02話 宿敵
〜城下町〜
色んな成り行きで体が金ピカの少女・シックスと旅をすることになったわけだが、彼女は目立ちすぎる。なんてったって全身が本物の金塊でできたモンスター少女なわけだから歩くだけでギシギシ音が鳴るし、目や髪は太陽の光を反射して凄く眩しい。こんな姿で街を歩いてたらどこぞの輩に狙われるか分からないな。金剛皇帝もシックスの存在は出来るだけ伏せておくように言われてたし、できるだけ目立たない服装をしてもらうことにしよう。
アシル「シックス、この姿で街をウロウロ行くのはマズイ。身を隠せるローブを買いに行こう。」
シックス「そうね、つい城下町の賑わいに浮かれてちゃってたわ!いけないいけない。」
シックスは王女とはいえ少女だ。このきらびやかな雰囲気に気を取られてしまうのも無理はない。俺も1人できたら気ままに買い物を楽しむ所だがシックスを連れてる以上のんきな行動はできない。とにかく今は金塊を売って金貨を手に入れるのが最優先だ。ひとまず俺とシックスはアイテムを売っている商人の元に金塊を売りに行くことにした。
商人「いらっしゃいませー。今日はMP草が半額の2500ゴールドだよ!買った買ったー!。おっとさっそく参られましたかお客様!何に致しやす?薬草?ブレスレット?はたまた彼女へのプレゼント?」
腹がたぬきのように突き出てる陽気な商人がお出迎えしてくれた。シックスは欲の権化とも言える商人には見られると厄介なので女子にこんな事を頼むのは恥ずかしかったが女子トイレで待機してもらう事にした。金塊を商人に売ってローブを買ったら女子トイレに届けに行くとしよう。俺は30キロはあるズッシリと重たい金塊を商人の前の陳列棚に置いた。
商人「アイテムの売却ですか!それでは鑑定を始めるとしましょう!・・・ふむふむ」
その時俺はハッとなった。明らかにただの旅人の姿の俺がこんな立派な金塊を持ち歩いているのは不自然だ。もしかしたら盗人と間違えられるかも知れない。俺はこの城下町にくるのも初めてでその可能性も十分にある。額から流れた冷や汗が背中を伝っていくのを感じた。
商人「半金塊30キロですね!全部で20000ゴールドの売却額となります!売却されますか?」
アシル「よろしくお願いします」
余りにもあっさりとした商人の様子に俺は拍子抜けだったがひとまず安心した。これでシックスに新品のローブを買ってあげられる。俺も何か軽めの防具を買っておきたいと思う。
商人「おや?お客さん、金塊の間に何か紙が挟まってますね。こりゃ何でしょう?」
アシル「紙?ちょっと見せてください」
俺は商人から紙を手渡されるとそれは手紙になっていて封を開けることができた。
〜アシルさんへ〜
金塊は銀と金を半分ずつ混ぜて作られる半金塊となっています。冒険者ギルドの依頼の報酬として扱われるポピュラーな換金アイテムです。この金塊なら怪しまれる事なく商人に売ることができます。できる事なら本物の金塊を差し上げたいところでしたが、身を隠すためにどうかご理解をして頂きたいです。シックスとの旅は楽しいことも苦難もあると思います。ですがどうかその立派な優しさと度胸で運命を切り開いて行って下さい。また会える日を楽しみにしています。
金剛皇帝
なんて気遣いのある女神だろう!やはりあの人は先の先まで考えているらしい。シックスとの旅は言わば金剛皇帝との契約の上で成り立っていると言ってもいい。安心感と共に俺は少し畏怖の感情を持った。万が一シックスを守れなかったら金剛皇帝様に顔負けができないな。
商人「まいどありがとうございました!っと次のお客さんだ!いらっしゃいませー!!今日はMP草が半額だよー!どうだいどうだい!」
???「こいつの売却を頼む」ドンッ
俺の隣から現れたのはなんと全身が返り血に染まった騎士だった。そして騎士の売却するものはズタズタに引き裂かれた狼のような獣の皮と肉、そして鋭い爪と牙。俺は恐ろしくなって思わず腰を抜かしてしまった。するとその騎士はおもむろにこちらに視線をやると、何やら驚いた様子だった。そして騎士は数秒の沈黙の後に頭に被っていた鉄仮面を脱いだ。俺は自分の目を疑った。
???「お前!アシルだな!」
ゲームが始まる前に絡まれた不良・ニグマだった
ニグマ「やっと城下町に現れたか。待ちくたびれたぜ。お前がこのエンド王国にくるのを5日も待ったんだ。今までどこにいたんだよ?よく生きてたな」
5日?どういうことだ?・・・!まさか5日も寝ていたのか!?トロールと戦ってから気絶してた内に!なんということだ。金剛皇帝様はそんなこと言って無かったが。モンスターと人間は時間の感覚が違ったりするのだろうか?いや今はそんな事気にしている場合じゃない。目の前にいる血塗れの騎士が不良・ニグマであることが問題だ。とにかく俺はニグマと思われる騎士と話すことにした。
アシル「俺は気づいた時には森にいてそこでトロールに襲われた。命からがら逃げ出してその時出会った冒険者に救われた。その人は俺が森を抜けた後に金塊を恵んでくれたんだ。俺はお礼に最初から身につけてた装飾品を渡したよ。それからひたすら走って何とか今日城下町にたどり着いたんだ」
シックスの存在は絶対に悟られてはいけない。ニグマからは只ならぬ気迫を感じる。身にまとっている鎧は傷がつきその間に血が染み付いている。だがとても神聖なオーラを出している。まるで英雄のような神々しささえニグマから感じた。
ニグマ「なるほどな。森にスポーンしたのは俺だけじゃなかったと言うことか」
アシル「君は一体・・・」
ニグマ「教えてやるよ、俺の地獄の5日間を。まず初めはこうだ。俺はゲームを起動してすぐ森にいた。辺りは薄暗くて俺は手に槍と盾を持っていた。それから俺は森の中を彷徨ってひたすら光を探していた。そんな時に林の中から複数の黒い影が姿を見せた。そいつらはユメウルフっていう魔獣だった。それから先はよく覚えていないが血だらけになりながら奴らを殺した。ユメウルフは弱くない。だが俺は死ななかった。槍と盾で奴らを一匹残らず狩り尽くしたんだ。俺は夜から朝まで戦い続けユメウルフを全滅させた。そいつらの何匹かをNPCの冒険者に売って食料と薬草を調達し俺は城下町にたどり着いた。」
ニグマは落ち着いた口調で話を続ける
ニグマ「その後俺は城下町で情報を集めながら身を潜めていた。他のプレイヤーに気づかれないようにな。城下町にいた転生プレイヤーは元々城下町にスポーンしたらしく、森を含むダンジョンにスポーンしたのは俺だけだった。本当は俺以外にもいた様だが殆どの奴は街にたどり着く前に死んだらしい。奴らは城下町の冒険者ギルドで低いランクの依頼を受けてモンスターを狩り、レベル上げをしていた。雑魚モンスターを大体倒してて平均レベルは7だった。」
ニグマ「今の俺のレベルは35だ。」
ニグマ「ギルドが無償で公開しているモンスター図鑑にはユメウルフは少なくとも相当経験を積んだ冒険者が4人のパーティーを組んでやっと1匹倒せる位の強さらしい。そいつを俺は・・・そうだな・・・初日は20匹倒したな」
アシル「初日?」
ニグマ「スポーンした森に俺は何度も通った。ユメウルフを狩りにな。何度か死にかけたが。3回通った頃にはユメウルフの方から恐れをなして逃げ出すようになった。あれは気分爽快だったぜ。」
まだ理解が追いついていない所が多いが、どうやらニグマは俺が経験した以上の体験を得ている。そしてレベルの概念があることも熟知している。
ニグマ「おっと。大事な事を言い忘れていたな。城下町には占い師がいるんだ。占い師は転生プレイヤーのレベルと固有スキルを教えてくれる。これは2日目に知った情報だ。で!俺の固有スキルを今から話す!
固有スキル 「槍神の加護」
槍装備時、攻撃力4倍、防御力4倍、物理耐性9倍、
光属性攻撃9倍、1分毎にHPの10分の1を回復
というものだ」
聞き間違いではない様だが、ニグマはチートスキルを持って転生したらしい。俺の持つ「猛毒」とはかけ離れた性能に思わず絶句した。特にHP回復の仕様が少しおかしい気がする。
ニグマ「でだ、お前を待っている間に俺は城下町にいる雑魚プレイヤー共をみんな殺してやった。そのあとは・・・」
アシル「え?・・・ちょっと待って。プレイヤーをみんな殺した?」
ニグマ「当然じゃねえか!!!!ゲームの主催者が言ってただろ!他人を裏切るもの良しってな!前情報で他プレイヤーと戦闘して倒すことができるのは知ってたからな!邪魔な奴らはみんな消しておいたぜ!優勝するのはこの俺だからな!アッハハハハハハ!!」
これはとんでもなくマズイ状況だ。他のプレイヤーが居るかもという心配も希望もどうやらニグマに握りつぶされたらしい。なんということだ。
ニグマ「お前で30人目だぜ。アシル」
アシル「!!」
ニグマ「最初からお前に目を付けていたんだ。見るからにゲーマーでそれでいてズル賢そうなお前は俺の障害になると踏んでいたんだ。予想通りお前は俺と同じ森の中で転生し生き残った。お前がどんな経験を積んできたか知らないが、死んでもらうぞ」
そう言い終わるとニグマは鋭い魔法の槍を振りかざし周囲に旋風が巻き起こった。赤黒い風が吹き荒れる。
商人「ちょっと困りますぜ旦那!店の前でやられちゃあ!お客さんたちもパニックになります!!」
ニグマ「へへっそうかな?」
市民A「きゃー!ニグマ様素敵ー!」
市民B「ニグマさん!やっちゃってください!」
市民「うおー!ニグマの決闘だ!」
市民たちが歓声を上げてニグマを応援している。完全にアウェーな状況だ。血に飢えた殺人鬼だと思っていたが、どうやらニグマは勇敢な決闘者として城下町の市民権を得ているらしい。辺りでは俺とニグマ、どちらが勝つか賭けをしている人もいる。まるでショーの中にいるような感覚だ。
商人「しかたないですね〜。金塊の旦那!健闘を祈ります!」
どうやら逃げる事は出来ないらしい。シックスはこの騒ぎに来なければいいが。いや、そんなことは今は考えてる場合じゃない。どうにかしてニグマに殺されない方法を考えないと。俺の猛毒でどこまで戦えるかどうか。
ニグマ「行くぞ!!」
ニグマが槍を構え俺に突撃してきた。光のような速さで飛び込んでくる。避ける間もなく俺は後ろによろけてしまった。ああ、もう終わりだな。もう少し楽しめると思ってたけど、優勝はニグマで決まりだ。そう思ってゲームを投げようかと思っていた矢先、奇跡が起こる。なんと槍の一突きが俺の胴体から脇腹に流れたのだ。
ニグマ「!?」
その直後、ギャラリーをかき分けてくる小さな人影が俺に叫んだ。その声の主はシックスだった。
シックス「トイレで待ってたけど!ぜんぜん帰ってこないじゃない!これはどういう状況なの!アシル!」
ニグマ「!?・・・なんだあの娘は・・?」
ニグマがシックスに気を取られている。もうヤケクソだ!このまま戦ってやる!俺は両手に力を込め紫色の液体を分泌させニグマに浴びせかけた。
ニグマ「!?・・・なんだこれは!」
アシル「ニグマ。これが俺の固有スキル「猛毒」だ!
トロールをも討ち取った俺の戦法でお前に一泡吹かせてやるぜ!やーい!お尻ペンペン!!」
俺はニグマを挑発した。頭に血の昇ったニグマが槍を突き立て襲い掛かる。攻撃はトロールの比較にならないほど強力だが、信じられない事に初撃と同じく全て俺に当たる事なく流れ不発に終わる。ニグマは訳のわからない様子だったがひたすら突きを繰り返してくる。
ニグマ「クソッ!なぜ当たらない!おかしいだろ!バグか何か使ってんのか!お前!!」
アシル「へへっ、なんでだろうな?俺にもよくわからねえ」
ニグマ「ふざけるなぁ!!」
ニグマの渾身の一撃で床に風穴が空いた。ニグマは周りにいる市民を気にしているのか攻撃の範囲をピンポイントに絞っている。乱暴に見えるが頭の冴える男だ。その時!ギャラリーに埋もれているシックスが俺に叫ぶ。
シックス「今言うことじゃないかもだけど!あなたが今着ているその民族衣装!ボロボロだったから私が型をとって新しく作って置いたの!黄金郷の特産品を使った"ゴールドコート"っていうの!私の手作りなの!凄いでしょ!」
ニグマ「!?・・・何を言ってるんだ?!あの娘は!!」
アシル「!!・・・シックス!この服に効果はあるの?!」
シックス「凄いのよ!!物理攻撃の回避率が100倍に上がる超レア装備!金剛皇帝に認められた人しか装備できない代物なの!!」
アシル&ニグマ「ひゃ、100倍ィ〜!!!?」
うおおおおお!やったぜ!これでニグマにも勝てるチャンスが到来した!落ち着け俺!とにかく今はシックスを逃すことが最優先だ。すぐさま俺はギャラリーに紛れ込むシックス目掛けて叫ぶ。
アシル「シックス!逃げろ!城下町の周辺に身を潜めるんだ!10分経って俺が帰って来なかったら黄金郷に帰れ!いいな!」
シックス「!!・・・わかった!」
そう言うとギャラリーの間をかき分けてシックスは人の波に消えていった。王女だからか天然だからか非常に聞き分けがよろしい。彼女なら俺が万一死んでも上手くやっていけるだろう。そんな事を思っているとニグマが攻撃を止めて俺を睨みつけてくる。
ニグマ「・・・仲間がいたんだな。お前みたいな陰キャに女がいるなんてよ。まぁいい。お前がどんな隠し玉を持っていてもゲームで優勝するのは俺だ。・・・ようは物理攻撃じゃなかったらいいんだろ?」
ニグマ「道を開けろォ!俺は"必殺技"を打つ!」
市民「!?・・・ニグマのアレが出るぞ!!みんな建物の裏に隠れるんだ!!」
市民達が次々にそう叫ぶと、すぐに群がっていた人々が周りから避難し始めた。一体何が始まると言うのだろう?俺はニグマから溢れ出る尋常じゃない殺気を感じ取った。
ニグマ「正直ここまで追い詰められるとは予想もしていなかった。物理回避の服を何処で手に入れたかは聞き出したい所だがお前はそんな事言うつもりはさらさらないようだな。だったら最初から聞かないさ。お前の積んできた全てをこの手で消し潰してやる!ユメウルフの爪を素材に使ったSランクの最上位武器・ユメミゴコチ装備時に使える光属性魔法槍剣奥義
ギガロ・ブラスターを喰らいやがれ!!!!」
ニグマの槍にまばゆい虹色の光が集まる!辺りは地響きで揺れ地割れが起こる!ニグマは俺目掛けて槍を突き出した。その瞬間巨大な光の柱が一直線に飛んできた。
ニグマ「ギガロ・ブラスター!!!!!」
ニグマの正面の民家は跡形もなく吹き飛んだ。魔法の一撃はすさまじく花壇の花は根っこから飛び、木造の建物はバラバラに吹き飛んだ。それからしばらくしてニグマは槍を掲げ勝利のポーズを決めた。市民達が走り駆け寄ってくる。そして大歓声を上げた。
ニグマ「はぁ。魔力を全て使い切る大技。できれば使いたくなかったが。あんな奴がいたら優勝が怪しくなってくるからな。消して正解だ。」
アシル「痛かったぜ」
ニグマ「!!?」
俺は必殺技が飛んでくる瞬間に自分で自分を殴り付けて"回避状態"にした。もちろん避けきれなくて大ダメージを受けてしまったが。それでも奇跡的に生き残ることができた。俺は本当に運がいい。そして俺は油断しきったニグマの槍を持つ手を全力で蹴り上げた。槍が宙に舞う。唖然としているニグマの首を俺は脱いだズボンで締め上げる。
ニグマ「ふざけるなッ!魔法は効くんだろ!?クソッ苦しい!俺を締め殺す気か!?」
アシル「ああ!喰らったさ!回避しきれず大ダメージを受けた!それでも耐えたぞ!トロールを倒した俺はレベルがさぞかし高いんだろうな!占い師に会うのが楽しみだ!」
ニグマ「!!・・クソッたれが!!」
アシル「ただの布でお前を殺せるとは思ってないさ!俺は途中で気づいたんだよ!固有スキル「槍神の加護」は槍を装備している時に効果を発揮する!つまり槍を持ってなかったら効果がないわけだ。HP自動回復も消えて俺の猛毒が効く!!」
ニグマ「!!」
アシル「俺の勝ちだ!俺はシックスと旅を続けるんだ!こんなところで殺されてたまるか!!!!」
???「2人とも何をやっているんだい?」
俺とニグマは突然現れた風格ある男に引き剥がされた
。ニグマは男に気づくと俺に目もくれずその場から立ち去った。ちゃっかり商店で売っている毒消し草を口に含んでいった。瀕死状態の俺はその人にもたれかかった。
アシル「た、助かりました・・・」
???「ニグマには言ってるんだが、城下町では争い事は避けてほしいものだ。君はそう思うかい?」
アシル「あなたは・・・一体・・・」
王様「私はこのエンド王国の国王・プログだ」