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400 『ワクテカ! ドッペルゲンガー⑭』

 地下大空洞、研究所の外では、ベルベットとアーリィの指揮する道化師型エリートゴーレム十七体によって、聖女アイダ配下の神殿騎士達は苦戦を強いられていた。


 エリートゴーレムの全高約6mの巨体は硬い装甲で覆われ、彼等が得意とする【光線】の魔法程度では傷さえ付けることができないのだ。


 それは、強火力な攻撃手段を持たないパラディン№6ランポウや№10マルクも例外では無かった。パラディン№9エルマのスキル【ドラゴンフィールド】で作りだしたオーラのかぎ爪は唯一有効な攻撃手段であったが、強力なビーム攻撃や大鎌によるなぎ払いにさらされておいそれと射程内まで近づくことができない。



「マルク、目くらましを!」


 返事も待たずに、背中の翼を羽ばたかせて特攻するエルマ。 

 小さく舌打ちして後を追ったマルクは、エルマの背後でスキル【閃光】を使用する。

 マルクの放つ強烈な光が数秒間、エリートゴーレム達の視覚を奪う。


 ――ズパパパパッ!!

 接近したエルマに、研究所の屋根の上から”光の弓矢”が降り注ぐ。

 エリートゴーレム達を操る妹系美少女アーリィ。彼女がスキルで召喚した【守護騎士】達、”八体の弓兵”がエルマとマルクを狙っていた。



「みんな続けて、狙い撃つのね!」


「ちっ」


 青いオーラのかぎ爪で”光の弓矢”を払い落としながら距離をとるエルマ。

 白い翼を羽ばたかせて、慌ててマルクも後を追う。





「ランポウさん、やばいっすよ!! エルマさんが、エルマさんが!!」

「あああっ、危ねぇ!! なんとかしてくださいよ、早く!!」


 空中戦を繰り広げるエルマ達を廃墟の陰から見上げて、若い神殿騎士二人がパラディン№6ランポウに訴えかける。

 ランポウからすれば、やりたきゃ自分でやれと言いたいところである。

 


「当たんねーよ、あんなの」


「王都最強なんでしょ!? あんたさっきから逃げてばっかじゃないですか!!」

「なんかほら、ド派手な魔法とかでドカーンとやっちまってくださいよ!!」



「うるせーよ、俺の魔法は対人戦専門なんだよ!」   


 ランポウは派手な大魔法など一つも所持していなかった。人間相手ならば、【石礫いしつぶて】を乱射すれば事足りる。

 しかし今は後悔していた。こんなことなら、大司教を守るパラディンとして、時には戦争に用いるような大魔法も持っているべきだったかと。

 

 王都最強と呼ばれるランポウに派手な大魔法の持ち合わせが無いと知り、「そんなぁ」となげく若い神殿騎士達。



「――そうも言ってられんか」


 パラディンとして、年長者として若い騎士達に手本を示さねばならない。なにより、背後で大司教ユーシーが見ている――と、ランポウは一番近いエリートゴーレムに狙いを定めた。


 ――ドゴン!! エリートゴーレムの足下が弾けた。

 ランポウの魔法【掘削くっさく】でへこんだ地面に、全高約6mのエリートゴーレムが膝まで沈む。


 まだまだ――と、【掘削】の魔法を繰り返すランポウ。


 ――ドゴン!! ドゴン!! ドゴン!! ドゴン!! ドゴン!!

 ――ドゴン!! ドゴン!! ドゴン!! ドゴゴゴゴーーーン!!!!

 地下大空洞は大迷宮の一画に存在する。魔法【掘削】で掘り進めた穴の底で、エリートゴーレムは階層の床を貫通し落下した。

 指揮から外れたエリートゴーレムが、下の階層から自力で戦線に復帰することはまず不可能だろう。



「ざっとこんなもんよ」


「……なんて言うか――」

「――地味ッスね」

 

 ほっとけ! とつぶやきながらも、確かに地味だなと自嘲じちょうするランポウだった。

 残るエリートゴーレムは十六体、自分一人でこの作業を繰り返すのはさすがに骨が折れるなと、若い神殿騎士達に「手伝えよ」と言いかけたその時、不意に禍々(まがまが)しい気配を感じてランポウは息を潜めた。





『ブーフーフーフーフ――』


 研究所の建物の陰から、「灰色の大男」がゆっくりと姿を現した。

 エリートゴーレムと肩を並べるほど巨大なその男が実は、ついさっきテッドの背中を割って生まれ出たばかりで、オーガ男バルダーや生体ゴーレム七姉妹のレナスを捕食し急激に巨大化し続けているということを、ランポウ達はもちろん、屋根の上のベルベットやアーリィさえ知らない。


 ――ぶしゅっ!! ぶよぶよした身体を引きずるようにゆっくりと動いていた「灰色の大男」の腕が、突然、近くにいた一体のエリートゴーレムに巻き付いた。

 すると、捕らわれたエリートゴーレムの黒く硬い装甲がみるみるうちに、肌色に脈打つ”生肉”へと変貌してしまう。 

 「灰色の大男」は、今や一塊の”生肉”と化したエリートゴーレムを引き寄せると、限界以上に開いた大口で、それを丸呑みにした。





「……な、何だよあれ? あれもゴーレムなのか?」

「つーか、仲間割れかよ? アイツ、俺達の味方なの?」


 一部始終を見ていた若い神殿騎士が、わけがわからないと話し合う。

 平静を装っていたが、ランポウもおおむね同意見だったし、正直嫌な汗が止まらなかった。あれはよくないものだと彼の直感が告げている。



「……!! おい、お前等、ゆっくり下がれよ」


「……!?」

「……!?」


 何かに気がつき、ランポウは若い神殿騎士達に小声で警告する。

 彼が見たのは、「灰色の大男」を中心に地面がじわじわと”生肉”と化していく異常な光景だった。




 ***




 ――ぬちょ。

 聖女アイダの張ったスキル【粘着液】の罠に、ポイズンスパイダーよりも大きな獲物のかかった感触があった。



「おっと? 今度はゴブリンでもいたか」


「もう、誰がゴブリンですか! 誰がゴブリンですか!」


 罠にかかったのは、聖女マデリンだった。

 そのうしろに、犬耳のジェイDバックとウルラリィ、生体ゴーレムのグレイスもいた。



「……シャオさん、例のあの人はどこです?」


「――?」


 大司教ユーシーのあつ強めの問いかけに、地面から顔を出したネコ耳のシャオは首をひねる。曖昧あいまいな言い方をしたせいで、ゾンビのシャオには誰のことか伝わらない。



「ヤマダさんは一緒じゃないのか? まだ研究所の中か?」


 ネムジア教会諜報部のシラカミ部長が尋ねる。

 大司教ユーシーがシャオに聞きたかったことを言い直した形だ。 



「ヤマダさんはヤマダさんじゃなかったッス」


「……?」

「……?」


 意味が判らないと、大司教ユーシーもシラカミ部長も首をひねり、【粘着液】の罠から抜け出したばかりの聖女マデリンへ説明を求める視線を送る。



「要するに、要するにです、あの人はヤマダさんによく似たヤマギワさんという別人だったというわけです! 私もシャオさんも、すっかり騙されてしまったというわけです!」


「そっくりさんですって!? だったら、本物のヤマダさんはどこに――」

「ちょっと待て、そっちの銀髪はもしやグレイス様じゃないのか!? なんだか、若くないか?」


 大司教ユーシーの言葉を遮るように、聖女アイダが問いかける。

 アイダにとっては、ヤマダのことより、きわどいボンテージ姿の美女の方が優先されるべき重要なことだった。

 


「そいつはグレイス様のクローン、こいつと同じ生体ゴーレムだ。まさか、手なずけたのか?」 


 足下でしくしくとすすり泣く金髪小悪魔風美少女メルセデスの尻を踏みつけて、シラカミ部長が応えた。


 そうしている間も、研究所の周囲での戦いは激しさを増していた。

 大きな戦闘音が響く度に、身をすくませ小さな悲鳴を上げるウルラリィ。



「おい、どうでもいいが、俺とこっちの娘は無関係の王国民だ。御前様とやらの配下でもないし、避難させてもらっても構わんだろう?」


 痺れを切らしたジェイDバックがそう言いだしたちょうどその時、拮抗していたパラディン対エリートゴーレムの戦いに闖入者ちんにゅうしゃが現れた。





『ブーフーフーフーフ――』


 地下大空洞を震わせる「灰色の大男」のうなり声。

 研究所の屋根よりも巨大な男が、エリートゴーレム一体を丸ごと飲み込む光景に言葉を失う一同。

 

 やがて沈黙を破り、大司教ユーシーがつぶやいた。



「……もしやあれが『魔王』ですか?」




 ***




 研究所建物内、大会議室――。


 ヘルガとルルは、御前様ことエメリー・サンドパイパーの使用したスキル【迷宮】に落ちた。


 二人の後を追い、ヤマギワも自ら【迷宮】に入る。





「普通、自分から飛び込みますかね? おバカさんの相手は、本当に調子狂いますわ」


 スキル【迷宮】とは、八階層からなる異空間ダンジョンである。踏破するには、どんなに急いだとしても半日はかかるだろう。そして最深部には、エメリーが数々のスキルを与えて強化した迷宮主が待ち構えている。

 ヘルガとルルを人質にヤマギワと交渉しようとしたエメリーのもくろみは外れたが、時間がかかったとしても最終的にヤマギワの体内に埋め込まれた「妖精の魔石」さえ手に入れば目的は達せられるのだから慌てる必要もない。


 それでも不測の事態に備えてもう一つ手を打っておくべきかと、エメリーは首に付着した「クモの糸」に意識を向けた。



『先ほどの【眷属召喚けんぞくしょうかん】、いいタイミングでしたよアンバーさん。――ところで、大司教様は見つかりまして?』

 

『そっちは見つかったんですが、オデットさんとイセリアさんがどこにも見当たらねぇんで、なんかあったんじゃねぇかと』


 繋がった「クモの糸」を介して、エメリーはその場にいないアンバーと会話する。アンバーのスキル【接触通話】である。


 エメリーがヤマギワから取り上げた伝説のスキル【世界創造ワールドクリエイト】を使用するためには、ヤマギワの「妖精の魔石」か大司教ユーシーのスキル【世界破壊ワールドディストラクション】が必要だった。

 どちらが手に入れやすいかと考えたとき、ヤマギワの「妖精の魔石」なら容易いと考えたエメリーだったが――。



『地下牢に捕らえていたはずのヤマギワ様がこちらに現れたのですから、見張りをしていた二人は既に倒されたと考えるべき――ですわね』


 エメリーが念のために問いかけたスキル【天の声】の回答は、「肯定」だった。



『なさけねぇ話ですが、俺一人で大司教様をどうにかするのはちょっと……』


『――ですわね。この役目はベルベットさんが適任でしょう』


 オデットとイセリアに命じるつもりだった大司教ユーシーの誘拐。しかし、そもそも誘拐ならば、スキル【転送】を使えるベルベットに任せた方が望ましい。ベルベットには、アーリィと伴にエリートゴーレム達の指揮を任せているが、その役目は別の姉妹、メルセデスかグレイスにでも振ればいいか――と、エメリーは素早く判断した。


 エメリーがスキル【ゴーレム召喚】でベルベットを召喚しようとしたちょうどその時、当のベルベットが大会議室に【転送】で姿を現した。そのかたわらには彼女と一緒に【転送】して来た見知らぬ青年が一人。



「御前様、お客様をお連れしました」


「……? こんな時にお客様ですって? ――失礼ですけど、どちら様だったかしら?」


 エメリーは記憶をたどるが、やはり青年の顔に見覚えが無い。強いて言うなら、のっぺりした顔や黄色っぽい肌の色がヤマギワのそれに近いようにも感じた。



「おっとっと、そういえばこの姿の吾輩わがはいに会うのは初めてでしたかな? くっくっくっ……なんならほら、例のスキルに問いかけてみてはいかがです?」


「――!? も、もしや、ジーナス殿下!?」


 エメリーの問いかけを、スキル【天の声】が「肯定」する。

 ベルベットと伴に現れた青年は、「魔族領」で異世界召喚された日本人ミチシゲの身体を乗っ取った王弟ジーナスであった。

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