03話 入軍
〜城下町〜
気がつくと俺は見たこともない病室のベッドにいた。どうやら気を失っていたらしい。周りには一輪の花と足に包帯を巻いてもらった形跡がある。まだ記憶が曖昧でぼんやりと思い出してきている。そうだ!シックス!
王様「やっと目が覚めたかい?」
アシル「!・・・あなたは確か、そうだ!この国の王様ですか!」
王様「いかにも、私がこのエンド王国の国王、プログである。君は運が良かったね。もう少しでまた決闘によって命を落とす若者が増える所だったよ。ニグマは盗賊や悪党を倒して市民達の信頼も厚いが、決闘と称して若者に戦いを挑んで次々に殺していった。今はどうしたものかと手をこまねいている所だよ」
王様は立派な口髭と屈強な戦士の身体をした巨漢だ。口調はゆっくり丁寧で優しいが、目の奥には、はるか先を見ているかのような炎が揺らめいている。あの恐ろしいニグマでさえ王様を見た途端、俺に目もくれず逃げていったのを考えると、相当な実力者だということは間違い無いだろう。
王様「運よりも君は実力でニグマに勝利したといったとしても過言ではない。もしよかったら私の王国の護衛軍で働いてみる気はないかい?」
アシル「護衛軍ですか・・・」
王様「その話は後日ゆっくりさせてもらうとしよう。君の友人が訪ねてきているんだ。目が覚めたと伝えてくるから君は無理せず、横になっていてね」
そう言うと王様は大きな身体を丸めてドアをくぐって行った。シックスは無事でいてくれたらしく、ひとまず一安心だ。というか王様にシックスの存在がモロバレちゃったのは痛い。金剛皇帝様の忠告を破ってしまった罪悪感のせいか、ニグマの必殺技によってできた傷の箇所が痛くなってきた。
シックス「話は王様から聞いたよ!私戦ってるとは思わなくて普通に話しかけちゃってごめんね!」
シックスが病棟のドアを勢いよく開け俺のベッドに突進してきた!痛いと言おうかとも思ったが目をウルウル輝かせて見つめてくる姿にキュンとしてそのままにしておくことにした。美少女に怪我を心配してもらえるなんて現実世界じゃ金を払ってでも体験できないだろうからこの状況をある意味最高だと思う自分がいる。
シックス「ねぇ!このローブ王様が私にくれたんだよ!フカフカだし黒とシンバルがかっこいいんだよ!」
アシル「ん?シンボル?・・・シックス」
貰ったローブには王国のシンボルが大きくプリントされている。ゲームの世界だから、プリントの技術には触れないでおくが、これをシックスが来ているということはどうやら2人で護衛軍に入らざるを得ない状況だといえる。天然なシックスには王様は護衛軍の勧誘をしたのかは別として、わからなかったのだろう。やむなく護衛軍に入る事にしよう。
アシル「護衛軍に所属しても旅を続ける事は可能ですか?」
王様「もちろんだとも。君たち2人にはエンド王国の平和を維持する事と、私の依頼を受けて各国に行ってほしい。もちろん報酬はそれに見合う額を出そう。もう一つ、君の友人の秘密も護衛軍にいれば内密にすることができる。」
アシル「!!・・・わかりました。」
シックスが貴金属モンスターだということを当然のように王様は知っていた。金剛皇帝の言った通り王様は明らかにNPCの王様のラインを超えている。どのくらい強いかは測れないが敵に回して勝てるような相手じゃないことは確かだろう。不可抗力とはいえもっと隠密に行動した方が良かった。
〜城下町 町外れ〜
王様「まず2人に頼みたいことはエンド王国の隣国であるバスクチャーノ帝国の王に伝言を伝えてほしい。私の文書を魔法瓶に詰めておいたからそれを看守に渡してくれればいい。他の護衛軍所属の冒険者も同行するから新人歓迎会も兼ねるよ。みんな気のいい人ばかりだから楽しんできてね」
馬車に揺られながらシックスと共に城下町の門前で出国の手続きを行なっている。ことの成り行きでこうなってしまったがシックスの身も隠せるとなれば悪いことばかりじゃない。何より報酬が貰えること。このゲームはプレイしていると普通に腹は減るしゲーム上の食物を使用すると普通に味はするし満腹感もある。金剛皇帝に生活費を出してくれとは頼めないし、シックスと俺の2人分の食費を稼ぐことができる。夜の内に国を出て早朝に他の護衛軍の馬車と合流してバスクチャーノ帝国を目指す。
馬車使い「旦那!もうすぐ護衛軍の馬車と合流しますぜ!お嬢さんも起きてくださえ!」
馬車に揺られてシックスと寝ていた俺はおもむろに目を開ける。どうやら朝になったらしい。シックスは花提灯を出して眠っている。一族の運命を背負った王女にはとても見えないが、天然で温気なシックスを見ていると心が癒される。現実世界でもこんな友達がいてくれると嬉しいがあいにく生粋の陰キャである俺には夢のまた夢である。
アシル「今日から護衛軍に所属します、アシルです!よろしくお願いします!」
シックス「シックスです!よろしくお願いします!」
護衛軍の新人歓迎会が始まった。メンバーは俺とシックス含め計7人。王様曰く、特に関わりの深くなる依頼係のメンバーでまとめたらしい。どことなく年の近そうな人が多い。
ナズナ「私が今回の依頼の統括リーダーを務めるナズナです。2人はまだ右も左もわからないかと思うからみんなでフォローしていこう。それじゃあ!2人の入軍を祝って!乾杯!!!!」
一同「かんぱーい!!!!」
タケヒコ「魔法をいっぱい使えます、タケヒコです。2人ともよろしくね。」
カンジョー「よお新入り!力仕事なら俺に任せとけ!カンジョーだ!話は聞いてるぜ!ニグマのやろーとやったんだってな!生き残るとは大したタマだぜ!ガハハハハハ!」
リーン「みなさん少しお酒で緩んでますが王国の中でも王に認められた最高部隊ですから。といっても固くならず一緒に働いていきましょうね」
ロロン「ひさしぶりだよ〜あたらしいしんじんさんは〜わからないことがあったらなんでもきいてね〜」
みんなキャラが濃いがそれぞれの役割を持った立派な戦士であることがわかる。特にリーダーのナズナは冒険者組合の副会長らしい。城下町の壁に貼ってあったポスターに顔があって覚えている。
ナズナ「それじゃあ飲んでるついでに仕事の大体の詳細をザックリ説明するよ。私が王様の伝言を城の看守に届けるからタケヒコとロロンはその周辺の危険予知及び報告を頼む、リーンはアシルとシックスを連れてバスクチャーノ帝国の王、バクスア王に顔合わせを担当、カンジョーは馬車の移動と管理をよろしく頼む。トラブルが発生した時は各自に配布する打ち上げ花火を空に打つ事。それじゃまた明日」
説明をし終わるとナズナは酒に酔ったのか馬車に戻ってしまった。