380 『ワケありドッペルゲンガー⑭』
ワケあり……。
ワケあり……ドッペルゲンガー?
……おお! 「ワケありドッペルゲンガー」って、なんかよくね?
今まで、「ヤマダのコピー」とか「過去の記憶から成る~」とか、なんていうか……卑屈な感じだったから、なんかいいのないかなーって思ってたんだけど――「ワケありドッペルゲンガー」って、ちょっとかっこよくね!?
ちなみにドッペルゲンガーっていうのは、自分とまったく”同じ顔をした人”と出会ってしまうみたいな世にも奇妙な現象のことだったり、その”同じ顔をした人”そのものを指す言葉だったはず。
よし、いつか誰かに「何者だ!?」とか聞かれたら堂々とそう名乗ってやることにしよう、「ワケありドッペルゲンガー……、ヤマギワだ!」なーんつって!
……とか、思ってたんだけど。
――げっ!!? どこからともなく、ポイズンスパイダーがぼたぼたっと降ってきた。
ひいふうみぃ……とにかくいっぱいで、キモっ!!
クモ男アンバーさんの「仲間を呼ぶ」系スキルに違いない。
「はて? ドッペル毛? とは、どこの毛ですかヤマギワさん?」
……ムカ。
光の羽根を広げて、王都の地下大空洞を飛ぶおれ。
周囲をポイズンスパイダーの群れに囲まれ、背後からは石化ガスが迫る。
ついでに、糸付きナイフ八本による度重なる攻撃もウザい。
てか、おれのとっておきの名乗りを台無しにしやがって、アンバーさんめ。
さっきのミステリアスな美女にずっと狙われてる感じがして怖いけど、先ずはあんたを速攻で仕留めてやる!
――【マジックコーティング】もってけ300MP! 研ぎ澄ませ『先鋭』!
『不浄の剣』に流し込んだ魔力が、赤い光の刃となって鋭く長く伸びていく!
――からの〜『変形』! 伸長した赤い光の刃をムチの様にしならせ、ポイズンスパイダーの群れをなぎ払う!
前にちょび髭エロ男爵がこんな風に【マジックコーティング】を使っていた。あの時は、おれにはちょっとマネできないと思ってたけど、やってみたら案外できた。
どうやら、ここしばらく使ってた『ガリアンソード』の変形ギミックが、イイ感じで練習になってたっぽい。
おっと、【危機感知】反応! 羽根頭のちびっ子とアンバーさん双方から範囲魔法が来る気配。どうやってるのか知らないけど、バッチリ同じタイミングとか仲良しかよ!
……しゃーない、温存とか言ってられんか。
――スキル【遅滞】発動! おれの周囲の時間だけが緩やかに停滞する。ちびっ子は範囲外だけど、八本の糸付きナイフをすり抜けてアンバーさんに急速接近! ――ジュパパッ!! 両腕をまとめて切り飛ばした!
そのまま背後に回り込み、腕でアンバーさんの首を締め上げる!
ヤマダ流『あすなろ落とし』BL風味……おえっ。
だが、これで範囲魔法は撃てまい?
「えーっと、そこのお嬢ちゃん、石化ガスを止めておとなしくしてください! でないと、アンバーさんがもっと酷い目にあってしまいますよ!?」
おれは、羽根頭のちびっ子に向かって降伏を呼びかける。
「ええっ!? ヒドい目に……、アンバーさんが……!!」
「エリナさん、俺に構わねぇで! もっとガスを!!」
あの子、エリナちゃんっていうのか。
ちびっ子を脅迫するのは気が引けるけど、剣でチクチクするよりはだいぶましだ。
ここは心を鬼にして、アンバーさんを――、
「ア、アンバーさんを、リョウジョクする気ですか!? そんな……!」
――そうそう、アンバーさんをリョウジョク……って凌辱!?
なんか凌辱って聞くとどうしても性的な意味で聞こえてしまうんだけど、おれの『あすなろ落とし』、ちびっ子にはセクスィー過ぎたか?
「いやいやいや、そういうんじゃなくて、もっと痛い感じのやつです」
「ふえぇっ……!? 痛がるアンバーさんに無理矢理……?」
――まてい!! 無理矢理ナニさ!?
おれ、異世界に来て結構長いけど、もしかして言葉の微妙なニュアンスとかまだまだだったりする? なんか自信なくなってきた……。
やむを得ん。見せしめに足一本から――。
【マジックコーティング】の赤い光の刃が、アンバーさんの右足にぐるりと巻き付く。
「あアッー! アンバーさんのズボンが脱がされちゃう!! アイツ、アンバーさんのズボンを脱がそうとしていますよーーー!! ハァハァ」
……エリナちゃん!? もしかして、腐属性の人!? クロソックス家の三女モランシーちゃんと同じ類いの闇を抱えてます?
気は進まないけど、そういう目で見られるのは心外なんで、暴力的でグロテスクな方の18禁シーンで目を覚ましてもらうとしようか。
「お待ちくだしゃい、ヤマギワ様!」
不意に声をかけられ、剣を止めた。
そちらを振り向けば、髪の長いミステリアスな美女が、研究所の屋根の上からおれを見据えていた。
あの人の声初めて聞いたけど、なんか幼女みたいなしゃべり方するね? 見た目アンニュイな感じなのに、ギャップ萌え〜な感じ。
てか、おれの名前知ってるんだ。
「貴方は?」
「わたしゅは、パラディン№7クリスティア・ハイポメサス。……ヤマギワ様、どうかわたしゅと一対一で戦っていただけましぇんか?」
……パラディン!? やっべ、パラディン来ちゃった。大司教直属、王国最強との呼び声も高いネムジア教会聖騎士二十二名の精鋭――その内、№7ってことは、№11のカスパール君や№9のエルマさんよりも格上じゃん?
そんな人まで、御前様に加担しているのか……。
「おれ、人質をとってるつもりなんですが? せっかく有利な状況なのに、わざわざ一騎打ちに応じるとでも?」
「なんでしたらどうじょ、アンバーしゃんの首を落とすなり、ズボンを下ろしゅなりしてくだしゃい。しょの後なら、わたしゅと戦っていただけましゅか?」
……どうやらクリスティアさんにとって、アンバーさんは人質としてさほど意味をなさないようだ。しゃべり方は萌え~だけど、その本性はミステリアスな見た目通り無慈悲な殺人犯というわけか。
心なしかアンバーさんが泣きそうだけど、知らんぷりしておいてあげよう、普通に気の毒だし。
「……クリスティアさんと戦っておれが勝ったら、ウルラリィさんのこととか石化してる仲間達のこと、御前様にとりなしてもらえるってことでいいですか?」
「御前様の意向もありましゅので、この場でお約束はできかねましゅが、できる限りの口添えはいたしましょう」
うーん、なんだか後からどうとでも言えそうなぼんやりした返答だけど、どっち道戦わなけりゃならないなら、アンバーさんやエリナちゃんの横ヤリがないだけましか?
「判りました、それでいいです。じゃあ――」
「あ、あーーーっと、それから、ヤマギワ様が勝ったら、わ、わたしゅを差し上げましゅ……!!」
「……は?」
「で、でしゅから、貴方が勝ったら、わたしゅを奴隷のように自由にしてもいいと……」
「え、なんで……?」
「い、嫌なら、無理にとは言いましぇんが……」
……自由にしてもいい……だと……?
なんか急に脈絡の無いこと言いだしたんだけどこの人、しかもちょっと食い気味に。
自由にしてもいいということは、おれ等界隈では、全裸エビ反り緊縛して一晩中眺めていてもいいってことですけど!?