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386 『ヒロイン達の事情~不幸中の幸いの日②~』

 アンディはスーザンをパートナーに選んだ。

 どうにもできない情欲が、わずかにくすぶっていた理性を塗りつぶし、少年を一匹の獣に変える。



「はぁはぁ……、スーザン様! 俺、俺はっ……!!」


「ああ、アンディ君……バカな子……」





 その点、ジェフは少しだけ冷静だった。

 アンディがスーザンを選んだことで、悲しそうに目を伏せるマイを見逃さない。つけ入るチャンスのようにも思えるが逆だろう。ことに及ぶことはできるかもしれないが、その代わりに恨みを買ってしまいかねない。

 マイのことは好きだが、初めてにこだわるつもりはない。ならば、今後の三人の関係性も考えて今は他に譲るべきと判断した。これが乱交ならいずれ機会も巡ってくるだろう――と。


 故に、ジェフはアントニアをパートナーに決めた。



「この人、なんでこんな格好してるのかな? マスクで顔を隠して、そういう趣味の人だったり? ――あれ? パンツ汚なっ、ウンコ付いてるよ」


「――!? うう……ち……ちが……」



「でもさ、僕はそういうのへいきなタイプだから、気にしないで? ――さて、じゃあまずはおっぱいから見せて貰おうかな? 当然、マスクは最後だよ?」





 結果、マイの相手はガンバルということになる。

 ついさっき会ったばかりの中年男と肌を合わせることになろうとは、昨日までの彼女なら思いもよらないことだったであろう。



「ジェフよ、しばし待て。――マイ、その女子おなごのスキルを読み上げてくれぬか?」


「…………【大正義だいせいぎ】、【脚戦美きゃくせんび】、【ピンポイントバリア】、【たてロール】、【自爆】、【疫病耐性】、【毒耐性】……」


 マイはスキル【鑑定】でアントニアのスキルを読み上げていく。

 レベルアップで取得したであろう主要スキルの他、貴族の子女なら誰でも持たされる耐性スキルと魔法スキルが連なる。

  



「ふむ、【縦ロール】? 【自爆】? よく解らんが、――アンディよ! おい、落ち着かぬかアンディ! その女子おなごの【空間収納】を【スキル封印】じゃ!」


「……はぁはぁ……ちっ、うるせえな! ――【スキル封印】、ヘンタイ金髪女の【空間収納】だ!」

 

「――!!?」


 スキルの中にそれほど危険な物はないと判断したガンバルは、アントニアの【空間収納】を封じさせた。

 その判断は実のところ的を射ていたといえる。彼女の切り札である聖剣『ボンバイエ』が、【空間収納】から取り出せなくなったのだから。



 その日、アントニア・チンチコールは出会ったばかりの少年に処女を奪われた。




 ***




「ほほう、どうやらジェフは上手くやったようだ――のう、マイよ?」


「ハァハァ……うっ……」



「おっと、アンディは失敗だのぉー。気ばかりはやり暴発してしまったようじゃ、なあに若い時にはよくあること――ふむ。ホッとしたかの? キマリ傭兵団のルールでは、ここでパートナーチェンジとなるべきところであるが――」


「――あっ……」



「むむっ、構わず二回戦目に突入しおったか、これは明らかなルール違反であるなぁ? のう、マイよ?」


「ハァハァ……もう…………す……て………」


 ねちっこいテクニックでなぶられ続けるマイ。それでも、アンディを思ってガンバルを拒み続けた――が、スーザンのことしか目に入らなくなっているアンディの姿を見せつけられて――



「ん? なんじゃ、もう一度言ってくれぬか?」


「…………もう、好きにして……!」


 ――遂に、その心もくじけた。




 ***




 溜め込んだ思いを憧れの女性に一気に吐き出したばかりだというのに、未だ静まることのない熱い情欲! 三回目に及ぼうとしたアンディに、ガンバルは無情にもパートナーチェンジを命じた。

 スーザンの浅黒く輝く肌に未練を残しつつ、渋々これに応じるアンディ。





 ガンバルに処女をささげたマイは、次のパートナーにアンディではなくジェフを選んだ。

 それは彼女なりのあてつけであったが、そのことに肝心のアンディが気づいたかどうかは怪しい。



 一方、ジェフは密かにほくそ笑む。計画どおり――と。





 アントニアは、バタフライマスクだけは外さないで欲しいと懇願こんがんした。顔さえ見られなければまだ無かったことにできると、必死に訴えた。

 それもいいね。と、最初の少年ジェフは応じてくれたが――、



「――ったく、ジェフのやつ、なんでヘンタイみたいなマスクそのまんまなんだよ? 意味わかんね」


「あっ……!!」

「え?」


 パートナーチェンジするやいなや、アンディにあっさりバタフライマスクを剥ぎ取られ、泣きそうになるアントニアだった。





 ガンバルはスーザンに問いかけた。



「少年の相手はどうであった? 愉しめたかのう、『黒金の勇者』殿?」


「……ぐっ」



「見るとも無しに見ておったが、まんざらでもなかった様子。本当はこうなることを、心のどこかで望んでいたのではないのかのう?」


「そんなこと……あるものか……! こんなこと、許されない……!」



「はて、なぜ許されない? 父や母、はたまた女神様にでもしかられると? ワシ等はそれなりに強い――が、上には上がおる。ある日突然、理不尽な死が訪れないとも限らん。それは『S級冒険者』や『勇者』とて例外なく、いつだって死と隣り合わせじゃ。――そんなワシ等が、ありもしない禁忌におびえて、なにを取りつくろう必要があろうか? 生きている内にヤりたいことヤって愉しんだとて、どこの誰がとがめようか?」


「……誰もが自分と同じと思わないで」



「いいや、同じであろう? ――特に『黒金の勇者』スーザン殿、貴殿は――のう?」


「……っあ!?」


 ――私は、なにも悪いことはしていない……だって負けたのだから仕方がない。こんなのは慣れっこだ。


 父も母も、祖父も遠い異世界の空の下だ、おそらく生きているうちに会うことはもうないだろう。

 アンソニーもギルバートも去って行った。テリーももういない。ヤマダさんは……まあ、どうでもいいとして――誰が私を咎めるというの?


 アンディ君もあんなに夢中になって、こんな私で、幸せそうにシてたじゃない? 私は間違ってない。

 あの時も、あの時も、あの時だって……。


 私は間違ってない。私は悪くない。私のせいじゃない――と、ガンバルの腕の中で、スーザンの思考力は失われていく。




 ***




 チュバ……チュバ……むぐぐ……。

 二回目のパートナーチェンジ。ジェフの股間に顔を埋めるスーザン姿があった。


 仁王立ちのジェフは、スーザンの黒髪を撫でつつ、その視線は向き合ったまま動かないアンディとマイの様子を覗っていた。



「私、団長に抱かれたし、ジェフ君とも……もう汚れちゃったの私……。ふ、ふふふ……ビッチだよね!?」


「べ、別にマイはマイだろ? 汚れちゃいねえさ……」



「ねえアンディ君、これで満足!? 私がビッチで満足なの!!? ねえ、答えてよ!!? ねえ!!?」


「お、おい、落ち着けよ! 満足って、俺が満足してるのは別にマイがビッチだからとか関係なくってただ、思いがけずスーザン様と――むぐぐっ!?」


 その先は言わせるかとばかりに、マイは唇でアンディの口をふさぐ。

 

 チュバっと糸を引いて離れると、マイが続ける。



「こんなことになっちゃったのはアンディ君のせいなんだから……責任、とってよね?」


 むさぼるようにアンディを求めるマイ。

 アンディもそれに応えて上り詰めていく。



 それを横目に――ヤレヤレ、やっぱり僕は当て馬か……と、腰を振るジェフだった。





「これはこれは、チンチコール家の――!」


「ち、違います! 人違いです!!」


 ガンバルはアントニアのことを知っていた。

 ――やはりこの男だけはここで仕留めなければならない! アントニアの瞳に闘志が宿る。湧き上がるパワー! スキル【大正義】、敵が悪であればあるほどすべての身体能力が上昇する!

 身体を拘束していた縄を力任せに引きちぎるアントニア。

 


「むむっ! 素っ裸でわしに挑むか!?」


 ――ぼん!! ぼん!! アントニアが魔法【火球】を放ち、ガンバルの全身が炎に飲まれた。



「やったの!?」


 しかしガンバルは、【火球】の魔法で焼かれているわけではなかった。

 ――ゴゴウッ!! スキル【大炎上】、全身を包む攻防一体の火炎!



「よりによって、火属性とはの」


「――っ、打ち消したの!?」


 身体のしびれが引くのを待ち、ガンバルと相対するこの機会を待っていた。このチャンスを逃すわけにはいかない――と、アントニアは両手をバリアで覆う。スキル【ピンポイントバリア】、手のひら大のエネルギー障壁二枚を任意の場所に発生させる!


 更に、スキル【縦ロール】! 触れた物を縦にねじる。このスキル無しに、アントニアの優雅なヘアースタイルは有り得ない。

 ねじる力は、ヤマギワの『神殿騎士の剣』を折る程度には強力である。


 ――ねじ切ってあげます!! 炎をまとったガンバルの股間に、アントニアの手が伸びる!

 


「むう、なんのっ!!」


 アントニアの手に不吉な気配を感じたガンバルは、その腕をがっちり掴んだ!

 

 ガンバルのスキル【背水の陣】、防御力が低いほど筋力が増す! 

 幸運なことに、ガンバルは全裸だった。上昇した筋力は、スキル【大正義】で上昇したアントニアの筋力と拮抗した。



「ぎゃぁぁぁ~~~!!!!」


 【ピンポイントバリア】の無いアントニアの腕を、スキル【大炎上】が容赦なく焼いた。



 勝敗は決した。

 再び拘束されたアントニアは、ガンバルに背後から組み敷かれる。



「おてんばな姫様は――ほうれ、お仕置きじゃ!」


「――!!? そ、そっちは違っ……ひ、ひぎぃぃ……!!」







「ふんふんふんふん……!!」

「ハァハァハァハァ…………」


 ――パン! パン! パン! パン!

 次第に早まっていく呼吸、肌が肌を打つ音。

 その時は、確実に近づいていた。

 


「ふっふっふっふっ……!!」

「ハッハッハッハッ…………」


 ――パンパンパンパンパンパン……!! 






「――ぬう!? なんじゃ?」


 ――ぎゅううう……! アントニアの白い尻が引き締まり、接合部分が急にキツく締まる。



「……お、思い知れ」 


 ――ドッガーーーン!!!!

 発射直前、突然の爆発!

 アントニアのスキル【自爆】は、自身のHPを1残して、周囲を巻き込み爆発する!

 このスキルを使ったのは初めてだったから、どの程度の破壊力があるのか彼女自身にも判らなかった。





「……が、がふっ……ゆ、油断したか……」


 黒焦げで煙を上げている瀕死のガンバルであったが、股間のそれは発射直前のまま天を仰ぐ。



「……そ、そこの貴方、マイといいましたか!? 【鑑定】を、この男のHPは――!?」


 爆発に驚き硬直していたマイが、アントニアに呼ばれてハッとなる。



「え!? ――えっと、残りHPは……0.5!!」


 ガンバルのHPは小数点以下だった。瀕死状態、もう一歩のところで死を免れたのは、ひとえに「幸運」による奇跡だろう。 

 スキル【蓄運ちくうん】、小さな「不幸」を蓄えて、「幸運」に変換して使用することができる。どんなチートスキルよりも、「幸運」こそ最強。



 しかし、ガンバルの蓄えた「幸運」は、この最後の奇跡をもってすべて使い果たされた。

 あと一撃、有効な一撃が入れば、ガンバルは死ぬだろう。


 だが、アントニアも残りHPは1、精根尽きはて、四つん這いで尻を突き出した格好のまま動けなかった。



「だ、誰か!! この男に、トドメを――!!」


 ――!!!!

 千載一遇のチャンス。動けないアントニア以外の全員が一斉にガンバルに襲いかかった!


 ――ゴゴウッ!! スキル【大炎上】の炎が周囲を焼く。

 ガンバルも、既になりふり構っていられなくなっていた。

 

 HP残り1のアントニアをかばったジェフは深刻なダメージを負った。

 アントニアとジェフをスキル【チェーンデスマッチ】の鎖で引き寄せるスーザン。



「アンディ君!」


「判ってます! ――【スキル封印】、団長……ガンバルの【大炎上】!!」


 スキル【大炎上】の炎がかき消えると、スーザンが一気にガンバルに迫る。



「ぬ、ぬう、こしゃくな!!」


「うぐぅっ!!?」


 いつの間にかガンバルの右手に『先祖伝来の槍』があった。

 接近するスーザンを横薙ぎにして吹き飛ばす!



「スーザン様っ!! ――野郎っ!!」


 ――スキル【短距離転移】! アンディは、槍の間合いの内側まで転移した。

 殴りかかろうとしたが、両腕が無くなっていることに気がついた。

 傷口が凍りつき、血も流れない。


 ガンバルの左手に、魔剣『氷炎剣』が握られていた。  

 瀕死のはずなのに――、S級冒険者の恐るべき技量と底力に戦慄するアンディ。



「裏切りは死! それがキマリ傭兵団のルールじゃ!!」

 

 アンディは、ガンバルの『先祖伝来の槍』で足を払われ転倒した。

 その首へ、『氷炎剣』が振り下ろされる――と思われたが、巻き付いた鎖がそれを止めた。スーザンのスキル【チェーンデスマッチ】である。  


 



 ――それはとっさの思いつきだった。

 目の前にそれがあったから、アンディは一か八かそれをした。


 むごご、ちゅば! ちゅば! ちゅば……!

 ガンバルの発射直前だった股間のそれを、アンディは喉の奥までくわえ込んだ!



「ぬ、何をっ!!? ぬ、ぬぬ、ぬおおおお~~~っ!!?」


 うかつにも、ガンバルは数秒で達し、アンディの口内に大量に発射してしまう。

 

 そしてそのことが、ガンバルの残りHPすべてを消費させることとなった。


 ――HP0! すなわち、S級冒険者ガンバル・ギルギルガンは死んだ。







「……な、何が起こったのです?」


「男は発射すると、結構HP減るんですよ」


 アントニアの疑問に、ジェフが答える。

 へーそうなの――と、感心するアントニア。


 思えば、今日一日でその手の知識と経験がだいぶ増えてしまったなと、彼女は自嘲じちょうする。

 気がつけば、レベルも2上がっていた。前と後の分だろう。

 


 こうしてアントニア・チンチコールの人生最悪の日は、ほろ苦い思い出となって幕を閉じる。

おれはいったい何を書いているんだ……と、思わなくもない。

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