393 『ワクテカ! ドッペルゲンガー⑦』
――シュビビビビーーーーーー!!!!
――シュビビビビーーーーーー!!!!
全高約6m、道化師型の黒いゴーレム二十体が四方にビームを乱射する。
白い【天使の翼】を羽ばたかせて、パラディン№10マルクは空中で身体をひねりビームをかわすと、鋭い【閃光】を放った。
強烈な光がゴーレム達の高感度な目を焼き、自動修復するまでの数秒間、ターゲットを見失わせた。
その間隙をついて急降下したパラディン№9エルマは、スキル【ドラゴンフィールド】で作りだした青いオーラのかぎ爪で、ゴーレム一体の頭部を切り裂く。
――シュビビーーー!! シュビビーーー!!
エルマに反応した他のゴーレム達が狙いも定まらないままビームを連射し、同士討ちで更に二体が大破した。
「一旦ビーム攻撃を止めて、アーリィさん!! 近接モードに切り替えて!!」
「え、え? そうか――えっと、ば、『抜剣』なの!!」
二体の生体ゴーレム――清楚系黒髪美女ベルベットと妹系美少女アーリィが研究所の屋根の上から、道化師型の黒いゴーレム達に指示を出す。
コマンドワードを受けて、残存する黒いゴーレム十七体は武器を使った攻撃を始めた。
――ズガガガーーーン!!!!
黒いゴーレムの一撃が遺跡を切り崩し、様子を見ていたパラディン№6ランポウは慌てて作った【土壁】の陰に逃げ込んだ。
負傷して転がっていた仲間の神殿騎士二人に【中回復】の魔法を施しつつ、ランポウは屋根の上のベルベットとアーリィを狙う。
「アーリィさん、上からきます!!」
「え、え? ――んにゃあああああっ!!?」
――ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!!!
屋根の上に【石礫】の魔法が豪雨の様に降り注いだ。
うずくまったアーリィの背後に”大盾を持った重騎士”が出現し、全ての攻撃を受け止める。オートで発動したスキル【守護騎士】である。
ベルベットは、スキル【霧化】を発動。身体を霧に変化させて【石礫】を無効化し受け流した。彼女の装備していた白い鎧だけが屋根の上に残される。
【霧化】したままベルベットは、黒いゴーレムに反撃の指示を出す。
「よく狙って!! 『射撃』!!」
――シュビビビビーーーーーー!!!!
三枚重ねの【土壁】が溶ける間に、ランポウは気絶したままの神殿騎士二人を抱えて逃げ出す。
その姿はどこか滑稽に見えるが、本人は大真面目だ。
「まいったね……俺、人間以外は専門外なんだけども」
***
研究所二階「大会議室」の窓から、御前様ことエメリー・サンドパイパーは戦況を見渡した。
道化師型の黒いゴーレム――エリートゴーレム三体が既に大破している。敵がただの神殿騎士だけではないことをエメリーは察した。
「何人かパラディンも来ているのですか?」
「今んところ、”王都最強”パラディン№6を含む三名の姿が確認できてますねぇ。てことは多分――」
背後に控えていたクモ男アンバーが応えた。
パラディン№6が来ているなら、大司教ユーシー自らが近くまで来ているのだろうとアンバーは推測し、その通りだろうとエメリーもうなずく。
「ご安心なさいませ。例え”王都最強”が相手だとしても、わたくしの七姉妹達が万が一にも遅れをとることはないでしょう。中でも、レナスさん、ベルベットさん、オデットさんであれば、パラディン№1にも比肩しうると……おや? オデットさんはもう出撃していましたかしら?」
「はぁ、いや、イセリアさんと二人、まだヤマギワさんの見張りじゃねぇですかねぇ?」
「ならば好都合ですわ。オデットさんとイセリアさんには、大司教様を捕らえていただきましょう! アンバーさんには、大司教様の居場所の特定をお願いしますね? ヤマギワさんの見張りは、そうですね――」
エメリーの命を受け、アンバーは索敵のため、眷属のポイズンスパイダー数十匹を大空洞に放った。
また、オデットとイセリアを呼び戻すため、ヤマギワの地下牢へ見張りの交替要員が送り出される。
この時既に二人が、ヤマギワとマデリンによって無力化されているとは夢にも思わないエメリーだった。
***
――ぬちょ。
聖女アイダの張ったスキル【粘着液】の罠に、何匹目かのポイズンスパイダーがかかった。
「あら、また湧いた」
「う~う~~う~~~♪」
魔法【風刃】を無造作に放って、罠にかかったポイズンスパイダーを処理する大司教ユーシー。
「ふむ、またポイズンスパイダーか。確か、大迷宮では4~5階層に出る魔物だったかな?」
「う~~う~う~~~♪」
聖女アイダが応じる。
「う~~う~~う~~~う~~~♪」
その傍らでは、拘束された生体ゴーレム――小悪魔風美少女メルセデスの耳元で怪しい歌を口ずさみ続ける諜報部長フーカ・シラカミの姿があった。
不安定な音程とテンポを行ったり来たり繰り返すその歌は、ネムジア教会諜報部秘伝の「拷問ソング」である。一説には、音痴だっといわれる女神ネムジアが機嫌のいい時に口ずさんだ歌が今に伝わったとか――。
果たして、効果のほどは?
「う~う~~う~~~♪」
「……はぁはぁ…………も、もう止めて!! お願い、お願いだからっ……!!」
涙とヨダレを垂らして懇願するメルセデス。どうやら、効果は抜群らしい。
それでも、シラカミ部長は歌うのを止めない。ますます喜色の笑みを浮かべて声を張る。
「う~~う~う~~~♪」
「ひぃぃ、止めて!! あ、謝るから……なんでもするから……!!」
「……」
大司教ユーシーはドン引きであるが、シラカミ部長による拷問はまだまだ終わる気配がない。
せっかくの美少女が壊されてしまわないかと、聖女アイダは気が気でなかった。
「ユーシー、私達はいつまでもここに留まっていていいのか? ”王都地下”といえば正にここだろう?」
――王都地下に『魔王』発生。
ユーシーとアイダのスキル【神託】がそう警告していた。
「さあ? 急なことで、準備もなにもないですし。――それでも、最善と思われる一手はまもなくエメリー様の喉元へ届くでしょう」
「パラディン№22か――」
22人のパラディンの序列最下位。
抜けた№11の補充として加わったパラディン№22は、ネコ耳のシャオの案内で、既に研究所内部へと潜入していた。
***
エメリーの命令で巨乳のウロコ嬢カサリナは、生体ゴーレムのオデット、イセリアと見張りを交替するために、ヤマギワ達が捕らえられている地下牢にやって来た。
しかしどういうわけか、「特別室」と呼ばれるその地下牢の格子戸は大きく開け放たれていた。
――にょろにょろにょろにょろ~!!
慌てて駆け寄ったカサリナが見たのは、牢屋の中でヒモ状の触手に凌辱される生真面目上司風美女イセリアのあられもない姿だった。
「イセリアさん、いったいなに――!?」
「いやぁぁーん! たすけてぇぇーん!」
触手に敏感な部分を責められ、次第に抵抗できなくなっていくイセリア。
握っていた大鎌は、音もなく厚手の絨毯の上に落ちた。
触手一本一本が小さく蠢動する度に、イセリアの熟れた肉体はびくんびくんと大きく反応を繰り返す。
やがて――ら、らめぇぇぇーーー! と、激しく痙攣し、小便を漏らすイセリア。
「――い、今助けるです!」
牢屋内に踏み込んだウロコ嬢カサリナだったが、次の瞬間、背後で格子戸が閉じる音を聞いた。同時に、「触手に凌辱されるイセリア」の立体映像も消える。
ガチャリと格子戸に鍵がかけられ、カサリナは自身がまんまと罠にはめられたことを知る。
「【空間記憶再生】、今のはおれのスキルです。――あ、声はシャオさんにお願いしました」
牢屋の外に、パラディン№7クリスティアに抱っこされたヤマギワがいた。
他にも、娼婦のルル、ネコ耳のシャオ、犬耳のジェイDバックそしてなぜか、目力強めのプリマドンナ風美女オデットが立っていた。
「クリスティアさん、本気で御前様に逆らうですか!? ……もしかして、オデットさんまで? いったいどうしたっていうですかー!?」
「わたしゅはヤマギワ様と全力で戦い敗れまひた。御前様の配下だったわたしゅは死んだのでしゅ。これより先はヤマギワ様の下僕として、女としての幸せを追い求める覚悟でしゅ。その野望の前に立ち塞がるのがたとえ御前様だったとしても、わたしゅは敵対することを厭いましぇん」
「……!!」
「俺の名前はジェイDバック、”百人斬り”などと呼ばれている。俺と戦ったアンタは、【超回復】がなければ百回は死んでいたかもな? ――御前様とやらにどんな恩があるか知らんが、百回死んでも返せぬ恩などありえるか?」
「……!! だ、だったらっ、私はあなたを百回殺す権利があるです! 私の名前はカサリナ! ジェイDバックを百回殺す女と記憶なさい!」
「カサリナか、憶えておこう」