ハートの騎士
序盤全然キャラ増えないのに、急に増やしていくスタイル。
アルファポリスランキングタグをポチッと押して頂けると、作者のモチベーション上がります、何卒。
(4月2日 一部文章の改稿、白銀の騎士の青年の髪色の変更を行いました。)
「あやつの羽をまずはむしり取るのじゃ! 下へ叩き落とせ!」
「羽なんて生えてないぞ」
「バカ、言葉の綾だ。まずは、オレたちと同じ地上へ引きずり降ろせってことだ」
赤い服の少女の言葉に反応した部下の一人の言葉に、一際目立つ騎士のような服装をした男が叫ぶと先頭に立って、トゥルーというらしい青年の立つ建物へ近づく。赤い服の男たちやトランプ柄の服装の男たちが続いた。そして、各々槍やとび飛び道具を投げつける。しかし全て、彼の前に見えない壁があるかのように跳ね返り、足元へ散らばってしまう。
悪態をつく赤の一団の後ろで茫然とその様子を見守るフィアたち。そこへ、先ほどの眼帯の青年、ランベイルが足音もなく走り寄ってきた。身構える三人に、彼は身を屈めて言う。
「今なら、女王に気づかれることなく逃げられます。しかし、うまく逃げおおせても身を寄せる場所がなければ、意味がありません。心当たりがないようなら、ここを頼るといいでしょう。……どうか、お気をつけて」
そう言ってアリスに、紙切れを一つ握らせると彼は、一団の方へ戻っていく。集団に紛れる前に一度三人の方を振り返り、早く行けと身振りで伝えてきた。
三人は慌てて、赤の集団のいる方向とは反対方向へ走り出す。赤の一団は、三人の逃亡に気づかない。一際目立つ赤の騎士服の男が指示を出す声が聞こえた。
「魔術の類で、攻撃が阻害されている! なんとかしろ!」
「なんとかしろ、とは。随分な無理難題を部下に押し付けるのですね、貴方は」
ランベイルは、ずれた眼帯をなおしながら赤の騎士の隣へ並び立った。そしてこれみよがしに大きなため息をついて、肩をすくめてみせる。赤の騎士は、ひどく不機嫌な声で言う。
「邪魔をする気なら容赦せんぞ、ランベイル」
「邪魔なんて、とんでもない。忠実な部下が上司の顔を立てようと奮闘する、ただそれだけのことですよ」
ヒラヒラと顔の前で片手を振って笑顔を見せるランベイルを見て、赤の騎士服の男は意地の悪い微笑みを浮かべて言った。
「さっき物語修正師の候補生を逃がしたのを見たぞ。報告したら、打ち首ものだろうな」
「……お好きにどうぞ?」
ランベイルはニヒルな笑いを浮かべ、走り出す。彼が跳ねるたび、まるで空中に階段の板があるかのように、彼は建物の屋根へ近づいていく。そして、ついにはトゥルーと呼ばれた青年のいる建物の屋根へと降り立った。
まるでランベイルが来るのを待っていたかのように、トゥルーは腕組みをして立っていた。ランベイルは、腰のレイピアを抜いた。それを見て、トゥルーが静かに言った。
「……物語修正師候補生の資格を持つ者を逃がすとは。……随分大きく出たな、ランベイル」
「貴方には関係のないことです、トゥルー」
「……ところでその剣は飾りか? いつもの剣はどうした」
「もちろん、これはただの飾りですよッ」
そう言うが早いが、ランベイルはレイピアをトゥルーに投げつける。投げる一瞬前、レイピアが青白く発光したのをトゥルーは見逃さなかった。レイピアは、身を避ける前、トゥルーの胸があった場所を通り抜けていく。通り抜ける際、赤い魔法陣が一瞬浮かび上がってすぐに消えた。
咄嗟の判断でレイピアを避けて態勢を崩したトゥルーの身を、別の鞘から剣を抜いたランベイルの剣撃が襲う。トゥルーは軽い身のこなしでそれらを裁きつつ、後退する。トゥルーを屋根の端まで追い詰めたランベイルは、勢いをつけて一撃をくらわせようとした。
しかし間に白銀の刃が入り込み、トゥルーから軌道をそらされてしまった。ランベイルは態勢を立て直すため、後ろに飛びずさる。2人の戦闘に水を差したのは、白銀の騎士服を身にまとった、トゥルーやランベイルよりは年若そうな青年だった。白花色の髪をした白銀の騎士服の青年はトゥルーを庇うように、ランベイルとの間に立った。そして背中越しにトゥルーへ声をかける。
「ハートの女王軍の制圧、完了しました。……こんなところで油売ってないで、さっさと片づけて帰りますよ、先輩。……今日の夕飯は先輩がおごる約束なんですから」
その言葉でランベイルが、建物の下に視線をやる。するとそこには、白い服を身にまとった男たちが、自分の陣営の人間たちと交戦中だった。しかし大部分が逃げてしまったのか、数はかなり少なくなっている。ランベイルは再び肩をすくめると、剣を鞘に納めた。
「なんだ、ぼくとは戦う気がないってことか」
白銀の騎士服の青年の少しムッとした物言いに、ランベイルは笑って言う。
「……いえ。貴方であれ、後ろの遠距離戦しか取り柄のない男であれ、もう戦う必要がないと判断したからにすぎませんよ」
そういうとランベイルはさっと身を翻し、屋根から飛び降りると、先ほど屋根へと上ってきたときのように、何度か空中で着地してまた飛び降りながら、地上へと舞い降り、白の服の男たちを蹴散らしながら、走り去った。
後を追おうとする白銀の騎士服の青年の肩を、トゥルーが抑える。
「……追うだけ無駄だ。帰城して、報告を済ませてしまおう」
「物語修正師候補生を発見したけれど、先に接触していたハートの女王陣営に妨害され、交戦した。その間に物語修正師候補生に逃げられたとでも報告するんですか?」
「……それでいいんじゃないか。時計を見てみろ。時間外労働だ。……腹もすいたし、帰るぞ」
「先輩……」
女王に報告する、ぼくの身にもなってくださいよ……。白銀の騎士服の青年の大きな大きなため息が、暮れかかった空にこだました。




