勇者部部長の過去
気づくと、真っ白な部屋の中心に立っていた。
ここは何処だろう?辺りを見回してみるがいくら見回しても出口らしきとこはない。
「夢か……」
僕はほぼ本能的に悟る、これは夢だ、正真正銘の夢、今朝の出来事も十分夢だと思えるぐらいに非現実的だったがこれは今朝と違って状況が違いすぎる。
そもそも僕は品川さんの家にいるはずなんだ、こんな所に無意識で来るはずがない。
「しかし、なんで寝ちゃったんだろうなぁ…話の途中だったのに……」
はて?夢は自力で抜け出せるものだろうか?
暫くどう夢から覚めようかと考えていると先にこの白い部屋の方に変化があった。
「ん?……」
白い部屋に映像が投影された、それは改竄された、僕の記憶だった。これは確か……二人で公園に行った時の……記憶だったはず。
僕の母さんだった筈の女性がこちらに向けて微笑みながら手を差し伸べてくる。僕もつられて手を伸ばす……
しかし……次の瞬間、女性の顔が苦痛に歪み始める、
「あぁ……耕筰!助けて!痛い!痛い!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!」
まず、顔が割れた、ピンク色をした脳らしき物がベチャっと音を立て地面に落ちた、その次に身体が裂けた、四肢が千切れ噴き出した血が硬いアスファルトに染み込んでゆく……
数分後、女性はただの肉塊になっていた……まるで趣味の悪いアートの様にも見えた。
「えっ…あっ……なん……で?…母さん…うっ!おぇっ!」
僕は嘔吐していた。画面の向こうの母さんの目がこちらをじっと見てくる、そして訴える、お前のせい……お前のせいお前のせいお前のせいお前のせいお前のせいお前のせいお前のせいお前のせいお前のせいお前のせい!!
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
目が……覚めた、言うまでもなく最悪な気分だった。汗が服に染み込んで気持ちが悪い、吐き気もする。
「だっ……大丈夫ですか?部長……」
横には急に叫びながら飛び起きた僕に驚いたのか床にへたり込んでいる品川さんがいた。
「ごめん……ちょっと怖い夢見ただけだから」
はははと乾いた笑い声を出す僕を品川さんは心底心配そうに見つめてくる。
「すいませんでした。まさか倒れるなんて……あんな事、やっぱり言わない方が良かったです。」
品川さんは申し訳なさそうにペコリと頭を下げる。
「いいよ、知らない方が多分辛かったと思うし……ね?」
知ってしまったのだから仕方ない、今は現実を受け止める事で精一杯だ
「僕は母さんの仇をとろうとしていたか?」
なんとなく聞いてみる、どうだろう記憶が改竄される前の僕は母さんの仇をとろうとする勇気あるやつだったんだろうか?
そうだと……いいな
「えぇ……ですが、仇とりは失敗に終わり、部長は呪いをかけられました」
「驚いたな……魔王に挑んだのか?僕は」
「いえ……正確には魔王直属の部下に挑みました。」
「魔王の部下にも敵わなかったのか」
「はい……手も足も出ませんでした……部長が皆を守っていなければ今頃、勇者部には誰もいなくなっていたことでしょう。」
「皆……?」
一人で行ったのではないのか?自分のことなのに?
……また、嫌な予感がした。
「では、部長が仇をとりに行った時の話をしましょうか」
品川さんはそう言ってとても醜い、ある勇者の成り損ないの話をしだした。
今から、一週間前の出来事である
母親を殺されたと聞き、怒り狂った僕は一人で魔王に挑みに行こうとしたらしい。しかしそれは学校の全員が何とかなだめすかし、やめさせたそうだ、それでも僕は怒りが収まらず「魔王直属の部下だけでも」と言い出したそうだ、それも学校の全員が止めにかかったが、言う事を聞かなかったらしい…ちなみに一番熱心に僕を思い直させようとしたのは品川さんらしい
そんな皆の必死の制止の声も聴かずに、僕が魔王の部下を倒しに行こうとすると、勇者部全員が「俺達も連れてってくれ!」
と頼み込んだそうだ、僕は仲間が多いほうがいいと言い連れていき……返り討ちにされたらしい。
……全く情けない話しだった、感情に振り回された挙げ句、自分だけ傷つくならまだしも、仲間を巻き添えにしてしまっているのだから目も当てられない。
僕が皆を守った?違う、僕は年端のいかない子供がするような駄々をこねまわした挙げ句、皆を危険にさらしただけだ。要するに僕は、勇者部部長なんて大層な肩書を語れるような人間ではなかったのだ。
僕はどこかで過去の自分に期待していたのかもしれなかった。勇者部の部長だったと聞いて、どんな事をするかは知らないが、勇者だというのだからきっと凄いのだろう、と思い込んでいた。
しかし、どうだろう過去を紐解いてみればそこには、正義感と言う名の凶器を振り翳し、仲間に、学校の人達に、とても迷惑の一言では片付けられない事をしでかしているとても醜い、僕が思い描いていた理想像とはかけ離れた自分がいた。
「僕は……」
自己嫌悪で吐きそうになり、その場にうずくまる
「大丈夫ですか?」
品川さんが背中を優しくさすってくれる。
その感触が何故か懐かしい。
「………っ」
僕は、泣いていた、その涙には安堵とか悲哀とか怒りとかとにかく色んな感情が混じっているような気がした。