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399 『ワクテカ! ドッペルゲンガー⑬』

 その日から僕の目的は、「女神降臨」したネムジア様と一つになること。

 つまり僕は、ずっとがれているのです、女神ネムジアを犯したいと……じゃねーよ! さっぱり共感できねーよ? 

 

 てか、長いし。エメリー様、話長いって!

 おかげさまで、【再生】中だったおれの両脚もすっかり元どおりだっつーの。


 でもまあ、なんとなく判ったこともある。

 どうやらエメリー様は、目的に向かって猛進するタイプの変態らしい。

 目的にとらわれるあまり周りが見えなくなるような、結構行き当たりばったりなワンマン社長っぽい印象。


 逆にわかんないのは、ニセモノのラダ様――ヘルガさんは何で【ネムジア】の”スキルの欠片”を横取りしたんだろ? ……イヤだったんかな、女神様がナニされると聞いて。

 てか、まだ持ってるんだろうか、その”スキルの欠片”?



 それにしても、エメリー様が男だったとはね。

 ……男か。そうなると、おれにはどうしても聞いておかなければならないことがある。



「あーっと、エメリー様? エリナちゃんとテッドは養子と聞きましたが――」


「おや、そこに気が付くなんて、驚きですわ。うふふ……」



「……というと、なんていうか、そもそもエリナちゃんとテッドの本当の父親はエメリー様だった――ということで?」


「案外鋭いですわね、ヤマギワ様? うふふ……あるところに聖女をかたる異教徒の小娘がおりましてね。希少なスキルを所持していたものですから、周囲からもてはやされていい気になっていたのでしょう。――わたくし達はその小娘を捕らえ教育し、そのスキルを手放すようにと反省をうながしたのですが、思っていたよりも強情でしてね。――ためしに、子を産ませてみることにいたしましたのよ。血統に由来するスキルは時に遺伝しますから」



「…………」


「うふふ……簡単でしたわ、十代の頃に女を犯しまくったわたくしにかかれば。簡単にぽこぽこと産んでははらみ産んでは孕み。その小娘ときたら、容姿も身体も、それから反抗的な態度もなかなかにそそるものがありましてね、うふふっ……ついつい興が乗ってしまって、三流娼婦でも顔をしかめるようなあれやこれやを色々試していたら……ぶっふふっ! 頭がおバカになってしまいましたの――はごあぁばぁぁぁっ!!?」


 ――ああっと、ついついやってしまった。おれの「不浄の剣」から伸びた光の刃の切っ先が、エメリー様の口から入って右(ほほ)に突き抜けた。

 氷柱で串刺しの動けないエメリー様に対して、おれにしてはちょっと過激な暴力行為だったかなと反省している……とはいえ、どうせすぐ回復するし、ああ見えて実は男だし実は全く反省していない。



「はぐあぅ……ひっ、ひきなり何ほ!?」



「……ヤマダさん、脚はもう大丈夫なんですか?」


「あ、ええ、すね毛までバッチリです」


 伸ばした光の刃を引っ込めてMPに戻しつつ、ヘルガさんの問いかけに応えた。

 おれの方の用事は済んだので、後のことはお任せしようか。

 

 剣を収めたおれに代わって、エメリー様に歩み寄るヘルガさん。



「お、お待ちください!! まだわたくしには、ヤマギワ様からお預かりしているスキルがあるのですよ!? わたくしが死んでしまったら、伝説のスキル【世界創造ワールドクリエイト】は永遠に失われてしまうのですよ!!?」


 ヘルガさんのやる気オーラにおびえて、命乞いを始めるエメリー様。

 いかにスキル【超回復】や【再生】を持っていようとも、頭を割られたり首を落とされたりすれば死ぬだろう。


 ――ん、首? その時はじめて、エメリー様の首の辺りから窓の外へと伸びる細い糸に気がついた。クモの糸!?



 突然、「大会議室」の部屋中に、座布団ほどの大きさのポイズンスパイダーがぼたぼたと降ってくる! これって、アンバーさんの【眷属召喚けんぞくしょうかん】か!?


 ひっ!? と、小さい悲鳴とともに飛び退くヘルガさん。そういえば、虫とか苦手だっけ。


 おっと、【危機感知】反応!? ポイズンスパイダーの召喚とタイミングと合わせたように、足下にぽっかりと黒い大穴が開いた。

 光の羽根を広げて落下をまぬがれたおれだったが、ポイズンスパイダーに気をとられていたヘルガさんは、かわし損ねて大穴に落っこちてしまった。



「姫さま!? ――あ」 


 慌てて駆け寄ったルルさんも、大穴に落ちて消える。

 あわわ、大穴の底は真っ黒で何も見えない。たぶんあの中は、どこか別の空間に繋がっているんじゃないかな?



「うふっ、うふふっ! これがスキル【迷宮】というわけですの。あの穴の向こうは八階層からなる異空間ダンジョン! あらまあ、どうか落ち着いてくださいまし? わたくしに何かあれば、お二人は二度と【迷宮】から出られないかも――ですわよ?」


 ぐぬぅ……エメリー様め、やりやがったな!? くっそ、男だと思うと、今まで以上に腹立たしいぜ。やっぱり、さっき輪切りにしておくべきだった。


 さて、お二人の命が惜しければ――とか言いだしたエメリー様を無視して、おれは床の大穴に飛び込み、ヘルガさん達の後を追った。







 穴を抜けると、神殿風の建物に出た。

 美しい水をたたえた人工的な泉のほとりに、先に入ったヘルガさんとルルさんを見つけたので、二人の近くに降り立つおれ。

 見上げると、入ってきた穴は既に見当たらず、代わりにオレンジ色の空がどこまでも広がっていた。



「ヤマダさんまで……もしかして、わざとですよね?」


「おれ一人だと心細かったもので」


 恐縮しているヘルガさんに応じるおれ。

 実際、生体ゴーレムの姉妹を二体以上呼ばれたらキツイので、ウソではないんだけど。



「私がドジったばかりに、すいません」


 しゅんとしているヘルガさんを、「やれやれ、姫さまはドジっ子ですね~」とか言ってからかうルルさん。


 それに対して「ルルだって落ちたじゃない!」とか言い返すヘルガさん。

 女の子二人の仲良さそうな会話にほっこりするおれ。 



「確か、八階層の【迷宮】を踏破とうはして、迷宮のボスを倒せばここから出られるって言ってましたよね?」


「そ、そうですね。行きましょうか」


「このルルめも、お邪魔しない程度にお供しますよ~」





 おれ達は神殿風のダンジョンを行く。

 普通のダンジョンと違い天井が無く、空から差し込む光でとても明るい。

 ただ、このオレンジ色の空が朝焼けなのか夕焼けなのか判らないので、この先時間経過とともに、どんな風に空の色が変わっていくのかも判らない。もしかすると、ずっとオレンジ色のままということもありえるか。


 ……天井がないので、スキル【飛翔ひしょう】で空を飛べば簡単にショートカットできてしまいそうだけど止めておく。

 だって、ヘルガさんとダンジョンを歩くの楽すぃー!! 特に会話もないけど、楽すぃー!!

 てか、この時間がずっと続けばいいのに……!



「……この時間がずっと続けばいいのに~とか、思ってません? お二人とも」


 ――!! 沈黙に飽きたらしいルルさんからのツッコミにうろたえるおれ。



「そ、そんなこと、別に……」


 ――あ、ヘルガさんも結構うろたえてるっぽい。



「もっとなんか話したらどうです~? せっかくの機会なんですから。ルルめのことは、どうぞいないものと思って、さぁさぁ」


 スキル【迷宮】、この結構広そうなフロアが八階層続くらしいけど、出現する魔物をヘルガさんが「石化ニラミ」や「氷柱つらら串刺し」で片っ端から瞬殺してしまうので、すっかりお散歩気分だったりする。このペースで進んだら、出口まであっという間かもしれない。

 話すことがあるなら今の内という、ルルさんの言うことももっともだ。


 おれがヘルガさんに一番聞きたいこと……それは、ヘルガさんがラダ様に【変化】していた一年前のこと。おれのプロポーズを断って「魔族領」に侵入した彼女、追いかけたおれ等をエナジードレインして……なのに、またヘルガさんの姿で現れて……しかして、そのココロは?



「ヘルガさんは……何で、エメリー様からスキル【ネムジア】を横取りしたんですか?」


 いきなり確信に迫るのはアレなんで、どうでもいいことから切り出した。

 ルルさんが、「はぁ?」って顔をしてるけど、無視無視。



「実は私も指示されたとおりに実行しただけで、意味があったのか無かったのか疑問だったのですが……」


「え? そ、そう」



「今日エメリー様の真意を聞いた後でも、女神ネムジア様の貞操を守るためというのは、なんだかあの方らしくない気もしますし……」


「”あの方”……?」



「……ラダ様です、本物の」


「……!!」



「あの方は夢に現れるんです。そういうスキルなんだそうです……」


「…………」


 長いこと石化していた本物のラダ様だけど、まさかそんなやり方でニセモノのラダ様に指示出ししていたなんて。……何がしたいんだあの人は? 男なのに女装して大司教をやっていたエメリー様への嫌がらせということも……あるか?


 それにしても、意図せず話題にラダ様が登場して、このままだと話が確信に触れてしまいそうなんだけど。――ま、待って、まだ心の準備が……。

 また沈黙する、おれとヘルガさん。

 

 うつむくおれ達の顔を覗きこんで――お? お? とニヤついているルルさんは、ちょっと引っ込んでてくれるかな?



 やがて沈黙に耐えかねたように、「あの……」と何か言いかけたヘルガさんの言葉をさえぎって口を開くおれ。



「と、ところで、その……【ネムジア】の”スキルの欠片”はどうなったんです? まだ持ってるんですか?」


「そ、それが、奪った”スキルの欠片”の取り扱いについて特になんの指示も無くて、捨てるに捨てられず……」



「じゃじゃ~ん! 実はルルめが持っていたのです~!」


 ルルさんはべろりと長くとがった舌を出す。その舌先がレロレロするのは、水色の小粒――”スキルの欠片”だった。

 確かに、いざ捨てるとなると、なんか罰があたりそうで怖いような気がしないでもない。なんたって「女神降臨」にまつわる逸品いっぴんだし。



「あー、じゃあ今の大司教ユーシーさんに返すとか?」


「……いいんですか? 大司教ユーシー様なら、『女神降臨』の条件に不足無いようですけど」



「……? 『女神降臨』ですよね? 何か問題が?」


「もしも完全降臨した場合、元々のユーシー様の人格は、女神様の神格に塗りつぶされて消滅してしまうんじゃないかと……」


 ――!! まじかよ……、ユーシーさんのあの愛すべきキャラクターが消えてしまうのはあまりにも惜しい。てか、そんなことになったら、本物のヤマダがさぞかし悲しむことだろう。

 なんなら【ネムジア】の”スキルの欠片”なんて、エメリー様にくれてやってもいいような気もしてきたけど。



「……やっぱり、ラダ様にどうにかしてもらいましょう。そもそも、あの人の指示だったわけだし。――なんなら、おれが届けましょうか? そんな物ずっと持ってるの嫌でしょ、エメリー様に狙われたりするし?」


「レロレロレロレロ~どうします、姫さま?」


「……お願いしてもいいですか? どうするかは、ヤマダさんにお任せしますので」



「それじゃあヤマギワさん、あ~ん」


 ――あーん? ……むご!?

 ルルさんが”スキルの欠片”を、おれの口の中へと押し込んだ。

 


「ちょっと、ルル!? あなた何して――」  


 わはは、困ったルルさんだ。

 せっかくだから、レロレロレロレロ……。

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