291 火を噴く画像フォルダ
おれとアンディ君は手を繋いで真っ暗な大迷宮62階層を進む。
男同士で手を繋いだこの状況、思うにとても気持ちが悪い。
でも、こうして「オーラ」を常に流しておかないと、アンディ君がいつまた暴走して【短距離転移】してしまわないとも限らないので仕方がない。
……おれは一体何をしているんだ? と思わなくもないが、せっかくここまで来たのだから、大迷宮の最深部に何があるのか確認してみたい気もしている。
そう思えるぐらいには、おれにはまだ若干の余裕がある。
さっきまでは暴れるアンディ君の反応を目指してスキル【危機感知】を頼りに進んできたが、ここから先は文字通り暗中模索だ。
「この『黒い霧』が濃くなる方へ進んでみるけど?」
「あ、ああ……」
アンディ君の声には余裕がない。
相当ビビっているようだ。
と言うのも、この真っ暗闇の中にはっきりと見える「恐ろしい者」の姿。
それは見る者の「恐怖感」や「不安感」に影響されて、どんどん恐ろしく変貌していく。
おれの視界の隅に見え隠れするのは、今や数百体に増えたおかっぱの「市松人形」達。
そしてその背後には、それら全ての「市松人形」を念動力で操る「巨大な赤ん坊」が泣き叫び……と、世界観のよくわからないコズミックなストーリーが巻き起こり始めている。
うっかり思考を引き込まれると、戻って来られなくなりそうだ。
その「恐ろしい者」の姿は見る者によって違うらしい。
「アンディ君には、何が見えてるの?」
「……知らないヤツらが、いっぱい俺を見ている。だけど、あいつらは全員俺なんだ……。そして俺は、どの俺が俺なのか解らなくなってしまって……」
……うむ。解らん。
まあ、おれだって自分の見てる者を説明するのは難しい。
「おっと、この先63階層に下りられそうだぞ? 行けそうか、アンディ君?」
「……え? あ、ああ……行くに決まってる」
うーん……、いよいよアンディ君も限界が近そうだ。
だったら、これでどうだ?
――スキル【共感覚】! おれの脳内に保存されている画像フォルダから、シマムラさんの恥ずかしいシーンを大量放出! アンディ君にプレゼント送信っと……!
「――な!? 何じゃこりゃ~~~!!」
しめしめ、驚いてる驚いてる。
よし。更にあんなシーンやこんなシーンも、ほいほいっと!
「――も……」
――も?
「……もじゃもじゃだぁ~~~!!」
……アンディ君って童貞かな?
ちょっと親近感わいたぞ。
――あれ!?
今の【共感覚】の影響だろうか? おれの視界の隅に見え隠れする「市松人形」が、いつの間にかシマムラさんの「ハニワ風フィギュア」に総入れ替えされていた。
ダゴヌウィッチシスターズの物販コーナーで在庫処分されていたやつだ。
これはこれで不気味だが、せっかくの壮大なストーリーがB級映画っぽくなって、背後の「巨大な赤ん坊」も困惑気味といったところだ。
おれとアンディ君は、ついに大迷宮63階層に下り立つ。
これで、二十年前にネムジア教会の深層調査団が達成した最深層到達記録に並んだことになる。
結構すごいことじゃなかろうか?
とはいえ、アンディ君的にはもう一階層先へ進み、その記録を更新しなければ意味がない。
握った手は冷たく震えるが、それでも一歩前へ踏み出そうとしている。
おれとしても、ここまで来たら彼を応援してやりたい気分だし、最深層に個人的な興味もある。
仕方がない。そんな頑張る童貞のアンディ君に大サービス、更なるお宝映像を解放しようではないか。
――あらよっと、スキル【共感覚】! おれの脳内の、ナタリアちゃんフォルダが火を噴くぜ……!
「――な!? 何じゃこりゃ~~~!!」
ぬふふ……、童貞のアンディ君にナタリアちゃんフォルダはちょっと刺激が強すぎたかな?
「――つ……」
――つ? やっぱりそうきたか。
「「……つるつるだぁ~~~!!」」
せっかくなので、ハモってみた。
ナタリアちゃんとタナカは下の毛がないのだ。
……と、いけね。余計なモノまで思い出しちまった。タナカのタナカはどっかいけ!
――ややっ!?
またしても、今の【共感覚】で、おれの見ている光景に影響が……。
数百体の「ハニワ風フィギュア」を背後で操っていた「巨大な赤ん坊」が……「巨大な全裸ナタリアちゃん」に美しくエロく成長した! ……M字開脚だ~~~!!
……しかし、残念! 股間の部分がタナカのタナカになっている~~~っ!!
…………。
せっかく「黒い霧」攻略の糸口が見えたっていうのに、タナカのせいで台無しじゃねーか……くっそ!
こうなったら、更なる画像フォルダ解放でタナカ成分を打ち消すしかない。
――そんれ! そんれ! そんれ~!!
「ふぉ!? ふわ!? ぬおぉ~!?」
――そんれ! そんれ! そんれ~!!
「ぶほっっ!? それわっ!? そんな~!?」
おっとっと、「黒い霧」に向けて【共感覚】した各種お宝画像だったが、この暗闇の中にあって、もれなくアンディ君にも同時送信されてしまったようだ。
かなり息が荒い。
それはともかく、「黒い霧」の見せる幻影の方は……「魚面の異世界オタク」数十人に囲まれて「タナカの触手になぶられるコート一枚の巨大なミズキさん」に改変されていた。
実物のタナカに触手はないが、あれはタナカの触手としか言いようがない。
結局、タナカ成分を消し去ることはできなかった。しぶといヤツめ。
でもまあ、もうこれでいいか。
わけの解らない「不安感」は残るが、「恐怖感」はだいぶ薄れたし。
「――ヤマダ…………さん……」
「な、なに……?」
急にどうしたアンディ君、「さん」付けとか。キモいぞ!?
「……スーザン様のやつを……もっとください……!」
「…………」
さっきからごそごそしてると思ったら……アンディ君め。さては、フィニッシュをシマムラさんでキメる気か……?
本当に慕われてたんだなシマムラさん、敬われてはいないようだが。
さて、まだ放出していないシマムラさんのお宝画像はあったっけ?
――「サンセットヴァイブレーションでお漏らし」のシーン、「野生の勇者さま」のシーン、「満員電車で全裸土下座」のシーンも、もう出してしまったし……。
「は、早く……! そうじゃないと俺……、ネコミミの子で……」
「な!?」
それはなんかイヤだな。
そしたら、ちょっとおとなしめヤツだが――スキル【共感覚】! くらえ、「50階層の休憩所でおれに身体を差し出そうとする」シーン!
「……な!? なんでヤマダがこんな記憶、持ってるんだよおおおお~~~っおっおっおっ……!!」
……どうやら間に合ったようだな。
つい最近とれたてのシーンだから、メガネでショートカットバージョンのシマムラさんだ。アンディ君にとってはむしろ馴染みの深い姿、パンツを下ろす一歩手前までの画像だったが、効果てきめん! ひとたまりもなかったようだ。
……ふう。シャオさんNTR展開を阻止してやったぜ。
――あ。「黒い霧」の幻影にも当然のように影響あり。
結局、「魚面の異世界オタク」数十人の見まもる前で「タナカの触手になぶられる全裸の巨大なシマムラさん」で落ち着いた。……妙にしっくりくる。
『ワラワラ……』
『ワラワラワラワラワラワラ……』
……!?
巨大なシマムラさんと魚面の異世界オタク達が、なんか「ワラワラ」言いだした。
もしかして、笑っているのだろうか?