417 『ヒロイン達の事情~毎度お馴染み「ターメリック倶楽部」③~』
欲望渦巻く王都歓楽街。賑やかな表通りを外れて、ひときわ寂しい路地を奥の奥へ進んだ場所にあるショーパブ『ターメリック倶楽部』!
年末年始の休暇を利用し遙々商業都市クルミナから王都を訪れていたババール君(22歳)がその店のことを知ったのは全くの偶然だった。
三日前、円形闘技場で行われた「ベリアス対ヤマダ」の決闘。その流れでベリアスが使ったスキル【神域/何も持たずに産まれただろう】によって起こった全裸化現象は客席までも巻き込み、円形闘技場に詰めかけた老若男女、貧富貴賤に関わらす全員が全員全裸になるという大騒動になった。王様も貴族も平民も全裸! 冒険者も神殿騎士もパラディンも全裸! メイドエルフも美しい聖女達も、大司教ユーシーさえも全裸! 全裸! 全裸!
混沌とした客席に運良く居合わせたババール君は、一世一代の賭に出た。スキル【液状化】で自身の身体を液体状にして、憧れの大司教ユーシーの足下に忍び寄ったのだ! 彼の渇望する魂が欲するまま、ユーシーの尻穴にゴブリンにさえ効くという強力な下剤を挿入しようと⸺。
しかし、ババール君は失敗した。憧れの大司教ユーシーの尻を別の女の尻と間違えるという痛恨のミス! 誤って、聖女セリオラの尻穴に下剤をねじ込んでしまったのだ。
結果、公衆の面前で湿ったクソを大噴射したのは聖女セリオラだった。
彼女もまた美貌と気品を兼ね備えた淑女である。それはそれで、ババール君の渇望する魂を潤す美味ではあったが、口の中がすっかり大司教ユーシーになっていた彼にとっては、一生モノの悔いを残すこととなった。
失敗を引きずり今一つ「護国祭」を楽しめないまま、宿の一階にある店で無為に酒をあおって過ごすババール君。休日もあとわずか、明日には王都を出発し帰途につかなければならない。また代わり映えのない平凡な日々が始まるのかと暗澹たる思いでまた酒をあおる。
そんな彼の耳に、店内の誰かが言った「くそプリ感謝祭」という言葉が飛び込んできたのは、如何なる神の采配であっただろうか?
その言葉に俊敏に反応したババール君は、普段の彼からは想像できないような勢いで、それを口にした客を問い詰めたという。
彼は知った、歓楽街の外れにあるショーパブ『ターメリック倶楽部』で、大晦日、すなわち一年の「尻の日」に「くそプリ感謝祭」という秘密のイベントが催されるということを――!
***
『さて今宵「くそプリ」に挑まんとする四人のクソ女達が出揃ったわけでございます。ェエー、それでは最後にお呼びいたしましょう! お待ちかね、第一回「くそプリ感謝祭」の覇者――』
店内の音楽が変わり、司会のミスター・ターメリックが前回チャンピオンを呼び込む。
ざわわ……と客達がどよめいた。
『――初代「くそプリ」、ドクター・ラバトリーでーす』
現れたのは、逆三角形の隆々たる筋肉をオイルでテカらせた、ブーメランタイプの黒パンツ一丁の中年男であった。
「えっ!? ちょ、ちょっと待ってください、あの人が初代『くそプリ』なんですか!? プリンセスどころか、あれはどう見ても男性じゃないですか!? そんなことが許されるんですか!? 私、正直がっかりなんですが!?」
期待を裏切られたババール君(22歳)は、たまたまカウンター席で隣同士になったフライド・グランギニョルに対し、ちょっとキレ気味に訴えた。
「ははっ! まあまあ、見てなって。ドクター・ラバトリーは案外凄いんだぜ~?」
「凄いって言われても、期待が大きかった分……くっそ! 怒りさえおぼえているのですよ私はっ。アレの一体何が凄いって…………あぁっ!? ああああああああああっっっ!!?」
この店の常連であるフライドはあえて説明をせずに、初見のババール君が見せる初見らしい反応を楽しんでいる。
ドクター・ラバトリーの凄さは、誰の目にも一目瞭然だった。舞台の上でポーズをとった彼はスキルを使用し【変化】する。
ごつい身体が丸みを帯び、胸がふくらむ。
固そうな尻が、柔らかそうに厚みを増す。
肌の色が、髪の艶が、瞳の輝きが変わる。
その姿はみるみるうちに女の姿になっていく。
最後にうなじから長い触角を生やしたその女の姿は、ババール君がよく知る人物だった。
「ほらね、彼はスキル【変化】を使うのさ! あれが誰か知ってるか~い?」
「だ、大司教ユーシーさま……だ……と…………!?」
ドクター・ラバトリーは大司教ユーシーの姿に【変化】した。
ブーメランパンツ一丁で乳房は丸出し、肌はオイルでテカっているが、大司教ユーシーをかなり精巧に再現していた。
ババール君は、大いに興奮した。これならば、初代「くそプリ」の名にふさわしいと納得した。……だが、はて? どこかに違和感があった。――いや、直ぐにその違和感の正体に気がついた。「なぜ、大司教ユーシー様にポコチンが付いているのか?」と、フライドに目で問いかけるババール君。
「ははっ! 男性が女性に【変化】する時のあるあるさ~、どうしてもポコチンは引っ込められないらしいよ――ははっ! でも、あれはあれで需要があるんだってさ、知らんけど」
ブーメランパンツから、ドクター・ラバトリーの固くなったポコチンがはみ出している。
邪魔だなぁと、ババール君は思った。
大司教ユーシーに【変化】したドクター・ラバトリーが、四人のクソ女達の左隣で大鏡に両手を付き、舞台上に五つの尻が並んだ。
参加者は出揃い、いよいよ第二回「くそプリ感謝祭」が始まるのだ。
『ェエーそうすれば、お客様の中から五名、どなたか「注入係」をやっていただきたいのですがー?』
ミスター・ターメリックが客席に呼びかけると、常連客達が一斉に手を上げる。
注入係? ババール君は意味が解らないものの、隣で勢いよく手を上げているフライドを見て自分も手を上げる。
希望者多数。店の隅に集まった十数人は店のスタッフの音頭でじゃんけんを繰り返す。
幸運にも勝ち残ったババール君は、注入係の座を手に入れた。
「ははっ! ついてるねキミ。――ああ僕? 僕は単純に、じゃんけんが得意なんだ」
なにげに、フライドも注入係を勝ち取っていた。
じゃんけん勝負に敗れた客達がすごすごと元の席に戻ると、ミスター・ターメリックが注入係の5名を舞台の上に呼ぶ。
ああ、こんな近くで、大司教ユーシー様が尻を振っている。尊い――と、感無量のババール君。ただ、近づいたが故に股間に残ったポコチンがなおさら気になった。
ババール君達五人の注入係に、店のスタッフから太い浣腸器が一本づつ配られた。浣腸器の透明な筒の中には、たっぷりと黄金色の液体が充填されている。
――あぁぁ……そ、そういうことぉぉお? そういうことぉぉお!? 浣腸器を手にしたことで、やっとこの「くそプリ感謝祭」がどういう催しなのか解り始めたババール君。
不意に目の前の光景がにじむ。知らず、頬をつたう涙。感謝である! 圧倒的感謝がババール君の渇望する魂をふるわせた! とめどなく頬をつたう感謝! 感謝! 感謝の涙!
『あっれ、大丈夫ですかお客さん、なんで泣いてるんです? いい大人が、泣くこたぁねぇでしょ?』
「ぐすっ……ずばらしぃお店だぁ……ありがとぅ、ありがとぅタメさん。ありがとぅ……」
『ワカリマシター。では、担当をくじ引きで決めまーす』
号泣するババール君を適当にイジりつつ、テキパキと段取りを進めるミスター・ターメリック。
「やったでぇ! 大司教はんの尻はワイのもんやー!」
「ほほう、いやはや吾輩も父上や叔父上同様、無類のエルフ好きでしてな」
「拙者は本当に罪深いのでござる、ミズキどの。詳しくは言えぬでござるが……」
「ははっ! 僕もついてる」
くじ引きで五人の注入係が誰を担当するか決まっていく。
ババール君の担当は、一番小さく引き締まった尻のアマンダちゃんだ。大司教ユーシー様に未練は残るが、中身は男だし、邪魔なポコチン付いてるしと気持ちをアマンダちゃんに切り替えていく。
不意に店内の音楽が消えた。
音楽が止まれば、クソ女達の尻振りも止まる。
『はい、担当も決まったところで、パンツ下ろしまーす。あと、コレ貼っといて』
「へ?」
「ひゃっ!?」
「そんな……」
ミスター・ターメリックの司会進行にのっとって、女性スタッフがクソ女達のパンツを無造作に剥ぎ取る。同時に、尻穴以外の部分を隠すシールが申し訳程度にぺったり貼られた。いわゆる”前貼り”である。
五人の内何人かから上がった抗議の声もむなしく、五つの生尻が舞台に晒された。
客席から見て右から、白磁のごとき美尻――金髪縦ロールのアンナちゃん!
(おおお落ち着いて……お、落ち着くのよ私! 私はアンナ! 断じて、断じてアントニア・チンチコールではないのですぅぅぅ……!)
肉感的なエロ尻――奴隷メイドのミズキちゃん!
(ぐすん……もうダメだ……なんだかもうどうでもよくなってきた……もう、どうとでもするがいい……)
引き締まった小尻――匿名希望のアマンダちゃん!
(なにコレ!? なにコレ!? なんなのコレ!? どうしてこんなことになってるの!? てゆーか、あのドクターって人、もしかしてラバトリー副学院長じゃないの? マズいって、なんで副学院長がこんなとこにいるワケ……?)
幅広肉厚の大尻――尻エルフのロレッタちゃん!
(ふふふっ、今日この日のために、ありとあらゆる特訓に耐えてきました。今回こそはドクター・ラバトリーに勝利して「くそプリ」の座を手に入れてみせましょう。ご期待下さいまし、ジーナス殿下! ……殿下、まだお見えにならないのかしら?)
生活感のあるだらしない尻――初代「くそプリ」ドクター・ラバトリーこと、フタナリのユーシーちゃん!
(ふっ、女がどうあがこうと男の筋肉に勝てるものか! 「くそプリ」の座は今回も私がいただく! そんなことよりも、前回よりもバージョンアップしたフタナリ・ユーシーの姿を見るがいい! こだわりの尻は、保護者会で意気投合したリクシル夫人を参考にさせてもらった! ここの客なら判る者もいるだろう――この生活感! この背徳感! そして淫靡!)
うおぉぉぉぉぉぉぉ~~~っ!!!! 店内が歓声に沸き立つ。
『イイネェ……じゃ、注入係は担当のお尻の方へ――あああっ、まだですよ? ステイ! まだ挿しちゃいけません! ェエー「用意!」で穴にできるだけ深く挿入、「発射!」で一気に薬液を注入してくだーさい』
ババール君達注入係は担当する尻の前に立った。彼の目の前には引き締まった小尻がある。割れ目の奥に、すぼめられた穴も見えた。人生は素晴らしい。
ミスター・ターメリックが続ける。
『――ェエーそうすれば、クソ女の皆さんも、注入係の皆さんもー、お客様も準備はよろしいでしょうかー? あとスタッフも――いい? いい。よろしいようです』
ミスター・ターメリックが合図をすると、再び店の音楽が流れ始めた。
更に続ける。
『――それでは始めましょう! 毎度お馴染みマニアのショーパブ「ターメリック倶楽部」! 尻の日、御礼! 第二回「くそプリ感謝祭」を開催します! ルールは、舞台正面の大鏡から両手を離さないこと。一番最後まで人としての尊厳を守り切った者こそが「くそプリ」の名誉と100万Gの賞金を手にするのです! ェエーそれではクソ女の皆さん、力を抜いてリラックス――用意!!』
ミスター・ターメリックの「用意!」の号令に合わせて、待ってましたとばかりにババール君達注入係が一斉に動く。担当するクソ女の尻を掴んで押し開き、穴めがけて浣腸器の注入口を深々とねじ込む。
「なにをす……ふぐぉ!? ば、やめ……っ!!」
「人としての尊厳とはいった――ひぎぃ!!」
「ま、まって……私は違っ……くあっひっっ!!?」
ここまで何をさせられるのか、何を競うのか解っていなかったアントニア、ミズキ、チハヤだったが、事ここに至りやっと自分たちが恐るべき競技に参加させられていることに気がつき始めた。
「よくってよ、さあ!! ――くふっっ!!」
「むぅぅんん……はぁぁーむんっ!!」
一方、前回優勝を競い合ったロレッタとドクター・ラバトリーは気合い充分。何が二人をそこまで駆り立てるのか?
一瞬の静寂、店内に緊張感が走る。
誰もが、ミスター・ターメリックの次の号令を固唾を呑んで待った。
『一気に、注入――!』
合図に合わせて、一気に薬液を押し込む注入係。ここで他に遅れては、競技の公平性が保てない。
クソ女達の直腸を、『ターメリック倶楽部』御用達の浣腸液が満たす。
常人であれば一分と保たずに全てを垂れ流す、非常に強力な浣腸液である。
ミズキの記憶は大きく欠落している。彼女が王国近衛師団に所属していたと第一王子イグナスは語ったが、彼女自身は全く憶えていない。レベルは少なくとも35以上でザマ流槍術の達人だったとも語ったが、今、彼女のレベルは1で、スキルもただ一つ【隷属】が有るのみだった。
それでもふとした拍子に、忘れたはずの過去が断片的に心をよぎる。
本当に彼女自身が経験したことなのか、そもそも本当にあったことなのかさえも定かでない。
女として、人として他人に見せてはいけない姿を見られてしまった時の死ぬほど恥ずかしい記憶。
心とはうらはらに、抗いがたい衝動に身を任せ屈してしまった記憶。
ミズキは思う。
――どうか、それら全てを忘れてもらえないだろうか? 全部無かったことにできないだろうか? と。
しかし、そんな都合のいい奇跡など起こりはしない。
今この時も、抗いがたい衝動が彼女を責めさいなむ。
限界は近い。
***
その日、異世界オタクのカーター・キリキリバサラとアルゴン・ランスマスターの二人組が『ターメリック倶楽部』に来店したのは偶然ではない。
護国祭一日目、円形闘技場で発生した全裸騒動で、聖女セリオラの脱糞を目撃してしまったカーターとアルゴンは、心に芽生えた新しいエロスの可能性に胸を高鳴らせていた。
そんな二人が独自の情報網を駆使して本気で求めたならば、遅かれ早かれ『ターメリック倶楽部』の「くそプリ感謝祭」にたどり着くことは当然の帰結であっただろう。
ただし、いかに異世界オタクの情報網といえども、カーターの推しメンであるミズキが今夜の舞台に登場するなどということは事前に把握できるはずもない。というのも、彼女の登場はついさっき決まったばかりの飛び入り参加であるのだから、この遭遇は全くの偶然だった。
思わぬ巡り合わせに、ふるえるほど歓喜するカーター。どうにか拙者に注入係を! あわよくばミズキ殿の担当を! と鼻息を荒くする。アルゴンも友人として、今回はカーターに協力しようと知恵を絞った。
注入係を賭けたじゃんけん勝負に挑んだ異世界オタク二人だったが、あっさり敗退する。
いつもならそれも運命かと引き下がる場面であったが、その日のカーターは違った。果敢に運命と対峙する。
じゃんけん勝負で勝利した一人の男に、カーターは注入係を譲ってもらえまいかと交渉を持ちかけたのだ。
へえ、こりゃすごい! とその男、アマミヤ・ヒカルは【録画水晶】を覗きこんで言う。カーターのスキル【録画水晶】は、5分間動画を撮影できる水晶を一日1個創り出せる。
注入係をアマミヤに譲ってもらう対価としてカーターが差し出したのは、聖女セリオラの脱糞シーンを録画した秘蔵の逸品であった。
かくしてまんまと注入係の座を手に入れたカーター。
続けて担当決めのくじ引きに挑む。小箱の中に腕を突っ込み、ミズキの名前の書かれたプレートを引き当てなければならない。
この時、カーターは突っ込む手の中に小さな鏡を隠し持っていた。アルゴンのスキル【遠視鏡】で作り出したその鏡は、彼がもう片方の手に隠し持った鏡に箱の中の光景をくっきりと映し出した。
こうして元来善良な異世界オタクであるカーターは、罪悪感で早くなる鼓動を押さえ込みつつ、ミズキの名前の書かれたプレートを引き当てたのだった。
「拙者は本当に罪深いのでござる、ミズキどの。詳しくは言えぬでござるが……」
***
――限界は近い。
極限状態の中、研ぎ澄まされていく思考の頂で天啓のごときひらめきがミズキに訪れた。
――どうせ無くしてしまった記憶ならば思い出さなければいい! 他人が忘れてくれないならば自分が忘れてしまえばいい! 忘れてしまえば、全て無かったのと同じではないか? と。
その時は、唐突に訪れた。
ぶばりゅっ!! ばりゅりゅりゅりゅりゅりゅる~~~っ!!!!
激しい噴射音と共に、ミズキの尻穴から解き放たれる黄金の飛沫!
舞台最前列、注入係専用席のカーター・キリキリバサラは両手を広げて、推しメンの飛沫を一身に浴びる。
その姿はまるで神聖な儀式に臨む聖人のようであったと、アルゴン・ランスマスターは後に語った。
『ああ~っと、安産ダップン! 奴隷メイドのミズキちゃん、早くも脱落でーす』