表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エレメントユーザー  作者: 野上飛鳥
9/14

第六話 似ている二人

日本人ではないので、日本語が間違っているかも知れないです。その時は教えてください。


第六話 似ている二人


あの人は私の叔父さんだった。

亡くなっていた親の代わりに、叔父さんは私とお姉ちゃんを育てていた。

それはいいことのはずなんだが、私にとって、それはまさに悪夢の始まりだった。

十年前のとある夜に、私はおかしな声を聞いて目が覚めた。

あの悪夢みたいな夜に、私は見てしまった、お姉ちゃんがあの人に……犯されていたことを。

今でも、たまにはあの夜のことを思い出す。

あの夜だけではなく、毎晩、毎日、機会があれば叔父さんはお姉ちゃんにあんなことをしていた、そんな生活を六年も続けていた。

幼い私はどうすればいいのかわらなかった。

他の人に言っても、子供の戯れ言としか思われていなかった。

小六の時、そのことが叔母さんにバレた。

当時の叔母さんはもちろん物凄く怒ってて、あれこれの手を使って叔父さんに罰を与えた。

でもそのお蔭で、私たち姉妹は叔父さんの元から離れることができた。

叔母さんは私たちに、とあるアパートの部屋を用意してくれた。

その後の一年、これからは幸せになれると思ったら、違った、それはただ、もう一つ悪夢の始まりに過ぎなかった。

引越ししてから、何故かお姉ちゃん毎晩家に帰るのが遅くなって、時に全く帰ってこない時もあった。

更にあの時、お姉ちゃんは何回も自殺を試した、服薬も、リスカも、私に隠れてお姉ちゃんは色々と試みた。

そしてあの日に、四年前のあの日に、お姉ちゃんは自ら高速で走っていた車の前に飛び出して、命を失った。

お姉ちゃんからは言われていなかったが、実は私……なんとなく気づいてた、お姉ちゃんはあの時、私の身代わりに自分の体を捧げたって。

今でも覚えています、お姉ちゃんの最期の言葉――「この世界は本当に美しい、やっぱり好きだわ。こんな汚れた私の代わりに、生きない……」って。

その時から、私は決めた。

この世に私のような悲劇を二度と起こらせたくない! と。

大切な家族を失う辛さを、他の者に味わせたくない! と。

だからエレメントやEMの事を知ってから戦うと決意した。

全ての人を守るために!

お姉ちゃんのために!

みんなのためにも! 

私は戦います! 私は……この男を……


* * *


「この男を倒さなくちゃ……倒さなくちゃっ!」

泣き崩れた愛が語る自分の過去に、火焔は驚いた。

愛が人間を守りたいみたいなキレイごとを口にする理由が、彼が思っていたのより重かった。

「そうか……お前がここまで理性を失う理由、ここまで人間を守りたいと思う理由……」

すべては姉のためだったんだ。

自分の過去を語りながら泣き崩れた愛はもはや何も言えなくなった。

そんな愛の為に、火焔にできるのは、だったひとつだけ。

「つまり、あいつはとんでもない最低なクズってことだろ? だったら、俺に任せろ」

――彼女に代わって、目の前の男を、倒すのみ!!

「火焔……くん……」

「さぁ! 罪を償う時だ!」

そして、火焔はEMへ向けて、いつもと違うセリフを言った。



「希!」

「はい、ご主人様」

火焔はEMのところへ駆け出しながら、希の名前を呼んだ。

その合図を理解して、希は「赤玉」を火焔に投げ返した。

EMを引き止めてた希、愛を問い詰めてた火焔、二人はポジションを入れ替わった。

希は愛の元に、火焔はEMに攻撃を仕掛けた。

だが罠にはめられたように、希が愛の元に行った瞬間、突然さっきよりも多い「初型」が現れて、女性二人を囲った。

さっきから泣いている愛をいきなり戦わせるのは不可能。

そんな愛を守るため、希は一人で「初型」の群れと戦いを始めた。

しかし、今回は「初型」の戦力の補充がさっきよりも早くて、希が一体を倒す度、また別の「初型」が生まれて、まるでキリがないようだ。

倒す速度が追いつけないほど、「初型」はどんどん湧いてきた。

さらに、EMと戦っている火焔は二人を助けることができない。

このままでは希は「初型」の大群に負けて、二人は死ぬのだろう。

こんな危険な状況、いつもなら愛は既に別の人格に交代したはずだが、そうならなかった。

「うっ……」

「希!」

二人にとってまさに絶体絶命のこの時、EMと戦いながら二人の状況を見た火焔はまた希の名前を呼んだ。

すると、希は火焔の合図を理解した。

「了解、戦闘モードへ移行します」

その言葉を言ったあと、まるで彼女に応えたように、大きな魔法陣らしきものが彼女の前に現れた。

魔法陣が希に近づいていて、そして希がその魔法陣を通り抜けたその瞬間、彼女の姿を変えた。

体は銀色でロボットのようにメタリックになって、先まで着ていたメイド服を身に付けたように見える造形になっている。

まさにロボットに変身したよう。

このロボットの姿になった希の頭に、どういう原理かは知らないが、浮かんでる帽子みたいなパーツがあった。

さらに、そのパーツは別の長いパーツで二つのチップソーみたいなものと繋がっていて、パッと見た感じツインテイルに見える。

もう一つ、バッグな感じがするパーツが背中に付いて、またどういう原理か知らないが、人間の姿の時の長い髪はその中に収納されている。

そんな希の変化を見て、愛は泣くことも忘れたくらい凄く驚いた。

「えっ? 希さん?」

「ここからは私に任せてください」

見た目がロボットのようになって、声もメタリックで無機質になった。

その声で希は愛に答えた。

「参ります」

そう言って、希は初型群れの真ん中に突入し、自分の体をコマのように回った。

彼女が回転する度、チップソーは遠心力によって上昇していく、それが希の攻撃手段。

チップソーで「初型」たちを粉になるまで切り刻むことが。

こんな攻撃で「初型」を倒すのがちょっとオーバーキルしすぎな感じがするけど、実に効率が高い。

さっきよりも三倍くらいの速さで「初型」群れは消えていく、しかし、これでもようやく「初型」の増殖速度に追い付く感じだった。

「キレイ……まるで、踊ってるみたい!」

あんな独特な戦い方を見て、愛は素直に感嘆の声が漏らした。

「私も……負けてはいられませんね……」

そう呟いて、愛は涙を拭いて立ち上がって、初型たちに向けて走り出した。

一方、火焔のところは――




(まったく……寄生型は面倒だな……)

寄生型EMは人間の体を乗っ取るから、目の前にいる男はほぼ本物の人間、だから言い換えれば、宿主の男はまだ救う余地がある。

その愛の叔父さんである男を見捨ててEMを倒すべきか、救って審判を人間社会に任せるべきか、どっちにすべきかまだ決めてない火焔は迂闊に倒せない。

今までの経験によると、寄生型EMはある程度、宿主がしたかったことを基準に動く。

愛の話しによると、このEMの狙いは多分愛であることに、火焔は気づいた。

「貴様のことは被害者から聞いてたぜ、変態おっさん」

寄生型EMが人間の体を完全に乗っ取るには時間が掛かる、この煽りは火焔の率直な感想であり、宿主がどこまで乗っ取られているのかを確かめるためでもあった。

「黙れ!」

と、男は普通に喋れるようだが、それは低く禍々しい声だった、体は制御できるどうかはともかく、意識はまだあるらしい。

「お前に何がわかる!」

言って、男は火焔にパンチした。

それが当たる前に、火焔は彼の右腕を掴んだその拳を止めた。

右手が封じられば、左手を使うのが当たり前。

だから、男が左手で攻撃をする前に、火焔は剣を彼の左腕に当てて更なる動きを封じた。

男の動きを完全に封じたと確認した後、火焔は続けて煽る。

「何か間違ったか?」

「てめぇに関係ねえんだよ!」

「そうでもないな」

長年戦ってきた火焔は以前にも寄生型のEMと戦っていた。

彼の経験によると、寄生型EMが人体を侵食する速度は宿主の感情に大きく関わっている。

男にまだ意志が残っていると知って、なお火焔は煽った。

このまま煽り続けると、二つの可能性がある。

一つは、男が煽られて競争意識が生じ、体内のEMに歯向かう、そうするとEMは男の体内から排斥されて、男は助かる。

もう一つは、EMの侵食速度が上げられ、体が完全にEMに乗っ取られる、だがその時はその時で、火焔は何も考えせずにEMを倒せる。

どちらも火焔にとってメリットしかない。

火焔がこうして煽り続ける理由はもう一つあった、それは愛の過去についてもっと知りたいからだ。

「だったら教えようか、彼女の体の素晴らしさを……」

「悪いが、いらねぇな!」

その思惑を知らない男は続けた。

その言葉から、男は意志を持つが精神の一部までEMに侵食されたと推測し、火焔は攻撃を仕掛ける。

言って、火焔は彼の左腕を斬り、そして足にエレメントを溜めて彼を蹴っ飛ばした。

「うあっ……あぁ」

腕を失くした男は相当苦しくなった、但しそんな苦しすぎて悲鳴を出している男を、火焔は無視した。

「あの時ってあいつまだ小学生だよな。お前って本当最低な野郎だな」

「うっとうしいっ!」

そう叫んで、男は立ち上がって火焔に攻撃しようと走った。

火焔はさっき男を結構遠い距離まで蹴っ飛ばしたから、火焔が追撃するのに十分時間があった。

「なあ、あいつの叔父さんってことは、お前も『ユーザー』だろう?」

この男が愛の親戚ということは、彼も「ユーザー」であろう。

寄生型の強さは宿主によって決められる、だから宿主が「ユーザー」の場合、寄生型はいつもより強い。

男は返事しなかったが、これは当たったに違いない。

「だったら、俺を楽しませろ!」

そんな不気味なセリフを二ヤッと言ったあと、火焔は呟いた――

「一刀流・焔刄!」

炎は「赤玉」を纏いて、「紅蓮」の時みたいに「赤玉」も大きい炎の剣になった。

その巨大なる炎の剣で火焔は男を斬りかけた。

だが〈炎刃〉が男に触れる前の一瞬、何かに吹き消されたように先端の部分が消えた。

「おっ?」

炎が消えたせいで、本来届くはずの斬撃が届かなくなった。

ヘコむ、驚く場面のはずなのに、火焔は笑った。

まるで「面白い!」と言っているような笑みが火焔の顔に浮かんだ。

一撃目を外されて、火焔は次の攻撃を仕掛けようとした。

彼はエレメントを足に溜めて、それをロケットみたいに放して動力にさせ、一瞬で男の後ろに回った。

その一瞬の移動の中、火焔は同時に斬撃を仕掛けた。

だが男はそれに反応して避けて、二の腕にだけ傷を残した。

火焔は男の後ろのちょっと距離があるところに止まった。

そしてまた同じ攻撃を仕掛け、今度は背中から右腕までのところに命中した。

さっきのと比べて傷はちょっと深くなったが、まだまだ傷が浅い。

ただし、火焔の攻撃はまだ終わっていない。

男の前に止まった瞬間、すぐ身を回って斬撃を仕掛けた、今度の狙いは男の腹。

しかしその攻撃を男は手で防いた。

男は「赤玉」を強く掴んで、自分の腹の前に止めた、それで男の腹には浅い傷を残したが、それ以上傷を深くするのを防いた。

そしてよく見たら、男の手は黒く、腐ってるように見えるような見た目に変わった、しかも、さっき火焔に切り落とされたはずの腕が再生したのだった。

それは間違いなく男の体がどんどん侵食されてる証。

「ここまで侵食されたか……」

突如、男は苦しそうに叫んた後体が光った、それと共に周りへ衝撃波を起こし、火焔たちは弾き飛ばされた。

だが同時に、希たちと戦っていた「初型」の群れはそれに消された。

再び男のところを見ると、彼は既にどこかに消えていた。

周りの現状を確認しずつ、「戦闘モード」に変わる時と同じ過程で人間の姿に戻った希は愛と一緒に火焔のところへ向かった。

彼女は火焔に問いかける。

「EMは……」

「逃げられた」

男、もといEMに逃げられたが、火焔は悔しいというよりかは逆に嬉しそうに見えた。

何故なら、彼はわかっているからだ。

EMはまだ男の体を完全に侵食していないから、比較的弱い。

だが、次に出てくる時は恐らく完全体になって、今のでは比べものにならないほど強くなるだろう。

「あのう……」

「なんだ?」

「先の希さんの姿……一体なんだったんですか?」

まだそのことについて知らせれておらず、EMについても希のことについても知らない愛は、先に希についてのことを質問した。

「えっ? ああ、そう言えばお前にはまだ言ってなかったな」

「何をですか?」

「こいつ、人間でも『ユーザー』でもないんだ」

「え?」

戸惑っている愛に向かって、火焔は希を指差して答える。

その答えを聞いた愛は驚くしかできなかった。

いつも側にいる者がまさか人間ではないと言われたから、誰でもびっくりするのであろう。

まして、火焔の言葉によると、彼女は「ユーザー」でもないのだ。

希について、火焔は続けて説明をする。

「〈自律戦闘型エレメント駆動人形〉、っていうらしい。まあ、自動人形みたいなもんだ」

希はエレメントを動力源にした自動人形だった。

だからこそ、素手でも裏人格の愛に匹敵するほどの戦闘力を持っている。

火焔が物心ついた時から希はずっと彼の側にいていた。

だから詳しくは彼もあまり知らなかった、誰が作ったのか、いつから野上家にいたのか、何故そこまで高知能のAIがついているのか、それを知っているのは火焔の親くらいしかいないだろう。

「つまり……先のが希さんの本当の姿?」

「そうでもないが……さぁな」

希は元々、「ユーザー」の戦いのサポートをするために設計した、らしい。

普段の人間姿――〈ノーマルモード〉と、戦う時のロボット姿――〈戦闘モード〉の他にも、いくつかのモードを持っている。

だから、どっちが彼女の本当の姿なのか、火焔ははっきりわかっていないが、一応〈ノーマルモード〉として自称していた人間の姿を「本当の姿」として火焔は扱っている。

それに、戦闘力がそこそこあるから、火焔に戦闘の練習相手として付き合うこともよくある。

これからしばらく一緒に戦う事になるだろうと思う火焔は、そういった希について自分が知っていることを愛に話した。

希の正体を知って、また質問がいっぱい湧いてきたが、聞いても自分はわからないと愛は悟って、続けて聞かなかった。

「そろそろお帰りになりませんか」

二人の対話をずっと聞いていて、どうやら恥ずかしくなった希は家に帰ろうと二人に促した。



リビングに入った三人の目におかしな光景が入った。

普段ならこの時間、美空はソファーでコーヒーを飲みながら雑誌を読んで、エレガントでのんびりな生活を過ごしていた。

三人が家に帰ってきた今、彼女は何事も起こっていないように、いつものことをしている。

おかしいのは、彼女の背中に天使のような大きな翼が生えていることだ。

「邪魔なので、お止めください、お嬢様」

それを見て、驚きも感動もせず、希はただ淡々と口を開けた。

その言葉を聞いて、、無表情な希に向かって、美空は甘えた。

「いいじゃん、焔ちゃんが好きだーかーらー」

どうやら、この間友達と相談して出した結論――火焔が好きなことをしているみたいだ。

だが、美空に巻き込まれた火焔は美空のその甘えを無視して、リビングを離れてどっかに行った。

「えーんーちゃーんー!」

そんな態度にされ、不満を感じた美空はもちろん彼の後を追うつもりだが、希に止められた。

「あらあら、初音さまから物を受け取る約束を忘れました。お嬢様、姫さん、お願いします、それでは」

そのもの凄い棒読みのセリフをした後、二人の返事も待たずに、希は火焔のあとをついて行った。

「はーーい」

不服そうに希に答えた後、美空は翼を消した。

そしたら、彼女は正門へと向かった。

同じく希にお願いされた愛ももちろん彼女のあとについている。

クラスメイトの天音なら知っているけど、初音とは一体どんな人物なのかまだわかっていない愛はこの時、美空に問いかけた。

「初音さんとは誰のことですか?」

「隣の人だけど」

愛の質問に対し、美空は相変わらず冷たい態度で答えた。

そして、彼女は一つのことに気づいた。

「まさか……あんた、まだ外に出たことないの?」

「外って……桜見島のことですか?」

「ち、が、う!」

そう、愛はまだ「外」に出たことがなかった。

美空の言葉の意味をわかっていない愛は彼女に答えたが、すぐに美空に否定された。

「ここのこと!」

そう言ったあと、美空は野上家正門を開けた。

すると、愛の目に映ったのは言葉で語れない景色だった。

彼女の前にあるのは一見普通な町の風景だが、野上家の前には広い道が通っており、その両脇には他の家々が並んでいた。

「うあっ!」

愛が急に変な声を出した理由、それは地球の生物とは思えないほど、変な生き物が彼女の目の前を飛んでたからだ。

2対の翼を持つ大きいな鳥、四つの足と翼を共に持つ魔物、そして水の中ではなくで、空に生きる魚。

その一体の生き物が彼女の上を飛び越えた時に起こる、彼女を吹き飛ばすほどの強風こそが、彼女が悲鳴を上げた理由。

それに、愛はもう一つおかしなところに気付いた。

「空が……」

桜見島と比べて、いいえ、あらゆるところと比べても、太陽が明らかにデカく見える、今でも地面に当たりそうに近い雲、それらが示している真実はただ一つ、空が不自然なほど地面に近い、いや、むしろ逆、まるで――

「――まるで、空にいるような……」

「焔ちゃんから聞いてないの?」

愛の感嘆を聞いて、美空は続ける。

「ここは、我々『ユーザー』だけが住む空に飛んでる島、『空島(くうとう)』なんだよ」

美空の言う通り、彼女たちは今空島という空に飛んでいる島にいる。

野上家はこの空島の上に建てられていた。

火焔の一家以外にも、他にここに住んでいる者もいるが、彼らは全部「ユーザー」であった。

そして、二人の目の前に飛んでいた生物は、「獣」という属性のエレメントを駆使する「ユーザー」達が飼っている、「ユーザー」と共に生きている獣達だった。

この島は元々世界中回っていたのだが、今桜見島の上空に止まって、結界に包まれて、人間に見つからないようになっていた。

自分の部屋の窓ですら開けたことがない愛は、もちろんこの景色を見たことがない。

「ええ、知らなかったです」

愛は言いながら、前へちょっと歩いてから、頭を振り回った。

「改めて見ると、やっはり野上家って大きいですね……」

いつも中にいるだから、出てきて改めて見ると、本当に大きかった、家より、城や館、豪邸と言う方がいい。

愛はここに住んでからの一週間、巡ったところは野上家の半分でも足りていない、だから予想はしたけど、彼女は今外でこの家の大きさを見て、改めて驚いた。

この島の景色に目が引き寄せられた愛の姿を見て、美空は昔のことを覚え出して優しく微笑んだ――


* * *


「七エレ」を持つ子供を一人ずつ生めと、親はギルドからそう命じられた。

皮肉だが、三番目に生まれた私は「七エレ」を何一つ持ってなかった、だからずっと怖かった、自分は要らない子じゃないかって。

親に認められるため、私は父さんが一番上手かった剣術を学び始め頑張ってたが、中々進歩ができなかった。

一個下の弟は天才だった、彼は父さんの教えを完璧に覚えて、使いこなせるようになった。

私と全然違って。

「なぁ、お前ら試しに戦ってみたらどうだ?」

ある日、父さんの提案によって、私は弟と戦った。

何一つ見所もなく、ただつまらなく描写する価値もない戦いだった。

その戦いの結果はもちろん私の惨敗だった。

こっちの攻撃が一回も当たらなかった。

いくら頑張っても攻撃が当たらないその絶望感、私は今でも覚えてる。

だがもっとひどいことはこのあとにあった。

「姉さんは他の武器を使ってみないか? 兄みたいに銃を使うとかどうかな?」

圧勝した彼は倒れた私に手を差し出した。

その同情っぷりと言葉で私に怒りが沸いた。

惨敗を認めない私は彼の手をはたいて拒絶し、自分の部屋まで、逃げた。

「何よ……私の気持ちを知らないくせに……弟なくせに、生意気な……」

実は、なんとなく気づいてた、彼は私との戦いで手加減をしたことを。

これが才能の差か……

父さんに認められるために私は剣を学ぶのに、今更私に諦めろとでも言うのか……

その時、私は彼の提案を想い出して、家の地下にある訓練室に来た。

「銃か……」

まだ幼い私は大型の銃をまだ持ってない、銃を使うなら、拳銃くらいしかない。

私はそこに置いてた、訓練用の拳銃を持ち上げた。

重い……だけど最初の頃と比べて大分軽くなった。

剣を学ぶと決める前に父さんから色んな武器の基礎を学んでいた。

銃を教えてくれた最初の頃は、うまく持つことすらできなかった。

でも、剣の訓練をたくさん受けてた今ならいける! と思った私はそして、私は彼の動きをイメージして、一人で特訓を始めた。

だけど、例えイメージに対しても、私は勝てなかった。

左に照準しようとしたら、次の瞬間、彼はもう右に回した。

ようやく照準できて、撃とうと思ったとき、彼の攻撃がもう着くところだった。

「ダメ、遅い!」

焦った私は自分を叱った。

「彼の動きに追いつけない……」

彼を倒すためにどうすれば……

「そうだ! 倍くらい早くなれば……」

突如のひらめきに、私はヒントを貰った。

「……倍? だったら、銃を二本使えばいいじゃない!」

銃を二本使えば、照準できる範囲は広がる、攻撃の隙間も減る。

多少右左のバランスが悪くなる、反作用力も大きくて慣れにくいが、それは頑張って克服するしかない!

「これなら行ける!」

半年くらいの自主練の経って、私は再び彼と戦えるチャンスを貰った。

「一対一、エレメントの使用は無制限、というルールでいいか?」

今回のルールを聞いたあと、私は自ら父さんに申し出た。

「父さん、今回銃を使いたいですが、いいですか?」

「そうか、わかった」

私の提案に、だがお父さんは驚くこともなかった。

その顔に浮かんでいた微笑みはただ、私の傷を広げるだけだった。

私ってやっぱり……要らない子かな……

だったら! ここで挽回する!

お父さんが誇る彼を倒せば、お父さんはきっと私をちゃんと見てくれるはず。

「それじゃ、始めよう!」

お父さんの言葉を合図として、私と弟の戦いが始まった。

彼は一瞬で私の前に着いた。

半年分の練習で、どうにか彼の動き追いに付くようになった。

切りかけてきた彼の木刀を左手の銃で叩いて、攻撃を防いた、ここがチャンス!

右手の銃で彼を撃った、だけど、死角だったはずなのに、彼はそれを予見したように避けた。

弾丸が彼の頬を掠ることしかできなった。

そして、休む暇もなく、また次の攻撃が来た。

イメージよりも早い! そして隙がない!

だけど近接戦で勝ってないなら、他の方法を考えるしかない。

彼の攻撃を防いで反撃を繰り返しつつ、私は思考を加速させ、目の前の弟に勝てる方法を見つけようとする。

どんな攻撃でも当たらなければ意味がない、どうやって避けても死角はきっとあるはず。

と、この時、私はまたひらめいた。

空だ。

私のエレメントがあれば空に飛べる。

上空で撃てば、彼は避けることができない!

私は一連の攻撃をなんとか避けた後、エレメントで翼を生やして、空へ飛んだ、そして双銃で彼を撃った。

そして――

「そこまでだ!! 美空、お前の勝ちだ!」

――ついに、私は勝った。

「よく頑張ったな、美空」

お父さんの顔に浮かんだのは、「七エレ」を持っている兄弟達にしか見せたことのない笑顔。

ようやく……ようやく、私の努力が父さんに認められた……

だけど、勝ったのになんか変な気持があった。

戦いの後、私は無数のペイント弾に当たって全身が汚れた弟に話し掛けた。

「あんたね、また手加減したでしょ?」

そう、彼はまた手加減をした。

彼なら私が空に飛ぶことを想定してたはず、そうでなくても私が羽を生やした瞬間反応できるはず。

エレメントを使えばすぐ私を打ち落とせるのに、彼はそうしなかった。

また手加減されて、本当は怒るところだったけど、何故か、あの時の私は怒りを忘れた。

「いや、ただ姉さんの羽が綺麗だなぁと思って、ついつい止まって見ちゃった!」

「フッ……」

彼の下手くそな嘘を聞いて、私は笑った。

「相変わらず口がうまいね。っていうか、綺麗なのは羽だけで、私は綺麗じゃないわけ?」

「そう言うつもりはないよ!」

焦って弁解した彼を、私はなんかかわいいなって思った。

そのことをきっかけに、私は彼と仲良くなった。

姉なのに、彼に色々教えて貰った。

お父さんの教えで私がついていけなかったところ、彼はちゃんと私に教えてくれた。

その代わりに、私も彼に色々教えた。

彼のことを知って、彼と戦って、いつの間に、私は彼に変な感情が芽生えた。

そしてその一年後、あの事が起きた。

弟の二人の友達、一人は亡くなって、もう一人は病気で倒れた。

ショックを受けすぎた弟はあの日帰ってきてから、自分を部屋の中に閉じ込めた。

何も言わず、何も食べず、誰がなにを言ったって、彼は部屋の中から出てこない。

いい加減そのままじゃまずいとわかった私は、あの時じゃまだ使うの禁止されてた実弾の銃をお父さんから盗み出して、彼の部屋ロックを打ち壊して、中に入った。

自分にとっての最後の壁を壊すという、予想外の行動を取った私を見て、弟は発狂した。

今まで誰もこうして強引に彼を引っ張り出そうと思ってなかったのは、これが原因だよね。

目が腫れるほどいっぱい泣いて、彼は一生懸命私を部屋から追い出そうとした。

物を投げったり、私を押しやったり。

そんな彼を慰めるつもりで、私はただ彼を抱いて、羽で私たちを囲んだ。

そしたら、私は、自分でも考えたことのない言葉を口にした。

「大丈夫、私がいるもん! 悲しいときは姉さんに頼って、私はいつもあんたの側にいるから!」

その一言で彼を慰められるとは思えなかったが、彼は私の言葉を聞いて大分落ち着いた。

そのあと、彼はちゃんとご飯を食べるようになった。

あの日から、もう自分を殻に閉じ込めることがなかった。

あのことが起きてから、彼が初めて話かける相手は、私だった。

「お姉ちゃん、天使みたい!」

「あんたが望めば、あんただけの天使になるわ!」

あの時、私は決めた。

姉として、私は自分の弟を守る。

彼が喜ぶなら、私はなんだってする。

あの時、私はまた閃いた。

いつも訓練ばかりで、それ以外の時間を全部友達に使っていた彼は、もしかしたら、外の景色を見たことないじゃないかって。

「ねぇ、見せたいものがあるの、ついてきて!」

だから、私は彼を家の外まで連れた。

初めて外に出た彼は目の前の景色を見て、驚いて感嘆した。

「すごい……きれい……」

その時の彼の笑顔は、なんて純潔で天真爛漫だったんだろう。

あの時の私は思わなかった。

あの笑顔を見れるのはあれが最後だってことを。

目の前の女の子を見て、私はつい昔の彼と重ねた。

今更気づいたんだ、愛は彼に似てる、だから……、

彼女なら……

私じゃ救えなかった、今の焔ちゃんの心を、救えるんじゃないかな……


* * *


火焔は野上家の「地下」にあった部屋に来た。

愛とエレメントの練習をした時に使っていた部屋と違って、この部屋は広くて、暗くなっていた、訓練用にふさわしい部屋になっている。

火焔はその部屋の真ん中に立っていた。

同じ部屋の中に立っていたのは相当の数のマネキンだった。

事情を知らない者はこの風景を見て、どこかの衣装のデザインルームか何かと間違えるのだろう。

実は、この部屋は訓練用に特化した部屋で、壁には無数のマシンガン、床に様々なトラップが隠されていて、対エレメントの抗性も持っている、それ以外にも訓練に役立てる仕掛けはいっぱいあった。

ちなみに、幼かった美空が銃を取ったのは、ここではなくこの部屋の外にある小型工廠らしきとこで、自主練はもちろんこの部屋で行った。

短いアラームの音が鳴り響いたあと、壁に内蔵していた無数のマシンガンが、一斉に火焔を撃った。

襲いかかってくる弾丸に対して、火焔は走って避けようとした。

だが、移動する火焔を追うようにマシンガンは自動に角度を調整して続けて連射した。

そのキリがないような弾を避け続ける火焔は「赤玉」を取り出した。

弾丸に壁まで迫られた火焔は止まることなく、壁を地面のように普通に走った。

それをできるのも、エレメントのおかげ。

彼は弾丸を避けながら後ろから一つのマネキンに近づいた。

そしたら容赦なくそのマネキンの頭部をまるごと斬り落とし、その後、また別のマネキンのところへ行って、それを盾にして前からの弾丸を防いたら、またそれを斬った。

似たような過程を何回も、何十回も繰り返して、最後のマネキンが倒れたと同時に、マシンガンはようやく一斉に射撃を止めた。

「休憩しますか? ご主人様」

そのあと、希の声はアナウンスみたいに部屋中に広まった。

「ああ」

彼女に答えて、火焔は剣を締まって部屋を出た。

そこで待っていた希は、準備したタオルを彼に渡した。

「また、考えことですか?」

タオルを受け取って汗を拭く火焔に、希は問いかけた。

さっき行ったのは、火焔がいつもやる訓練の一つだった。

ランダムな弾丸をどうやってば全部避けるか、どのルートで密集な弾幕から身を守りながら全部のマネキンを倒せるのか、これらをちゃんと考えないと負傷するから、最終的に反応速度と判断力を鍛えることができる訓練内容になっている。

安全性を考えてマシンガンに使われていた弾丸は当然全部ペイント弾。

今じゃ考えられない事だが、火焔がこの訓練を始めたばかりの頃はいつもボコボコにされた。

ここ数年、火焔は考え事、悩み事、戸惑ったことがあったら、いつもここに来る。

メイドとして、希は誰よりもそのことを知っている。

「ああ……あのおっさんのことだ」

火焔が何のことを考えているかを知って、希は準備していた水を火焔に渡してから、また質問する。

「……ご主人様はどう思いますか、姫さんはあの男に勝てるのか?」

「いや、あいつじゃ倒せないだろうな」

言って、火焔は一口水を飲んだ。

「だったら、あなたが倒すしかないよね」

「そうしかないんだが……」

その男に取り付いたEMは、愛にとって大きな分かれ道になるだろうと、火焔は思った。

「……そこが問題だ、俺がやるなら、あいつはこのまま一歩を踏み出せない。だが、一度でも人の命を奪ったら、あいつは二度と戻れない……」

あのEMの倒さないと、愛の心の中に潜んでいた刺は消えることはない。

だがEMを倒せば、男も一緒に命を失う、彼女はその男を、自分の叔父さんを自分で倒すと言ったが、あの優しい“お姫様”なら絶対にできない。

一人でも命を奪ったら、彼女もやがて火焔みたいに、心を失ったものになる。

火焔は誰よりもわかっている、そのEMを殺す覚悟もないなら、これからの戦いに愛はちゃんと戦えるわけがない。

「過去の鎖は、あいつ自身で切らなきゃ意味がないんだ」

この矛盾の中、自分はどっちを選んでいいのか迷っている火焔を見て、希は微笑んだ。

「ほんと変わりましたね、ご主人様が他人のことについて悩むなんて」

「気づいたんだ、あいつは俺に似てるって」

彼女の言葉を聞いて、火焔はただ淡々と答えた。

「だからこそ、俺と全然違う道に進めるんじゃないかなって……思っただけさ」


* * *


家の外に一緒に出てから、愛への美空の態度は大分良くなった、いや、むしろ良すぎになった。

少し前だったら誰も想像できなかった現象だが、二人は今楽しそうに話し合っている。

ちょうど今、話は美空の翼についてのことに回った。

「あの翼はね、私の能力なのよ、何の属性が当ててみてー」

「えっと……風、ですか?」

ファンタジーな物語ではよく翼で竜巻を吹き起こす描写があるから、そのイメージから愛は美空のエレメントが風属性だと思った。

「近いけど、ブブー」

だけど、その考えは間違ったようだ。

愛には当てられないだろうと思って、美空はそして答えを言った。

「私の属性は空よ、風に近いけど違うの」

空という「七エレ」に含まれていないエレメントについて、まだ何も知らずに困惑している愛に、美空は続けて説明をした。

「空のエレメントは空を飛ぶ力に特化し、特有の羽を操る能力もついてるよ、その代わりに風の力が一部使えないけど」

「風であり、風ではないですか……」

「うん、それじゃ分かりづらいから、『空』って名付けられたの。同じ原理の他のエレメントもいるよ、それらをまとめて『ブランチ』って呼んでるの」

「七エレ」とエレメント同士が混ざって生まれる新たなエレメント――「融合エレメント」の他に、「ブランチ」という「エレメント」の種類もあった。

それらのエレメントは「枝」の名の通り、「幹」のエレメントから別れ出たもの。

いわば派生した、ということ。

「ブランチ」のエレメントは「幹」のエレメントの特性の一部を継承しつつ、独自の特徴を持つように進化もする、でもその代わりに「幹」となるエレメントの一部の能力が失われる。

美空が持っている「空」のエレメントで例えると、「幹」となるエレメントは「風」。

「風」のユーザーは風を操縦することで飛べるようになって、空中戦が得意。

その飛行能力を特化しつつ、翼を攻撃や防御、色々な使い道に自在に操れるのが「空」のエレメント。

だがその能力に代わって、「空」のユーザーは「風」のエレメントを使えない上、他の能力も使えなくなった。

「空」のように、「ブランチ」と呼ばれるエレメントは他にもいくつあった。

「つまり、美空さんの力は「七エレ」に入らないの?」

「うん、家族の中に私一人だけね……」

「あっ、すみません……」

意図せず美空の傷に触れて、愛はすぐ焦って謝った。

「でもあの翼、凄く綺麗で、美空さんに似合ってますよ! 天使みたいで!」

謝った彼女を見て、美空は何故か笑い出した。

「フッ……ははははは……」

「えっ? どうしたのですか? 何がおかしいですか?」

自分がまた何か失礼なことを言ったかも知れないと思って、愛は更に焦った。

だけど、そんなにかわいい反応をした愛の考えを、美空は頭を振って否定した。

「ううん、ただ昔、焔ちゃんも同じことを言ってたなーって思っただけ……」

そして、そんな彼女を見て、美空は先自分が思ったことを思い出して、呟いた。

「……本当に似てるね、あんたなら任せるかも……」

その呟きが声が小さすぎて、愛はちゃんと聞こえなかった。

「なんですか?」

「ううん、こっちの話。ほら、着いたよ!」

 愛が気づいていないうちに、二人は既に目的地にたどり着いた。

 美空は隣家のインターホンを押した。

すると、二人を迎えたのは初音だった。

「美空と……これは飛鳥姫さんだな、噂は聞きましたよ」

愛を見た瞬間驚いたが、初音はすぐに彼女の正体に気づいた。

「あっ、愛でいいんです! えっと……」

「初音と申します、天音の姉です」

「天宮さんの姉でしたか、初めまして、初音さん」

「って、どうしたの?」

初音は突然訪れた二人に驚いたみたい。

「ん? 希が取るものがあるって……」

その初音に答えたのは美空。

「そんなのないよ……天音、なんか心当たりある?」

どうやら美空の話に心当たりがない初音は、後ろで偶然通りすがった天音に聞いてみた。

来客に気づき、話を聞いた天音は、希が嘘を付いたと気づいた。

「おっ、美空さんと愛ちゃんじゃないか! っていうかそれ、希の嘘じゃない?」

「あっ、わかった!」

美空は天音の話を聞いて閃いた。

「もう帰ろう、愛!」

「え?」

初音たちの家から離れた後、美空が何に気づいたのか気になって愛は質問した。

「何がわかったんですか?」

「希が取り忘れた物があると言ったのは嘘だけど、私には一つ大切なものが手に入ったよ!」

「なんですかそれは?」

美空の答えを聞いても、愛はまだ分かっていなさそうに、困った顔になった。

そんな彼女を見て、今まで見せたことのないほどいい笑顔で、美空は返した。

「愛っていう義妹(いもうと)ですよ!」

「えっ」

そのセリフを聞いた瞬間、意味を悟っていなかった愛はポカーンとした。

「えーーーーー!?」

だが、数秒経ってようやくその意味をわかったら、愛はものすごく驚いた。

「そ、そんな……義妹(いもうと)だなんて……」

急に義妹呼ばわりされてどう反応すべきかわからなくなった愛は慌てた。

そんな可愛らしい反応をした愛を見て、美空は何も言わずにただ微笑む。

その後、二人が歩いて帰っている中、愛は美空に火焔のことを聞こうとした。

「あ、あのう、美空さん」

「お義姉さんって呼んでいいよ。なあに?」

「火焔くんのこと教えてくれますか?」

「どうしたの?」

「彼のことが気になります……この十年、彼に一体何があったんですか?」

愛の質問を聞いて、美空は足を止めた。

彼女は驚いた、まさかこの子がこんなアクティブな子だったとは、そして美空はため息を吐いたあと、真剣な顔になって彼女に返事した。

「教えてもいいけど、一つ約束していい?」

「何の約束ですか?」

「それを聞いても、一生焔ちゃんのことを嫌いにならないで」

「そんな、火焔くんのことが嫌いになるなん……」

真顔な顔をしている美空を見て、愛はつい言葉を止めた。

「この世にはね、知りすぎてしまったからこそ、嫌いになるものがあるんのよ。例えば、お豆腐が好きの人が毎日豆腐食べていたらいずれ豆腐が嫌いになるでしょう?」

「そうですか……それが火焔くんのことと何か関係が……」

「だから約束して!」

焦っているからか、美空はつい声を大きくした。

「焔ちゃんの過去を知ったとしても、これから彼の傍から離れないで! 彼の傍にいて! 焔ちゃんにはあんたが必要だから!」

流石にそこまで言われたら、愛は驚きながらも頷いた。

「そこまで言うなら、約束します……」

その言葉を聞いて、美空は一瞬ほっとした。

「焔ちゃんはね、人間の友達に裏切られたの」

そして、美空は火焔のことについて、自分が知っていたことを全部話した。

十年前のあの時、火焔はどれほど絶望したのか。

四年前、なにが起きたのか。

火焔は何故感情を抑えようとしたのか。

この十年、火焔は一体どんな気持ちで戦い続けたのか。

これらを全部、ぜーんぶ、ずっと火焔の側に居た姉として愛に教えた。


夜、愛の部屋に、火焔が来た。

「火焔くん?」

ドアを開けた瞬間、愛も驚いた。

「もう落ち着いたか」

愛に部屋の中に招待された後、火焔は愛に聞いた。

「はい」

愛は下を向いて、火焔の質問に答えた。

この反応を見て、誰だって落ち着いていないことぐらいわかるだろう。

間接的とは言え、あの男のせいで自分の大切の人が亡くなったんだ。

仇を見て、そう簡単に落ち着けるわけがない。

火焔もそれをわかっていたはず、だけどそれしか言えなかった。

そして深呼吸をしたあと、彼はその男について愛に伺いた。

「……あのおっさんのこと……もうちょっと聞かせてくれないか」

「え?」

「いや、別に言いたくないならいいんだけど、ただあのおっさんについて、お前はどう思ってるのか、それが聞きたいだけだ」

火焔の話を聞いて、愛は暫く目をつぶって深呼吸をした。

そして、自分の気持ちを語り始めた。

「叔父さんはやさしい人とは言えませんが、親が亡くなった私とお姉ちゃんを養子にしたから、尊敬してました、あの夜までは……」

言って、姉の死を思い出して、愛の感情がまたぶれた。

既に震えている声で、彼女は続けた。

「あの人のせいでお姉ちゃんが死んだんです! あの人だけは私はどうしても許すことができないっ!」

悲しい思い出によって激しくなった感情が、涙となって彼女の頬に線を描いた。

「あの日、風呂場で言ったことは、俺だけじゃなくて自分にも言い聞かせていたな」

今までずっと笑顔でいていた愛がこんなにも涙するとこを見て、火焔は彼女が風呂場で言ったあの言葉を思い出した。

「過去のことは過去に残されるべき」だと、実は自分の方が一番過去に囚われているのに。

本当にそこまで生死を見切った者は、こんなに泣いたりはしない。

だからその言葉は、本当は自分に対しても話していたのだろう。

火焔の質問を聞いて、愛は続けて喋った。

「……『いつまでも過去に囚われてはいけない』って、いつも自分にそう告げた……だけどダメだった、あの夜の事を、お姉ちゃんのことを忘れるなんてできない……」

自分の気持ちを語れば語るほど、涙が彼女の目から溢れ出した。

「……ねぇ火焔くん、私は人々を守りたいってあれほど言ったのに、今は人を殺そうとしたの! 人々を守るなんで偉そうなことを言ってて……私って最低だよね?」

その疑問を聞いて、火焔は黙って考えた、そしたら彼は彼女の前まで歩いて指で彼女の涙を拭いた後、彼女に応えた。

「最低なんかじゃない、あいつはお前の大切な人を自殺まで追い込んだんだろ? だったら殺したいほど恨んで当然だ! それが人っていうもんだ!!」

目の前に泣いている少女を見て、火焔も段々悲しくなってきた、声も震えるほど。

だが、深呼吸をして落ち着いたあと、彼はその悲しさを微笑みに変えて続けた。

「だから、お前は最低なんかじゃない、その感情はお前が人間だって証だ。お前だけの本当のやさしさなんだ」

今の火焔の表情は、病院で月夜と話していた時と同じくらいやさしい微笑みになっていた。

「火焔……くん……」

火焔は彼女を慰めるつもりだったけど、愛の目元から涙がまた溢れてきた。

「もう泣くな、涙より笑顔の方がお前に似合うぞ!」

もうどうすれば愛が泣くのを止めさせられるかわからない火焔は自分でも想像がつけない言葉を口にした。

愛も彼の言葉に驚いた、そして彼女は自分で涙を拭いて、笑顔になって彼に返事をした。

「はい! 火焔くん!」

先まで泣いていたから、目元にまだ涙がついていて、もう泣いてるか笑ってるかわからなかった、そんな彼女の顔を見て、火焔は微笑んだまま喋った。

「知ってるか? 泣いた後の笑顔が一番きれいだって。今のお前誰よりもきれいだぞ!」

火焔のイメージと合わない甘いセリフを聞いて、愛はフッっと笑った、今度は涙が混ざってない純粋な笑顔。

「今の、本当だって信じちゃうよ」

「うん、そうしよう」

そして、時間が気になって火焔は時計を見た、いつの間にもう深夜に近い時間になってた、そして彼はいよいよ本題に入った。

「次にあのおっさんと会ったら多分、完全にEMに侵食されてるだろうな」

まずは、あの男――寄生型EMの状況について愛に知らせた。

「そしたら、彼を救う術が一切なくなる、EMを倒したらあのおっさんも……」

そして、火焔は愛に問いかける。

「お前はどうしたい?」

あのEMに取り付いた男、自分の叔父さんを、愛はどうしたいと。

倒すのか、それとも……

その問い掛けにちょっとびっくりしたが、笑みを保つずつ愛は答える。

「倒します。私のためにも、お姉ちゃんのためにも、これから襲われるかも知れない人々のためにも、私はこの手で彼を倒します!」

愛の答えに迷いはなかった、それが彼女が覚悟ができた証。

「いいのか? 一度でも命を奪ったら、お前はもう元には戻れないぞ。俺と同じようにならない自信はあるか?」

自分と同じように人間を信じない、ただただ戦いに身を任せた者と同じ道にたどり着かない覚悟はあるかと、火焔は愛に聞いた、愛もその質問の意味をわかっている。

「自信はないですけど、頑張りたいと思います」

「わかった」

その答えを聞いて、火焔もそろそろ自分の部屋に戻ろうとした。

「ゆっくり休め、もうすぐあいつとまた戦うことになる、それまでゆっくりな」

「わかりました! おやすみなさい、火焔くん!」

「おやすみ」


翌日は平日だったから、みんな学校へ行っていた。

そこで、授業中に突然現れたEMによって、火焔は何とも言えない痛みを感じた。

次の瞬間、彼は何も言わずに隣の窓を開けて、外へ跳んだ。

それを見て、希も立ち上がって、「失礼します」と先生に一言言った後、火焔を追いかけいった。

そんな場面に対して、愛以外のクラスにいるみんなはまるでそれに慣れていたように全く驚かなかった。

そんな周りを見て多少困惑はする愛はそして手を挙げた。

「先生、ちょっと体調が悪いので、保健室に言ってもよろしいでしょうか?」

もしかしてEMが現れた? と気が付いた愛は教室を出られるよう、先生に嘘をついた。

先生の許可を得て、苦しそうな演技をしながら教室に出た愛はすぐ火焔に追っかけようと走り出した。

できるだけ早く走ったが、愛が校舎から出た時には、もう二人の姿が見えなくなった。

だが、二人の代わりに校舎の外で彼女を待っていたように立っている者がいた。

それは彼女の叔父。 

愛を見た瞬間、男は苦しそうで悲しそうな大声で叫んだ。

すると、彼の体に異変が起きた。

黒い光を放した彼の体はそしてEMのような体に変わった。

今まで見たEMと違って、彼のEM姿はどこを見ても動物らしきところが見当たらない。

黒い肌、腐れてゾンビみたいな顔、その上に黒の甲冑が被せられて、これはゾンビのEMか侍のEMと名づけるべきだろう。

その姿になったという事はつまり、彼はもう完全にEMと融合した証。

「叔父さん……」

目の前の男は既に人じゃなくなった。

だが、悪いことしかやっていないけど、この男は一時自分を世話をしたことがあった自分の叔父さん。

彼がなければ今の自分がない、最後の敬意を込めて愛は最後に彼を呼んだ。

そして、彼女は「セーブ」から「氷花」を取り出して、その剣で自分の叔父さん――いや、EMを指した。

愛が戦う覚悟を決めたと悟って、EMも武器としてエレメントで薙刀型の武器を作り出した。

二人はお互いに見つめ合って、そして、駆け出した。


火焔と希は学校から離れて、学校とちょっと距離がある名無しの森に着いた。

EMの出現から十分も経っていたのに、何故か今回は警報が鳴らなかった、それに島の防御設備も作用していない。

その理由を考えつつ森の中で進む二人の前にあるものが現れた。

それは、火焔の宿敵とも言えるもの――

「『悪魔』!」

――「悪魔」の名を持つEMであった。

火焔は早速「セーブ」から「赤玉」を取り出して、戦いの構えをした。

後ろにいる希も〈戦闘モード〉に入って、戦いを備えた。

だがそんな二人に対して、「悪魔」はまったく戦う気がなさそうで棒立ちするだけだった。

そのおかしさに火焔も気づいた。

「ん?」

そして、「悪魔」は火焔に問いかけた。

「何故……ここに来た……」

「お前を倒すためにに決まってんだろ」

「悪魔」のわけがわからない質問に即答する火焔。

だが、「悪魔」はただわけがわからない言葉を続けた。

「あっちは……いいのか……また……失うぞ……」

「あっちって……」

「悪魔」の言葉を聞き、数秒間思考に入った火焔はそしてある事に気づいた。

「まさかっ!」

「どうしましたか? ご主人様」

「反応は微弱だが、学校にもう一体のEMがいた」

普通のEMと違って人間という混ざりものを持つ寄生型のEMの存在は火焔は感じしづらかった。

この間は鮫のEMが弱かったから、二匹共感じることができたが、「悪魔」は違う、鮫にEMより遥かに強い「悪魔」の反応はほぼ完全に侍のEMの反応を被った。

だから火焔も全然気づかなかった。

「どういうつもりだ、『悪魔』!」

だが、「悪魔」がそのことを態々火焔に教えて、どういう狙いだったのか……

「遅くなる前に急げ……また失う前に……また後悔する前に……」

低く、不気味な声で、「悪魔」は火焔に愛を助けろうと勧めた。

今度は前回みたいに邪魔者がいない、火焔にとってこれはまさに「悪魔」を倒す、幼馴染の仇を取る絶好なチャンス。

しかし今「悪魔」と戦ったら、愛を助けられないかも知れない。

『ユーザー』の力が加わった寄生型EMは例え希でも倒す事は難しい、愛を助けたいなら、火焔が今すぐ「悪魔」との戦いを諦めて、学校に戻るしかない。

そうでなくては……

この難しい選択肢に、短い時間で決めなきゃいけなく、選択を迫られた火焔は――

「ちっ……行くぞ! 希」

――愛を助けようとした。

「ご主人様……」

火焔の答えを聞いた瞬間、希は驚いた、彼女が知っている火焔ならきっと「悪魔」を倒すことを優先したはずだから。

だが、火焔がその選択をした意味をすぐ悟った彼女はほっとしたように下を向いて微笑んで、ご主人様の命令に従った。

「かしこまりました。 〈バイクモード〉へ移行します」

そう言ったら、希の体が変形を始め、〈バイクモード〉になろうとした。

体は前に倒れて、背のパーツは前へ倒れて頭を置い、バイクの先頭部分となって、その中に隠したハンドルも展開した。

長いメイドスカートは二つに分かれて、後ろへスライドしてブースターに変わった。

頭の上に浮かんでいたパーツは腰の後ろと合わせてシートになって、それと繋がっていた二つのチップソーはタイヤになった。

手だったパーツは下へ変形してエンジンになり、普通のバイクのフューエルタンクのところにモニターが付いてあった。

こうして、希はロボット姿の戦闘モードからバイクモードに移行した。

複雑そうな変形過程だったが、実際に変形したのは十秒も持たなかった。

そんなバイクになった希に火焔乗り、そのモニターをタップして起動した。

すると、画面に「NOZOMI」の文字が浮かんで、それと共にエンジンがかけられた。

「今度会ったら絶対にぶっ潰すから、覚えてろ!」

「悪魔」に向かってその言葉だけを残したあと、火焔はバイクを走らせた。

 

戦いが大分続いている状態で、現在攻撃を仕掛けているのはEMの方。

彼は薙刀で愛に斬撃を行った。

その攻撃にすぐ反応し愛は「氷花」で防御を行ったが、力の差があり過ぎて、防いたはずなのに彼女はその一撃にグラウンドまで弾き飛ばされた。

いきなり高速で飛ばされてきた愛に、グラウンドで体育の授業をしていた三年生のみんなはびっくりして、何か起こったか気になってつい動きを止めた。

「逃げて!!」

まだ何が起こっているのかわからなかった彼らに、愛は逃げさせた。

そしたら、最初にEMの存在を気づいた生徒が「ば、化け物だああああああ!!」と大声で叫びながら逃げた。

そのお陰で他の生徒もEMの存在に気づき、怖かって逃げ回った。

そんな混乱な状況でも、EMはただ平然と、徐々に愛を近づいた。

EMの目標は、最初から愛だけだった。

「うあっ!」と、この時、混乱の中で足を滑らせた生徒が一人、愛の近くにいた。

コケたからか、膝に傷ができたその生徒はもう早く動けない。

このままだと、その子は絶対に戦いに巻き込まれるのだろう。

そんな子を助けるために、さっき飛ばされた衝撃で弱まった体を動かし、愛はその人の元へ駆けて起こして、逃がした。

その後、みんなが避難できたことを確認して愛は安心したが、一瞬油断を見せた。

そのチャンスを掴んでEMは攻撃を仕掛けた、それは薙刀を使った三連刺だった。

避けるのが間に合わなくて、愛は両足と左手に攻撃を受けた。

だが、グラウンドにいる生徒はみんな逃げたので、エレメントを解禁することが出来た。

その攻撃を喰らう前の一瞬、愛はエレメントで当たりそうな部分を覆った。

そのおかげで、ダメージが軽減され、致命傷にはならなかった……が、衝撃力でその三ヶ所が痺れた。

その隙を掴んで、EMは追撃しようと武器にエレメントを溜めた。

しかし、EMが武器にエレメントを溜めているこの瞬間もまた隙を見せた。

まだ動ける右手で冷気を放出して、愛はEMの体を一時的に凍らせた。

ちょうどちょっとだけ痺れが収まってきて、「氷花」でEM薙刀を弾き飛ばした。

それから彼女は学園の裏に回って、凍結状態から解放されたEMを引き寄せた。

そこは校舎と桜森の間の小路で、ちょうど校舎の死角、サボる生徒がいなければ見られることはないはず。

そこでなら、もっとエレメントを使って戦える。

その愛の策にEMはまんまとはまってしまった。

愛は前に手を伸ばし、周りにいくつの氷の棘を出現させて、追ってきたEMを襲った。

だが、その棘が当たる前にEMは軽く手を右に振った。

それだけでその棘たちは空中で何かに叩かれたように砕けた。

それほど弱い技だと軽くあしらえる相手だと示して、EMはまたゆっくりと愛に近づいた。

先のを経験で、近接戦は愛にとって明らかに不利、よって愛はEMと距離を取ろうとした。

「氷花」を地に挿して、そこを起点にして周りの地面に氷を広げらせた。

牛EMを相手にした時にも使ったこの技で、EMの足を凍らせたら、時間を稼げると考えていたんだろう。

しかし、その技を喰らって、足が凍結されたEMは、ただ一歩を踏み出そうとしただけで、氷を破った。

時間稼ぎどころか、一瞬を止めさせることすらできなかった。

こんな小細工が通じる相手じゃなかったのだ。

愛が考えた策が一斉通じないほど、目の前のEMがとんでもない強敵だと愛は改めて思い知った。

またどんどんと近づいてきたEMから圧を感じて、愛も一歩ずつ下がった、そうしながら何か勝てる方法をずっと頭を回して考えた。

だが、焦り過ぎだからか、こんな状況で彼女は足を滑らした。

EMにとってこれは間違いなくデカいチャンス、そこで彼は愛のところへ手を伸ばした。

すると、愛の右上、右下、左上と左下四ヶ所の空間がいきなり歪みが生じ、そこらからエレメントで構成された鎖が現れ、愛の両手と両足を縛ってそのまま彼女を持ち上げた。

彼女が持っていた「氷花」はそして地に落とした。

「うっ……」

手足が縛られて、空中に持ち上げられて、それによって力が出なくなった愛はもう、逃げる術がなかった。

危険を感じたからか、その時、愛の裏人格が突然表に出た。

今の状況を素早く対応して、彼女はエレメントで鎖を凍らせた。

そうすることで鎖を自分の支配下に置いた彼女は続けて、四つの鎖を砕けて自分を解放した。

だが空から落ちた時に足が定まらなくて彼女はまた前へ倒れた。

その瞬間、何故か彼女はまた表人格に戻ってしまった。

何か起こたのかを考える暇がなく、目の前にはまだEMがいて、愛はすぐに備えて立ち上がろうとした。

しかしもう遅かった、EMはとっくに彼女の目の前に着いた。

足元に刺さっていた「氷花」を拾ったEMは剣を持ち上げ、愛に向かって――振り下ろした。

その瞬間、反射的に愛は目をつぶた。

その時、m走馬灯のように彼女の脳内に様々な自分の人生の思い出がいちいち浮かべた。

姉と一緒に叔父さんの家に暮らしていた時の、姉と二人で暮らした時の、姉が事故に遭った時の、美月と出会った時の、火焔と出会った時の、火焔に色々教わった時の、火焔と初めてデートをした時の……

その光景が何を意味しているのか、愛ははっきりわかっている。

(もう……ここで終わりなのですね……)

好きな人と出会えたばかりなのに……まだ姉の仇を討ってないのに……まだしたいことがいっぱいあるのに……

まだ……何もしてないのに………

もうここで死ぬの?

よりにもよって、間接的とは言え姉を殺した者の手によって……

もう何もできない、ただ終わりの運命を待つだけの愛は、悔し涙を流して、心の中で叫んだ。

(…火焔くん……)



――この時、「バン」とデカい声がした。

その声を聞き愛が再び目を開けたら、EMはもうそこにはいなかった、代わりにいたのは――

「火焔、くん?」

――バイクに乗ってきた火焔だった。

さっきの音は、火焔がバイクでEMをぶつけて遠くに飛ばした時の声だった。

だが愛にとってはすべてがいきなり過ぎて、まだ何が起こったのか分からない。

そんな愛に、彼はEMの方を見つめてたまま煽るような口調で問いた。

「もう諦めたのか?」

最後の最後まで抗うつもりはなかったのか、という火焔の言葉の意味を悟って、まだ呼吸が整っていない声で愛は答える。

「そんな……まだしたいことがいっぱい残ってますから」

「例えば?」

愛の答えを聞いて、尚背を向けたまま、火焔は問い続けた。

「人々を守ること……みんなを笑顔にすること……そして――」

見えないけど、多分誰にも見せたことのない笑顔をしているだろうと、勝手に想像して愛は続ける。

「――火焔くんのココロを救うこと!」

その言葉を聞くのはもう二回目、でも今回火焔は違う態度を取った。

まるでその言葉を受け入れようとするみたいに、彼は少しだけ下を向いた。

そして、彼は最後の質問を聞く。

「なあ、本当にもう覚悟はできてるか?」

ようやく走馬灯から覚めたが、体がまだ震えている、口がまだ喘いている、そんな状態で彼女はできるだけ精一杯、火焔に答える。

「はい!」

「フッ……」

愛の覚悟を聞いて、火焔は乾いた笑いをした。

この時、遠くにぶっ飛ばされていたEMは二人の視界に戻ってきた。

それに対し、火焔もバイクから降りて、戦いを始めようとした。

二人の対話を聞いていた希は元の人間の姿に戻り、ここからは二人に任せようと微笑んだあと、どこかへ行った。

そんな希の行動が見えていないからか、それを無視して、EMに向かって火焔は走り出した。

襲いかかる火焔に対し、EMは前に手を出し、さっき愛に使ったあの鎖の技を火焔に使おうとした。

だが、それよりも早く、彼の前に着いた火焔は少し身を伏せて、腹の傷を狙って斬り払った。

傷が拡大されて、痛みも広がって、EMは苦しさと怒りが混ざった声で悲鳴を上げた。

その後すぐ、まだ手に持っている「氷花」を火焔の頭に向けて振り下ろした。

EMのその行動を見て、火焔は「赤玉」でその攻撃を防いた。

すると、「赤玉」と「氷花」、二人の剣がぶつかりあって、火花が出た。

お互い手に更に力を込めて、相手を上回ろうとした二人はそうして膠着状態に嵌った。

その時、火焔は剣を持っていた両手のうち、片手をこっそりEMの腹の傷に被せて、火のエレメントを放出し、体の内部からEMの体を燃やした。

その痛みでEMは力が抜けた。

この隙に火焔は更に力を込めて「氷花」を弾け、立ち上がりながらグルと一周回して、銀月を取り出し、EMを撃ちかけた。

彼が撃った三発の弾のうち、二発はEMの腹に、一発はその胸に当たって、一斉に爆発を起こした。

その爆発に巻き込まれてやっとEMに手放せた「氷花」はそして、火焔の近くに落ちた。

爆発で頭がぐるぐるになっていたEMに、火焔は更なる追撃をした。

「罪を犯したらつぐなってもらおうか!」

言って火焔はEMの股間に回し蹴りをした。

もちろんだが、それだけでは済まない。

火焔は蹴りが当たった瞬間足にエレメントを溜めて、キックの威力を上げて、EMを遠い距離へぶっ飛ばせだ。

いわゆる男性の弱点である股間があれほどの力で蹴られては、例えEMの体になっても、多分そんな早く再起できないだろう。

この隙にだが、火焔は「赤玉」と「銀月」を「セーブ」に収納し、その代わりに「氷花」を拾って、愛のところに戻った。

まだ立ち上がっていない愛に手を差し出して、彼は愛に本当の最後の質問をした。

「『人を守れるのは天使じゃない、悪魔だ』。お前なら、この言葉の意味を理解できるはずだ。一度やったらもう二度と戻れない。それでも悪魔になる覚悟、あるか?」

何かを得るには、何かを捨てなくてはならない。

誰かを救うには、誰かの命を奪うか、誰かの命を犠牲にしなきゃいけない。

みんなを守るのなら、命を奪う覚悟がある“悪魔”にならなきゃいけない。

その筋を、愛はわかっている。

人々を守り続けたいなら、エレメントの力が必要。

だが、ユーザーとして戦うなら、それはつまり人類を敵に回すこと。

そして、例え人間であっても、人々の安全を脅かすものや自分を邪魔するものを全部、倒さなければならない。

そんな「悪魔」に、自分はなれるのか。

でも、答えなんて最初からあったはず。

人々の守りたいという壮大な理想を掲げるなら、それくらいの覚悟を出さねば。

「はい! 私は人々を守る、そのためなら、人類の敵になります!」

そう答えて、愛は火焔の手を掴んで立ち上がった。

「止めはお前が刺せ、お前の運命はお前自身が切り開くんだ」

言って、火焔は「氷花」を愛に渡した。

「私? でも……どうやるの?」

言われてみれば、EMと戦う方法は教わって貰ったが、愛はまだEMの倒し方を知らない。

いきなりトドメを刺せといわれても、彼女はどうすればいいのかわからなくて、困った。

「EMはエレメントの集合体だ、その体にエレメントを叩き込めば、体の構造を破壊できる」

火焔だって素人に自分で模索して正解を導き出させるほどの鬼畜ではない。

トドメを愛に任せるにはもちろん教えるつもりだった。

愛にエレメントの使い方を教えた時と同じ、火焔は簡単な指示を出した。

「剣にエレメントを注ぎ込むと想像してみろう」

火焔の指示通りに、愛は両手で氷花を持って目を閉じてイメージした。

すると、「氷花」が白の光に包まれて輝いた。

愛の後ろに回った火焔は、続けて右手を愛の右手の上に重ねて、それから呟いた。

「焔刄」

そしたら、真っ白に輝いていた「氷花」に「焔刃」の炎が絡みついて、大きな剣にさせた。

火と氷のエレメントはぶつかりあい、お互いを受け入れるように混ざって、やがて融合し、言葉では表せないほどキレイな、白き炎となった。

「すごい……」

「感心する場合じゃないぞ」

「氷花」の輝きを見て、思わず感嘆の声を漏らした愛に、まだ戦闘中だと、また立ち上がって襲いかかってくるEMを見て、火焔は注意させた。

「いくぞ、愛!」

「はい」

倒される寸前のEMは最後の足掻きとして、雄叫びしながら前へ駆け出した。

「ほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――――」

「さあ、すべてを――「終わらせよう!」「終わりにしましょう!」」

火焔がいつもの決めセリフを言う時に、愛は少し言葉をアレンジしつつ、彼と一緒に言った。

「お前……」

そのことに火焔は驚いて愛を見た。

すると愛も彼の目を見返した。

「「フッ……」」

二人は見つめ合って、一緒に微笑んだ。

そして、二人は一緒に氷花を握って――

「「はああああああああああああっ!!!」」

――EMに斬りかけた。

その一撃をまんまとくらい、半分に切られたEMはだが、まだ諦めてなさそうに苦しく、大声で叫んだ。

しかし、彼が叫び終わった瞬間、ドカン! と大爆発が起こった。

EMはそして、消えてなくなった。

戦いがこれでやっと終わった。

「やった……私、やったよ、お姉ちゃん……」

エレメントを使いすぎて、力が抜けてへたり込んだ愛は空を仰いて、天国の姉に「戦果」を報告した。

そんな彼女を、火焔はただ後ろで見守った。

そろそろ授業に戻らないといけないとわかって、、教室に戻ろうと愛は立ち上がた。

だが、体力を使い果たし、フラフラしてて、今にも倒れそうな愛を見て、火焔はすぐ彼女の元に駆けつけて、彼女を支えた。

「火焔くん……あのう、これからも……」「俺はさ……」

支えてくれた火焔に何かを聞こうとした愛だが、彼に話の腰を折られた。

「昔人間の友達に裏切られたんだ、あいつらを守るために、やつらの目の前で『エレメント』を使った。だがそれから、ずっと周りから化け物と呼ばれて、のけ者にされた」

火焔が突如言い出したのは、昨日、愛が美空から既に聞いた、四年前に火焔にあった話だった。

「あれから、俺は他人を信じたこと、一度もなかった……」

友達に裏切られて、誰も信用できなくなった。

仲間がいらないとかいつも言ってるのは、もう誰かを傷つけさせたくない以外に、それも原因だった。

「だからさ、お前を信じてもいいのか?」

二度と自分のココロを折らないようにするため、彼はずっと人との交流を控えていた。

そんな火焔が、自分のことを信じたいと言っている。

これ以上嬉しいことはあるか。

こんな時に何を言えばいいのか、愛は既に考えていた。

彼女は無理矢理火焔の後ろに回って、後ろから火焔を抱いて、そして答える。

「信じてください、なんては言わない。だけど、私は火焔くんを含めてみーんなを守る、笑顔にする、それくらいの約束はできます」

愛の言葉を聞いて火焔はまた冷笑した。

「フッ、欲張りだな」

「火焔くんは欲張りな女の子が嫌いですか?」

「……いや、嫌いじゃないかも……」

「ふふふ……」

火焔の返答を聞いて、愛も笑った。

「さあさあ、戻りましょう!」

「ああ」


二人が見えないところに、美月はさっきの戦いを全部見ていた。

「まったく、世話が掛かるやつらだ」

戦いが終わって授業に戻ろうとした二人を見送っている美月の後ろに、倒れた人体がいくつもあった。

それらは全部、さっきグラウンドで愛の戦いを見た生徒達であった……


* * *


「首席、桜見島に新たなユーザーが出現したらしい」

とある輝いている華麗なる部屋で、スーツを着た二人の男が話し合っている。

その話の内容は愛と関わっているようだ。

「ほぅ……」

椅子に座っている、首席と呼ばれた男は偉そうで、本音かどうかわからない感嘆の声を漏らした。

もう一人の、立って報告していた男は焦っているように問いただした。

「野上家の『異類』が付いてるみたいですが、どうしますか?」

「しばらく様子を見よう、いざという時はこの間の男に行って貰えばいい」

彼とは違って、首席は随分冷静にいた。

「しかし……」

まだ何かを言うつもりの男に、首席は一目睨んだ。

すると、男はすぐに諦めた。

「……しょ、承知致しました」


* * *


とある暗い部屋の真ん中で異変が起きた。

空間が歪まれて、どこからか来た紫色と赤色の二つの光がそこでぶつかりあった。

すると、一体のEMが誕生した。

頭に紫色に光っている二本の角、見えづらいが胴体には龍の顔らしき造形があって、体の各部に鱗片のような柄。

そして、両腕についている、各二本ずつ角が生えている、竜頭の形をしているアーマー。

これは間違いなく、ドラゴンのEMである。

生まれたばかりのEMは目の前にいる帷に向けて片足で跪く。

それを見て、帷の後ろに座っている者がニヤッと笑った。


* * *


「DELE」の本部に一つ実験室があった。

とある部屋には古木、入間と他数人の実験員がいる。

「第一回試運転、終了致しました」と、その一人の実験員がそう報告した。

「これが……完全体……」

さっきまで一つの窓越しに、行っていた実験の過程を全部観察していた入間はその成果に驚いている。

窓の向こうの部屋に居たのは、無数の死体だった。

その死体の群れに、EMも人間ももしかしたらユーザーも入っている。

その真ん中に唯一立っていたのは、金色の中世期風の鎧を着ている何者かしかいなかった。

ついさっきまで戦いが起こったことは想像できる、すると唯一未だに立っている鎧の中の人がその戦いの勝者だったんだろう。

「これで我々の最終目的に近い、フッ、はは……ははは……はははははははは」

その輝いている黄金の装甲を見てそう言って、古木は大きいな声で笑った。

そして入間もこれからのことを想像して、ニヤッと笑った。


* * *


――あの時の俺たちはまだ知らなかった、これからが何が起こるのかを。

今から振り返ると、俺があの時に彼女の話の腰を折らなかったら、俺たちの運命は変わっていたかも知れない――



あとがきになんで書くべきかわからないので、次回予告とたまたま雑談書こうかなあ――




――――――――――――――――――――――――――――――

愛の過去を聞いて、心に変化が起きた火焔。

火焔の過去を聞いて、信念を固めた愛。

愛のおじさんの件を通じて、二人の思いがやっと、交錯した。

そして、二人の力で愛の叔父さんがついに倒され、愛も一歩前へ踏み出した。

だが、二人が知らないところに、暗躍する三つの勢力があった。

その一つが今、まさに二人に襲いかけてきようとした!

次回、第七話、「加速する運命の歯車」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ