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ずっこけ3紳士! はじめての異世界生活~でもなんかループしてね?(ネタばれ)~  作者: 犬者ラッシィ
第七章 3紳士、都会で名をあげるⅡ 僕が先に好きだったのに編 【推奨レベル16~23】
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292 下級妖精

 ――ワラワラワラ……。


 ――ワラワラワラ……。



「な、なんかざわついていやがる! たくさんの知らない裸の女達が俺を見てなんかざわついていやがる! でも、あいつらは全員俺なんだ! そして俺は、”俺”なんだか”アタシ”なんだか解らなくなってきて……」


 おっと、アンディ君の方は今そんな感じか、そしてこの声も聞こえているようだ。

 

 おれが暗闇の中に見ている幻影、その「魚面の異世界オタク」数十人と「全裸の巨大なシマムラさん」が何事か口走っている。


 いよいよこの大迷宮の深層を満たす「黒い霧」の元凶に近づきつつあるのかもしれない。





((((ワレ(われ)ワレ(われ)われわれら)ワレラ****……))))


 ――なんだって? 肝心な所、曖昧あいまいな感じで聞き取れなかったぞ?



「アンディ君、今の聞こえた?」


「ざわざわしてるだけで、何言ってるのかさっぱり解らねえ」


 ……うーん。やっぱりあの「全裸の巨大なシマムラさん」と「魚面の異世界オタク」達はおれに話しかけているのか?

 スキル【共感覚】を発信したおれに対して返信してきている?



((((……我((ワレ))カキュウ(ワレ)カキュウ(カキュウ)……))))


 ――あー、聞き取りづらいんで誰か一人代表でしゃべってもらえますか、悪いけど?





(……我々(ワレワレ)ハ****デアル。下級妖精かきゅうようせいノ接近ヲ確認……)


 どうやらこちらの要望をくんでもらえたようで、脳内に響くヤツらの声が突然クリアになる。

 ちょっとまだ一部聞き取れなかったけど、おれの知らない言葉だろうか?


 そして、てっきり代表は「全裸の巨大なシマムラさん」かと思っていたのだが、今話しているのは「魚面の異世界オタク」達の内一人。顔は見えないが、その体型はどこかヒゲのアルゴンさんに似ている。



(上位者権限ニヨリ、情報ノ開示ヲ求メル)    


 ……? 「情報の開示」? なんのこっちゃだ。

 だがまあここは下手したてに出ておこうか、なんか「上位者権限」とか言ってるし。



 ――「おれはヤマダ……」と、メッセージを返そうとした時だった。



(ケケケ……ばーか!)


 と、「魚面の異世界オタク」の問いかけに別の誰かが応じる。

 ――え!? 誰……?


 気がつけば、おれの後ろに「もう一人のおれ」が居た。


 ――「もう一人のおれ」とは? おれがピンチの時に、止まった時間「走馬灯モード」の中で話しかけてくる、おれが忘れてしまった8年間の記憶から成る別人格である。


 今のおれはそれほどピンチというわけでもない。そもそも、「走馬灯モード」に入ったおぼえもない。……「もう一人のおれ」、なんで居るの?



(なんでとはゴアイサツじゃねーか、相棒よー?)





(…………下級妖精ノ分際デ、我々ヲ侮辱ブジョクスルノカ!?)


 あーほら、怒らせちゃったじゃん。なにやってくれてんの「もう一人のおれ」?

 てか、そんなキャラだっけ?



(ケケケ……うるせー! 何が「上位者権限」だ、役立たずが偉そうにー!)


(許サン!! 分解シテヤル!!)



 ……あちゃー完全に怒らせた。

 一斉に「魚面の異世界オタク」達がおれの周囲を取り囲む。


 でも、これって幻影だよね……ん!? スキル【危機感知】反応!?

 

 ――ガギン!!

 投げつけられたサイリュームっぽく光るナイフを、抜いた『ガリアンソード』で弾く。

 確かな物理的な手応えがあった。なんてこった、幻影じゃないのか……!?



「お、おい!? 急にどうした、ヤマダさん!?」


 いけね。とっさにアンディ君の手を放してしまった。

 しかし、まさか物理攻撃をしかけてくるなんて……、ただ「オーラ」を流してメンタルさえ防御していればいいという状況ではなくなったようだ。

 

 物理攻撃に対応するために、アンディ君とおれ、このまま見えている光景が違うのはどう考えてもマズい。下手したら同士討ちコースだ。



 ――スキル【共感覚】! おれは、自分の見ている光景をアンディ君と共有した。

 てか、初めからこうすればよかった。





「――な!? 何じゃこりゃ~~~!!」


 「全裸の巨大なシマムラさん」の股ぐらを見上げて絶叫するアンディ君。

 ……うん。まあ、そうくると思ったよ。 



「気持ちは解るけど、今は周りのヤツらに集中してくれ! 攻撃してくるぞ!?」


「こいつら、よってたかってスーザン様をローアングルでなめるように見上げやがって! 許さねぇ!! 切り刻んでやる!!」


 ……いちばん見上げてるのはキミだがな。

 おれはスキル【危機感知】でアンディ君の動向をぼんやり把握しているが、アンディ君からおれは見えていない。


 アンディ君が、「魚面の異世界オタク」達に切り込んでいくのが判った。

 レベルのわりに実力が残念なアンディ君ではあるが、サイリュームっぽいナイフしか装備していない運動不足の異世界オタク達にまさかやられたりはしないだろう。……まさかね。……でもまあ、ちょっとは気にしておこうか。



(分解シテヤル!! 分解シテヤル!! 分解シテヤル!! 分解シテヤル!! 分解シテヤル!! 分解シテヤル!! 分解シテヤル!!)


(ケケケ……ムダムダ~! ヤマダ、やっちまえよ~!)


 ……言われなくてもやるけどさ。ホントどうしちゃったんだ、「もう一人のおれ」?

 


 ――ズパッ!!

 おれは、『ガリアンソード』をムチ状に変形させると、「魚面の異世界オタク」達をまとめて横薙ぎにする。


 にょろりと、「タナカの触手」がこちらに伸びてくる。……うわっ、キモっ!!


 ――ズパッ!! ズパッ!! っと、触手を切り飛ばす。

 しかし、切ったそばから再生し、きりがない。


 よく見れば、最初に切った「魚面の異世界オタク」達も切った場所から再生している……いや、再生というか、切った場所をただ塞いだだけの異様な怪物になって立ち上がってくる。……キモっ!!





「ヤマダさん、なんだこいつら!? ぜんぜん攻撃が効いてねえ!? う、うわぁぁ!? 触手が! 触手がぁぁぁ~~~!!」


 イケナイ……! アンディ君がタナカの触手でイケナイことに……!



(ケケケ……ヤマダ、「オーラ」を使えよ? キラキラ光る「オーラ」な? 早くしないと、アンディのケツがピンチだぜ~~~!)


 おっと、そうだった。この「魚面の異世界オタク」も「タナカの触手」も、元は「黒い霧」が見せた幻影。……幻影? まあとにかく、「黒い霧」には「勇者のオーラ」が効くはずだ。


 ――スキル【勇気百倍】! 輝け、おれの『ガリアンソード』! 勇気モリモリの剣!!



 おれは、「オーラ」をまとわせた光る『ガリアンソード』で群がる「魚面の異世界オタク」達や「タナカの触手」を切り伏せていく。


 なるほど、再生してこない。「もう一人のおれ」の言ったとおりだ。





 ――てか、「もう一人のおれ」じゃないよね? ……いや、さっきから「下級妖精」とか呼ばれてるし、なんとなく察しはついてるけど……。



(ケケケ……バレたか!! オレサマはお前に殺されて魔石を奪われたオナモミの妖精サマだぜー!!)


 ……!? ……ん? 何の妖精だって?



(オナモミだよ! オナモミ! 知らねーの!? トゲトゲした小さい実が服とかにくっつく草だよ! 超有名だろーが! 別名「ひっつき虫」な?)


 ――ああ、知ってる知ってる。あの草ってそんな名前だったんだ。

 へー、「オナモミ」ね。なんかエッチなことかと思ったぜ。


 おれの右胸には妖精の魔石が埋まっている。

 まだレベル2だった頃に、ちょっかいをかけてきた妖精を返り討ちにした。

 フラニーさんの勧めでその魔石を右胸にインプラントし、妖精スキルを手に入れたのだが……どうやら、その妖精の幽霊みたいなものまで一緒にいてきていたらしい。 





(お前がオレサマを殺しちまったせいで、ニジの街周辺の森に「オナモミ」はもう絶対生えないんだぜ? やっちまったなーヤマダー!?)


 ――お、おう。そうなんだ……。

 でも、それってむしろ……。



(あーん?)


 ……いや、なんでもないよ。あちゃ~やっちまったなーおれ。   


 てか、そっちこそ、その姿はどういうことだよ? 元の「もう一人のおれ」はどうしたよ!?



(ケケケ……! どうしたって? 見てのとおりさ! 乗っ取ってやったのさ!)


 ――なんだと!?



(知ってるぜ? こいつはお前がなくした8年間の記憶が元になってたんだろ? お前が記憶を取り戻せば死んで消えるってことだろ?)


 ……!?

 そんなこと考えてもみなかったが、そういうことなのか……?

 

 おれが全ての記憶を思い出せば、「もう一人のおれ」と「おれ」の人格は自然に統合される――とか、なんとなく思っていたんだけど……。

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