落下の終わりと物語のハジマリ
まだ何にも始まってないのに、すでに12話ということに、驚きを隠せない作者です。
そして今日も遅刻。(すみません)明日は多分定刻通りの予約投稿。
でもあさってからは、ストックの作り具合により18時までの投稿になるかもです、あしからず。
「いやどちらかと言えば、中身はそのままで体だけ高校生くらいの時に若返ったという方が正しいかな。さっき鏡で確認したらさ、明らかに高校生くらいの時の顔立ちに戻ってるんだよね。そりゃ、26歳に見えないって思われても仕方ないよ」
「いえ、話す内容が大人だなぁと思って聞いただけなんですけれど……。でも、不思議ですね」
フィアはそう言ってから、アリスの方を振り返る。アリスは、相変わらずファッション雑誌を見るのに忙しい。しかし彼女は尋ねられてもいないのに、答えた。
「あたしは、高校生二年生ですわ。フィアさんも、同じくらいかしら?」
「ええと……はい。わたしは、高校一年生です」
「うわー、私だけオバサンか、辛いわぁ」
ルクアは言って、ベッドごしに再び下をのぞき込む。
「そろそろ、地面が見えてきてほしいものですわ」
落ち続けることにも飽きましたわ、とアリス。
「一生、たどり着かないかもよ?」
ルクアがぼそっと言う。フィアは、ふと思ったことを口にした。
「わたしたち、元の世界に戻れるんでしょうか……」
誰に尋ねるでもなく発した言葉。その言葉に、二人は答えない。重苦しい沈黙は、ルクアの驚いた声によって破られる。
「あ、ついに、『どこか』に辿りついたよ。やったね」
これでもう飛行機のような浮遊感に悩まされることないね、とルクア。3人のベッドは、黒と白、そして赤のチェックのタイル張りの床に着地した。アリスはベッドから降りると、顔をしかめた。
「薄暗くて、薄汚い部屋ですわ」
「さっきまで通ってきた通路の方が明るかったね。ライトならあるけど、いる?」
職場でもらったヤツだけど。とルクアがLEDライトの小さな懐中電灯をアリスに向かって放り投げる。
「あら、気が利きますのね。恩に着ますわ」
アリスは、にこにこしながら受け取る。しかし直後顔をしかめる。
「あらなんですの、宣伝? 会社のロゴを入れないでほしいですわ」
「仕方ないでしょ、会社で作った宣伝用の品物なんだから。文句言わない」
子どもを諭すように言いながらルクアはフィアにも、ともう一つ懐中電灯を放り投げる。
「あ、ありがとう……ございます」
「でもこれだけじゃあやっぱり暗いよね。私、ホラーゲームとかって苦手だしさ。……街灯みたいなものがあると、いいんだけど」
すると、ポフッという音がした。彼女たちから少し離れた場所で小さな灯りがともる。
「あ、ガス灯だ。『不思議の国のアリス』の作者さんが住んでた国にもあったよね」
ルクアが嬉しそうに言う。そして、大声で叫んだ。
「ガス灯さん、ありがとー。これからもよろしくねー」
すると、それに呼応するかのように最初の街灯より向こう側が、どんどん照らされてゆく。
「ガス灯ってどなたがつけてるのかしら」
アリスが不思議そうな顔をする。
「そりゃ、点灯夫さんでしょ」
「妖精さんだと思います」
ルクアとフィアの声が重なる。声を発してから、思わず二人は顔を見合わせる。フィアが、顔を赤くし、うつむいた。妖精さんなんて現実にいるわけないじゃん、そう言われると思ったからだ。
しかし、ルクアの反応は全く違った。
「妖精さんかぁ。確かに妖精さんの方が、この世界には合ってるかも。フィアは、子どもの純粋な心と発想を持ってるんだね。その発想、大事にしてね」
大人になっちゃうと、大抵失っちゃうものだから。そう言ってルクアは少し寂しそうな顔をした。フィアがルクアに声をかける前に、アリスが言った。
「街灯が消えてしまう前に、さっさと先に進みますわよ。ここにいたって、何も始まらないですわ」
「え……。危なくないですか? ここで、助けを待った方が……」
「待って、持っていくものをまとめるからっ! あーどうしよ! 全部持っていかないと心配なんだけど! ちょっとアリス、フィア! 荷物少ないなら、これ持ってくれないかなっ!?」
フィアの言葉を、ルクアのあわただしそうな声がかき消す。アリスはルクアのベッドに走り寄る。
「バカですの!? こんな量持ち運べるわけないですわ! あたしは手伝いませんから、自分で運べる範囲にするのですわ!」
「いやだって、心配じゃん。何が起きるか分からないんだよ?」
「何が起きるか分からないからこそ、本当に必要なものだけにしないといけませんわ。荷物を気にしすぎて命を落としたら、元も子もありませんわ」
「そんな大げさな……」
「あの!」
フィアの声に、ルクアのベッドで鞄を引っ張り合っていたルクアとアリスが振り向く。
「あの……、ここにとどまっていた方が、安全じゃないでしょうか」
先ほどと同じ趣旨の言葉をフィアは繰り返す。アリスは言った。
「ここに残るのは賢明でないと思いますわ。……確かに動かないで救助を待つ方が、安全でしょう。ただし」
ここで言葉を切り、アリスはフィアを真剣な目で見つめて言った。
「ここにどなたかが助けに来てくれる保証があれば、という話になりますわ」
「とどまり続けることは、とても安全なことだよ。でもね。一歩を踏み出さなきゃ、始まらない。とどまり続けることは一番安全で、一番楽な方法なんだ。とどまり続けるにしても、何か常に進歩できる方法を考え続ける必要はあると思う。何かを変えることはとっても、勇気のいることだけれどね」
ルクアは言いながら、ガス灯を指さした。
「道は開かれた。……だったら、進む方がきっと何か得られることがあるはずだよ」
そう言って再び鞄に荷物を詰め始める。フィアは少し考えこんだ後、自分の荷物を首から下げることのできる小さなポシェットに詰めた。
そしてベッドから降りると、まだ荷物と格闘しているルクアのベッドのところまで行くと、ルクアの鞄をのぞき込む。そして大きなため息をついて、中身を出し始める。
「え、ちょっとフィア! せっかく直したのに。全部持ってくからね、なんといわれても」
「持っていくのは、手伝います。……ただこの詰め方では、鞄がいくらあっても足りません。アリスさん」
「……分かりましたわ」
アリスは大きく溜め息をつきながら、フィアの隣に来て、鞄の整理の手伝いに回る。しばらくして、大きな旅行鞄が、四つ出来上がった。二つをルクアが、残り二つをアリスとフィアが一つずつ持ち、彼女たちは歩き始めた。
歩き始めてからすぐにアリスが音を上げた。
「やっぱりあり得ませんわ。そもそもなぜあたしが、人の荷物を抱えて歩かなければならないんですの!?」
「ほらアリス、あそこに小さな部屋が見えるよ、あそこまで頑張ろう」
不満を言うアリスにルクアが、進行方向を指さす。そこにはいくつかの壁にかこまれた、小さな部屋のようなものがあった。




