作業分担
またまた大遅刻でした!遅くなりました!もう物語も終盤ですね。
GW10連休は、小説を打てない環境にいる予定なので、どこまで話のストックが作れるかが課題です。
「クレール!? お前どうして!?」
ティアシオンの声に、通信機からクレールから返答がある。
『白の女王様から支給されている通信バッジは処分されてしまったと思いますが、トゥルー先輩の腹心の部下であるぼくとの通信手段まで失くされると困ります。なので城を出る前、先輩に別の通信用バッジを持って行ってもらったんですよ。先輩が城にいた時から通信をオンにしてくれていたおかげで、だいたいの事情は把握しています。先輩は、ルクアさんを庇って負傷した。負傷させた相手は……』
「ジャバウォック……ですか?」
フィアの言葉に、クレールが通信機の向こうで拍手する。
『ご名答、です』
「ジャバウォック!? あの鏡の国のアリスに出てくる怪物? フィア、よく分かったね」
ルクアは感心したようにフィアを見た。
『彼は、あくまで物語修正師によって生み出されたオリジナルのジャバウォックです。しかし、物語修正師によって生み出されたこの世界のキャラクターの中で、最強の存在といってもよいでしょう。いずれにせよ、彼を倒さなければトゥルーの完全復活もこの世界の救済も、成し得ないでしょう』
「でもあんなやつ、どうやって……」
ティアシオンの問いには答えず、クレールは言った。
『まずは、トゥルー先輩を助けるために祈りの泉へ向かう必要があるかと』
「泉も倉庫も、爆破されちまったんじゃなかったか」
『いいえ。表向きにはそのように伝えられていますが実際は、まだちゃんと残っています。祈りの泉で傷を癒し、魔力倉庫で魔力を回復する。それしかトゥルー先輩を救う方法は、ないと思います』
ティアシオンは腕組みをして考え込む。その時だった。以前フィアたちが城へ行くのを阻んだのと同じくらいの強さの雨が急に降り始める。窓の様子を見ながら、トゥルーが吐息とともに言葉を紡ぐ。
「……どうやら、本当にあまり時間が残されていないらしい」
ほぼそれと同時に部屋に置いてあったルクアの鞄から、銀髪の少女が飛び出してきて叫ぶ。
『大変よ! もう本当に時間がない!』
「……だそうだ。わたしのことは見捨てろ。じゃないと、全員死ぬことになる」
「バカ! お前を見捨てるくらいなら死ぬ方がマシだし、そもそもお前なしでジャバウォックと戦えるはずがねぇだろうよ」
ティアシオンとトゥルーが言い争っていると、クレールが言った。
『ぼくは白の女王軍にいながら反乱を考えている人たちを集めます。その前にルクアさんに1つお願いがあります。ぼくを、あなたの協力者にしてください。物語修正師候補生の旗のもとになら、たくさんの人が集まるでしょう』
「協力者って、契約者ほどの力は持たないけど、物語の住人と物語修正師が結ぶ契約みたいなものだっけ。もちろん構わないけど、何か手続きとか必要かな?」
『いいえ、何もいりません。あなたの許可の言葉、それだけあれば十分です。それでは、行ってきます』
それだけ伝えて、クレールからの通信は切れた。トゥルーはふっと笑って言った。
「……あいつは、言葉があれば十分だ。そういうやつだからな」
すると、今度はフィアの胸のバッジから声がした。
『ハートの女王軍にいるやつで反乱考えているやつらは、オレが集めたるわ』
フィアが驚いて飛び跳ねると、まるでそれを予想していたかのように声が言う。
『驚かしてごめんな、お嬢ちゃん。前に人生相談のってもろた、ヘルツ言います。あの時はほんまにありがとうな。お嬢ちゃんに話聞いてもらってへんかったら、多分今もあそこで頭抱えとったわ。あの時お嬢ちゃんのバッジに、オレの声をいつでも届けられるよう少し細工させてもろてん。少しでも、何か役に立てたらと思ってな』
フィアの脳裏に、街で出会った赤髪に真紅のコートを着た青年の姿が浮かぶ。ヘルツは朗らかに言った。
『相棒がおらん今のオレはフリーでな。あんたの協力者として、協力させてほしい。物語修正師候補生やったアイツを救うためにも、よろしく頼むで』
「こちらこそ、よろしくお願いします」
フィアは嬉しそうに言う。すると、通信機の向こうでヘルツも笑っていた。
『ほな人集めとくから、戦う準備できたら声かけてな』
そこでヘルツとの通信は切れた。銀髪の少女は言った。
『おそらく、今動ける物語修正師候補生は、あなたたち以外にいないみたいね。時間がないわ。ルクアチームとフィアチームに分かれて行動しましょう。ルクアチームは、トゥルーの回復のために行動する。フィアチームは、打倒ジャバウォックのために行動する』
「それしか方法はなさそうですね。どう分けましょう」
『トゥルーは現状戦える状態じゃないわ。ルクアとトゥルーだけじゃ、戦力的に不安ね。ランベイルとアリスは、ルクアたちと一緒に行ってもらう方がいいんじゃないかしら。……でも、ジャバウォックを倒す武器が置いてある場所なんて、絶対警備が厳重よね。どうしたら……』
その時、ラトゥールの家の扉が乱暴にノックされた音が聞こえた。フィアは、窓から外の様子を窺う。外には、たくさんの街に住む住人らしき人たちが集まってきていた。
「おいラトゥール、何かよくわからねぇが、大変なことになってるらしいじゃねぇか」
「もう少しでこの世界が滅びるとか聞いたぞ」
玄関から出てきたラトゥールは、困ったように頭をかきながら言った。
「そうなんだよねぇ。どうやら、このままだとこの世界は滅亡して、僕たちも終わりみたいだねぇ」
「呑気に言ってる場合じゃないだろ。お前、一応この街の神様的な存在なんだろ!? 今は賭けの成功うんぬんより、この世界が滅びるか滅びないかの方が重要だ。お前、物語修正師候補生について行ってやれ。数が必要なら、オレたちも手伝ってやる!」
1人の声に、他の人々たちも頷く。ラトゥールは驚いた表情をしたが、すぐに笑って言った。
「みんな、ありがとう。そう言ってくれると思ってたよぉ。じゃあ、僕もついて行ってくるねぇ」
「その代わりちゃんとこの世界が救われた暁には、一儲けさせろよな」
「わかったよぉ」
そのやりとりを見て、フィアは言った。
「どうやら、今回はラトゥールさんを連れて行ってもいいみたいです」
『よかった。それなら、もう少し人員を割くことができそうだわね。ラトゥールは、トゥルーの家のシステムに詳しいし、役に立つでしょう。それじゃあ、フィアチームは、フィア、ティアシオン、ランベイル、アリスで行きましょう。そして、ルクアチームは、ルクア、トゥルー、ラトゥール、ベンジャミンでどうかしら』
「悩んでる時間がもったいないからね、それで行こう」
ルクアは言った。しかしフィアがふと思った疑問を口にする。
「でもどうやってトゥルーさんを連れて行くんです? トゥルーさんは怪我をしていて、まともに歩けないんじゃ……」
するとルクアが鞄から、小さな瓶を取り出した。そして得意げに言う。
「この世界に来たばっかりの頃、体の大きさを調整できる薬をもらってたじゃない? これを使うの。トゥルーにはベッドごと小さくなってもらって、私の鞄に入っておいてもらう。通信機はオンにしておいてもらって、指示を仰ぐ」
「なるほど、その手がありましたね」
ティアシオンは、おずおずとルクアに袋を差し出した。きょとんとするルクアに言う。
「もし薬が足りなくなったら。……これを使え。味も形も全然だけど、効能だけは保証する」
「え、作り置きしておいてくれたの? ありがとう」
「……前は効果も期待できなかったが……、成長したんだな」
トゥルーの言葉に、ティアシオンがむっとする。ルクアが笑って言った。
「ごめんね、ティアシオンくん。トゥルー、口下手だからさ。……これでも精一杯褒めてるつもりなんだよ」
ルクアは言ってフィアに向きなおった。そして左手を差し出した。
「それじゃ、ここからは別行動だね。私はトゥルーを助けるために行動して、フィアはティアシオンくんたちと、ジャバウォックを倒す方法を探す。お互い頑張ろう」
フィアも右手を差し出す。2人は握手した。
♢♦♢♦
次の日の朝、フィアが目覚めると既に、ルクアの姿はなかった。どうやら先に出発してしまったらしい。フィアも、いびきをかいているアリスを起こすと旅に出る準備をし始めた。そんな中、玄関扉がノックされる。フィアが慌てて扉を開くと、そこには真紅のチョッキを着た白いうさぎが立っていた。彼は懐中時計をフィアに向けて差し出し、言った。
「久しぶりだね、フィア・アリス。時間がない。君たちを案内したい場所があるんだ。一緒に来てくれるかい?」
その懐中時計はあの夢の中で、フィアがうさぎにあげた懐中時計だった。




