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403 『ワクテカ! ドッペルゲンガー⑰』

「――ん? ややや? お嬢様はスキル【変化へんげ】を使っているのですね? 素顔が気になるところですので、【変化】も封印させていただきましょう」


 目の前に立ち塞がるおれを無視して、地竜にまたがったルードルードはヘルガさんに【スキル封印】を使ったらしい。……【変化】を封印だって!?



「――!?」

 

 背後から知らない女性の小さな悲鳴が聞こえた。

 もしかして今振り返れば、ヘルガさんの本当の顔が見られたり……?




 ***




 エメリー様のスキル【迷宮】で創り出された異空間ダンジョンを行くおれ、ヘルガさん、ルルさんのワクテカ三人組パーティ! 第一階層は敵も弱くてまだまだピクニック気分だったわけだけど、そんな気の抜けた調子でなんとなく立ち入った大部屋で待ち受けていたのは、大型トラック並にでかい地竜二体とそれにまたがった道化師っぽい仮面の男とエロい格好の美女。……まるでサーカス団みたいだ。

 

 ――ん? あれ? あのエロい格好の美女、もしかしてシラカミ部長? すごい似てるけど、こっちの子の方がちょっと……いや、かなり若いか?


 このサーカス団、第一階層のフロアボスかと思ったら、なんと迷宮主ルードルードのパーティ! ダンジョン最深部で侵入者を待つのに飽きて、第一階層までお迎えに来たってことらしい。

 しめしめ、迷宮主を倒せばこのダンジョンから脱出できるはずなので、向こうから来てくれたのは好都合とか思っていたのだけど――なんと! ヘルガさんの「石化ニラミ」が効かない!?


 地竜にまたがった迷宮主ルードルードは言った。「ふふふっ、ムダですねえ。――【スキル封印】! お嬢様の攻撃スキルは全て封印させていただきましたよ、もちろんそのスキル【石化眼せきかがん】もね」――と。


 ――!! 【スキル封印】だって? たしか、アナル触手のアンディ君がおんなじスキル使ってたけど、封印できるスキルは一つだけだったはず。

 だけどルードルードは【MP消費軽減】のスキルを持っているとかで、ヘルガさんの攻撃スキルを片っ端から封印してしまう。どうやら【スキル封印】は、MPをコストに発動するスキルだったらしい。

 ……なんかちょっとやばそうだ。





 突進して来た地竜を避けて、光の羽根を広げたおれは中空へと飛んだ。

 すかさずスキル【遅滞ちたい】を発動し、地竜にまたがるルードルードへと一気に距離をつめる。



「――ふご!?」


 不意に、おれの背中の光の羽根が消えた。

 落下し、ブザマに床に滑り込むおれ。あいたた……。



「はいはい、貴方のスキルも――【危機感知】、【空間記憶再生】、【勇気百倍】、【超次元三角】、【劣化】、【遅滞】、【飛翔】と、だいたい一通り封印させていただきましたよ。男はお呼びじゃありませんので、そこで大人しく地竜の餌になってくださいよ?」


「――ヤマダさん!!」

「ちょっとちょっと、大丈夫ですか~!?」


 おれを心配して駆け寄ってくるヘルガさんとルルさん。

 くそっ、せっかく女子にいいとこ見せたかったのに……おれのスキルもあらかた封印されてしまったらしい。残ってるのは、【自然回復】とか【共感覚】とかか……てか、ルードルードめ、【スキル封印】はともかく、男が【鑑定】を使うんじゃねーよ! ルール違反だろ!?



「――ああ、そうそう、このスキル【鑑定】もエメリー様からの頂き物ですよ。ステータスを【偽装ぎそう】で隠そうとしても、その【偽装】を最初に封印すれば丸裸なのですよ…………それにしても、【精飲せいいん】!? 【肛姦こうかん】!? 【噴乳ふんにゅう】ですって!? ふふふっ、なんてスキルをもってるんですか、お嬢様!? 私、ワクワクしてきましたよ!!」


 ――な、なにぃ!? 今のはルルさんのスキルか? それともまさか、まさかヘルガさんの? うほぉ、ドキドキ……。

     


「だ、黙れっ!!」


 かなり焦ったように斬りかかったヘルガさんの剣を、地竜のエネルギー障壁【ドラゴンフィールド】がバチュンと弾いた。

 

 バランスを失ったヘルガさんの身体を、もう一体の地竜の尻尾がなぎ払う。

 ルルさんがヘルガさんを抱き寄せてかばうが、二人まとめて吹っ飛ばされて神殿の壁に叩きつけられた。





「フーカさん、美しいお嬢様方の扱いはくれぐれも丁重にね?」


「……ハイ」


 ルードルードに咎められて、萎縮いしゅくしてるっぽいサーカスの美女フーカさん。

 ……フーカ、やっぱりシラカミ部長のクローンとかそういう感じの子か?

 

 おれは、まだ立ち上がれないヘルガさんとルルさんを背にして、地竜を駆る二人の前に立ち塞がる。

 さっきはちょっとドキドキしちゃって出遅れたけど、ここからはおれが相手だ。スキルが無くても、おれにはまだこの剣がある……! 

 

 魔剣「不浄の剣」に魔力を注ぐ! 剣の効果【マジックコーティング】が、魔力を光の刃に変換する!

 ――さあ、とんがれ!! とんがれエリンギ、メタモルフォーゼ!! フル、スクラッチ……!!


 

「――ん? ややや? お嬢様はスキル【変化】を使っているのですね? 素顔が気になるところですので、【変化】も封印させていただきましょう」


 目の前に立ち塞がるおれを無視して、地竜にまたがったルードルードはヘルガさんに【スキル封印】を使ったらしい。……【変化】を封印だって!?

 


「――!?」


 背後から知らない女性の小さな悲鳴が聞こえた。

 もしかして今振り返れば、ヘルガさんの本当の顔が見られたり……?



 ――だがしかし、それはちょっと紳士としてどうだ?

 自転車で追い越した女の子の顔を振り返って確認するような、情けない行為に思えてならない。


 でも見たい……!! ヘルガさんの――おれがプロポーズしてフラれたニセモノのラダ様の素顔が、とても見たい!! なんかいい方法はないかな?



 そ、そうだ!! 【共感覚】!! おれのスキル【共感覚】で、今確実にヘルガさんを見ているルードルードの野郎と視覚を共有すれば、みっともなくうしろを振り返ることなく、おれもヘルガさんを見つめることができる!!


 その時不意に、以前誰かに言われた言葉がココロによぎった。「えー、ヤマダさんの【空間記憶再生】だって覗きみたいなもんじゃない?」――と。……まあ、タナカの言葉なんだけど。

 いつだったか、スキルを使えば結構簡単に犯罪チックなことができてしまう。みたいなことをナカジマやタナカと話し合った。心を強く持って自重しないと、あっという間に外道に成り下がってしまいかねないなどなど……要するに、おれのココロの底の良心がチクリと痛んだ。

 スキルを使うのは、止めとこうか。



「――ほうほう! 【変化】でわざわざ隠すものだから、どんなバケモノが出てくるのかと思えば――なんのなんの、かわいらしいお顔ではありませんか! 確かに、幼げな容姿とはアンバランスにバケモノじみた乳房ではありますがな?」


 ――!!?

 よし!! ようし判った!! スキルを使わなければいいじゃないか!?

 そう、戦いの中でさりげなく……おれは、地竜の攻撃を受けてあえなく吹っ飛ばされてしまうのだ!! その時たまたま、”幼げなかわいらしい容姿”とか”バケモノじみたおっぱい”とかが目に入ってしまっても、それは不可抗力というものでしょうよ!? 

 

 おれは「竜鱗りゅうりんの具足」の効果【ドラゴンスキン】で防御を固めつつ、地竜に向かってずんずん突っ込んでいく。――さあ、ばっちこーい!!



「姫様が~イヤがってるでしょーが~~~!!」


 え!? 吹っ飛ばされる気まんまんで相手の攻撃を待っていたおれを追い越して、ルルさんがルードルードのまたがった地竜のあごにアッパーカットを叩き込んだ。

 大型バスほどもある地竜の巨体が少し浮いてるよ、すげえ。


 ――ドゴッ!! バキッ!! ゴシュ!!

 ルルさんの連続攻撃が、地竜の【ドラゴンフィールド】を貫いてダメージを蓄積していく。よく見ればインパクトの瞬間、拳が巨大化してるっぽい――いや、なんだか身体全体が巨大化して身長3m近くになってね?



「む、ぐおぉぉ!?」


「……ルードルード様!!」


 しばし呆然としていたサーカスの美女フーカさんが我に返り、もう一体の地竜を操ってルードルードの援護に出てくる動きあり。


 こうなってしまっては、おれもボケッと見てるわけにはいかない。――とんがれ、おれのエリンギ! フル、スクラッチ!!

 魔剣「不浄の剣」に魔力が満ちる!! 効果【マジックコーティング】で、魔力が円錐えんすい形の光のドリルを形作る!!


 おれは背中に左手をまわして左の羽根が動かないように押さえこむと、右の羽根だけを激しく羽ばたかせた。理屈はよく判らないけど、こうしないとドリルが上手く回らないのだ。――さあ、片羽根よ羽ばたけ!! 回れ光のドリル!!



「貫け!! 『サンセットブレイク』!!」


 ――ばちゅん!! と、フーカさんの乗る地竜の頭がはじけ飛んだ。

 おれの魔剣「不浄の剣」から伸びた光のドリルが、地竜の【ドラゴンフィールド】を貫き頭蓋骨まで貫通したのだ。

 ずずんと倒れ伏す地竜。その背から投げ出され床を転がっていくフーカさん。

 あの様子だと、フーカさん自身はそんなに強いわけじゃなさそうだ。


 ――ゴスッ!! ルルさんに殴られまくった地竜の背からも、ルードルードが落っこちた。



「ぐあぁっ……ちょ、ちょとまてまて、待って――へぎゃあっ!!」

 

 身長3mぐらいに巨大化したたくましいルルさんに、顔面を踏み潰されてあっさり絶命するルードルード。

 散々殴られてヘロヘロだけどまだ戦えそうなルードルードの地竜については、おれが追加の『サンセットブレイク』できっちりトドメを刺しておいた。



 ――!! 次の瞬間、【スキル封印】が解除される感覚があった。

 慌てたおれが思わず振り返ると、そこにはいつもの北欧系美人ヘルガさんの顔があったのだが――、その時のヘルガさんは、「でかっ……」と思わずつぶやいてしまうほどアンバランスに大きいおっぱいのヘルガさんだった。


 恥ずかしそうに目を伏せたヘルガさんのおっぱいは、おれの目の前でぐんぐんと縮んでいつもの控えめな大きさに落ち着いた。どうやら、体型の【変化】が間に合わなかったらしい。

 ……ああ、ありがとう!! ありがとうヘルガさん!!



 やがて迷宮主ルードルードを失った異空間ダンジョンは崩壊を始め、おれ達三人と生き残ったフーカさんは通常空間に放り出された。







 ――ばちょん! と足下から湿った音がした。

 おれ達が降り立った研究所の「大会議室」は、どういうわけか水びたしだった。



「ぐすん、ぐすん……かあさま、かあさまぁ~!」


 ”干からびた死体”にとりすがって泣いているのは羽根頭のちびっ子エリナちゃんだ。

 かあさま……ってことはあの”干からびた死体”、エメリー様か? そういえば両腕がない。


 そんなエリナちゃんを見下ろすように石像と化した男と女がたたずむ。

 男の方は、見知らぬ青年――いや、なんだか見覚えがあるような……誰だっけ?

 女の方は、なぜか全裸のクリスティアさん。

 ……!? でもおかしい、クリスティアさんのおっぱいはこんなに大きくなかったはず。てか、石化状態で判りにくいけど乳輪まで大きい……ニセモノか?



 おれ達が【迷宮】に落ちてからせいぜい小一時間、その間にいったいここで何があったんだ?

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