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418 『ヒロイン達の事情~毎度お馴染み「ターメリック倶楽部」④~』

 大晦日おおみそか――すなわち、一年の「ケツの日」!

 ショーパブ『ターメリック倶楽部クラブ』で繰り広げられるのは「くそプリ感謝祭」!

 舞台の上で生尻を晒した五人の美女クソおんな達が、強力な浣腸液を尻穴に注入されたうえで、人としての尊厳をどこまで護り続けることができるのかを競い合う!


 ――要するに、「ウンコ我慢大会」である!





 ぶばりゅっ!! ばりゅりゅりゅりゅりゅりゅる~~~っ!!!!

 激しい噴射音と共に、ミズキの尻穴から解き放たれる黄金の飛沫!



『ああ~っと、安産あんざんダップン! 奴隷メイドのミズキちゃん、早くも脱落でーす』


 浣腸液注入からおよそ二分、司会のミスター・ターメリックがミズキの脱落を宣言する。

 全てを出し切ったミズキは、客席に尻を向けたままの尻土下座しりどげざでその場にへたり込んだ。

 

 残るクソ女は四人、金髪縦ロールのアンナ! 匿名希望のアマンダ! 尻エルフのロレッタ! 初代「くそプリ」フタナリ・ユーシー!



(な……なんてこと……。尊厳を護らなければ、勇者の血統にかけて……!)


(ざ、ザコ過ぎます……お尻の穴がザコ過ぎますよミズキさん……!)


 アンナの正体はアントニア・チンチコールである。また、アマンダの正体はチハヤ・ボンアトレーだった。二人それぞれ、止むに止まれぬ事情があってこの舞台に立っている。

 二人は気がつく、この我慢大会はたった一人の勝利者である「くそプリ」を決めるためのものだ。最後の一人になるまで勝ち残らなければ、人としての尊厳は護れないのだということに。

 ブザマに尻土下座するミズキを横目に、尻の穴を引き締めなおすアントニアとチハヤ。



(ふふふっ……尻のゆるい小娘が、何の準備も策もないまま舞台に上がるなど愚かの極み! そうしてブザマに這いつくばっているのがお似合いね)


 ロレッタはこの勝負に並々ならぬ意気込みで臨んでいた。エルフの胸が小さいのは種族の宿命として諦めるしかない、だがしかし尻ならば、世界と戦える! 頂点トップを狙える! それが尻エルフの異名を持つ彼女の野望であった。

 

 そんな彼女の前に立ち塞がったのは、なんと男だった。ドクター・ラバトリー! 【変化】のスキルで”付いてる女”の姿、フタナリ・ユーシーの姿で舞台に上がり、80分にも及ぶロレッタとの我慢比べに勝利し、初代「くそプリ」の座を手に入れたのが彼である。



 ロレッタは左隣のフタナリ・ユーシーの横顔をチラリと窺い、我が目を疑った。

 ユーシーは浅い呼吸を繰り返し、静かに目を閉じていた。額には脂汗がつたい、髪が頬に張り付いている。



(――えっ!? 苦しんでいる? そんなバカな、ドクター・ラバトリーがこんな序盤で? ありえな…………ぇ!? そんな、まさか…………)


 ロレッタはもう一度フタナリ・ユーシーをじっくり観察し直す。

 頬が赤い。乳首が立っている。そして決定的なのは、付いているポコチンがカチコチだ。



(……この男、愉しんでいるのか!? なんてやつだ……!!)


 やはり今回も野望の前にこの男が立ち塞がるのかと、尻の穴を固く引き締め直すロレッタだった。




 ***




(……うそ、なにこれ、どうなってるの!?)


 歓楽街の水の無い側溝の下で、ショートカットの娘は目を覚ました。

 確か『ターメリック倶楽部』の裏口に回ったところで後からガツンとやられて……と、思い出したところで後頭部がズキンと痛む。



「あ……?」


 痛んだ場所に手を充てようとして、手足を縛られていることに気がついた。

 何者かに襲撃されたのだと思い至った彼女は慌てた。真っ先に思い浮かんだのは、性的な辱めを受けたのではないかという心配だが、服装に乱れはなさそうだし身体にも異状はなさそうだ。



(――もしかして誘拐? わたしを人質にして、パーティのみんなを……)


 考えれば考えるほど悪い想像がふくらむ。とにかく脱出しなければと身をよじるが、拘束はなかなか頑丈で簡単に抜け出せそうにない。


 周囲はまだ暗い。もしかすると、襲撃されてからまだそれほど時間は経っていないのかもしれない。ということは、急げばまだ「くそプリ感謝祭」のエントリーに間に合うかも知れないと考えた。


 こうなったら……と、ショートカットの娘はとっておきのスキルを使う決心をする。



「スキル【Z】変換!!」


 彼女が合い言葉(キーワード)を叫ぶと、水の無い側溝を黄色い光が満たした。



(……でも、これ使うと、服がダメになっちゃうのがイタイところよね)

    



 ***




 ミズキが脱糞し尻土下座してから既に30分が経過していた。

 舞台の上に残った四つの生尻は膠着状態こうちゃくじょうたいを保ち続けている。

 尻エルフのロレッタは、少し焦り始めていた。



(どうなってるの? アマンダとかいう新人ルーキーはともかく、あっちの金髪縦ロールまで……まさか今夜デビューするために、特別な研鑽けんさんを積んできたとでもいうの……!?)


 金槌かなずちやメイスの持ち手部分を尻穴に挿して一日過ごす。タライの水を尻穴で吸い上げるなどの過酷な訓練をロレッタは思い出す。それに加えて、ここ数日は野菜を控え肉ばかりを食べ続け、また水分を極力とらずにカチカチの便秘状態を意図的に作り出し今日に臨んでいる。

 ぎゅるりと、ロレッタの腹が鳴った。カチカチだったはずのウンコがもう緩みだしたかと、イヤな汗が額に浮かぶ。


 おそらく、とても臭いウンコだろう。前回、ドクター・ラバトリーに敗れウンコをぶちまけたときの記憶がよみがえる。「エルフのくせにウンコが臭ぇ!」と言われたあの屈辱。


 かくなるうえは……と、ロレッタは勝負に出る決心をする。





「あひぃ!?」

「おほっ!?」


 匿名希望のアマンダことチハヤ・ボンアトレーと、フタナリ・ユーシーが同時に奇妙な声を上げた。



(な、なんなのこれ? ブラの中を、何か糸の様な物が動いてる……!!? や、止めて……先っちょを絞らないで……!!)


 チハヤの感じた糸の様な物の正体は、ロレッタの操る「髪」だった。

 ――スキル【髪操作】でロレッタは、両隣りのチハヤとフタナリ・ユーシーに直接妨害を仕掛けていた。



「ぬ、ぬおおおおっ!!?」


 フタナリ・ユーシーのむき出しの乳房がビロンビロンと弾かれる。



「身体に塗ったオイルが仇になりましたね、びろんびろんとよく滑ること!」


「こ、こんなの反則じゃないの!?」


 勝ち誇るロレッタに、チハヤが抗議の声を上げる。



『はい、ルールは「正面大鏡から両手を離さないこと」。お尻への直接アタックで無ければオッケーでーす。アマンダちゃん、髪切った?』

  

 チハヤの抗議にミスター・ターメリックが応じた。「髪切った?」とは、本物のアマンダなら知ってるはずだよね? という意味だろう。



(……そういうことね、だったらこっちだって髪切ってやりますよ!)


 バチン!! と、チハヤの乳首に巻き付いていたロレッタの髪が千切れて飛んだ。

 ――スキル【マジックフィールド】、MPを使った攻防一体のエネルギーフィールドを自身の乳房に発生させたのだ。

 しかし、「あっ!」っと思ったときには遅く、勢い余ってブラまで弾けて落ちた。


 おおぉぉぉ~~~!!!! チハヤの小ぶりな乳房かポロンと露わになり、店内に歓声が上がった。


 ミスター・ターメリックが落ちたブラを拾う。

 それをスタッフに渡しながら、「これ貼っといて」と言った。

 チハヤのブラは、正面大鏡の隅にテープで貼られる。



「よくもアタシの美しい髪を切ってくれたね!? ならば、下の方はどうかしら?」


「ひっ……いやっ、止めて……!!」

「おほぉ、ほおおおおおおおおっ!!」


 ロレッタの銀色の髪がぞろっと伸びて、チハヤとフタナリ・ユーシーの下半身に殺到する。

 前貼りシールの内側には侵入できないとみて、シールの上からチハヤを攻める。

 【マジックフィールド】でロレッタの髪を弾いたとして、前貼りシールを弾き飛ばさずにいられる自信がない。かといって、このまま攻められ続ければ、チハヤの前貼りシールは内側から剥がれ落ちてしまうだろう。


 一方、フタナリ・ユーシーはむき出しのポコチンを直接絡め取られてしまう。



「ふふふっ、王様さえとりこにしたアタシの尿道責めを味わえるなんて、アナタとっても付いてるんじゃない?」


 不敵に言い放ったロレッタだったが、突然彼女のブラが触手によってむしり取られた。続けて、前貼りシールも触手によってベリッと剥がされる。

 二本の触手は、フタナリ・ユーシーの後頭部から生えていた。


 おおおおおぉぉぉ~~~っ!!!! 店内が歓声に沸き立つ。

 ここの客はなにも尻だけが好きというわけではない。ブラの中や前貼りシールに隠された部分も大好物なのだ。


 ミスター・ターメリックが落ちたブラと前貼りシールを拾う。

 それをスタッフに渡しながら、「これも貼っといて」と言った。

 ロレッタのブラと前貼りシールは、正面大鏡の隅にテープで貼られる。



「尻エルフのロレッタさん、キミは相変わらず付いていないようだ。なぜなら、また私に負けるのだから」


 ここまでなすがまま、ロレッタの愛撫あいぶにくぐもった声を上げるばかりだったフタナリ・ユーシーが遂に反撃を開始した。

 後頭部から伸びる触手が、今や全裸となったロレッタを好き勝手に蹂躙じゅうりんする。



「あっ……くはっ……触角が触手に!? ――でも、だとしても、アタシの尿道責めが効かないハズがないっ!! 先にイクのはアナタの――」



「いやいや、なかなかどうして、結構キモチイイよこれ。だけど、まあ、リクシル夫人の舌技ぜつぎとかシリカゲル夫人のアナル責めとかに比べたら、まだまだだね」


「な……ん、ですって……? ――え?」



「そうそう言い忘れてたけど、身体に塗ったこのオイル、ただのオイルと思ったかい? なんとフェロモン原液配合、私のオリジナルブレンドなのさ」


「ひ……、ハアハア……卑怯な……ドクター・ラバトリーぃ……ぃっ!!」



「触ってきたのはキミの方じゃないか? ふふっ、尻エルフのロレッタ、イッちゃえよ!」


「いぎひぃぃぃぃぃ!!」


 フタナリ・ユーシーの触手に急所をまさぐられ、激しく絶頂するロレッタ。

 同時に、ぶばば!! と大きな屁をこいた。

 続けて、もりゅもりゅもりゅもりゅもりゅもりゅもりゅもりゅもりゅもりゅもりゅぶちゃっ!!!! っと、大量に臭いウンコをぶちまける。


 舞台最前列で待ち構えていた、注入係の第一王子イグナスは両手でそれを受け止めるが、大量すぎて両手を溢れてこぼれ落ちていく。



「むほほ~~~っ!! 臭い!! エルフのくせにウンコが臭いですぞ~~~!!」


「ホントだ、マジくっせぇ!!」

「エルフのくせに、マジくっせぇ!!」

「つーか、山盛りすぎんだろ、エルフのくせに!!」

「普段何食ってんだよ、ロレッタちゃん!! うひひっ」


 周囲の客達も、その量と臭いに対して口々に喜びの声を上げる。


 その歓声を聞いているのかいないのか、ロレッタは客に尻を向けたままその場にへたり込み、今夜二人目の尻土下座を披露するのであった。




 

『なんとー、山盛りダップン! ベテランクソ女、尻エルフのロレッタちゃんが、二人目の脱落でーす。――くっさ!』


 ミスター・ターメリックがロレッタの脱落を宣言した。

 残るクソ女は三人、金髪縦ロールのアンナ! 匿名希望のアマンダ! 初代「くそプリ」フタナリ・ユーシー!



(あと二人……、二人には気の毒だが私は勝利しなければならない。だから卑怯と呼ばれようとも――)


 鏡越しに、最前列でニヤけているフライド・グランギニョルを睨みつける金髪縦ロールのアンナことアントニア・チンチコール。

 実のところアントニアは、浣腸液を注入されてから10分と保たずに限界を迎えていた。それでもまだこうして舞台に立っていられるのは、かなり早い段階からスキルを使用していたからに他ならない。

 ――スキル【ピンポイントバリア】! 手のひらサイズのエネルギー障壁を任意の場所に発生させる。


 アントニアは、【ピンポイントバリア】で自らの肛門を塞いでいた。もしかしたらルール違反かもしれないと思いつつも、このやり方なら出したくても出せないと勝利を確信していた。

 惜しむらくは、もっと早く【ピンポイントバリア】のこの使い方に気付いてさえいたら……前か後、どちらかの処女は守れていたかも知れない。手痛い授業料のたまものであった。





(あ、あぶなかった……もう少しこすられてたら、やばかった……ぬるぬるだ。気をつけないと、簡単にシールが剥がれてしまいそう……)


 匿名希望のアマンダことチハヤ・ボンアトレーは、左隣りで尻土下座するロレッタを見下ろす。

 実のところチハヤも、浣腸液を注入されてから10分と保たずに限界を迎えていた。それでも彼女は悪びれもせず、最初からスキル【マジックコーティング】で尻穴を塞いでいたからこそ、まだ人としての尊厳を護り続けていられる。


 不意に視線を感じて顔を上げると、フタナリ・ユーシーがこちらを見ていた。慌てて視線を逸らすチハヤ。

 フタナリ・ユーシーの正体、ドクター・ラバトリーをチハヤは知っていた。あの男の昼間の仕事はチハヤの通う学院の副学院長だったはずだ。副学院長が、一生徒にすぎないチハヤの顔を憶えているとは思えないし、今は目元をマスクで隠しているから尚のこと判かりっこないと思いつつも、視線を逸らさずにはいられなかった。





「ふむ、もしやキミはボンアトレーの?」


「ば、ばかな! そんなワケないでしょ!」


 不意にかけられた言葉に、チハヤは過剰に反応してしまう。それは、フタナリ・ユーシーの問いかけを肯定したに等しい。



「ほうほう、そうかね。若いのに、なかなか尖った趣味をお持ちだ」


「違うって言ってるでしょ! ……そ、そっちこそ、こんな店に出入りしてるって知られたら学院にいられなくなるんじゃない!?」



「おやおや、学院ってなんの話だい? 語るに落ちるとはこのことだねチハヤくん、カワイイおっぱいだ」


「や、止めろ……!!」



「ところでチハヤくん、壁際の席に座っているツルツル頭のお客さん、見えるかい?」


「――ウソ……が、学院長!? ……ピーチーパン先生、アナアスター先生、ゲイリー先生まで……こんな所で何を……」


 鏡越しに、店内に見知った学院の教師達を見つけて驚愕するチハヤ。特に、伸び悩んでいた頃のチハヤを親身になって支えてくれた槍術部顧問バン・ゲイリーの姿があったことに大きなショックを受けていた。



「何って忘年会さ、もっともここは二軒目だけどね。タメさんのうどんを食って、年を越すのさ。つまり、私達五人はここの常連なのだよ。――ん? おっと、アナアスター君から催促だ。彼はこらえ性がないのが欠点だね――、仕方がない。チハヤくん、悪く思わないでくれたまえよ?」


「え?」


 フタナリ・ユーシーの触手がしゅるりと伸びて、チハヤの股間を隠していた前貼りシールをペリリと剥がした。

 

 うおぉぉぉぉぉぉぉ~~~っ!!!! 糸を引いて前貼りシールが落ちると、店内を揺らすほどの歓声が上がる。





 ――ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!

 歓声が止んでも、店は実際に揺れ続けていた。

 吊られた証明がふらふらと影を踊らせ、天井はギシギシと音を立てた。

 大鏡の隅に貼ってあったブラが、テープの粘着力が甘かったのかぽたりと落ちた。

 王都では数十年ぶりの大きな地震に、誰もが不安を募らせるが……ほどなくして、揺れはゆっくりと治まっていく。


 

『ふーむ、タテ揺れが先に来たので、震源地はここからそう遠くあるめぇ……王都東側地区、地下大空洞? ――なんつって、なんの根拠もありませんのでどうかここだけの話ってことで』


 少しマニアックなトークで、冷めてしまった客席を温めるミスター・ターメリック。「タメさんは、地質学にも詳しいのだ!」と、客の誰かが言った。





(私は、負けた……どうしよう自分で言うべきか? 司会のターメリック氏も客達もまだ誰も気づいていない……だけど、きっとコイツは見ていただろう。フライド・グランギニョルは私のルール違反を見ていたに違いない)


 地震で騒然となっている時、慌てたアントニアは顔のマスクを右手で抑えてしまった。地震の揺れでマスクが外れてしまわないかと、思わず手を添えてしまったのだが……この勝負のルール、「正面大鏡から両手を離さないこと」を思い出し、直ぐに手を鏡に戻した。

 幸い、司会のミスター・ターメリックも客達も、その事には気がついていない。ただ一人、アントニア担当の注入係として舞台最前列に座るフライド・グランギニョルを除いて。


 結局、アントニアは自らのルール違反を申し出ることはなかった。この我慢比べに勝利しなければ、フジナ達の右腕は返ってこない。まだわずかでも、勝利の可能性が残っているならとアントニアは、鏡越しに見つめるフライドの視線を振り切った。





「な、なにっ!?」


 キューと音を立てて、突然チハヤの両手が大鏡の上を滑った。

 背中にかかる重圧がチハヤの上体を押し潰し、尻だけを高く掲げた恥ずかしい格好を強いられる。

 誰かから、何らかの妨害を受けていると悟ったチハヤは、鏡越しに店内を見回す。



(――!? あいつか?)


 店内に、奇妙な格好をした女が立っていた。ぴっちりとした黄色いボディースーツと黄色いフルフェイスヘルメット。所々に「Z」の意匠が施されている。


 その正体は、チハヤに襲撃されマスクを奪われたショートカットの娘、つまりは本物の匿名希望のアマンダであった。


 チハヤはアマンダのマスクを身に着け、アマンダを名乗って舞台に立っている。本物のアマンダにしてみれば、本来自分が立っているはずだった華やかな舞台に襲撃犯が立っていると考えるのが当然である。例えチハヤが、この舞台をどう思っていたとしても。


 黄色い女アマンダのスキル【重力操作】が、チハヤを押し潰さんとプレッシャーをかけ続ける。

 がに股になって耐えるチハヤだが、前貼りシールは既にない。客席から自分の股間がどんなふうに見えているのか、想像するだけでくじけてしまいそうになる。



「や……止めて……!! こんなの酷すぎる……!!」


「黙って下さい、盗人の言葉に聞く耳など持ちません!!」


 突然の妨害者の登場。その黄色い女が舞台上のチハヤに何かしているとは判っていたが、地震から立て続けのアクシデントに誰もがとっさに動き出すことができず、事の成り行きを見守っている。



『お嬢さんどうしましたー? 何か言いたいことでもあるんで?』


「こっちのことなんで、タメさんは口出ししないでください!」

 

 ミスター・ターメリックの問いかけにも応じることなく、一歩一歩舞台に近づくアマンダ。近づくほどに、チハヤにのしかかる重力のプレッシャーが増していく。



「あっ、ダメっ!!」


 ついには、チハヤのマスクが外れて落ちた。

 素顔を見られまいと、うつむくチハヤ。







「ははっ! このまま中止じゃ~つまんないよね?」


 そうつぶやく声を聞いたのは、おそらくアントニアだけだっただろう。

 フライドは【空間収納】から『聖剣ギンガイザー』を取り出すと、静かに鯉口こいぐちを切った。

 ――『聖剣ギンガイザー』の効果【超常スマッシュ】! 半径100mのあらゆるスキルを無効化する!



 不意に、チハヤにのし掛かっていた【重力操作】のプレッシャーが消失した。しかし同時に、肛門を塞いでいた【マジックフィールド】も消失する!


 アントニアが肛門を塞いでいた【ピンポイントバリア】も消失する!


 フタナリ・ユーシーの【変化】が解けて、元々の男の姿――ドクター・ラバトリーの姿に戻っていく!



「……う、うそ!! なにこれ!? どうなってるの!!? いやっ……!!」


 アマンダの身に着けていた黄色いコスチュームが全て消失し、全裸になっていた。

 客達の視線を受けて、その場にしゃがみ込み小便を漏らすアマンダ。



 ――ズン!!!!! ズ……ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!

 更にその時、王都を今夜二度目の地震が襲った。


 

「なんで!? なんで!? なんで!? いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「どうして!? 待って!? ダメっ!! だめぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「……ぬ、ぬぐおぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 舞台の上の三人の内、誰が最初だったのか誰が最後だったのかも定かでない。

 地震の横揺れに合わせるように、左右に尻を振る三人。

 

 ばりゅっ、ぶりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅる~~~!!!!

 ぼひゅっ、びるびるびるびるびるびゅるるるるるるるるるるるる~~~!!!!

 ぶぶぶぶぶりぃぃぃ、ぶぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞ~~~!!!!


 激しく尻を振りながら溜め込んでいた全てを大噴射する三つの尻、客席に等しく降り注ぐ黄金の雨!







 こうして、全てを出し切った三人が揃って客席に尻土下座することで第二回「くそプリ感謝祭」は終幕となった。


 当然、勝者は誰か? ということになったが……。



「――いや、私は『くそプリ』としてふさわしくないだろう。なぜなら、最後の最後で男の姿に戻ってしまったワケだからね。そう考えると、やはり第二回『くそプリ』はこの、チハヤ・ボンアトレーくんがふさわしいのではないかな? みんなも、タメさんもそう思わないかい?」


 ――チハヤ!! チハヤ!! チハヤ!! チハヤ!! チハヤ!! チハヤ!!

 ドクター・ターメリックの言葉に、店内から「チハヤ」コールが湧き上がる。


 ――チハヤ!! チハヤ!! チハヤ!! チハヤ!! チハヤ!! チハヤ!!

 素顔バレからの本名バレに言葉もなくふるえるチハヤ。



『そういうことでございますね、ェエーえある第二回「くそプリ」の名誉に輝いたのは、匿名希望のアマンダちゃんこと、チハヤ・ボンアトレー嬢でーす』


(……なんで!? なんで私がこんな目に……!?)





 ところで、黄色い女こと本物のアマンダは、いつの間にか店内から姿を消していた。ただフロアには、彼女のしゃがみ込んでいた場所にこんもりと山盛りのウンコが残されていた。






 

「いやぁ、すごい体験をさせて頂きましたよ~!! 次の連休にも僕はまたきっとこの店に来るでしょう!! いやぁ、王都はすごいなぁ~!!」


 カウンター席で興奮気味に語るババール君(22歳)。相手をするのは名前も知らないフライド・グランギニョルである。



「ははっ! じゃあまたこの店で顔を合わせることもあるかもですね~」


「おや、もうお帰りですか? まだ宵の口でしょう」



「間もなく0時ですけどね~、実は今夜中に王都を立つんですよ。まあまあ重たそうな仕事の依頼が入ってるもんで、出かける前に会っておきたい人がいたんですけど――」


「そうでしたか。恋人……という感じの店ではない、ですよね」



「父親ですよ、まだ直接会ったことはないんですけどね~。なんでもここのオーナーらしい。ははっ! まあこの時間になっても現れないんじゃあ、今夜はもう現れないでしょう。『くそプリ感謝祭』も終わっちゃいましたしね――さて、それじゃあまたどこかで。あ、そうそう、ここはうどんが美味いらしいですよ、店長のお手製だとか」


 そう言い残し席を立つフライド。「お気を付けて」と一言、彼を見送るババール君。





(――あ、忘れるとこだった。アントニアさんに女の子達の腕、返さないと。ははっ! また追っかけられても面倒だしね~)


 早速フライドは、【空間収納】から取り出した右腕四本をリボンで結ぶと、メッセージカードを添える。楽屋へ花束でも送るように「これ、金髪縦ロールのアンナちゃんに」と言って、フロアでアマンダの残したウンコを掃除していたスタッフに無理矢理それを押しつけた。

 メッセージカードには「いい脱糞だったよ!」とだけあった。







「お疲れちゃーん! いやぁ、見事な脱糞でしたなぁ。『くそプリ』チハヤの誕生、しかとこの目で見さしてもらいまった! すごいでんな~!」


 身支度を調え裏口から出たチハヤに、パラディン№8ロハン・ジャヤコディが声を掛けた。



「……口外したら、ぶっ殺しますよ?」


「ナハハ、言うても学院の先生方公認ですやん? ――あ、いや、分かっとりますがな、ワイとチハヤちゃんの秘密でっせ」



「……そんなことより、ロレッタは? 当然、見張っていたのでしょう?」


「どうやら、今夜現れるはずのクスリの取引相手が現れんかったようでしてな、泣きベソかきながらお城に帰って行きはりましたわ。ただまあ、どっちかいうたら、『くそプリ』とかになれんかったことの方を悲しんどるようですけどな」



「じゃあまだ、お城の潜入を続けるの? 私、勇者選考会に向けて大迷宮に潜りたいんですけど」


「おやぁ、学院生は当面の間、大迷宮への立ち入り禁止と聞いとりますがぁ?」



「ぐぬっ……」


「せやけどまあ、今夜のことでだいたいの目処めどが立ちましてん。この店のオーナーがなんと、先日亡くなりはったジーナス殿下だそうでしてな」



「王弟ジーナス……道理で品のない……」


「ところでチハヤちゃん、レベルはどんなでっか?」



「レベル? どんなでっかって……え? 上がってる!? な、なんで?」


「チハヤちゃん、レベル40まであと一つか二つでっしゃろ? そんぐらいならワイがなんとかしたるんで、もうしばらく手を貸してもらえまっか?」


 チハヤのレベルは、なぜか1上がってレベル39になっていた。レベルは高レベルになるほど上がりにくいのは常識である。だと言うのに、ジャヤコディはあと一つか二つなら何とかなるという。

 レベルアップには、チハヤのまだ知らない秘密があるのかも知れない。そう思ったチハヤは、ジャヤコディの誘いに渋々うなずくのだった。







「いやぁまさか吾輩に、このような性癖が眠っておったとは、死してなお花となるといったところですかな、はっはっは!」


 元のテーブルに戻って来た第一王子イグナスはご機嫌だった。尻エルフ、ロレッタの脱糞したての臭いウンコを両手で受けた体験を、興奮して語り続けている。


 その話を、隣で迷惑そうに聞いているのは、奴隷メイドのミズキであった。

 「くそプリ感謝祭」開始早々に脱糞し尻土下座を晒したミズキであったが、楽屋でシャワーを浴び、身支度を調えてテーブルに戻って来ている。

 

 先程から何人もの常連客と思しき紳士たちがミズキの下を訪れ、口々に”肉感的な尻”や”無様な脱糞”とか”お手本のような尻土下座”といった彼等なりの価値観で褒め称えるが、「はて、なんのことでしょう?」と塩対応を繰り返している。

 ミズキは今夜の出来事を全て、「自分の記憶に無い」ということにしたのだった。



「”肉感的な尻”はまあいいとして、”無様な脱糞”とか”お手本のような尻土下座”とは何のことだろうか? さっぱり記憶にないのだが、妄想の話を私にされてもな。ヤレヤレ」


「ああ、コレ、ミズキさんの録画だって、観る? ほら、あっちのテーブルのミズキさん推しの彼のスキル【録画水晶】だってさ。いろんな角度から沢山撮ったからって、一個くれたんだ」


 ”録画”という言葉の意味が解らず、言われるまま『本の勇者』アマミヤの持つ【録画水晶】を覗きこむミズキだったが、しばらく観てその映像が自分の脱糞シーンだと判るとテーブルに自ら額を打ち付けて泣いた。どうやら、【録画水晶】を観たという記憶もそれが存在するという記憶も「自分の記憶に無い」ことにすると決めたらしい。




 

「結局さ、ジーナス殿下は、現れなかった……じゃない?」


「まあ、そういうこともあるさ。素敵なショーも観られたことだし、良しとしようぜ? それにほら、こんないい物も手に入ったし。なんかスゲー創作意欲が湧いてくるよ」


 『人形の勇者』イノハラは、『ターメリック倶楽部』のお下劣なショーに終始イラついていた。一度だけ身を乗り出したのは、黄色い戦隊ヒーローのような格好の女子が乱入した時だった。

 逆に、アマミヤはこの店を大層気に入っていた。元々、「くそプリ」という言葉自体が、彼の著作『くそプリユーシー』からの引用であるからして、その一点からしても元々相性がいい店なのだ。

 そんな彼が取っ替え引っ替え覗きこんでいる二つの水晶は、ミズキ推しの彼から譲り受けた【録画水晶】である。聖女セリオラの脱糞シーンが録画されている物とミズキの脱糞シーンが録画されている物だ。



「動画……か、懐かしいよね……」


「イノハラさ……もしかして、元の世界に帰りたかったりする?」



「帰りたくは……ないよ。たださ、こっちの世界でも……AV的な、さ」


「5分間らしいけどコレ、きっと売れるよな……なんとか、大量生産できないもんかな」


「いずれにせよ、かの御仁の名前と住まいを聞いておいたらどうですかな?」



「だ……ね」


「そしたらミズキさん、あのモミアゲ氏の名前とか聞いてきてよ」


 アマミヤの言葉にうなずくイノハラを見て、ミズキはとても嫌そうに席を立つ。


 ちょうどその時、店のスタッフが注文のうどんを運んできた。



「ご注文の、カレーうどん四人前でございます。お飲み物のお替わりなど――」


「ちょっと待って、なんでカレーうどん!?」


 イノハラが、かつて無いほど滑舌よくツッコミを入れた。





 かつて異世界から召喚された勇者が言った。

 カレーとコーラを異世界で再現できれば、天下が取れるだろう――と。

 その言葉に感銘を受け、勇者の語るわずかな知識を頼りに、カレーとコーラの再現に人生を捧げた男達がいたという。

 ミスター・ターメリックは、不完全ながらカレーの再現に成功した、生きる伝説なのであった。

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