表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/172

388 『ワクテカ! ドッペルゲンガー②』

~ちなみに、友人Kは死ぬんだぜ? ~


 そんな決定的なネタバレさえ易々とできてしまうぐらい、かつてないほど闇落ちしてるおれのココロ。

 誰だってそうだろ? 力任せに両腕をポッキリ折られたら、この世のすべてを恨まずにいられようか? いや、いられまい。

 




「あら怖いわヤマギワ様ったら、そんなに鼻息を荒くして、うふふ……!」


 ……くそう。こうなったら、御前様の思い通りになってたまるかっ!

 おれのスキル【世界創造ワールドクリエイト】は絶対に渡さん!


 あ、そうだ! いつもならスキル【自然回復】と【劣化】のコンボでケガを治療するところだけど、せっかくだから【世界創造ワールドクリエイト】で両腕の骨折を治してやる。――限定解除、ステップ2【修復】! 骨折よ治れ! 折れた骨よくっつけ!



 ……?

 ――あ。そうそう、そうだった。スキル【世界創造ワールドクリエイト】の使用権限はオナモミ妖精の領分だった。ヤツの承認をもらわないと、スキルは発動しない。


 おーい、オナモミクン、承認してくれー! オナモミ妖精クンよーい?

 


(ケケケ……! ヤマギワ、あれ見てみろよ、スゲーぞ!)


 ったく、どこほっつき歩いてるんだよ? ――スキル【共感覚】! おれは片目を閉じてオナモミ妖精と視覚を共有した。

 

 ――! なるほどね。

 石化解除された全裸のスズカ教官がネコ耳美少年のマギー君に犯されている、前後から。

 ネコ耳美少年のマギー君が二人……どっちか片方は、【みつき変身】で変身したマデリンちゃんに違いない。



「いぎぃぃ!!? アタシ裂けるぅ、裂けちゃううう~~~!!」

 

 近い近い、近いって! オナモミ妖精のヤツは、いっつも接写が過ぎるんよ。

 

 そんなオナモミ妖精と同じぐらい近い距離にしゃがみこんで、かぶりつきでスズカ教官達三人の行為を見物している生体ゴーレムが一体――高貴な銀髪美女が居た。どうやら、エッチなことに興味芯々らしい。

 

 そういえば生体ゴーレムって、そういう女の子な機能は付いてるのかな……お? おおっ! しゃがんだスカートの奥に覗く高貴なおパンツに、怪しげな染みが……! ナイスアングルだ、オナモミ妖精クンよ!


 そんな持て余した彼女を放っておくマギー君ではない。

 ああ、高貴な銀髪美女にマギー君の魔の手が伸びる……てかあのマギー君、マデリンちゃんの変身の方だよな? やれやれ、エッチな子だよ!





「……あら? ヤマギワ様ったら、なんだか余裕ありそうですわね?」


 ――うっせぇババァ! 今、いいとこなんだよ! もうちょっとで、高貴な銀髪美女のおっぱいが見えそうなんだ、グヘヘ……! 

 


「不敵な笑み……さては何かたくらんでますわね、ヤマギワ様? そうはさせませんわ――えいっ!」


 おっぱい、おっぱい……え? 


 ――ぼとっ、ぼとっ……!



「いやぁぁ!? ヤ、ヤマギワしゃまの……あしがぁ~~~!!?」


 両腕を掴んだ生体ゴーレム二体に、おれの全体重がかかる。

 クリスティアさんに指摘されて、たった今、おれの両脚がフトモモで切断されたことに気付いた。

 至近距離から、御前様に【風刃ふうじん】の魔法を撃たれたらしい。



「……あ゛!!!!?」


「ヤマギワ様は【超次元三角】というスキルをお持ちですわね? ですが、三角形を描けなければ次元の隙間へ逃げ込むこともできませんでしょ?」


 ――ぼん!! ぼん!!

 御前様は、床に転がったおれの両脚に向かって魔法【火球】を撃った。

 

 ギャー!! あっという間に、おれの脚が骨まで消し炭に……ああ、燃え残った脛当すねあての重みで崩れて粉々だ……。



 じょろろろろろ~~~!

 気がつくとおれは、おしっこを漏らしていた。

 

 おれを押さえ込んだ左右の美女がドン引きしている。

 いい歳して恥ずかしいけど、今はそれどころじゃないんよ、シクシク……。



「……な、なして、ヤマギワさんがそんな目にあわねえとなんねぇんですか!? ヤマギワさんは関係ねぇでしょ!?」


「関係ならありますわ。ヤマギワ様は、ウルラリィさんの自由と引き換えに、スキル【世界創造ワールドクリエイト】をわたくしに差し出してくださるのですから――ですわよね、ヤマギワ様?」



「……はい」


「え? なんですの? はっきりおっしゃっていただかないと判りませんわー?」


 おしっこを漏らしたおれは、もう完全にココロが折れていた。

 てか、血が超出てるし……死んじゃうのかなおれ……。



「……あげます【世界創造ワールドクリエイト】、御前様に。よかったら、他の――」

「御前(しゃま)! まずは、ヤマギワしゃまの脚を! 血が流れすぎて、死んでしまいましゅ!!」


「あらそうね、せっかくヤマギワ様が【世界創造ワールドクリエイト】を快くお譲りくださるというのに、死なれてしまっては元も子もありませんわ。――それに、新郎が死んでしまってはクリスティアさんに悪いですもの。でも脚の【再生】はあきらめてくださいませね? 【大回復】の魔法で癒やしますわ」


「しょんな、ヤマギワしゃまの脚は燃えてしまったのに!?」



「人とは案外おバカなものです、痛みだけではすぐに忘れてしまいます。長い時間をかけて喪失感と後悔を味わっていただかなければいけませんわ。できれば腕も切り落としておきたいところですけど……それは新婦に免じて手枷てかせで済ませることといたしましょう。クリスティアさんには、これからきちんとヤマギワ様を導いていただかないといけませんわよ? 妻としてね」


「妻として……!」


 御前様は【大回復】の魔法でおれのフトモモの傷を塞いだ。

 ああ、痛みが消える……ありがとうごぜえますだ……ありがとうごぜえますだー、シクシク……。

 おれ、元々短足だったけど、もっと短足になったよ、シクシク……。





 御前様がスキルを使用すると、おれの右胸からアメ玉のような小粒こつぶ”スキルの欠片かけら”がポロリとこぼれ出て彼女の手に落ちた。

 同時に、おれのステータスからスキル【世界創造ワールドクリエイト】が消える。



「まあ、綺麗なピンク色ですこと! これが伝説のスキル【世界創造ワールドクリエイト】ですのね、素敵だわ! せっかくですからすぐにでも試してみたいところですけど、私室に戻ってじっくり検証することといたしましょう。――さてオデットさん、イセリアさん、ヤマギワ様を『特別室』にお連れしてくださいまし? アーリィさん、ベルベットさん、クリスティアさんはもう放していただいて結構ですよ?」


「御前(しゃま)、わたしゅもヤマギワしゃまと一緒に」



「そうですわね、クリスティアさんにはヤマギワ様のお世話をしていただかないといけませんわね。なんなら、そのまま『特別室』にんでいただいても構いませんのよ? ――ああ、ウルラリィさんには作業に戻っていただきましょう、ベルベットさんお願いしますね?」


「そんな……おれの【世界創造ワールドクリエイト】はウルラリィさんの自由と引き換えのはずじゃ……!?」



「あらいけない、わたくしとしたことが! そうそう、そうでしたわね――【スキル抽出】! 【結晶化】!」


 御前様がスキルを使用すると、ウルラリィさんの右胸から青黒い”スキルの欠片”がこぼれ出た。

 それをおれに向かって投げてよこすが、両腕使えないおれには当然受け取れず、床に落ちて転がる。



「……?」


「ウルラリィさんの自由を奪っていた負荷スキル【隷属れいぞく】は取り除きましたわ。約束どおり、スキル【世界創造ワールドクリエイト】と交換ですわ――ね?」







 超短足になってしまったおれは、クリスティアさんに抱っこされて、「特別室」という名の牢屋へ入った。

 「特別室」というだけあって、ベッドやトイレ、床に敷かれた絨毯じゅうたんも牢屋というには豪華すぎる。どうやら偉い人用の牢屋みたいだ。

 とはいえ牢屋は牢屋、廊下側は一面鉄格子で外から丸見え、プライバシーはない。


 おれ達をここまで連れてきた生体ゴーレム二体――目力めぢから強めプリマドンナ風美女オデットさんと生真面目きまじめ上司風美女イセリアさんにおれは、ベッドの上で『竜鱗りゅうりん具足ぐそく』を剥ぎ取られる。……まあ、当たり前か。

 

 続けてズボンとパンツを脱がされるおれ……え? 股間に女性三人の視線を感じる。

 しかし、完全にココロが折れているおれは、前を隠す気力もない。

 

 くっ……やるなら早くすればいい――!! ワクワク……ドキドキ……とか思っていたら、新しいパンツを履かされた。

 ああそうか……おれ、おしっこ漏らしたんだった。



 着替えを終えるとオデットさんとイセリアさんは、おれの手首に頑丈な手枷をはめた。おれとクリスティアさんを残し牢屋を出ると、鉄の扉をガチャリと施錠せじょうする。

 そのまま立ち去るのかと思えば、二人の内生真面目上司風美女イセリアさんは残り、廊下の椅子に足を組んで座った。交替で常時見張りが付くらしい。





 クリスティアさんに抱き起こされて、おれはベッドに腰掛ける。



「ヤマギワしゃま、わたしゅの力及ばず、こんなことになってしまって申し訳ありましぇん」


「……クリスティアさんのせいじゃないですよ、おれが油断したんです。牢屋に残る必要だってないでしょう? おれのことならどうぞお構いなく……一人でもへいきですから」


 そう言って、おれは短くなってしまった足をなでる。

 これじゃあまるでかまってちゃんだけど、自分でもよく解らないのだ。本当のところかまって欲しいのか、一人にしておいて欲しいのか。


 いつものおれだったら、風呂に入ってさっさと寝てしまうところだけど、ここには風呂がないし、いつもと違ってクリスティアさんというなんだかおれに優しくしてくれる女性がいる。



「そういうわけにはいきましぇん! わたしゅはご主人(しゃま)の下僕で奴隷なのでしゅから、一生お世話させていただきましゅ!」


 またそんな、一生って……重たいよクリスティアさん。

 だってこの人、金貸しのベネットさん殺害犯だし、なんか怖いよ。多分絶対、ヤンデレ気質に違いないし。

 いつか首をぽーん! されて、スキル【イタコ】で憑依合体する未来が、いかにもありそうでコワい。

 ……話を逸らそう。



「あの、聞きたいんですけど、御前様は【再生】のスキルを持っているんですか?」


「しょうですね、ご主人(しゃま)の脚を元に戻すには御前(しゃま)の【再生】に頼るしかありましぇんね。大丈夫です、わたしゅ達二人でがんばって御前(しゃま)の信頼を得ることができれば、きっと近いうちに失った脚を【再生】してもらえることでしょう!」


 やっぱり御前様は、欠損した手足や壊れた物品さえ元に戻す超レアスキル【再生】を持ってるのか。


 回復魔法では切断された手足を”再接続すること”はできても”再び生やすこと”はできない。そんなことができるのは、かつてモガリア教会の聖女と呼ばれたシーラさまの持つスキル【再生】か、『月光の勇者』が使うスキル【肉体治療】だけというのが通説だ。


 シーラさまは幼児化して【再生】のスキルを失ったので、今【再生】のスキルが使えるのはシーラさまの血を引くジュリアちゃんだけだと思っていた。

 まあ、どこかの誰かにたまたま同じスキルが出るってことも絶対無いとはいえないけど、超レアスキルの【再生】に関しては、少し嫌な感じがしないでもない。



「クリスティアさん、御前様の【再生】は元々誰のスキルだったか知ってたりしますか?」


「エリナたんでしゅ」



「エリナたん?」


「そうでしゅ、【石化ガス】のエリナたん。身寄りもなくまだ幼かったエリナたんとテッドの姉弟を、御前(しゃま)奇特きとくにも養子に迎えたのでしゅ。エリナたんはレベル8でスキル【再生】を手に入れて、それがとても珍しいスキルと知った時、御前(しゃま)に恩返しができるって、とても喜んでいまひたよ。もちろん、御前(しゃま)大層たいしょうお喜びで――」


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、”姉弟”って言いました? エリナたんとテッド? テッドってあの食いしん坊のテッドですか? アンバーさんとつるんでた?」



「テッドはああ見えて、まだ5しゃいか6しゃいだったはずでしゅ。姉のエリナたんのことをとても慕っているのでしゅが、エリナたんの方は彼のことをしゅこうとましく思っているようで……、なんだか見ていてとても痛ましい姉弟なのでしゅ」


 かつて、ネムジア教会中央神殿の地下牢に七年間監禁されたシーラさまは、監禁中に何回か妊娠したらしい。何があったかは想像に難くないわけだけど、無事に出産したかどうかは、タイターさんにかくまわれたジュリアちゃん以外不明だったんよね。


 シーラさまは正気を失い幼児退行してしまったけど、スキル【再生】は奪われることなく守り通した。しかしそのスキルを、娘のエリナたんからまんまと手に入れた御前様。


 ……なんかすごいモヤモヤするけど、シーラさまの子どもを育ててくれた御前様に感謝するべきなのか? 例え打算があったとしても、「ゴハンと寝る場所があっただけで――」ってシャオさんも言ってたしな。むむむ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ