勇者部部長の母親
今僕は、でかい城の中にいる。
「ふふふっ、櫻子がお友達連れて来るなんて久しぶりだわぁ〜、賢者様がいらっしゃるまでゆっくりしていくといいわぁ〜。」
品川のお母さんらしき人が天使のような笑顔で出迎えてくれる。
…………待って、なんか違う!えっ?何?品川さんの家でかすぎやしないか?下手すりゃ、そこらへんのホテルよりでかいぞ!?
「品川さんって………お金持ちなんですね……」
「私はお金持ちじゃないですよ…ただ父が勇者なだけです。」
勇者……そうかぁ、お父さんが勇者なのかぁ……
「っ!?!?!?!?」
「?どうしたんです?部長」
突然超高速のムーンウォークを繰り広げた僕に、品川さんは怪訝な顔をする。
「しっ…しししし品川さんのおっ……お父さんは…!ゆゆゆゆ…勇者なの?」
「はぁ…そうですけど?そんなに珍しいことですか?」
噛みまくりな僕に品川さんは、更に怪訝な表情をする。まるで、「勇者なんてそこらへんにわんさかいるでしょ?」とでも言うように。すると、急に品川さんは申し訳なさそうな表情をして
「…………うっかりしていました。記憶が改竄させられているので混乱されるのは当然の事でしたね……」
そう言うと品川さんは、すいませんと謝った。ここまで謝られると逆にこっちが悪いような気がしていたたまれない。なので僕は話題を変えることにした。
「そっ……そんなことよりさ!お父さんは今も勇者をやってるの?」
「いえ、数年前にカルーノに挑み骨になって帰ってきました。」
「そっ、そうなんだ……ごめんね?変な事聞いちゃって…」
「いえ」
思い沈黙がながれる。
しまったぁぁぁ!!地雷を踏んでしまった!この返答は、予想していなかった!てか勇者が負けるってどんだけ強いんだよ、その魔族の王!?
予想外の返答にあたふたしている僕を不思議そうに見つめていた品川さんはやがて、少し怒ったような目で言葉を紡いだ。
「同情はしなくて結構ですよ、私の父は国に大きく貢献し…死んだ、私はそれを嬉しく思うと同時に誇りに思ってます。私への同情は父への侮辱と同義です。」
「そうか……それはすまなかった」
「わかっていただけたら結構です…さぁ玄関で立ち話もなんですので私の部屋に行き、今後の事を話し合いましょう。」
暫く廊下を二人で並んで歩く。しっかし長え廊下だなぁ……
「ここです」
「ん……じゃ、お邪魔しまーす」
「………じゃ……ジャマスルンナラカエッテヤー」
部屋に入ろうとしたら、誰かに声をかけられた…辺りを見回しても誰もいない……
「えっ?今の誰?」
横で何故か顔を真っ赤にしている品川さんに聞いてみる。するとさっき以上に怒った顔で怒鳴られた。
「気にしないではやくなかに!!!」
「解せぬ」
妙にこざっぱりしている部屋に僕たちは向かい合って座った。しかし…女子の部屋にしては小物とか、あんまり無いんだなぁ、女子の部屋入ったことないけど…
「それで……呪いの解除法についてですが……部長?聞いてます?」
キョロキョロしていた僕に品川さんは訝しげな視線を送る。やべー全然聞いてなかった。
「ごっ……ごめん、ちょっとボーッとしちゃって……」
「もう……じゃあもう一回、賢者が来る日程について教えますね、よぉく聞いておいてくださいよ?」
「わかってる」
「賢者が我が家に来る日は今からちょうど一週間後です。」
一週間?随分のんびりとしてるな……もうちょい早く来れないのだろうか?
「えっ…なんでそんなに来るの遅いの?」
すると品川さんは憐れむようなかおでこう告げた
「賢者は世界に五人しかいないんです、アポ取れた事時点で奇跡なのに、…一週間で来るなんて異例中の異例です。」
そうだったのか……RPGのように誰でも手軽になれるってわけじゃないんだな…
「それでっ!呪いの解除法についてですが……まず賢者に来てもらって、お祈りをしてもらいます。」
ふむふむ……なるほど
「お祈りをしてもらったあとはお祓いをします、これが物凄く痛いらしいのでお覚悟を…これで解除成功!らしいです。」
「分かった……痛いのは嫌だけど、僕が忘れてる記憶を取り戻したいしね」
「理解が早くてたすかります。」
「ありがとー、けど、なんでわざわざ品川さんの家に住まないと行けないのかな?」
「……一人暮らしだと何かとストレスがかかるでしょう?ストレスが溜まるとお祓いに影響がでるらしいので…」
「……ん?ちょいまち、僕、一人暮らしじゃないよ?」
そうだ、僕は一人暮らしじゃない……
「いえ、部長は今も昔も一人暮らしの筈です。」
嘘だ、僕は確かに今朝お母さんに起こされ、お母さんと一緒にご飯を食べたはずだ……
「おかしいですね……あの頃から呪いが始まっていたとしたら……部長が見たお母さんとやらは記憶を改竄させられた後にみたことになる……」
「だから……本物のお母さんなんでしょ?」
「それは有りえません」
品川さんは断言した、なんだか嫌な予感がする
「だって、部長のお母さん」
駄目だ、その先は言っちゃ駄目だ……頭がズキズキする。思い出したくない!!思い出したくない!!
「魔族に奴隷にされた挙げ句惨殺されたんですから…」
あぁ…また疑問が増えた……
じゃぁ……朝のあの女は一体誰なんだ?