疑惑の兆し
毎回、サブタイトルで悩みます。〇話とかにしてもいいんですけど、やっぱりそれだけじゃ味気ないですもんね。(誤字脱字報告頂いているのに、なかなか直せずすみません。もし気づかれた方いましたら、お知らせ頂けると大変助かります。またまとめて直すようにします)
2019.4.19 エドワードの口調一部改訂。
フィアたちは、いったんラトゥールの家に戻ることにした。辺りはすっかり暗くなっている。ルクアは一行の一番後ろを、いつもよりかなり遅い速度でついてきた。フィアは、ルクアの様子が気になり、何度も後ろを振り返りながら進む。ルクアは、何かを考え込むように俯きながら歩いていたが、突然立ち止まった。ルクアの足音が聞こえなくなったので、フィアは後ろを振り返り、ルクアが立ち止っているのに気づく。
「ルクアさん……? どうしたんですか?」
ルクアは、その言葉で何かを決心したように顔を上げ、一向に向かって言った。
「ごめん。ちょっと私、一人で考えたいことがあるんだ。先に帰ってもらってもいいかな?」
それを聞いて、フィアはティアシオンに言った。
「ティアシオンさん、ルクアさんにお小遣いを渡してあげてくださいませんか? お金がなければ、お酒も飲めませんし」
フィアの言葉に、ティアシオンは自分の財布から適当にお金を取り出して、ルクアに渡す。そして、ぶっきらぼうに言った。
「足りなかったら、フィアに連絡しろよな。何かあっても連絡しろよ」
「ありがとう。ごめん、気を遣わせてしまって」
ルクアはにっこり笑って、一行とは反対側の方向へ走り出した。一行は、ラトゥールの家に向かって歩き始める。フィアは、ルクアの方を振り返りつつ続いた。
♢♦♢♦♢♦♢
一行と別れて、ルクアは昨夜と同じ酒場に1人でいた。まだ日が暮れてからそんなに時間が経っていないからか、昨晩よりは酒盛りをしている人はまだらである。最初に頼んだ酒が苦くなり始めるほど長時間ルクアは、グラスの中の液体の泡を見つめていた。まじめに泡を見つめていたわけではなく、考え事をしていたのである。すると遠慮がちに、しかし棘のある言葉が頭上から降ってきた。
「……。グラスを見つめたところで、酒は増えないぞ」
ルクアが顔を上げると、トゥルーの姿があった。彼はどこか昨夜までの態度とは打って変わって、金糸雀色の瞳を細めてルクアの表情を窺う。ルクアも昨夜のようにトゥルーを睨んだりはしなかった。その代わりトゥルーの瞳をまっすぐ見返して、そっと問いかける。
「……今日も、1人なの? いつもの御付きの騎士さんは?」
「クレールのことか? ……あいつはいつも食事だけ一緒にとって、その後はさっさと部屋に帰っている。酒を飲まないからな」
「そう……」
ルクアはそう答えると、黙る。トゥルーも言葉を続けられず、黙ってしまう。少しの沈黙の後ルクアは小さな体を精いっぱい伸ばして、向かい側の椅子を少しだけ引く。そしてトゥルーに向かって、遠慮がちに声をかけた。
「……せっかくだから、一緒にどう? 今は、業務時間外でしょ?」
トゥルーはその言葉に一瞬驚いた表情を浮かべた。そして一瞬戸惑った表情を見せる。しかしすぐいつものポーカーフェイスに戻り、1つ咳ばらいをしてから答えた。
「……しかたない、付き合おう」
「えー、仕方なくなの」
「……お前1人で飲ませるのは、どうかと思うからな。当たり前のことだが、今度からは酒場へはちゃんと、ランベイルなりティアシオンなりラトゥールなりと一緒に来るようにしろ。すぐ声をかけられるぞ」
「え、何、心配してくれてるの? ありがとう」
「……お前、敵にまで素直すぎやしないか……」
トゥルーが頭を抱える。その時、ふと思い出したようにトゥルーは尋ねた。
「そういえば、ランベイルはどうした? アイツなら酒を飲みに行くと言えば必ずと言っていいほど、ついてくるはずだが?」
「彼は今日朝早くに出かけちゃって、行き先すら誰も知らないみたいだったよ? 気晴らしにナンパでもしに行ったんじゃないの?」
ルクアの呑気な言葉に、トゥルーはまたもや頭を抱える羽目になった。
♢♦♢♦♢♦♢
ルクアとトゥルーが酒場で歓談しているのと同じころ、別の酒場でベンジャミンはヤケ酒をしていた。彼は、自分が旅に同行しても全く役に立っていないことをとても反省する。もしかしたら自分は、一緒についてきてはいけなかったのではないか。そんなことまで考え始めていた。
向かい側の席に誰かが座る気配を感じて、ベンジャミンは俯いていた顔を上げた。そして、目の前に座った人物を見て驚愕の表情を浮かべる。
「エドワード……」
「久しぶりだなあ、ベンジャミン」
それは、帽子屋のエドワードだった。長いこと一緒に店をやってきた元相棒。彼とは、お茶会の街で別れたっきりだった。彼は微笑むと言う。
「君がいなくなってから、色々と考えたんだがね。やっぱり吾輩は、君がいなくては駄目だった。でもね、君はもう既に別の居場所を見つけてしまった。だから、せめて君の助けになるように協力してあげようと思ったのだ。1ついい情報がある」
彼はここで言葉を切ると、言った。
「君たちは、そろそろ次にどう行動すべきか迷っているだろう? もしそうなら、そろそろオリジンのアリスを探しに行くといい。噂によるとアリスは、ここからほど近い、城の中に閉じ込められているらしい。場所が分かりづらいからなのか、アリスを救出しようとする物語修正師候補生が今までにいなかったからなのかは知らないが、警備は手薄のようだ。どちらにせよ、物語を修正するためにはオリジンアリスが必要不可欠であろう。行ってみる価値はあると思うがね」
それだけ言うと、エドワードは立ち上がり、ベンジャミンを振り返って一言。
「それでは、吾輩は失礼する。せいぜい頑張ることだな」
そうして、ベンジャミンの言葉を聞かずに去っていく。ベンジャミンは、ただじっと、去っていくエドワードの後ろ姿を眺めていた。
♢♦♢♦♢♦♢
真夜中。ところ変わってハートの女王の城の城門にて。それは暗雲が立ち込め、真っ暗である。そんな城門を急ぎ足で出てくる人影が1つ。その人影は城門を抜けた先の柱に、腕組みして立っている人物を発見し足を止めた。
雲の隙間から月が出現し、月明かりがお互いの姿を照らし出す。柱にもたれて腕組みをしていた人物……――トゥルーは、城門から出てきた人物に声をかけた。
「……。それで? 結局お前はどっちの味方なんだ、ランベイル?」
その問いに、ランベイルはふっと笑って答える。
「さぁ? 貴方こそ、どちらの味方なんです? どっちつかずな生き方はお互い様ですよ」
「……その生き方が、いつか自分の身を滅ぼすんだろうけどな」
トゥルーが言って、自嘲気味に笑う。そんな2人の様子を月だけが見守っていた。




