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398 『ワクテカ! ドッペルゲンガー⑫』

 わたくし……僕は、大陸の東に小さな領地を持つサンドパイパー子爵家の三男として生まれました。

 幼い頃から人目をひく美しさだった僕は、エメリーという名前のせいもあって少女と勘違いされることが当たり前のようになっていたそうです。


 七歳になる頃、”天の導き”――最初のスキル【天の声】を手に入れてからは、美しさだけでなく聡明さでも周囲を驚かせ、神童ともてはやされました。

 なんのうれいもない、幸せな幼少期でした。誰もが、僕の輝かしい未来を信じて疑わなかったでしょう。

 


 僕には歳の離れた姉がいます。ラビニア・サンドパイパーは僕を溺愛できあいし、僕に女の格好をさせては連れて歩いていたものだから、今だに領民達は、僕のことを男だとはまったく思っていないでしょう。

 そんな姉を僕も嫌いではありませんでしたから、彼女がネムジア教会の神官見習いとして王都に行くと知ったときには、ずいぶん悲しんだことを憶えています。



 十歳になった僕は、姉のラビニアがスキル【神託】を得てネムジア教会の聖女になったことを聞かされました。王国を代表する十二人の乙女の一人に自慢の姉が選ばれたと知り、僕は我が事のように誇らしく思ったのです。

 ですから、ラビニアの身の回りの世話をする神官見習いとして王都へ呼ばれたときも、喜んで家を出ることを決めました。



 王都でラビニアと二人の生活を始めて判ったことは、姉が両親の前ではずいぶんと猫を被っていたということです。――端的な言葉で表すなら、姉は変態でした。


 分別のある年齢となった僕に女装を強要し、常に女神官として振る舞うことを命じました。

 そればかりか、女装した僕を見知らぬ男達に犯させては、それを見て愉しむのです。


 ラビニアはそれだけに飽き足らず、年末の「聖女会議」の期間には、同僚の聖女達をその饗宴きょうえんに招きました。僕は、興が乗った聖女達にあてがわれ、その場でまた犯されるのです。



 聖女であり身内でもあるラビニアの仕打ちとはいえ、たまりかねた僕は自らのスキル【天の声】に打開策を尋ねました。

 回答はいくつもありました、両親を頼る方法、姉を直接罠にかけて破滅させる方法、破滅させるまでしなくてもちょっとした弱味を握る方法、簡単なやり方なら女装を止めるだけでもいい。


 そんな中に、聖女ラビニアの上司である大司教エーデル様を頼るという方法がありました。

 僕はその方法が一番ことが露見しにくいと考え、エーデル様の部屋に向かったのです。

 

 ですが僕は、遂に扉をノックすることができませんでした。

 気付かぬ内に、ステータスに見知らぬスキルが増えていたのです。

 ――負荷スキル【依存いぞん】。ラビニアの仕業でしょう。いつの間にか植え付けられたスキルにより僕は、姉の不興を買うような行動の全てが制限されるようになっていたのです。


【天の声】で打開策は判っているのに、それを行動に移すことができない。思えば、ラビニアの仕打ちに黙って従い、その日まで打開策を【天の声】に尋ねることすらしなかったことが、そもそもおかしかったのです。




 

 十四歳。僕はまだ女神官として、聖女ラビニアに【依存】した生活を続けていました。


 そんなある日のこと。僕は、エーデル様に代わって今年新しく大司教になったばかりのサルディナ様から部屋に呼び出されました。

 そして、僕が男であることを指摘されたのです。


 とうとう、ラビニアと僕が神殿内で行っていたハレンチな行為が明るみになる日が来たのです。

 負荷スキル【依存】の効果で、口では必死に姉をかばおうとする僕でしたが、本心では心の底からホッとしていました、やっとこの地獄の日々が終わるのかと。


 ですがそれは甘い考えでした。大司教サルディナ様が僕を呼び出した用件は、秘密をばらされたくなければ身体を差し出せというものだったのです。

 僕が男であるにもかかわらず女神官のふりをしているという秘密を、なんらかのスキルで見破ったサルディナ様は、そのことがおおやけになれば姉である聖女ラビニアの立場も危ぶまれると脅迫したのです。


 姉のことを持ち出された僕は、負荷スキル【依存】の影響により、まったく抵抗できなくなってしまいました。

 サルディナ様の前で裸になった僕は、彼女にされるがままに恥をさらし、また、望むままに彼女に奉仕したのです。


 彼女が僕にまたがり腰を落としかけたちょうどその時でした。

 部屋全体が突然、清浄な空気で満たされたような感覚がありました。

 閉じていた目を見開くと、僕を見下ろすサルディナ様と目が合いました。



『あなた、キレイね』


 そう言った彼女は、姿こそサルディナ様のままでしたが、その冷ややかな眼差しは明らかに別の誰かでした。

 僕は、小さな予感にうち震えながら、彼女に名前を尋ねました。



『ネムジア』


 彼女は、女神の名を名乗りました。

 戸惑う僕に彼女は続けます。



『でもこの身体に長居するつもりはないの。でもそうね、せっかく来たんだから、キレイなあなたに女神的な祝福を――エクストラスキル、コール【e1602、p2465、p24……』


 気がつけば、僕は泣いていました。

 彼女は真に、女神ネムジア様なのだと、その時始めてさとったのです。

 

 女神ネムジア様は去り際におっしゃいました。



『ステータスがね、なんかちょっとキレイじゃなかったから、消しておいたよ。じゃあね、さよなら』


 気がつけば、僕のステータスから負荷スキル【依存】が削除されていました。

 そのたった数分間こそ、僕だけが目撃した「女神降臨」の全てでした。



 自然に笑いがこみ上げました。涙と笑いが止まりません。

 王都に来てから、こんなに声を上げて笑ったのは始めてのことでした。


 笑い声に驚いて、気を失っていたサルディナ様が目覚めます。

 僕は手始めに、サルディナ様を犯しました。どうすればいいかは、すべて【天の声】が教えてくれます。


 立場は逆転しました。三十九歳処女だった大司教サルディナ様は、若くて美しい僕にすっかり夢中になりました。

 そうなるように、念入りに犯してやったのだから無理もありません。

 僕の頼みなら、多少無茶な願いだってどうにかしてくれるでしょう。





 手始めに、聖女ラビニアをランマ王国支部へと追いやりました。

 当然のように姉は僕に同行を求めましたが、サルディナ様がそれを許すはずがありません。

 さすがの姉も、大司教様には逆らえず、ふて腐れたように任地へと旅立って行きました。


 ラビニアの束縛から解放された僕は、やっと自分自身の将来や生きがいについて考えられるようになりました。

 最初に頭に浮かんだのは、恥ずかしながら、女を犯すことでした。

 どうやら僕は、とんでもない色魔しきまだったようです。

 もっとも、今まで散々に犯されたのは僕だったのだから、その分、犯さなければ帳尻が合わないのではないでしょうか?


 それでも僕は、女神官であることを止めませんでした。

 女のふりを続けることで、容易に女達に近づくこともできたし、神殿には女でなければ立ち入れない場所も多くあったからです。



 当時、パラディン№15に、ルードルードという男がいました。

 頭頂部から顔面にかけて大きな火傷やけどの跡があり、常に仮面を被った陰気な男でした。

 回復魔法をほどこされないまま治癒したとおぼしき火傷跡は、彼があまり裕福な生まれでないことを物語り、またその見た目(ゆえ)に、すべての女性に対して暗い感情を抱えていることは、誰の目にも明らかでした。


 僕はルードルードに近づき友人となりました。彼に秘密を打ち明けると、僕が女でなかったことに酷く落胆していましたが、僕のやろうとしていることを知るとすぐに乗り気になりました。


 スキル【天の声】を持つ僕がターゲットの女を選び計画を立てて、スキル【迷宮めいきゅう】を持つルードルードが拉致監禁するのです。そんな持ちつ持たれつの関係で、何人もの女達を飽きるまで犯しました。


 被害者の女はたいてい沈黙するか、黙って教会を去って行きましたが、中には騒ぎだてする女もいましたので、そんな時は大司教サルディナ様の権力を頼り、遠方の神殿に追い出すなどしてごまかしました。

 貴族の親元に泣きつくなど面倒な場合に限っては、ルードルードが命を奪って口封じすることもありましたが、それは頭の悪いごく少数の例外です。

 

 ルードルードと組んで一年が過ぎる頃、彼が、同僚の女パラディンを犯したいと言い出しました。

 パラディン№6フーカ・シラカミ、りんとしたたたずまいの美女でした。それ故に、陰気なルードルードとは縁遠いタイプともいえました。


 僕としても、女神官や下働きの娘達には少し飽き飽きしていたので、彼の提案は悪くないように思えました。

 

 フーカ・シラカミを次のターゲットに定めはしたものの、彼女のパラディンとしての戦闘力はその当時、王都最強といわれていましたから、これまでのように女が一人になったところをルードルードのスキルで創りだした【迷宮】に放り込んで、ハイおしまいというわけにもいかないでしょう。

 

 荒事はルードルードに任せきりにしてきましたが、僕自身もレベルアップが必要な局面にさしかかったと感じました。



 スキル【天の声】の導きに従い、大司教サルディナ様と伴に立ち入った「奥の院」で、教会の秘宝「エナジーポット」を使ったスキルの取り直しを行います。


 「奥の院」に通い詰めること二十七日間、「エナジーポット」に経験値を入れたり出したりすることで、レベルダウンとレベルアップを繰り返し、僕は遂に目的のスキル【スキル抽出】と【結晶化】を手に入れたのです。

 この二つのスキルを使用すれば、他人のスキルを”スキルの欠片”にして取り上げることができます。


 早速僕は、サルディナ様からスキル【鑑定】をもらうことにしました。【スキル抽出】と【結晶化】の発動には相手の同意が必要ですが、サルディナ様が僕の願いを断れるはずがありません。


 スキル【鑑定】は、男には絶対に発現しないスキルといわれていますが、僕は割とあっさりそれを取得しました。【鑑定】があれば、僕が手に入れるべきレアなスキルも容易に見つかることでしょう。





 計画は順調に進んでいると思われましたが、僕は準備に時間をかけ過ぎてしまったようです。

 ターゲットを決めてからおよそ一ヶ月、痺れを切らしたルードルードが僕に黙って、一人でフーカ・シラカミに挑んでしまったのです。


 フーカを誘い出し、スキル【迷宮】に落としたまではよかったのですが、八層からなる【迷宮】はあっさり踏破とうはされ、【迷宮】のあるじルードルードは連続強姦魔(ごうかんま)として彼女に捕らえられてしまいました。



 囚われのルードルードから共犯者として僕の名前が出れば、いくら大司教サルディナ様であっても、かばいきれるか判りません。運良く強姦の罪を問われなかったとしても、男であることがバレれば教会に居続けることはできないでしょう。


 サルディナ様と連れだって、僕はルードルードが囚われている地下牢を訪れました。

 厳重に手足を拘束された彼は、僕を見るとホッとしたように醜い顔をほころばせます。いつもの仮面は剥ぎ取られていて、晒された大きな火傷跡が哀れでした。



 その夜、ルードルードは地下牢から姿を消しました。

 牢は施錠せじょうされたままで、拘束具の鎖だけが断ち切られて残されていました。

 ――直属のパラディンがしでかした不祥事ふしょうじを恥じ、大司教サルディナ様が彼を秘密裏ひみつりに始末したのでは? 一時、そんな噂が神殿内でささやかれましたが、やがて忘れ去られました。





 十五歳。ルードルードが姿を消してから僕は、女を犯すことを止めました。

 協力者無しで拉致監禁は骨が折れるという理由もありますが、新しい力を手に入れたことで、次なる目的に注力していったのです。――次なる目的、それは姉ラビニアへの復讐。


 年末、「聖女会議」出席のために王都の中央神殿を訪れた聖女ラビニア。

 部屋に呼ばれた僕は、姉を【迷宮】に落としました。

 ルードルードから譲り受けたスキル【迷宮】は、八階層からなる異空間ダンジョンです。


 エメリー? 何でこんなことをするの!? こんなことをして、おねえちゃん許さないんだから!! と、意外そうに声を荒げる聖女ラビニアでしたが、「何で」はかつて僕が何度も姉に投げかけた言葉です。 

 

 【迷宮】をさまよう聖女ラビニアに、数十匹のゴブリンやオークが次々と群がります。

 それでも、【光線】や【火柱】の魔法、スキル【ゴーレム召喚】等を駆使する姉は、思ったよりもしぶとく食い下がります。


 とうとうラビニアは、一人で八階層まで到達してしまいました。

 僕は姉の戦闘力に、素直に感心せずにはいられませんでした。自分だったら、二階層まで行けるかどうかも怪しいところです。

 

 そんな姉ラビニアですが、最後の部屋で待ち受ける迷宮のあるじには勝てないでしょう。

 なぜなら、迷宮の主は元パラディン№15のルードルードだからです。

 彼はあの日からずっと、【迷宮】の中で暮らしています。僕からの贈り物を、きっと気に入ってくれるでしょう。





 また時は流れて、少しおかしくなってしまった聖女ラビニアから、僕はスキル【神託しんたく】を譲り受けました。

 

 十六歳。ルードルードの子を妊娠したラビニアは、聖女を辞めて実家へと戻されました。

 スキル【神託】を得た僕は、姉に代わり、ネムジア教会十二聖女の一人となったのです。


 聖女となった僕は、「ニジの街」の神殿に赴任することになりました。小さな街ですが、近郊の「ミサキの森」には過去に度々(たびたび)勇者が召喚されたという記録が残る、教会にとって重要な意味を持つ場所なのです。

 

 そして僕は「ニジの街」の神殿で、異世界調女神ネムジア像と対面することになります。



『あなた、キレイね』


 忘れ得ぬ、あの「女神降臨」を目撃した日の震えるような感動がありありと呼び起こされました。





 その日から僕の目的は、「女神降臨」したネムジア様と一つになること。


 つまり僕は、ずっとがれているのです、女神ネムジアを犯したい――と。

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