行商エルフ(仮題)後日談
リクエストを頂いた、後日談です。
行商エルフ(仮題)での普段の形式と、夫婦での会話で使われる一般的な形式。
巧く混ぜられているなら良いのですが、駄目だと思われてもそこは実験作という事でひとつ、どうか笑ってやって下さいな。
それと、もうひとつ。
作中にて経過した時間の関係で、世界設定を語る文量が沢山です。そこはご了承下さいませ。
「おう、公都にようこそ!エルフの綺麗なお姉さんと、逞しいクマ獣人兄さんの行商夫婦か!今は車があるのに、歩きだなんて随分物好きな商人も居たものだ!」
「アンタらあの『夫婦神』様にあやかったのか?話に聞いているが、絶世の美男美女だそうだ。アンタらなんてドンピシャだぞ!」
「片や『行商神』様で、もう片や『闘神』様」
「商人達の頂点!特定ルートが無い行商で世界の国々を渡り歩き、交わした契約を違えれば国さえ滅ぼせる影響力を持つ、まさに神!」
「夫は夫で、単身で一軍を無傷にて壊滅せしめた、凄まじい実績を持っている!」
「え?軍は軍でも領軍だから、数が違う?いやいや、とんでもない数には違いないさ!」
「スゲーよなー。あのヒト等、600歳は軽く越えてるんだろ?」
「種族の寿命を軽く飛び越えて、今尚生き続ける生き神様」
「え、進化で長寿命化?いやいや、進化は長い時間をかけてゆっくり変わっていくモンだろ?冗談言うなよ、人類が1代で進化なんか出来ないさ!」
「そんな事よりさ、あんな風に末永く寄り添って生きていけたら、幸せだろうなぁって思うのよ」
「っと待たせたな、その魔具ゲートを通ってくれ!」
「……ん、白?青のままとか、赤で危険称号持ちじゃなくて白?」
「ちょっと良いか?」
「身分証になる物は?」
「……………………あ~。はい、どうぞお通り下さい夫婦神様方。先程のアレは恥ずかしいんで、聞かなかった事で。お願いします」
門をくぐった後。
門番さん達の詰所に置いてあった、地球で言うラジオの音に混じって後ろが少し騒がしくなった気がしますが、多分気のせいでしょう。
昔は門番が全てを判断していましたが、今は先程言われたゲートにて大体の判断が行われています。
門番さんの役割は、挙動不審な人物が居ないかの監視が主となったのです。
……あ。妙な魔力がお城の方向?に、いま飛んでいきましたね。発信元は詰所でしょうか。
門の向こうですが、昔みたいな中世ファンタジー風の街並みがほとんど消え去り、鉄筋コンクリートをはじめとした地球……日本の70年代以降みたいな建材が沢山使われた、近代的なものが主流となりました。
建材の頑丈さは、こちらの世界の方が上ですね。
建材を作る際に魔術的加工を施されていますので、段違いなのですよ。
もちろん例外の街並みもありますよ?聖地だとか旧王都だとか、歴史や当時の雰囲気をウリにした都市は、昔ながらの外見を意識して残しています。
死に別れた夫と、転生と言う形で再開してから既に600年。
こちらは魔物と言う危険な存在がはびこる為に、地球みたいに簡単には技術交流が出来ず発展が遅いですが、それでもゆっくり、この世界のペースで発展しています。
街道は半端な整備で凸凹の所も多いし魔物もいますから、この世界で発展した乗用車は荒地に対応した、速度より衝撃吸収や頑丈さを主眼にした車両ばかりです。
……私達は【身体強化】して走った方が速いと言う、ね。
ちなみに技術交流の要は、我々行商人ですよ?
特に私達夫婦は特殊ですからね。的確に発展へと寄与する技術を見抜き、他国へ紹介する架け橋になっています。えへん!
…………あー、私の年齢は訊かないで下さいね?
称号の【世界最高齢】を見る度に落ち込むんですから。
超長寿でお馴染みの、意志疎通できる上位以上の竜・龍さん達の寿命がこの世界では1000年だと知り、それを軽く越えてしまったのを意識したくないのです(にっこり)
夫の話に戻りますね。
夫と再開してすぐ。私と生き続けるために、同じ超長命種である“古代種”になりたがりました。
その目的で手っ取り早いのが、私達夫婦が転生特典でもらった【絶対記憶】スキルの悪用。
自身の種族の歴史を記憶し【○○の語り部】と言う称号を取って寿命が3倍以上伸びる高位種へ。
それから世界全体の歴史を記憶して【世界の語り部】を取得して古代種へ。
私が200年は費やして歩んだ道ですね。これを狙いました。
それで夫へ私の【絶対記憶】から投影して【無限収納】に入ってる紙へ印刷した各種歴史文書の束を渡したのですが、パラパラ~っと流し見してあっさり。
1日足らずで【世界の語り部】取得。古代獣人種へ進化。
世界中の国々を回って、国々からの信頼を勝ち取って、城の書庫にある歴史書を読ませてもらって歩いた苦労が、こんな短時間で…………。なんてあの時は丸1日位不貞腐れてましたね。
なんで語り部になるだけで、寿命が延びるのか?
人類の様々な記録を、正確に語り継いで欲しいのでしょう。善行しかり悪行から学ぶ教訓しかり。
人類は都合の良いように記憶・記録をねじ曲げますからね。
他にも、石板等の古すぎて読めない文字とか、正確に翻訳して読み取れる者はまず居ないでしょう。
その目的に沿うものとして、世界の語り部は“世界の記録”の閲覧権を有します。人類が紡いで、ねじ曲げて記録した歴史ではない、正確な歴史を見られる権利。
余談として異世界転生をしている私達は、向こうのレコードも閲覧出来たりします。
色々と回想しながら大通りを歩いていると、こちらに気付いたエルフや獣人達が皆、眼を丸くして硬直して動きません。
「私達を知っているにしても、あの反応は過剰じゃないかしら?」
思った事がつい口から出てしまいましたが、夫がそれを拾ってくれました。
「同種のはずなのに、進化したら身体能力や魔力、容姿とかが段違いに良くなるからね。似てるのに違う、その強烈な違和感が気になって仕方がないんじゃないかな?」
なんて分析したようですが。
「案外その良くなった容姿を見て、ただ単純に見惚れていただけじゃないの?」
かもしれないな。なんて軽く笑う夫でした。
そんなヒトが、突然どこかを向いて止まりました。
「フィン。あの店で久し振りに挑戦してみないか?」
夫……アナンタボガの視線を追うと、そこに有ったのは“大地の悪戯”と書かれた看板の装飾品店。
装飾品店で挑戦。その条件で出てくる記憶は、NO【鑑定】一発購入チャレンジですね。
「受けて立ちます。今度こそ良い物を引き当ててやりますよ」
意気込んで入りましたが、いきなり目に入った商品棚から妙な因縁を感じました。
そこに有ったのは、懐かしの呪われた宝石。
とある職人達や、それらの製作物が有名になった街。
そこの工芸博物館で見せ物として展示されていた、盗難対策の為の宝石。
2つ1セットで、間違った取り方をすると大変な目に遭う、トラップ宝石。その片割れ。
あの街は既に無いです。街を欲した他国の侵略部隊に滅ぼされました。
当時私達もその場にいて、敵に奪われる位なら『行商神』様達に譲れるだけ譲るってなりまして。
頂いたお礼として、避難誘導や家財の持ち出し。その他なんでも手伝いました。
結果として侵略軍は、少しばかりの領土とほぼ空っぽ(残したのは無価値の品やトラップばかり)の街だけ。骨折り損のくたびれ儲けって奴です。
おっと、装飾品を選ばないと。
……むむむ。リベンジの気持ちを込めて、再びのイヤーカフスです!!
購入して店の外の壁に寄り、お互いの品を見せ合う。
手の平にのせて、お互いの鑑定系スキルを発動。
夫は【詳細解析】で、私は更に成長して【眼】です。
「私のは……微振動と微湿?振動は分かりますが、湿?微妙にしめり気を帯びるって、何を目的にした魔具なのでしょうかね?」
困り顔の私を、夫が笑いながら見ています。
「こっちのは聴力強化のネックレス型魔具だね。実用性ならこっちの勝ちだ」
勝負ではなかったはずですが、それでも少しムッとなりました。
なんだか悔しいんですよ。機会があれば、次こそは!
魔具に言及していませんでしたね。
実際のところ、ほとんど魔道具の劣化品です。
適材適所で、全く使えない物でもないですが。
魔道具に込められているのが魔法で、魔具が魔術。
魔術は魔法程の自由度は有りませんが、適性の概念がないのが特長。
勉強して呪文を唱えれば、体から勝手に魔力が出てきて発動する、そのお手軽さがウリ。魔法を技術として使えるようにした、1種の学問ですね。
私達が行ってきた、魔法と科学の融合。
それに対するひとつの答えである。と言うにはなんだか複雑です。
欠点は地球の古いゲームの魔法みたいに、使用するヒトが持つ魔力の強さは魔術に影響しない所。
例えで言うなら、いくら強い魔力を持っていても「今のは上級攻撃魔法ではない……初級攻撃魔法だ」が出来ません。
それと魔法ほど自由度がありません。魔法の結果を規格化して再現するのが、魔術なので。
あとは魔具化するには呪文を刻む必要があるので、大抵大型になる。装飾品型の魔具の効果なんかは、お察しです。
でもそのお手軽さが重要で、普及した結果で魔法は駆逐されて、幻に近い力となりました。
……なのですが、途絶えさせるのはやはりつまらないし勿体無い。
ですので私の故郷(隠れ里)でしっかり魔法を教えています。
【魔力感知】や【魔力操作】を覚えて、魔法を使うイメージさえ掴めれば、魔法なんてすぐ使えるんですよ?
一応行商で立ち寄った他の所でも地味に教えて回っていて、なんだか最近は本業より、魔法の講師をしている時間の方が長い気もします。
現在は購入した装飾品の愚痴やこの後の行動予定を、公都ほぼ中央にある噴水広場隅のベンチで、休憩がてら打ち合わせ。
手にはそれぞれ、途中の屋台で買ったファストフード。ジャンクな味とか、時々恋しくなりますよね~。
そんな夫婦のささやかで幸せな時間を邪魔する、失礼なダミ声が飛んできました。
「貴様達『夫婦神』と呼ばれて、イイ気になっている二人だな?」
「この公都の管理者から、今日の夕方に召喚命令が下っている」
「言い訳は無用だ!この召喚状に書かれている時間と場所に来るように!無視したら逮捕されると覚悟しろ!!」
公都のお役人さんでした。このヤギの獣人さんは、とても偉そうにその召喚状を放り投げると、足早に去って行きました。
「具体的な事は書かれていないのかな?」
書状を確認している私に訊ねてきますが、返事は首を縦に振る位しかないです。
証拠として手渡しますが「本当だ。場所と時間以外、全然書いてないね」と納得されました。
不親切な書状を押し付けられて、いい気分にはとてもなれません。
こんな面倒事はさっさと済ませるに限ります。
本当なら先制してレコードにて色々調べてから向かうのですが、さっきのはあんまりにもアレなヒトでしたからね。【眼】を使うと言う考えすら奪われてしまいました。
なのでとれる手段は現場での臨機応変な対処のみ。
対策を考えるのはそこまでにして、他にする事として商業ギルドへの挨拶を済ませ、“イチョウ並木の木陰”と言う宿をとり、時間近くまで時間を潰しました。
宿と言えば、夫婦性活のマンネリ打開で地球のオトナな動画を投影魔法で見て、どうイチャつこうか2人で検討しているとですね?
極稀にですが、主神様が魔法に干渉して来るようになったのですよ。「我なのじゃ!」って。
それでですね、色々面倒な事を押し付けてくるのです。
やれ○○へ行って宗教家の暴走を止めろだの、やれ○○で国の争乱が起きるから未然に防げだの、果ては1000年に一度しか咲かない魔力から生まれる花を摘んで我に捧げよだの。
変わり種は、とある聖女の称号持ちが王太子から婚約破棄されそうで、それを許すと結果的に世界が危機を迎えるから、婚約者のいる王太子や上級貴族令息に取り入る下級貴族令嬢を排除しろ。なんてのも。
某職人の街に立ち寄って、街のヒト達を逃がすのもお使いのひとつでした。
そんな事をしていたら【神々の使徒】なんて称号が生えていました。
効果を要約すると、物理由来でも魔法・スキル由来でも状態異常完全無効。
魔法・スキル禁止エリアやそんな結界だって、直接的に神々以上の力で干渉してこなければ、影響を受けません。
でも夜に夫婦でするソフトな遊びならば、縛れるから不思議。
子供は~……残念ながら、古代種はほとんど産めない体質みたいです。
~~~
時間になり、召喚状に書かれた場所へ出頭。
そしたら急に始まった、裁判と言う名の糾弾劇。
夫と再開する前は大体の国が絶対君主制だったのですが、いつの間にか各国に法律が出来上がっていました。今までとは違い、君主でさえ緊急時でなければ違反したら罰される、君主より法が重い仕組みの。
つまり、ここは裁判所です。地球じゃあり得ない、出頭直後の超高速開廷にビックリ。どれだけ気合いを入れて手ぐすね引いていたんでしょうかね?
ん~~。来ているのは、主に普通の人間種ですかね。他の種族もチラホラ居ますが。
あ……あの書状を放って来たお役人さんが、傍聴席でニヤついて見てますね。
「貴様達には、魔術や魔具の違法改造、違法利用の嫌疑がかけられている!」
「通常の魔術や魔具では、到底出せない出力だと聞いている!」
「証言は貴様達が通過した、あらゆる場所から取れている!」
「いち個人が使うには、あまりにも危険すぎる技術だ!今なら貴様等が所持する全魔具と資産75%を没収、1年の懲役で済ませてやる!!」
呆れた言葉が出てくる出てくる。
私達夫婦が主に使っているのは、魔法と魔道具。
魔道具も遺跡から出土される程度しか発見されないと言う、悲しさ。
まあ私の里では、今でも魔道具を作れているのですが。
でもまあ、こんな下らない茶番に付き合っていられない。
夫に目をやると、向こうもこっちを見ていました。
良いですよね、つうかあの仲って。
ふたりで作業の分担。ささっとここに居る連中を【眼】で確認します。
あら、この方達は本当に裁判官なのですね。
【汚職裁判官】の称号持ちですが。
それからレコードを閲覧。
夫は連中の繋がりを。私は金の動きを。
……へー。袖の下は当たり前。判決ねじ曲げお手の物。
裏帳簿もバリバリつけてますね。
うわ、後ろ暗い所にお金を配ってますね。アレでしょうか?判決ねじ曲げに邪魔な証人を消すのを依頼してるとか?
糾弾の声をしばらく無視して、作業完了。
成果をお互いで確認。うむ。
結果、魔術と魔具偏重の風潮を促す原因を知ってしまいました。
「聴いているのか!?罪を認めろっ!!」
「この裁判の目的?お前達を断罪する為以外に無いぞ!」
「は?総合生産ギルドの魔具部門と、ズブズブな関係?そんな事は無い!」
「魔法と魔道具を完全に排除して、魔術と魔具だけの世界を目指す障害になっているお前達の排除で、魔具の所から多額の金をもらった?違う違う!!そんな証拠は無い!!!」
「なんでその契約書がお前らの手にっ!?…………しまった!!」
「なんだ!この光の鎖は!!身動きがっ!この部屋は魔法も魔道具も使えないハズなのに!!」
載るんですよ。レコードで人物の所に。当人が交わした契約書とかも。
邪魔な私達の動きからこの公都に来ると予想して、先回りしてこんな手を使ってきたようです。
それをこうやって投影魔法で紙に印刷。証拠の複製ですが、マトモではない裁判ですし、これで十分。
身動きを封じて、目につく所へ一揃いの証拠書類(複製)を置いて、このままどこかへ通報の流れ。
「……今回は城では無いですね。商業ギルドでしょうか?」
「そうだね、こっちを狙い撃ちしてるし。生産ギルドの魔具部門へ反撃するなら、商人達からの不信感とか買い控えが一番かな」
「では早速ギルドへ」
「ついでに汚職裁判官を抱えている公都である事も、カミングアウトだな。しばらくここは大変になるんじゃないかな~?」
おう、オメー等!そのまましばらく芋虫になりきって、遊んでなぁ!!
もっともっと楽しい地獄がやってくるぜぇ!!ヒャッハーー!!
「フィン、イライラの原因を潰せたからって、被った猫を捨てすぎだよ」
「あらあら、心の声が聴こえてしまいまして?これはウッカリ。ヲホホホホ!!」
「……酷いテンション。今度はなんか変なのを被っちゃったよ、このヒト」
~今回の件で、夫婦神から報告を受けた後の商業ギルド
「全員聴け!」
「どうした?ギルマス」
「なんだなんだ?」
「慌てるな、ほらお茶」
「あ、私のお茶が……」
「ええい、静かにしろ!!おう、お茶どーもなっ!!」
『…………』
「良いか?……コホン。総合生産ギルドが滅亡する!!」
『な……なんだって~~!!?』
「あの馬鹿ドモ。組織の一部が暴走していたのに、阻止せずそのまま夫婦神様方にケンカを売りやがった!」
「……本当に馬鹿じゃねーか」
「はいかいさーん。これからは生産ギルドを通さない買付が主流になるのかなー?良くてギルドの分裂かなー?」
「……細かい仕事が、増えるんですね(涙)」
「それだけじゃない!ギルドがここの裁判官を抱き込んで、好き放題していた証拠も夫婦神様から頂いた!」
『うわぁ……』
「お前らのお得意様を保護する(囲い込む)なら今だぞ!急げよ!!職員はギルド本部へ連絡を!」
「チクショー!いきなり大仕事だー!!」
「ク○生産ギルドめっ!!とんだ面倒を押し付けやがってぇ!」
「ああもう!受付嬢にコナかけてる場合じゃねえ!!他の連中にも緊急連絡だオラァ!!!」
「……今日残業の心配どころか、数日泊まり込みも覚悟しないと。フフフ……(止まらない涙)」