したことによって四人はそれぞれレベルアップしたことによる。

 レベルアップによって、 >称号を含むステータスが更新され、他人に見せるのもはばかられる表示になってしまっていた。



「まいったな、説明すればギルドの人は分かってくれるのか?」


「確か僕、他人の >称号を見れるスキルを持ってる人だったら更新の履歴をさかのぼれるって聞いたことあるよ。マイちゃんは見られないの?」


「私の【鑑定】じゃ無理。だいたい、こんな >称号、誰にも見せらんないし」


 冒険者ギルドの片隅で、なんとかならないものかと頭を悩ませるアンディ、ジェフ、マイの三人組。


 そんな彼等にスーザンが慌てたように口を挟む。



「待って、よく考えたらギルドにガンバル・ギルギルガンの関係者と知られるのもマズい。あれでもS級冒険者なのだし、殺害したと知れたら……」


「でも、絡んできたのはあっちじゃないですか」


「いや、確かにマズいかもだよアニキ。S級冒険者が絡んできたから返り討ちにしたって言ったって、誰も信じちゃくれないでしょ」


「ああーっ!!」


 突然素っ頓狂な声を上げるマイに、正月勤務でけだるそうなギルド職員も怪訝けげんそうな目を向ける。

 なんだよ? とアンディが促すと、マイが続ける。



「もしかしてあのオヤジに絡まれたのって、スーザン様のせいじゃないんですか!? スーザン様が『黒金の勇者』だから、ですよね!? だとしたら、私たちって完全にとばっちりじゃないです!?」



「おい、マイ!! 俺たちは全員で戦ったんだ、誰のせいとかじゃないだろ!?」


「マイちゃん、落ち着きなって」


 アンディとジェフが口々にたしなめるが、「だって!」とまだ言い足りないマイ。



「いいえ、マイちゃんの言うとおり、狙われたのは私ね。ごめんなさい……、みんなを安全に連れ戻すため大迷宮に潜ったはずだったのに、かえって酷い目にあわせることになってしまって。ごめんなさい……謝って済む話じゃないでしょうけども、お詫びに、私にできることだったらなんだってします」


「……なっ!?」


「お、おっし!」

「やった!」


 なんだってします――スーザンはあえてそんな言葉を選んだ。そう言えば、少なくとも男子二名が味方になってくれると判っていたからだ。



(なんてズルい、醜い大人のやり方だ……)


 スーザンの心に、ガンバル・ギルギルガンに言われた言葉がよみがえる。


 ――はて、なぜ許されない? 父や母、はたまた女神様にでも叱られると? ワシ等はそれなりに強い――が、上には上がおる。ある日突然、理不尽な死が訪れないとも限らん。それはS級冒険者や勇者とて例外なく、いつだって死と隣り合わせじゃ。――そんなワシ等が、ありもしない禁忌に怯えて、なにを取りつくろう必要があろうか? 生きている内にヤりたいことヤって愉しんだとて、どこの誰がとがめようか?



(……おじいちゃん、テリー、ヤマダさん、お願い……誰かこんな私を叱ってよ……!!)



 

 ***




「おのれぇ、エメリー・サンドパイパー……!!」


「言われてみれば、あの人が入浴している所は見たことがなかったな。……にもかかわらず、髪を乾かしているとか、忘れ物をしたとか言って脱衣所にはよく居座っていた。私としたことが、うかつだった」


 ネムジア教会中央神殿、大司教の執務室では昨夜の”魔王発生”から”討伐”に至る騒動について、国王への報告書のとりまとめが大司教ユーシーと聖女アイダによって進められていた。

 

 不足する情報を補うために関係者の事情聴取を続ける二人。

 たった今、『氷柱の勇者』にして『パラディン№22』でもあるヘルガ・ロンメルが聴取を終えて退室したところである。


 話題はヘルガからもたらされた衝撃の事実。元大司教エメリー・サンドパイパーが実は男だったということに二人は、少なからぬショックを受けていた。



「そういえば、あの人に過激な下着をプレゼントされたことがありました……ううっ、キモチワルイ!」


「私など、マッサージしてもらったこともある。同性の気安さで、あんな所やあんな所まで…………くっ、まさか男だったとは……、アイダ・アドラー一生の不覚!」



「マッサージといえば、アイダもよくデイジーやメリルを捕まえてはモミモミしてましたよね? 因果は巡る。とは、このことでしょうか」


「ばか、一緒にするなばか! 私は正真正銘、女の子だぞ!? 一緒にするなよ!? ……それはともかく、今、問題にするべきはエメリー・サンドパイパーの真の目的の方だろうが? あの人の性別とかセクハラ行為など、比べれば些細ささいな問題に過ぎない」



「……”女神ネムジアの降臨”と”宗教国家の樹立”ですか。なんていうか、いかにも男らしい野望ですこと――って、”宗教国家の樹立”とか、王様に報告していい話だと思う?」


「ううむ、例のエナジードレイン事件もあって、王国軍と教会の戦力は今や拮抗きっこうしていると私は見ている。いや、もしかしたらこっちが少し勝ってるかもしれん。言い方を間違うと、王様はともかく、周りの奴らに本気で警戒されかねんぞ?」



「だよね。そうしたら、”宗教国家の樹立”とかのくだりは大胆にカット。エメリー・サンドパイパーは自らの肉体に女神ネムジア様を完全降臨させて、更なる教会の信者獲得をくわだてたのであった! と――」


「何だかすごく健全だな……だがまあ、嘘は言っていないし、良しとするか」



「――そして、女神降臨に絶対必要なスキルを手に入れるために、失踪した聖女ラダを探していました。その話は、シラカミ部長からうかがった話とも一致します。ただ、それがどんなスキルだったのかということについては遂に知り得なかったと、ヘルガさんは言っていましたね」


「エメリー・サンドパイパーは【スキル抽出】と【結晶化】で、スキルを欠片にして取り出すことができたらしいからな。その絶対必要なスキルとやらが、ラダ自身が習得しているスキルのことなのか、”スキルの欠片”として秘匿している物なのかも判然とせん」



「ですが、ラダが人知れずエメリー・サンドパイパーと対立していたのは、やはり間違いなかったようです。……言ってくれたら、何か力になれたかもしれないのに」


「……どうかな。下手をすれば、私達もシラカミ部長の二の舞だったかもしれん」


 エメリー・サンドパイパーによって長期間監禁されていたフーカ・シラカミは、監禁中に使われた「中毒性のある粉薬」の禁断症状に苦しんでいた。牢屋のような病室に再び監禁、拘束されて、今はスキル【催眠】で深い眠りに落ちている。

 その痛々しい姿を思い出し、顔を青ざめさせる二人。


 アイダがティーカップに紅茶のお替わりを注ぐと、ユーシーは気を取り直して再び口を開いた。



「エメリー配下の者達の追跡を知ってか知らずか、ラダは『境界の山脈』を超えて『魔族領』へ入り、三人の勇者達と共に消息を絶ちました。あの人もさぞかし慌てたことでしょうね。――以来、その行方はようとして知れませんでしたが、つい先日のヤマダさんの決闘で、彼女の重鎧『銀のセラフィム』が居合わせた多くの人達に目撃されました」


「ラダが王都に戻っていると知ったエメリーのヤツは、ラダとただならぬ関係のヤマダを捕らえて、彼女をおびき寄せるエサにしようとした。もっとも、捕らえたのはヤマダの複製体であるヤマギワだったわけだが」



「つ、捕まっていたのはヤマギワさんだけじゃないですよねぇ? シラカミ部長や娼婦のルルさんという方、パン屋の娘さんだって捕まっていたはずですがぁ?」


 思わず声が上ずるユーシー、”ただならぬ関係”の部分が気にくわなかったらしい。



「落ち着け、むやみに登場人物を増やすと収集がつかなくなるぞ? そもそも、ヤマギワが捕まったことをラダが知り得たのかという話だ。あの男が捕まったのは昨夜の騒動の直前だったらしいからな、あんなことが起きていたことさえ気付いていないかもしれん」



「ラダは姿を現しませんでしたが代わりに別の男がやって来たそうです。その正体は、亡くなったジーナス殿下なのだそうです……まったくもう、意味が解りません」


「意味が解らんな。いよいよ収集がつかなくなってきたし……この際、ラダ関連の話もカットでよくないか? それから、エメリーが男だったという件も伏せておこう。ヤツの実家、サンドパイパー家が今回の仕置きに口を出してくるようなら、ヘルガさんの持ち帰った遺体が役に立つかもしれん」



「……いいですけど、スカスカな報告になってしまいそうですが」


「無駄に分厚い報告書などありがたがるのは木っ端(こっぱ)役人ぐらいなものだ。それに、まだ肝心の『魔王』に関する情報がさっぱり出てきていないじゃないか。私達が報告するべきはあくまでも”魔王発生”とその”討伐”のことだろう?」



「まあそうですね。残った関係者から、実は生きていたらしい『ジーナス殿下』と『魔王』についての話が聞けるといいのですが」 


 残る関係者は、パラディン№7クリスティア・ハイポメサスと前の前の大司教サルディナ・マングロブである。明らかにエメリーの配下だった二人であるが、その処遇についてはユーシー達もどうするべきか頭を悩ませていた。




 ***




 王都西側地区にある6階建てのマンション。王都でも王城やネムジア教会中央神殿に次ぐ高層建築物である。

 豪商ネブル・シリカゲルが愛娘のスズカに贈った部屋は、その最上階にあった。


 昨夜討伐された御前様ことエメリー・サンドパイパーの配下だったスズカ・シリカゲルは、クモ男アンバー、巨乳のウロコ嬢カサリナ、ネコ耳美少年マギーと共に自宅マンションへと逃げ戻っていた。

       

 おとなしく投降して神殿騎士の取り調べを受けるべきか、ネムジア教会とは縁を切り裏社会で生きるべきか、あるいは王都を脱出し冒険者にでもなろうかと、まだ決めかねている。

 こんな時にチームを引っ張っていたのは白髪の少女エリナであったが、彼女は四人とは別の道を選び去っていった。もう頼ることはできない。



 リビングでもちを食いながら、今後の方針を話し合うスズカ達四人。つたない議論を続けるほどに、自分たちにはブレイン役が必要不可欠だったと痛感させられている。

 やがて、「やはり投降するぐらいしかできないか」と話がまとまりかけた時だった。


 クモ男アンバーが屋外に張り巡らせたクモの糸に反応があった。



「誰か来たようですぜ」


 最上階フロアへ何者かが侵入した。

 四人に緊張がはしる。



 ――こんこん。

 軽いノックの音に続いて、玄関の外から間延びした女の声が聞こえてくる。



「ごめんくださ~い」


 誰だ? 足音をたてないよう玄関へと向かうスズカ。

 残りの三人も息を殺し彼女の背中を見守る。


 四人の注意は玄関ドアに向いていた。

 そのせいで、背後のベランダへと続くガラスの引き戸が音もなく開いたことに誰も気付かなかった。

 

 開いたわずかな隙間から投げ込まれたモノが、リビングの絨毯じゅうたんの上を転がる。

 次の瞬間――パン!!!! という激しい炸裂音が響き渡り、同時に強烈な閃光が室内を満たす。

 それは地球で、暴徒鎮圧などに使われる非殺傷型の爆弾、スタングレネードなどと呼ばれている兵器であった。



「うわっっ!!?」

「な、なんだこれ!!?」

「ちょっ……!?」

「……っお!?」


 一時的に聴覚と視覚を奪われ怯んだ隙に、ベランダから侵入してきたサングラスの男によって次々と打ち倒されていく四人。あっという間に全員、【手錠】を後ろ手にかけられ拘束されてしまう。



「何しやがる!! アタイにこんなことして、タダですむと思ってるのかい!!?」


 舐められたらしまいだとばかりに、床に転がったままのスズカが叫ぶ。元スケバンらしい気概だったが、実はまだ視力も聴力もほとんど回復していない。



「四人とも、なっちゃいないのでーす」


「「「「……!!?」」」」


 耳鳴りに混じって辛うじて聞こえた男の声に、ハッとなる四人。


 ――こんこん。

 室内の騒ぎなどお構いなしに、玄関が再びノックされる。



「もしも~し、どなたかいらっしゃいませんか~?」


「ハイハーイ」


 と玄関に向かったサングラスの男は、内側から鍵を開け、まるで我が家のように来訪者を招き入れる。



「あれれぇ~? タイターさん、なんで部屋の中にいるんですか~? さっき下で別れたのに~」


「散らかってますケド、さぁさドウゾドウゾー」


 サングラスを外したその男は、神殿騎士ジャック・タイター。四人にとっては、諜報活動のイロハを習った恩師である。それは、今や教官を務めるスズカも例外ではない。





「あ~! おもちがありますよタイターさん、食べてもいいですかね~? わたくしお腹ペコペコなので~」


「イエース! ミーにも焼いて欲しいのでーす! ――しかーし、御前サマーが亡くなったとはビックリニュースでーす。あの方の遺産は、『世界バンクの鍵』は教会に押さえられてしまいましたかー?」


 床に並んで正座したスズカ達四人はタイターに、昨夜諜報部で起こった一連の騒動について尋問されている。まだ【手錠】は外されていない。



「さて、エリナさんかクリスティアさんに託した可能性もありますかねぇ?」


 問いにはアンバーが応じた。「世界バンクの鍵」と言われても、他の三人は首をひねるばかりだった。



「ナルホドネー、気になりますが今は仕方ないでーす。それはそうとー、ナント皆さんは半年前からミーの下に異動になっていたのでーす! なのでー、今回の事件にはマッタク関わっていないことになるのでーす!」


「「「「……!?」」」」



「モチローン、ウソっぱっちでーす! でもー、ミーなら日付をさかのぼって、そういうことにできるのでーす! どうするかはー皆さん次第。ミーがお雑煮を食べ終わるまでに答えを決めてくださーい!」


 こうして、途方に暮れていたスズカ、アンバー、カサリナ、マギーの四人は、タイターの下で諜報活動を続けることになった。




***




 気がつくと灯りのない真っ暗な場所にミチシゲは立っていた。全裸である。

 ――スキル【リスポーン】は、死亡してから一定時間後、あらかじめ指定した場所に復活する。ただし、所持品と相応のレベルを失う。



「え……ええっ!? 死んだの僕? くっそ、あのジジイ、僕の身体を好き勝手にしやがって……!! どこだよここ、大迷宮のあの場じゃないのか!?」


 ミチシゲは「ジーナスの魔石」を体内に埋め込まれ、身体を自由に操られていた。その間、うっすらと意識はあったが何もできずにいた。

 昨夜の戦いで「ジーナスの魔石」がミチシゲの身体を捨てて「魔王アバラン」へと乗り移ったことにより、ミチシゲはやっと自分の身体を取り戻すことができた。しかしその直後に死んで、この場所に【リスポーン】したらしい。



「おいおい、ウソだろ……!!」


 ステータスを確認して愕然とするミチシゲ。スキル【リスポーン】が消えていた。

 スキル発動の対価、レベルダウンによってミチシゲのレベルは31になっていた。【リスポーン】は、ミチシゲがレベル32で手に入れたスキルである。

 次に死んだらもう復活できない。もう一度レベルを上げたとして、必ずしも同じスキル【リスポーン】を取得できるとは限らない。

 不意に暗闇が恐ろしくてたまらなくなり、ミチシゲは魔法【浮灯うきあかり】の光で周囲を照らした。


広大な地下室には直径20mほどの穴が空いており、その中央に巨大な氷塊が天井から鎖で吊されていた。



「ぎっ……!!?」


 必死に声を押し殺すミチシゲ。

 氷塊の中から、全高10mはありそうな人の顔がじっとミチシゲを見つめていた。

 その顔の首から下は、イカやタコのような吸盤のある触手が十数本ぶら下がっている。


 王都、ジーナス屋敷の地下に囚われた氷漬けのそれが、ダゴヌ教の神――「海神ダゴヌ」であることをミチシゲは知らない。



(何だコイツ!? 魔物なのか!? 死んでいるのか!?)


 その時、巨大な目がちらっと動いた気がして、ミチシゲは慌てて上階へと続く階段へ駆け出した。全身にイヤな汗が流れ、叫び出したい衝動を必死で堪える。


 そんな彼の行く手を塞ぐように、突然人影が出現する。


 

「ぎひぃぃぃぃっ!!? か、【金縛かなしばり】!! 【金縛】~っ!!」


「なっ!?」


 みっともなく悲鳴を上げて飛びずさるミチシゲだったが、闇雲に使用したスキル【金縛】が、スキル【転送】で転移してきたばかりだった清楚系黒髪美女ベルベットの動きを封じた。



「――あ、間違った。【蛇眼じゃがん】だった。フッ……どうだい? 僕の【蛇眼】の味は」


「ぐっ……」



「あはは、ザマーないね? キミってさ、もしかしてあのジジイの手下じゃないの? ――あー、別にいいよ、どうせ直ぐに素直になるに決まってるからさ? 僕のスキル【堕天使のキス】と【感度三千倍ヘブンズフィール】でね!」


 そう言ってミチシゲは、動けないベルベットへと近づいた。なお、彼が使おうとしているスキルは【発情唾液はつじょうだえき】と【感度調節】である。


 ミチシゲの伸ばした手は、するりとベルベットの頬をすり抜けた。

 ――スキル【霧化】、ベルベットは自身の身体を「霧」に変化させた。

 

 そのまま、ミチシゲの背後に回り込み実体化すると、背中から伸ばした”吸盤のある触手”でミチシゲの四肢を拘束する。



「あまり手間をかけさせないでください」


「ま、まってよ!! やめて!! 意味ないよ!! 僕はもうレベルが31で――」


 ベルベットの手には、回収したばかりの「ジーナスの魔石」があった。

 それをねじ込まれれば、ミチシゲの身体は再びジーナスに乗っ取られるだろう。







「へーそんなことがあったのかヨ、大変だったじゃん? ――ほら服を着なヨ、ブラザー」


 路地裏で体育座りする全裸のミチシゲに、ブルース・ウォレスは衣服を投げ与えた。


 その日、二人が遭遇したのはまったくの偶然らしい。全裸で王都の路上をふらふらしていたミチシゲを、たまたま通りかかったブルースが保護した形だ。



「……ダッサ」


「ウソじゃん、格好いいじゃん? ――それにしタッテ、そんな状況でよく逃げられたじゃんヨー?」



「わっかんないよ……あの女、なんか急に苦しみだしてさ……、とにかく全力で逃げたけど……」


「はーはん?」



「……後ろで、なんかグシャってイヤな音したし……もう、イヤだよ……なんで僕ばっかりこんな目に……」


「そーいうけどサー、ヤマモトが呼んだ五人で生きてるのはもう――」



「……な、なあブルースさん、”クスリ”持ってね?」


 イエース! と陽気にうなずくブルース。彼は偶然にも「中毒性のある粉薬」を大量に所持していた。

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