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412 『ワクテカ! ドッペルゲンガー㉖』

(ケケケ……! 見ろよヤマギワ~、アイツ尻から血ぃ出してやんの! ザマーミロ~!)


 コラっ! マルク君は、女の子達を護るために自らの肛門を犠牲にしたんだぞ? そんな彼を笑うなんて、失礼だと思わんのか!? とか、オナモミ妖精をたしなめつつ、おれは魔王の胃袋内の光景をヤツの視界を通して覗き見ていた。



 遠くの方で巨大な炎が巻き起こり、床にうごめく「魔王の尻尾」をなぎ払った。

 ――スキル【大炎上】! 燃えさかる炎のマントと「かげろうのインナー」に身を包んだクリスティアさんがこっちに向かって歩いて来る。

 てかさっきまで暗くて判らなかったけど、こうして見ると思ってたよりだいぶ広いな魔王の胃袋。


 クリスティアさんに続いて、スキル【黒塗くろぬり】で素肌を隠した生体ゴーレムの姉妹、オデットさんとイセリアさんが闇の中から姿を現した。


 彼女達、新しい獲物を捕獲しようと一斉に押し寄せる無数の「魔王の尻尾」を、”光の剣”と”鋭い針”が次々と迎撃する。オデットさんのスキル【飛光剣ひこうけん】と、もう一方はイセリアさんのスキル【とげ】というらしい。

 どちらも触れた瞬間に生肉化してしまうが、攻撃を引きつけ逸らすだけなら十分効果的のようだ。



 くして、クリスティアさん、オデットさん、イセリアさんの三人組が、魔王の胃袋内で戦闘を開始した。周囲を焼き払いながら、ゆっくりと侵攻する。

 「魔王の腹の中の生存者救出作戦」最終幕の概要は、三人組が要救助者”四人と一匹”を実力行使で奪還することである。



『ほほーう! 吾輩の【魔界】の深淵に自ら飛び込んで来ようとは、くっくっ……感心、感心! 早速、尻をまくって肛門を見せるがよ――いぃぎゃあああああ~~~っ!!?』


 何事か言い終わる前に、人間サイズの魔王ジーナスを【大炎上】の炎が焼いた。


 だが、黒焦げになって崩れ去るジーナスの隣に、すぐさま新しい別のジーナスが生えてくる。



『――くっくっくっ……無意味なのである!! これにあるは分身体に過ぎず、いくら滅したところで尻の毛一本ほどの意味もないのである!! 例えば今、ここにいる全員が尻の毛を持ち寄って束ねたとしても、そんなことは関係なく吾輩は何事もなかったかの――よほぉぉぉぉぉ~~~っ!!?』


 魔王ジーナスの足下から伸びた太い”針”がヤツの肛門に刺さって、たちまち生肉化した。



「アナルに物を指し込むのがお好きなのでしょう? これは私からのサービスです、おたのしみください」


 イセリアさんのスキル【とげ】は、任意の場所に”鋭い針”を出現させる。そしてその先端には猛毒を付与することもできるのだとか。



 ――シュビビビビーーー!!

 アーリィちゃん、レナスちゃん、マルク君、エルマさん達四人をそれぞれ拘束していた「魔王の尻尾」を、オデットさんの魔法【光線】がまとめて切断していく。

 そのまま走り抜けた【光線】はついでのように、肛門を”肉の針”に貫かれてもだえるジーナスの首を切り落とした。

  

 拘束を解かれ落下する身体を、三人組がそれぞれ受け止める。

 エルマさんだけは、スキル【ドラゴンフィールド】の青いオーラで自身を支えた。



「……助かりました。№7クリスティアさん、まさか貴方が来てくださるなんて」


「失態でしゅね、№9エルマしゃん。もう少しできる女だと思っていまひたが」


 クリスティアさんは、腕の中のマルク君に回復魔法を施しながら、エルマさんには厳しい言葉を返した。

 エルマさんの実力を認めているがゆえの苦言だろうけど、御前様派閥のクリスティアさんが他のパラディンと基本的に不仲であるが故というせんも実は捨てきれない。

  

 ぐぬぬ……と、苦々しそうに続く言葉を飲み込むエルマさん。





「ふぇぇ~ん、イセリアちゃ~ん!!」


「アーリィ姉様、お尻の穴に入ってこられる感じってどんな感じでした?」


 見た目年下の姉アーリィちゃんを抱きしめるイセリアさん。

 お尻丸出しの姿に勘違いしているようだが、アーリィちゃんの肛門は辛うじて無事だった。





「レナス、しゃきっとなさい!! 貴方がそんなことでどうします!?」


「……!! 姉様……」


 オデットさんが、レナスちゃんの頬をひっぱたいた。回復魔法で身体の傷は既に全快しているようだが、ココロの傷はどうだろう?  



「お尻の穴をナニされたからってナンだというのですか!? そんなことで、気高いココロまでけがせはしないのです……乙女のホコリは決して……決して……ぐすっぐすっ……」


「……!? ね、姉様……?」


 呆けていたレナスちゃんを叱責しっせきしていたように見えたオデットさんが急にメソメソしだした。オデットさんって、怒りながら泣くタイプの人なのだろうか? それともまさか、さっきの記憶が……コワっ、なんかコワっ……!!





『――無意味だと言っている――!! 尻の毛一本ほどの、意味もないと言っておるのだ!! さあさあ、尻を出せ!! さあさあさあさあ――!!』

『さあさあさあさあ――!!』

『さあさあさあさあ――!!』

『さあさあさあさあ――!!』

『さあさあさあさあ――!!』


 さあさあさあさあ――と、次々と魔王ジーナスが生えてくる。

 十、二十、と増え続け、クリスティアさん達は総勢三十体の魔王ジーナスに囲まれていた。


 先頭の一体の股間にぶら下がった「魔王の尻尾」が目にも止まらぬスピードで伸長し、メソメソしていたオデットさんの口に侵入した。



「――んぐ、もごあっ……!!?」


 更に喉の奥に入り込もうとする「魔王の尻尾」を、レナスちゃんが慌てて引っこ抜いて、凍結させて砕く。


 激しくむせて、涙とヨダレで顔を濡らすオデットさん。

 それを見て困惑してるっぽいレナスちゃん。でもおかげで、彼女もやる気が出たようだ。

 

 

(オイオイ、あのおっかねーネーチャンどうしたよ? なんで急に泣きベソかいてんだ~?) 

  

 ウーン、ナニか嫌なことでも思い出しちゃったのかな。まあ、思い当たることがないでもないんだが。

 

 それはついさっき、作戦の第一幕開始前のこと――。




 ***




 エリナちゃんの説得により、おれとの遺恨は一旦忘れて、「魔王の腹の中の生存者救出作戦」に協力することを承諾したオデットさんとイセリアさん。

 まあそもそも、要救出者の中には七姉妹の内二人が含まれているし、スキル【超次元三角】で描いた三角窓はお尻が引っかかるギリギリのサイズなので否応もないのだけど。


 さて話もついたようだし、そろそろ二人のお尻を次元の隙間から解放してあげようかと思って進み出たら、エリナちゃんに引き止められた。……まだなんかあったけ?



「御前様は、わたしに財産の全てを相続するにアタリ、まだ小さいわたしの後見人をヤマギワさんとクリスティアさんご夫婦に任されました。親代わりというワケです」


 ふ、夫婦!? 訂正を入れたいところだが、ここで口を挟むのは話の邪魔だろう。

 ニヤける口元を手で覆い隠すクリスティアさん。……ぐぬぅ、さてはエリナちゃんと何らかの示し合わせがあると見た。

 そんなそぶりはおくびにも出さず、エリナちゃんは続ける。



「――ところで、御前様が亡くなり主人を失った皆さんのことですが……、御前様のスキル【ゴーレム作成】と【ゴーレム召喚】はヤマギワさんがケイショウしたのです。よって、生体ゴーレムである皆さんのアラたな主人は――」


「ま、待ってくださいエリナお嬢様!! それはあんまりではありませんか!!? 確かに、私達七姉妹の内から裏切り者を出してしまい、あまつさえ御前様のお命を害したとあっては、どんな罰を受けても償いきれない大失態ではありますが、よりによってそんな得体の知れない小便垂れが新たな主人と言われましても――そんな不細工にこの身を自由にされるぐらいなら、いっそ死んだ方が……」



「勘違いしないでください、皆さんの主人をヤマギワさんとすることは罰ではありません。なぜならそれを決めたのは御前様ご自身なのですから。――だってわたしなら、不具合のあった皆さんは一度リセットして再起動するべきと考えていたと思いますし、ヤマギワさんにはスキル【ゴーレム作成】があるのですから」


「……例え死んだとしても、従順な下僕として作り替えられるだけ……」


「姉様、わたくしリセットはイヤです! せっかく蓄えた知識を全て失うなんて耐えられません!」


 生体ゴーレムとはいえ、ああして自我のある女の子に無理矢理言うことをきかせようとするのはなんだかかわいそうな感じがするけど、死んだ方がましとか言われるおれだってなんかかわいそうじゃね?

 正直なところ、おれに【ゴーレム作成】なんていうインテリっぽいスキルが使いこなせるのか自信ないけど、ここはエリナちゃんの言葉に乗っかって、リセット? 再起動? 余裕~、コンセントを抜いて挿すぐらい余裕~! って顔をしておく。



「今までのわたしだったらそう考えていたでしょうけど、御前様は……スキル【天の声】はリセットの必要はないと言っています。――ですけどヤマギワさんが、従順な下僕としてのゴーレムをお望みならば、一度リセットすることもヤムヲエナイのかと思うのですけど――」

 

「ですねー。抜いて挿す、ヤムヲエナ~イ」


 なんつって、適当に話を合わせるおれ。



「ぬぐっ……わ、判りました……そのブサ……ヤマギワ様に……従います……」


「わたくしも従います! ですから、リセットだけは……どうか、リセットだけはご容赦ください……!」


 ――と、まあそんな感じで、ステータスレベル50相当の超強力な生体ゴーレム二体、”目力強めのプリマドンナ風美女”オデットさんと”生真面目上司風美女”イセリアさんがおれの配下となることに同意した。


 いやぁよかったよかったと上機嫌で、いまだ三角窓に引っかかったままの彼女達二人のお尻を次元の隙間から解放してあげようかと思って進み出たら、エリナちゃんに引き止められた。……え、まだなんかあるの?



「同意してもらえてよかったです。では時間もありませんので、手早く所有権のイジョウを済ませてしまいましょう」


「――!? ま、待ってくださいエリナお嬢様、所有権の移譲とはもしや……!?」


「姉様?」



「カンタンな魔法的ギシキによる、設定のウワガキです。ぜんぜんムズカシイことではないですよ? ネンマクへ主人から体液のトフ、要するに”フクジュウのセップン”です!」


「……ふくじゅうのせっぷん?」


「服従の接吻せっぷん……?」


 ”接吻”とは”くちづけ”、要するに”キス”のことである。

 つまりあれだな、おれが二人の唇にぶちゅっとキスするってことだ。――うっしっし、やったぜ!



「「いイイヤァァァァァァァ~~~~~~ッ!!!!」」


 声を揃えて拒否反応を示すオデットさんとイセリアさん。

 オデットさんにいたっては、やっぱり殺してくれとか言い出す始末。

 

 ……そんなに? 判ってはいたけど、ちょっと傷つく。

 てか、ちょっと声がでかすぎて、魔王が寄ってこないか心配になる。

 

 そう思ったのはおれだけじゃなかったようで、次の瞬間、オデットさんとイセリアさんは石化して沈黙した。

 ヘルガさんの「石化ニラミ」ことスキル【石化眼せきかがん】による処断である。



「ヤマギワさん、早く! ”生肉”になってしまわないうちに済ませてください」


 ああそうか、ボケッとしてると魔王の【魔界/ナミダ涸れてもオナカは泣くのね】の影響を受けてオデットさんとイセリアさんが生肉化してしまう。



「えっと、このままブチュっとやっていいのかな?」


「粘膜に体液を塗布とふするのでしょう? うしろに回り込んで、ペロンとしてください」


「ええまあ、確かにその通りなのですケド……うしろ?」


 急かすように言うヘルガさんに、エリナちゃんもおれも意味が判らず困惑している。

 ……うしろ? え、うしろ!? 察しの悪いおれだったが、エリナちゃんよりは早く気がついた。



 三角窓から上半身を乗り出したまま石化したオデットさんとイセリアさん。そのすぐ隣に、おれはスキル【超次元三角】で少し大きめの三角を描いた。次元の隙間へと開く三角の窓。


 次元の隙間に侵入したおれは、オデットさんとイセリアさんの背後に回り込む。

 そこには、小さい三角窓につっかかって彼女達の下半身だけが次元の隙間に取り残されて並んであった。

 石化している二人だが、幸か不幸か下半身は石化を免れ生身のままだ。


 そんな二人の下半身に対して、なぜかおれの後に付いてきたルルさんとクリスティアさんが、容赦なくスカートをめくりパンツをずり下ろす。


 ……お、おお、すげぇ!! こんなアングルで、こんな間近に見るのは人生初だ。しかも、ぱっくりモザイク無し!!

 おれの脳内に、「壁尻かべじり」という現実ではとんと使う機会のなさそうなワードがよぎる。――うむ、そうだ、そうしよう。今日は「壁尻記念日」とするー!!



「さあヤマギワさん、さっさとするのです~! 前でも後でもお好きな方で――あ、でもちんちんを入れるのはダメだと姫様が言ってます」


「直接ペロンとしゅるもよひ、舐めた指でブシュっとしゅるもよひ、しゃあご主人しゃまひとおもいに!」


 ……よ、よし。おがんでる場合じゃなかった。

 はて、どうやってナニしたものか――。




 ***




 ――てなことがあってね。

 おれは魔法的儀式を経て、オデットさんとイセリアさんの所有権の移譲を受けたってわけさ。ここだけの話、「強制命令」のコマンドワードもエリナちゃんに教えてもらったから、無理矢理色々命令することだってできちゃうんだよね。……まあ、クソ嫌われる覚悟があればだけど。



(へー、そりゃスゲーな! でもあのネーチャン、石化してたんだろ? ナニを思い出してメソメソしてるんだよ? 尻で話を聞いてたのか~?)


 むむ、結構鋭いじゃねーか、オナモミ妖精のくせに。

 ……まあそれなんだが、石化解除された時にまだ尻に感触が残ってたのかもな。



(てことは、ヤマギワテメー、舐めた指でブシュとしたのか~? まさかテメーもコウモンサマかよ~?)


 嫌いじゃないけど、コウモンサマってほどじゃねーよ。ただ、ペロンとするのはなんか悪い気がするし、前の穴は加減が判んねーし、だから舐めた指で後の穴にブシュっとしたんだけど……マズったかな?





「ぐすん……たとえ……たとえこの身が汚されようと、ココロの気高さだけは誰にも踏みにじらせはしない!! ――さあ、立て!! 立ち上がれ!! 天使の翼をかたどった紋章は清らかな魂の象徴、誇り高き家名を汚すな、マルク・エロディール!!」


 オデットさんが自らを奮い立たせるように呼んだのは、お尻から血を流して放心していたパラディン№10マルク君の名前だった。





「……エロディール?」


 思わずつぶやいたおれに、オデットさんの家名もマルク君と同じエロディールなのだとエリナちゃんが教えてくれた。

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