最高傑作の甲冑チャン
投稿予定時間までに投稿できることが、とても嬉しい今日この頃。
城の内部を走りながら、ルクアは息を切らしながら言った。
「トゥルーのベッドの上に、私たちが今見ている風景が分かるモニターがあればいいのに。そうすれば、トゥルーに直接動きの指示を仰ぐことができるのに」
すると、しばらくしてトゥルーの声が聞こえてくる。
『……あまりけが人を酷使しないでほしいんだがな。しかし、その手があったか。……この先のつきあたりを左に曲がれ。そして曲がったらすぐしゃがめ』
「しゃがむ? しゃがんでたらつかまっちゃうんじゃない?」
『いいから、死にたくなかったら言う通りにしろ』
「分かった。みんな、次の角を左に曲がったらすぐにしゃがめってさ。問答無用だよ」
ルクアは一行の先頭に出る。そして、トゥルーの言う通り通路のつきあたりを左に曲がった。そして曲がってすぐに、しゃがむ。他のメンバーも少し疑いながらもしゃがんだ。すると、曲がった先の通路の一番奥にある絵画の一点が光ったかと思うと、ものすごい勢いで、光の玉が飛び出しルクアたちの頭上をかすめていった。そして、後ろから来ていた甲冑に命中する。甲冑は、バラバラに砕けた。
「あー、やっぱりファンタジー小説によくある、人が入ってない甲冑さんだー」
ルクアが甲冑を見て言った。その時、壊れた甲冑の向こう側にまた先ほどの2人組が姿を現した。灰色と黒の髪色をした青年が、壊れた甲冑を屈んで見て言った。
『嗚呼! わたしの最高傑作、甲冑1号チャンがぁっ』
『……いい気味だ、まったく』
トゥルーの小声を通信機が拾う。甲冑のパーツを握りしめて、青年は立ち上がって言った。
『仕方がない、大盤振る舞いだ。行け、甲冑2号チャンから5号チャン!』
「おかわりとかいらないんで! ご飯だけで大丈夫なんで!」
ルクアは言って、走り出す。ベンジャミン、ラトゥールが続く。トゥルーの指示の声が届く。
『……仕方がない、甲冑さんにはおじゃんになってもらおう。……このまままっすぐ進め。そして、つきあたりを右に曲がる直前の絵画にぶつかれ。それで甲冑さんとは、おさらばだ』
ルクアは頷いて、通路のつきあたりまで走る。そして壁につけられた絵画に体当たりした。すると、ちょうど甲冑たちが走ってきていた床の部分がパカッと割れて、甲冑たちは奈落の底へ消えた。数秒後、金属が地面に衝突するすさまじい音が鳴り響いてきた。
2人の人物は落とし穴を黙って見つめていた。ルクアたちも一瞬逃亡をやめて、2人の様子を見守る。灰色と黒の髪の青年は、がっくりと膝をついて言った。
『わたしの……わたしの最高傑作チャンたちが……』
『元気出しなよ、ファクト。またこっちで作ればいいじゃない』
女性は、青年の背中をさすってあげる。ルクアが申し訳なさそうに言った。
「あの……、ごめんなさい。敵とはいえ、あなたの大切な最高傑作さんを壊してしまって」
ルクアの言葉に、青年と女性は驚いた顔をする。そして女性は言った。
『あなた、物語修正師候補生よね? 1つ聞いてもいいかな? さっきから罠の場所を知っているような様子だったけれど、もしかして誰かこの城のことをよく知っている協力者がいるの?』
『ルクア、よく見てよ。向こうにはラトゥールがいるんだ、知ってて当然だろう?』
膝をついたままの青年が、女性を見上げる。それを聞いて、女性は懐から眼鏡をとりだす。そして眼鏡をかけると、じーっと一行を見た。
『あ、ほんとだ、ラトゥールさんだ。でも、ラトゥールさんってそんなに罠のこととか詳しかったっけ』
「ラトゥールくん、彼女たちと知り合いなの?」
ルクアが小声で言った。すると、ラトゥールが小さく頷き、小声で返す。
「さっきいきなり襲ってきたから言えなかったけどぉ、知り合いだよぉ」
「トゥルー、あなたもここにいるって言った方がいい?」
ルクアが尋ねると、一瞬通信機の向こう側は沈黙した。しかしすぐに返答がくる。
『……いや、わたしがいることはとりあえず黙っておいてくれ。少なくとも、命の泉が見つかるまではな。おそらく、わたしがここにいることをそう簡単に信じてはもらえないだろうから』
「分かった」
それだけ返答すると、ルクアは2人の人物に向けて言った。
「すみません、先を急ぎますので。とりあえず、命の泉も魔力倉庫も悪用するつもりはありません。白の女王からの命令でも、ハートの女王様からの命令でもありません。ただ私は、私の大切な人のために、ここへ来てその2つを探しているだけです。だからどうか、先へ進むことを許してください」
そう言ってベンジャミン、ラトゥールと共に歩き出す。青年にとって、最高傑作を壊されたショックが大きかったのか、2人は追ってくる気配がなかった。
ルクアたちはトゥルーの指示で城の内部を進む。しばらく進んでいると、後ろを歩いていたラトゥールが言った。
「ねぇねぇルクアさん、ルクアさんの鞄から光が漏れ出してるんだけどぉ、懐中電灯か何か入れたぁ?」
「さすがにそんな便利グッズを入れた覚えはないんだけど……」
そう言いながらルクアは、鞄の中を見る。すると図書館でクレールが取り逃がし、ルクアが確保した本が光り輝いていた。ルクアは恐る恐る本を鞄から取り出す。そして、小脇に抱えた。すると本の光が一筋の道のように伸びた。トゥルーが言った。
『……おそらく、その本とどこかの扉が魔法によって結び付けられているということだろう。その光に沿って進んでみろ』
「分かった」
ルクアは言って、光の筋を追って走り出す。他の2人もそれに続く。すると、ほどなくして1つの大きな扉の前に出た。扉の中央には、何かをはめ込むような大きなくぼみがある。光の筋は、そのくぼみに発せられていた。
ベンジャミンが扉を押してみるが、扉はびくともしない。
「もしかして、この本をこのくぼみに差し込むのかな」
ルクアが言って、本をくぼみに押し当てる。すると、本がぴったりと、くぼみにはまった。そして本は淡い光に包まれたかと思うと、本からぽとりと鍵が1本現れて、床に落ちた。ルクアがそれを拾い上げる。それとほぼ同時に、扉が大きな音を立てて開き始める。
「本としての役割じゃなくって、鍵の役割を果たしていたんだね」
ルクアが感心したように言うと、後ろから別の感心したような声が聞こえてきた。
『そう、その本は私が適当に作った物語の本であって、中身なんてないようなもの。本当は、この扉を開けるための鍵の役割を果たすために生み出したもの。誰でもこの先に進んでもらうわけにはいかないからね』
『わたしの大事な最高傑作チャンを破壊した君たちだ、ここまでたどり着けると思っていたよ』
後ろに立っていたのは、先ほど打ちひしがれていた灰色と黒の髪をした青年と、女性の2人組だった。女性は笑ってルクアに行った。
『よくぞ、ここまでたどり着きました。……いやーこの言葉、1度言ってみたかったんだよねー』
そして言葉を切って、女性は言った。
『この先は図書室だよ。ここに、私たちや白の女王の秘密も眠っている。案内するからついてきて』




