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単語カードの【表/裏】

 単語カード―――――!

 表はもちろん裏にも書き込み可能な小さな短冊たんざく型のカードを、リング状の金具でひとまとめにした手のひらサイズの物で、主な使い方としては表に【問題/】、裏に【/答え】をあらかじめ記入しておき、時間があるときなどに表の【問題/】を見て答えを考え、答えがわかったわからないに関わらず思考を終えたら裏の【/答え】を見て自分の回答が正解か否か確認するという学生のみならず社会人までもが愛用している暗記必需品あんきひつじゅひんだ。


 だが、僕はそんな単語カードに新たな使い道を見出したのだ!

 僕は人と話すのが得意ではない。そんな僕が見出した新たな可能性――――それは――――!


【好きです/】


 告白である!

 一番上のカードに伝えたいことを記入し、好きな子へ渡す。

 するとどうだろう。裏面に返事を書かれた状態で返ってくるのだ。


【好きです/I love you.】


 これ返事じゃなくて回答! 英語訳にしただけだろ絶対! 正しい使い方だけども!


【あなたが好きです/】


 渡す。


【あなたが好きです/I love you.】


 まったく同じ答えが返ってきた。

 あってるけどあってない!

 もっと直接的に書いたほうがいいのかな。


【千里さんのことが好きです/】


 渡す。

 今度こそいける・・・!


【千里さんのことが好きです/I love TISATO.】


 違うそうじゃない。

 路線変更。英語で返されない書き方にしよう。


【1+1=?/】


 渡す。

 さぁどうくる!?


【1+1=?/2】


 そこは普通なのかよ!

 でもこれでわかった。数式ならいける!


【僕+千里さん=?/】


 渡す。

 なんてくる・・・!?


【僕+千里さん=?/沈黙】


 どゆこと!?

 はっ・・・!? いまのこの状況がまさにそれじゃん!沈黙状態じゃん!

 も、もっと直接的な表現でなければ伝わらない、ということか・・・。


【千里さんは撲のことどう思ってますか?/】


 こ、これならさすがに伝わるだろう。


【千里さんは撲のことどう思ってますか?/漢字の間違い探し?】


 えぇっ!? なんで!? 漢字の間違い・・・あっ!?『僕』が『撲』になってら・・・。

 く、くじけないぞ・・・想いは伝えてみせる・・・! たとえフラれることになったとしても!


【ぼく、千里さんとお付き合いがしたいです。返事はノーかイエスでお願いします/】


 書いてしまった・・・。

 漢字も含めて間違いようのない文面。返事もノーとイエスに限定した。

 これなら・・・!


【ぼく、千里さんとお付き合いがしたいです。返事はノーかイエスでお願いします/イエス】


 ・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・・・・まじか。

 ついに・・・ついに・・・。


【どこに買い物行くの?/】


 喜んでいたところへ不意打ちをくらう。

 『付き合う』の意味を勘違いしてるパターンね。

 ・・・・・・わかってたよそういうオチだって!


【どこに買い物行くの?/千里さんの家でごはんが食べたい】


 もうどうせなにを言っても変な方向に解釈されるんだからこれでいいや・・・。


【今日?/】


 あ、ごはんはオッケーっぽい。


【今日?/今日がいいです】


 自分でもなんて大胆なことを書いているんだろうかと顔が熱くなるが、千里さんは僕のこと〝男〟として意識していないみたいだし、変に意識しているこっちがバカみたいに思えてきた・・・。


【今日はかわいい下着はいてないから、明日にしない?/】


 下着・・・?

 食事するだけなのになぜ下着がかわいくなければダメなのだろうか・・・?

 ・・・・・・。

 ・・・・・・いやまさか。千里さんに限ってそんなことあるはず・・・。


【今日はかわいい下着はいてないから、明日にしない?/わかりました。明日はかわいい下着を見せてくれるってことですよね?】


 僕の勘違いであれば、これは変態による一文だ。

 でも、そうでないとすれば・・・。


【期待していいよ♥ ちなみに好きな色とか種類ある?/】


 決定的だー!!!

 ハートマークもあるし、好きな下着の色とか訊いてるし・・・。

 これで勘違いということはさすがにないだろう。ないと思いたい。


【期待していいよ♥ ちなみに好きな色とか種類ある?/あんまり詳しくないけど、黒のレースとか?】


 な、なんてすごいやりとりなんだ・・・さっきまでボケとツッコミをしていたとは思えない・・・。


【そうなんだ。見せないけど♥/】


 おいぃぃぃ!?

 上げて落とす作戦か!?

 なんだよさっきまでベッドシーンまっしぐらな会話・・・じゃなくて文通してたじゃん!


【そうなんだ。見せないけど♥/ですよねー】


 僕は千里さんに遊ばれていた・・・そういうことか・・・。


【こらこらもっと食い下がってきなさい/】


 ・・・え?

 なんだこれ・・・つまり・・・遊ばれていたわけではない・・・?

 もしかして、試されていた・・・?


【こらこらもっと食い下がってきなさい/どうしても千里さんの下着が見たいです】


 この返しでどうだ!?


【変態さんだー/】


 こ、これはこれ以上踏み込んだことを言ってもいいものなのか!?

 それともやっぱり冗談・・・?


【変態さんだー/胸も触ってみたいです】


 踏み込んでみた。


【いいけど明日ね/】


 ひゃっほう転機きた!

 これがモテ期ってやつなのかな・・・。


【いいけど明日ね/ありがとうございます!】


 翌日、僕は千里さんに童の貞を捧げることとなる・・・。


【今のやりとりを口に出して再現できたら、胸でもどこでも好きにしていいよ?/】


 ・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・。


【今のやりとりを口に出して再現できたら、胸でもどこでも好きにしていいよ?/無理です!】


 さよなら僕のモテ期・・・。



 単語カードの【表/裏】

       ―――終―――

「」(かぎかっこ)を一切使わず単語カードを使ってみたらおもしろいかもしれない。

そう思って書いてみたのですがいかがだったでしょうか。

楽しんでいただけたのなら幸いです。

そうでない方は更新をお待ちくださいませ。

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