第五話 生き残ったふたり
日本人ではないので、日本語が間違っているかも知れないです。その時は教えてください。
「来たよ、月夜」
午後一時くらい、火焔は桜見島のとある病院に来ていた。
彼の前にいるのは意識不明となった一人の患者。
それは、見た目からすると十四歳くらいの少女であった。
その少女を、火焔は月夜と呼んでいる。
月夜の名に相応しく、少女は黒に近いとっても綺麗な紫髪を持っている。
火焔は未来のとこから買った、紫色の花を集めたフラワーアレンジメントを月夜の隣に置きながら喋る。
「ここ二ヶ月来れなくて悪いな」
返事が来るはずがないと分かっていでも、火焔は彼女に話し掛け続けた。
「最近、あいつらがよく出るから、忙しくなったんだ」
火焔が言う「あいつら」は、間違いなくEMたちのことだろう。
EM達との戦いで、火焔は最近彼女のお見舞いに来れなかった。
いろいろ喋って、火焔は彼女の傍に座った。
「それに、この間あいつがまた現れた、俺たちの悲劇を招いた奴が……」
と、「悪魔」のことを話していた時、彼は不意に、力強く拳を握った。
だが同時に、彼は微笑んでいるような顔で、続ける。
「でも、今度こそ俺は……あいつを倒すから……」
この時、実は、愛と美月は病室の外で全てを聞いている。
今朝、愛は美月に呼び出された。
何をするかと愛が思ったら、火焔を尾行することになっていた。
火焔が病院に来る前に、未来のところに花束とフラワーアレンジメントを買いに行ったことと、お墓参りに行ったことも、彼女たちは全て見ていた。
そして今、彼女たちは病室の外にいて、中のことを盗み聞きをしている。
火焔が話していることを聞きながら、愛は月夜のことについて問いかける。
「その女の子は?」
「……知ってるか? あいつの死んだ幼馴染の話」
愛の質問に対して、美月は一見関係がなさそうな質問を返した。
「はい、知ってますけど……」
「彼女も加えて、あの時三人はいつも一緒に仲良く遊んでたのよ、数少ない友達としてな……昔から病気で体が弱くて、家より病院にいる方が大部多いくせに……」
と、美月は淡々と火焔の幼い頃の友達について話した。
十年前、火焔のもう一人の幼馴染――楓がまだ亡くなっていない頃、三人はとても仲良しだった、らしい。
だけどその時から、月夜は既に変な病気を患っていて、体が弱くなって、常に病院にいた。
「今こうになったのもその病気のせい……ですか?」
月夜のことを聞いて、こういう考えが湧いてくるのも当たり前だろう。
「うん、もう一人が亡くなった時、この子も病気がいきなり悪化し倒れて、この十年もずっとこんな状態に……」
「…………」
と、美月は淡々と悲しき事実を語った。
楓が死んだのと同時に、月夜も倒れたという、あの時の火焔にとってはどれほどの衝撃だったのか。
もし、自分があの時の火焔だったら……と、その絶望感を想像してみるだけで、愛は思わず絶句した。
「あいつは――」
病室の外から火焔を見て、悲しそうな表情で美月は続ける。
「復讐のために戦うと言ったけど、実際はあの二人への償いのためかも知れないな」
「知ってますよ――」
「えっ?」
突然、意味がわかりづらいことを言い出す愛に、美月は驚いた。
火焔について何もわからないはずの彼女は、まるでこれらを全部お見通しのような口調で喋った。
「――知ってますよ、火焔くん、本当は優しい人だって」
言って、愛は火焔の顔を見た。
彼の顔に浮かんだのは、今まで見たことのないやさしい微笑みだった。
「火焔くんは本当はとってもやさしいんだって知ってます。だからこそ私に色々隠そうとして、私を『ユーザー』たちの戦いから阻止しようとしたじゃないですかね……」
「お前の言う通りに、あいつはやさしいやつかも知れないな――」
愛の思惑に、美月は肯定した。
「十年前のことを、彼はずっと自分のせいだと思い込んでいた、自分があの時、EMを倒したら、もしかしたら二人共救えたんじゃないかって」
「だからこそ、火焔くんは自分の感情を抑えて、戦い続けてきたよね」
あの時聞いた、火焔が言っていた「友達も仲間もいらない」理由を愛はついにわかった。
楓と、月夜のことを自分のせいだと思い込んでいたから、もう自分のせいで誰かが傷つくのは嫌だと思って、誰にも近づきたくないのだろう。
生き残っていたことを自分の罪だと思って、今まで自分の感情を圧し殺して、自分一人で全てを背負ったのだろう。
もう誰かを傷ついて欲しくないから、一人で戦おうとしたのだろう。
そして、愛は美月が自分をここまで連れてきた真意を悟った。
「それらを教えたくて私を呼び出したんだね」
愛の言葉を聞いて、美月は微笑んだ。
「うん……あいつは一人で全てを背負いすぎたんだからな、それを知ってるのに、あいつは相変わらず自分を傷つけ続けてる……」
言えば言うほど、美月の表情が段々悲しそうに見える。
「そんな彼を見て、私は何もできなかった」
まるで自分を責めているように、美月の悲しげな顔に少しだけ怒りが見える。
美月と火焔の関係はよく知らないが、火焔の成長を見ていたものだからこそ、美月はこれほど彼を助けたいのだろう。
「だから、ちょっとした賭けをしたんだ。お前があいつを救ってあげるんじゃないかって」
「……そのために、私を火焔くんに会わせたのですね」
美月の協力がなければ、どう考えても接点がない愛と火焔が会える可能性はほぼゼロだった。
美月には二人を繋いた理由があると、愛は昔から思っていた。
その理由が彼女が火焔を助けられるかもしれない、という賭けらしい。
その話を聞いて、長い思考に入った愛を見て、美月は帰ろうと声かける。
「じゃ、そろそろ帰ろうか」
そうやって、二人は病院から離れた。
二人が行った後も、火焔はまだ病室に残っていた。
この二ヶ月の埋め合わせをするかのように、彼はまだ月夜に話している。
「そう言えば、俺たちのクラスに転入生が入ってさ……」
いつの間にか、話は愛のことに変わっていた。
「あいつは、何故かいつも俺を見破れるんだ」
今まで火焔が隠そうとしたことと、騙そうとしたことも、愛に見破られた。
「あいつがが居ると、俺は、なんだか俺らしくなくなる……」
愛が来てから、本来感情を抑え切ったはずの火焔が怒ったことがあった。
このままだと、自分は変えられるかも知れないと、彼は悟っていた。
それだけは控えなければならない、「悪魔」を倒す前に、自分は決して元に戻ることはできない。
そう思っている火焔はだが、愛からもう一つ可能性を見いだした。
「……昔の俺のように、あいつは甘い、けど、あの甘さこそ、俺たちの運命も変えれるかも知れないな」
根拠はない、だけど彼はどこかでそう信じてる、愛なら自分たちの悲しき運命を変えると。
それを言った後、火焔も帰ろうとした。
しかし、火焔がその言葉を言った後、月夜の指がちょっとだけ動いたことに誰も気づかなかった。
火焔が病院から離れた後、心臓か急に痛くなった。
「うっ……」
それはEMが現れるしるし。
それとほぼ同時に警報も鳴った。
EMがいる方向へ見ると、なんと大きい浪が迫ってきていた。
早く何とかしないと、病院は巻き込まれるのだろう。
その浪を見た数人が「津波だあああ」と大声で叫びながら建物の中に逃げた。
病院には大勢の患者とその人たちのお見舞いに来た人がいる。
何より月夜がいる、彼女を巻き込むことだけは、火焔はどうしても避けたい。
火焔はすぐに片手を上げて、炎で浪を蒸発させようとした。
だがそうする前に、浪は凍って、氷となった。
わざわざ人を守るためにそうするもの、火焔は一人しか知らない。
誰か自分を尾行し続けたものがいるのも、火焔はなんとなく気がついていた。
「愛……ここで何をやってる」
「私が彼女を連れてきた」
火焔に答えたのは美月。
彼女の言葉と共に、二人は建物の影から出てきた。
どうやら、ずっと病院の外にいたみたいだ。
そしてこの時、島を守るための設備も発動して、全ての建物が封鎖されて、入れなくなった。
「七瀬……」
この時、三人を襲うようにもう一つの浪が横から襲ってきた。
今度こそ、火焔は手を上げ、掌から炎を出し、浪を蒸発させた。
「じゃ、後は任せた」
そう言って美月は消えた。
「見つけた」
そんな美月のことを無視して、火焔はEMを見つけた。
どうやらEMは浪の中に隠れていたらしく、火焔に浪を消された事で、その姿を現した。
さっき火焔が放った炎の衝撃で、EMは後ろへ倒れた。
「今回はサメみたいですね」
「そうみたいだな」
と、目の前のEMを二人はサメだとすぐに判別した。
二人に見つかったEMは慌てたように側の海の中に跳んだ。
火焔はEMを追うつもりで海のそばまで走ったが、突然海の底から何発もの水の玉のような攻撃が現れ、彼を止めた。
火焔は一瞬で剣を召喚してその水玉たちを切った。
攻撃が外れたと判断し、甘い攻撃は効かないと思って接近戦にするつもりだろうか、EMは海から地面に跳び戻る、
そうして火焔に近づいた一瞬を狙って、刀のように鋭い鰭で火焔を攻撃した。
海の底から、すごい勢いで飛び出したその一撃を、火焔がギリギリ躱したが、左の二の腕に浅い傷を残した。
火焔に傷を与えたことに満足したのか、EMは追撃しなかった。
この隙に愛はエレメントを駆使し、火焔をサポートするために、EMを攻撃しようとした。
すると、彼女の周りにいくつの氷が現れた、だが――。
「待って! お前がエレメントを使ったら海が凍る!」
火焔の言葉によって、愛は使おうとしている技を取り消した。
確かに、愛の角度から撃つと、EMよりも海に当てやすい、あのままだと、海が凍結する。
この時、EMは再び海に跳んで、同じ攻撃を仕掛けようとした。
海と陸地の間を頻繁に移動すると同時に攻撃、これが海洋生物系のEMの面倒なところだ。
「俺を狙うか……」
今まで仕掛けた攻撃からEMの狙いは自分だと火焔は気づいた。
攻撃の仕方と狙いが分かれば、避けるのは簡単だ。
今度の攻撃に対して、火焔は避けるだけではなく、反撃も仕掛けた。
腰を斬られたEMは苦しそうに叫んだ。
今まさに追撃の好機だが、火焔はそうしなかった、まるで「もっと来いよ」と煽っているみたいに、ただ警戒する構えをした。
それに対して負傷したEMは再び海に戻った、だが今度はそのまま逃げた。
海の中で逃げられるのは、まためんどくさいこと。
EMの気配がなくなってから、EMが逃げたと気づいて、火焔は警戒を解いた。
「大丈夫ですか?」
「ああ」
火焔を助けるつもりはあったが、彼に止められて何もできなくて、愛は凄く後悔しているらしい。
「EMを……逃しましたね」
「いいんだ、その方が面白いだろう?」
そう言って火焔は笑った、しかし、それはちょっと怖くて不気味な笑顔だった。
「おもしろい……?」
その言葉のせいで、愛はちょっと引いた。
この時愛は悟った、火焔はもう自分を諦めたって。
さっき美月と話していた、火焔は幼馴染のことを自分のせいだって思い込んでいた、だからこの十年間ずっと戦ってきた、と。
だけどその本当の理由は、それだけじゃない。
ひょっとしたら、火焔は死を望んでいるじゃないんかと、自分を殺せる相手を探しているじゃないんかと、或は、彼は戦いを楽しんでいるんじゃないかと。
その瞬間、愛はようやく気づいた、自分は実は、目の前にいるこの自分が好きな人のことを何もかも知らないと。
いつも、火焔のことならお見通しの口調で言って、好きな人のことなら何もかも見破れると思っていたが、それは間違いだった。
もしかしたら、彼の心は既に今まで長年の戦いのせいでボロボロになっていたのかも知れない。
そういえば、火焔くんの好きなこと、趣味とか愛は今まで聞いたことなかった。
だけど今までずっと戦っていたから、もしかしたら、戦うこと自体が彼の趣味、生き方になっていたのかも知れない。
このままだと、彼は楽しさを求めるために戦う、そういう者になるかも知れない。
ここまで考えて、愛はゾッとした。
「そろそろだな」
そう呟いた後、火焔はいきなり愛を連れて病院の裏に回った。
「な、なにを……」
「だから言っただろ? 俺たちの存在は人にバレてはいけないんだ」
だから、島の防御設備が解ける前に、隠れなければならない。
この時、街は元に戻った。
「こういうことでしたか……」
火焔の話しを聞いて愛もやっと気づいた。
そしてこの時、それとは別で愛は何かに気づいた。
「戻ろう」
「あっ、ちょっとだけ待っててください」
家に帰ろうとした火焔を愛は止めた、そして彼女は街角まで走った。
その後戻ってきた愛は、一匹の野良猫を連れていた。
「猫?」
その猫は右眼が青色で、左眼が薄い紫色のオッドアイになっていて、野良のせいか、黒い毛はボロボロで汚い。
彼女はこの猫に気づいたらしい。
「この子がボロボロで、凄く可哀想だから……」
「フッ、お前らしいな」
昨日のデートから火焔は知っていた、愛は猫が好きということを。
だが火焔は猫が好きかどうかは愛にはっきり聞いたことがない。
「火焔くんは、猫ちゃん嫌いですか?」
「にゃー」と猫も質問するみたいに鳴いた。
二人、いや、一人と一匹に対して火焔は何を返すべきなのかわからなくなった。
「はぁ……嫌いじゃないよ」
ただ息を吐いた後、火焔は愛にそう答えた。
「じゃあ、飼ってもいい?」
「……別にいいと思うけど……」
野上家で猫を飼うことについて火焔は意見がない、野上家全員異議は出ないと彼は思ったから、愛に答えた。
「ありがとう、火焔くん!」
飼ってもいいよと言われて、愛は凄く嬉しそうに礼を言った。
「よろしくね、猫ちゃん!」
そうして愛が猫によろしくと言った後、火焔は無言で猫の頭を撫でた。
家に戻った二人を迎えたのは、青髪の変な男だった。
「やあ、火焔、久しぶりだね」
その男は馴れ馴れしく火焔に挨拶をした、そしてすぐ愛の存在に気づいた。
「おっ、この方は?」
言って彼は愛に手を差し出した。
それを見て、火焔は愛を自分の後ろに隠した。
「こいつには手を出すな。兄さん」
この変な人はなんと火焔の兄だった。
「火焔くん、この人は……」
「俺の兄、流って言うんだ」
戸惑っている愛に、火焔は流を紹介をした。
「流でいいよ」
「は、初めまして、流さん」
「お前は先にあの子とお風呂でも入れ、兄さんと話がある」
と、火焔は愛と猫を風呂に行かせた。
「俺がいない間、いい彼女できたじゃん?」
「彼女じゃねぇし。 そんなことより、何か情報が掴めたか?」
「ううん、全然」
火焔の質問に対して、流は軽く答えた。
その軽々しさに火焔は怒る。
「だったら何故帰った!」
「おっ!今怒った? 怒ったな?」
突然怒った火焔に対し、流はなんだか嬉しそう。
火焔が感情を抑えていたことを、兄として流はもちろん知っている、だからこそこんな火焔が久々すぎて、嬉しくなったのだろう。
しかし、そんな自分の兄に対して、火焔は嫌そうな顔になっていた。
「死にたいのか?」
「まあ落ち着け、親と兄弟一人が行方不明になったのは、俺たちも同じだ」
「四年前、親とあいつがいきなり消えて、探すと言ったのも、俺をここに残したのも、お前らじゃないか、なのに今は何の手掛かりもないで帰るのか!」
四年前、火焔の親と双子の弟が突然行方不明になった、その時あの三人を探すために長男の流、そして次男の兄と末の弟が家から出た。
桜と美空の世話をするために家に残されたのは火焔だった。
自分も探しに行きたいのに残されたのが不満だったけど、火焔はそのことを兄弟達に託した。
それなのに、長子である流が何の手掛かりもないまま、家に帰ってきたことに、火焔が怒るのも無理はない。
「だから落ち着けって! 今回帰るのはお前と“契約”を結ぶためだ、それが終わったら俺はアメリカに戻って、やるべきことをやるから!」
弟と戦いたくないから、本気で怒ってそうな火焔に、流は少し焦った。
その言葉にまた謎の名詞が挟んた。
「“契約”? 俺を舐めてるのか?」
““契約”というのは、「ユーザー」の間だけが行える儀式。
本来「ユーザー」はみんなは生まれつきの属性のエレメントしか使えない。
だが”契約”を結ぶことで、「ユーザー」は自分のエレメントの属性を他者のものに切り替わることができる。
つまりこの場合で言うと、“契約”を結んだら火焔は流のエレメント――水のエレメントを使えることになる。
ただ契約は一方通行で、流は逆に火焔の炎のエレメントを使えるなんてことはない。
だが、流から上から目線で、力を与えようみたいな口調に言われて、舐めてんだろうと思っても仕方がない。
それを、流は否定したい。
「そうじゃない、お前は強い、だからこそ水のエレメントを君に託したい、「七エレ」の中で一番汎用性が高いやつをね」
流は自慢してない、水のエレメントは「七エレ」の他のエレメントと比べても、一番汎用性が高い方に間違いない。
「大体契約をするだけて、減るもんねぇだろ」
そう、契約をすることは、火焔にメリットしかない、だから断る理由がない。
「ちっ……」
もう言い返しができない火焔は素直に受け入れるしかなくなった。
そしたら、火焔の前に水のエレメントでできた契約書らしき物が現れた。
見た目から空気に浮いでいる四角の水の塊しか見えない契約書の内容は、人間社会に存在しないような文字で書いていた、我々がわかるのはただ文章の下にある確認と拒否のボタンらしい物だけ。
火焔は指を鳴らすことで人差し指に炎を纏わせた。
その指で火焔は多分確認を示しているボタンを押した。
そして――何も起こらなかった。
派手なエフェクト、演出とか一切ないが、今の火焔は間違いなく水のエレメントを使えるようになっていた。
「これでいいんだろ?」
「はいはい、じゃあ俺はアメリカに戻るよ、バイバイ」
と、流は家の大門を通って去っていた。
火焔と兄が話している時、愛は火焔に言われた通りに、猫と一緒に浴室に来た。
「お風呂だよー」
「にゃー」
シャワーで猫を洗いながら、愛は火焔のことを考えていた。
「火焔くんとお兄さんは関係が良くないみたいだね」
火焔の流に対する態度は、明らかに美空や桜に対するそれと違う。
普段感情を抑えていても、火焔は美空と桜には割とやさしかった、しかし流に対しての冷酷さは半端ない。
「美空さんと桜ちゃんとは結構仲いいのに……なんでなんだろう?」
愛は猫に話しかけているように呟いたが、猫はもちろん彼女に対して答えていない。
「そうよね、猫は話せないもんね」
さっきサメのEMと戦った時に気づいた、自分はまだまだ火焔のことを知らないと。
この十年間、火焔は何を体験しただろうと愛は考え始めた。
そう言えば、クラスメイトの女の子から聞いた、火焔が化け物だったのこと、それは一体何だったのか。
純粋に火焔がいつの間に「ユーザー」のことがバレたのか、それとも他に何か理由があったのか。
この時、猫ちゃんは「にゃ~~~ん」と鳴いて、愛を思考から現実に連れ戻した。
こうして考えても何も出ない、それを悟って愛は一旦考えるのを諦めた。
その後、猫と見つめ合うことになった愛は、ひとつのことを思い出した。
「あっそうだ! あんたの名前も決めないとね!」
「にゃー」と、猫は彼女に返事をしているように鳴く。
そして、愛は頭の中に浮かんだ名前を口にした。
「ミキちゃんとかでどうかな?」
「にゃー」
と、その名前を聞いて猫は嬉しそうに鳴く。
「じゃあミキって決定ね!」
「にゃー」
「ミキちゃーん」
「にゃー」
名前を決めたところで、はしゃぎ出す一人と一匹であった。
* * *
アメリカのどこかで、若い者たちがパーティーをしていた。
このパーティー主催であろう、服装や髪型に色々気合入った男子のところへ一人の女の子が行った。
「ねぇ、流はまだ?」
彼女は英語で男子に質問した。
「えっとね、なんか用事があって日本に戻ったらしい。行く前にみんなに楽しんでって伝えてくれって彼に言われたよ!」
「え~流も来るって言われてたから来たのに……」
女の子の文句を聞いて、今まで楽しく遊んでいた若者たちは突然がっかりして、男子に文句を言い出した。
「え、流来ないの?」「流がいなきゃ楽しくないわよ~」と。
このままじゃ、みんな去って行く、と思った男子は焦った。
「ああああ、待って、今電話するから行かないで!」
ちょうど流が野上家から離れたタイミングで、電話がかかってきた。
「ヘイ! ジョン、どうした?」
相変わらず軽々しい口調で、流は電話の向こう側の男の子――ジョンに話しかけた。
だが、向こう側から聞こえるのは、かなり焦っている男の声だった。
「おいおい流今どこにいる?」
「だから用事があっていったん日本に戻るって言っただろ?」
「パーティーに来た女子みんながお前がいないと帰るって!」
「……彼女たちに代わって」
事情を理解した流はジョンにそうさせた。
ジョンは女子が流と対話できるようにスピーカーに切り替えた。
「ヘイレイディーズ、楽しんでるかい?」
「流~」
「今から帰るから、少し待ってーーちゃんとパーティーを楽しまないとお仕置きだよーー」
「はーーい」
アメリカにいた流はハーレムを持つプレイボーイ、らしい、今回は火焔のため態々日本に帰ってきたんだ。
「しっかし火焔の奴、いい彼女できてんじゃねぇか。 俺もそろそろ一人に決めたほうがいいかな……」
電話を切った後、振り向いて野上家を見てそう呟いた流。
「またな」
* * *
流が行った後、火焔は愛の部屋に来た。
「愛、いるか?」
「はい」
「入るぞ」
火焔が愛の部屋に入ると、ミルクを飲んでいる猫とその子の頭を撫でて、楽しそうに微笑む愛の姿が目に入った。
「ミキちゃん~」
「ミキ? その子の名前か?」
「うん、さっき付けました」
「可愛い名前だ、な?」
火焔は言ってミキを撫でた、その行動を見て愛は笑った。
「フッ……」
「何がおかしい?」
「ううん、だって火焔くんがやさしいところを初めて見せたから」
「そうか?」
「うん」
そんなやさしげな火焔の顔を見て、今ならまだ間に合うんじゃないかと愛は思った。
火焔を戦いの運命から救い出すことに、火焔のボロボロになりかけている心と体を癒すことに、まだ、間に合うんじゃないかと。
愛は彼を救いたい、美月に何か言われたからではなく、今までのことがあって、心の底から、そういう考えが芽生えた。
さっき野良猫を助けたように、愛は昔から何かを失った者の力になりたいと願う人間だったから。
彼を救いたい、彼が背負っているものを分かち合いたい、そう思って愛は目の前の男の子に手を伸ばそうとする。
その為にもまず、彼のことをもっと知らないと。
「ねぇ、火焔くんっていつも一人で戦ってるの?」
言って、愛はミキの傍から離れて、ベッドに行って座った。
彼女の質問を聞いて火焔は猫を撫でていた手を止めた。
「どうした? 急に」
「ううん、突然思っただけ、今までの戦いを火焔くんはどうやって乗り越えたのかを」
どう話すか、または愛に隠すべきかを一旦考えてから、火焔は愛に答える。
「……ああ、大体一人だ」
その答えを聞いた後、愛はまた次の質問を問いかけた。
「怖くないですか?」
「……最初は、怖かったかもな――」
さっきの考えで愛に隠してもどうせ見破られると思ったらしく、火焔は愛の質問に本当のことを答えると決めた。
「だがEMより人間の方がよっぽど怖いことを知ってからは、もうEMなんか怖くもねぇ」
「人間が……怖い?」
火焔の返答を聞いて、愛はまた疑問が沸いてきた。
人間が怖い訳ないじゃないか、と。
その思惑に気づいた火焔は続ける。
「人間はEMや動物と違って、純粋じゃないんだよ。人間っていうのはな、さっきまで友達だった者が次の瞬間敵になるかも知れない、裏切りが得意な生き物なんだよ……」
ものすごいネガティブなことを、火焔は考えもせずに口にした。
「この世界の人はみんな仮面被ってるんだ、誰だって裏切るかも知れない」
火焔は多分昔人間に裏切られたことがあるのかも知れない、だからこそそんなことを言えるのだろう。
「……過去の火焔くんに一体、何か起こったんですか?」
わからないから、愛は火焔の過去について問いかけたい。
一体何があった? 何があったら火焔はそこまでネガティブになったのか? なぜそこまで人間に偏見を持つのか? あれほど、人間が嫌いなら、心と体がボロボロにするまで戦う本当の理由は何なのか?
だが火焔が返す言葉に、答えはない。
「お前に話しても、わかるはずがない。 全てを失ったことのないお前にはな」
これで、愛は何も言えなくなった。
自分と違う者の過去を理解できるわけがない、火焔の絶望を理解できれば、自分もとっくに火焔みたいな人になっていたはず。
愛は火焔と違う、だから、火焔を救うには、自分のやり方でやるしかない。
そのためにもまず、自分がやるべきことを、改めて決意しないといけない。
「それでも、そんな人間のために私は戦いたいです」、と。
火焔を救いたいなら、火焔が信じたくない人間を、自分はあえて信じる。
「人を守れる力があるのに何もしないなんで、後悔するだけです、そんなの嫌ですから」
自分の気持ちを火焔にもわかるように。
だがそんなセリフは火焔に効かない。
「じゃあ、いつか俺はお前と戦うことになるだろうな」
この間の会話にも出てきた話。
火焔は「ユーザー」、愛は人間、違う立場の二人はいつか戦うことになる。
「お前の剣が命を守る剣だとしたら、俺の剣は命を奪う剣だ。二つの剣はいずれ、ぶつかり合う日が来る」
「命を……奪う剣?」
火焔の言葉を聞いて、愛はちょっと戸惑った。
その戸惑いに気づいて、火焔は続けた。
「俺はさぁ、人間の命さえも奪ったことがある」
それほど重い言葉を、火焔は軽く言い出した。
「…………」
火焔が語った事実は愛にとってあまりのショックだったため、彼女は一瞬言葉を失った。
火焔が人間を殺したことがあった、と。
でも今再び考えてみたら、そうじゃない方がおかしい。
十年前から戦ってきたと聞いた時からもう悟るべきだった。
この十年間に、EMだけを相手にするわけがない、生きるために、勝つために、EM以外の者とでも戦わなければならない、「ユーザー」も、「DELE」も、彼は色々生命を奪ってきたはず。
それを信じたくないからか、愛はその可能性をこれっぽっちも考えたことがなかった。
「俺は人間が嫌いだ、いや、むしろこの世界そのものが嫌いだ、だから、お前が人間を守る為に戦うとしたら、俺はいずれお前と戦う事になる」
「……そうは……」
「ん?」
火焔の言葉を聞いて、愛は頭を振って言いかけた。
「そうはさせません! 私は決して火焔くんと戦いたくない! 私は、火焔くんの心を変えたいの!」
自分を助けたいって、全てを失って絶望した者にとってなんてこころ強い言葉なんだろう、だがそんなことを言い出す愛に、火焔は相変わらずの無表情のままでいた。
「できるもんならな。だがこれだけは忘れんな……」
火焔はいきなり「セーブ」から取り出した「赤玉」を愛の首に当てた、そして続けた。
「……俺もいつかお前を裏切るかも知れない、ってな」
怖かったからか、火焔がきっと自分を傷つけないと確信したのか、愛は怯えてなかった。
ただ火焔をじっと見ているその目に迷いはない。
「だから、誰も信じるな――俺を含めてな」
愛の瞳から何かを感じた火焔はその言葉を言って、剣を再び「セーブ」に締めた、それを見て愛は火焔に言い返す。
「……私はね、やっぱり自分のことを人間だと思います。私は、人間を信じたい!」
自分が怪物だと認めた火焔と違って、愛は未だに自分が人間だと思いたい。
人間を守るために彼女は人間を信じてみたい、いつか「ユーザー」である自分が人間に理解されると、火焔の言う通りに人間に殺されないと、彼女は信じてみたい。
信じることを諦めた火焔と違って。
「俺もかつてそう思った時がある、いずれお前もわかるだろう……『ユーザー』と人間は共存できないって」
「そうかもね」
火焔の言葉に愛は微笑みで返した。
そしてこの時、火焔は胸に鋭い痛みを感じた。
苦しそうな表情に変わった火焔から、愛もEM出現を悟った。
「また出ましたのね?」
「ああ、さっきのサメ野郎以外に、もう一体いる」
感知でわかったEMの情報を、火焔は思わず愛に伝えた。
「行くぞ!」
「はい!」
さっきまでお互いにぶつかっていた二人は一瞬で、心が通じ合えそうな戦友になった。
二人はこうして、再挑戦してくるサメのEMのところへ向かった。
二人は今度は海に来た。
二人が到着する時ですでに、桜見島の防御設備が既に起動しており、ビーチがあの白い物質に包まれてフラットな平地になった。
教えられなければ誰もビーチだってわからないだろう。
「お待ちしました、お二人様」
そこで二人を待っていたのは希だった、それに対して愛に疑問が湧いてきた。
「あれ、如月さん、どうしてここに?」
「希でいいですよ、姫さん」
その質問を聞いて、希は答えるよりも、自分への呼び方の修正を先にした。
当然のように、希の代りに答えるのは火焔。
「俺が先に呼んだ、念のためにな」
感知の力で同時に二体のEMが出現したとわかったため、まだ一人でEMに立ち向かう力がない愛と一緒に挟み撃ちにされないように、火焔は助っ人を呼んだ。
「仲良く話すんじゃねぇ!」
その言葉と共に、大きい水玉が三人を襲った。
その攻撃にすぐに反応できた火焔は一瞬でそれを蒸発させた。
「またお前か……」
EMはカ○ハメハに似た構えて、掌から水の竜巻を出した。
それに対し、火焔もただ手を前に伸ばし、EMとまったく同じ技を使った。
「「え?」」と。
愛と希は同時に驚いた、だが二人の驚くポイントは全く違う箇所だった。
「どうして? 水が出るの?」
「ご主人様……まさか流さんと契約したの?」
愛は火属性の火焔が、水属性の技を出せることについて驚いた。
逆にその理由を知っている希は火焔が、流と契約したことについて驚いた。
二つの竜巻がぶつかって、お互いを消した。
そして、戸惑っていた希に火焔は応える。
「ああ」
「契約って?」
「契約を結ぶことで、他の『ユーザー』のエレメントを使えるようになるよ。つまり、ご主人様は今流のエレメントを使ってる」
二人の対話を聞いてまた新たな疑問が沸いた愛に、希はちょっとした説明をした。
「ちっ……」
自分の最強の技が消し飛んで、驚いたEMはこの状況を不利と見て、水の中に逃げようとした。
「逃すか……」
EMを追いかけて火焔も海の中に跳んだ。
それを見て、愛も参戦しようと体を動かしたが、その時、地上に大群の「初型」が湧いて出てきた。
「私たちも暇じゃなさそうみたいね」
「そうみたいですね」
地上に残された二人をほっといて、火焔は水の中にてEMと戦いを始めていた。
水のエレメントのお蔭で、火焔は水の中でも自由に動けた。
残念だが、EMは海の中にて高速で泳げる、水中戦の経験が少ない火焔と相性が最悪とも言える。
従って、火焔は攻撃どころか、EMの攻撃を避けるだけで精一杯だった。
この時、EMは高速で前転して、自分の体をタイヤのような姿に変え、回転の慣性で背びれを強い凶器にさせた。
この状態でEMは火焔に攻撃を向けた、この一撃を食らったら火焔の体は真っ二つになって、この海底で死ぬのだろう。
だが、強そうな攻撃ほどスキが多いというのは戦いの常識、むしろこれがチャンスかも知れない。
とこの時――
火焔は水のエレメントで分身を作って、身代わりの術のように使った。
分身で時間を稼いた火焔は海底の下に潜んだ。
火焔に騙されたことに気が付かないEMは、敵を倒したと勘違いして、“タイヤ状態”を解除した。
そして次に瞬間、火焔はEMの後ろに回って、「赤玉」でその背びれを斬った。
背びれを失って、辛そうなEMは不意に速度を大幅に下げた。
まさに好機とばかりに、火焔は一気に機動性を失ったEMのその他の鰭をすべて斬った。
鰭を失って泳げなくなった鮫は、もう死んだも同然、その特性を、不幸にも、継承したEMはもはや袋の鼠。
「せっかくだからな、水に似合う武器を使ってやる」
という突然の発想で、火焔は「赤玉」を「セーブ」に仕舞って、代わりに水の鞭と一つの銃を取り出した。
その鞭は革紐に当たる部分が水のエレメントになっていて、火焔の意志によって伸ばすか縮むことができる。
そしてその銃は実弾を使う「銀月」と違って、使っているものの体内エレメントで構成される弾丸を使う。
だから見た目も普通の銃と違って変わった造形となっている。
長い鞭でEMの体を縛った後、火焔は鞭のグリップをスコープのように銃と合体させた。
そうした後、火焔はその合体銃でEMを照準した。
「それじゃ、すべてを終わらせよう。〈ウェイヴ・ブラスト〉!」
すると、銃口に集まっていた水のエレメントは、火焔がトリガーを押すことで、青いビームとなって銃口から出て、EMに当たった。
その攻撃を食らわったEMは爆発した後消えた。
地上に残った二人は「初型」群れと戦い始めていた。
「初型」は多く出現していたが、単体の戦闘力は低い、大きなダメージを与えたら消える、今の愛でも簡単に倒せるはず。
但し、目の前の大勢を相手にするのはちょっと厳しい。
愛は目の前からの攻撃を防いでいたが、後ろからの攻撃を避けられなくなった。
それがあたりそうな瞬間、愛は突然左手を後ろに持って素早く氷の刺を作って攻撃を防いた。そして彼女は一周回って、前後二体のEMを同時に倒した。
突然にも、彼女がこんなに果敢な判断をし、実行できた理由、それは彼女が瞬間に別の人格に切り替わったからだ。
一方、希は素手だが、彼女が倒した「初型」の数は別人格に変わった愛に負けてはいない。
二人はなんとか「初型」を全部倒した。
そしてら、愛は力が抜けて倒れた、ただし今回は何故か気を失っていない。
彼女の状況を見て、希はなんとなく二重人格のことに気付いた。
「姫さん、大丈夫ですか?」
「……希さん? 怪物たちは希さんが倒したの?」
自分が一瞬意識不明になり、気が付いたら周りの「初型」が全部消えていた、愛はそれを希が倒したと脳内で補完した。
そして、彼女は火焔のことを思い出した。
「あっそうだ! 火焔くんは?」
「まだEMと戦ってるはずです」
この時点で、火焔はまだ水中でEMと戦っていた。
「こんな長時間水の中にいて、大丈夫なんですか?」
愛は一旦人格が交代しているため火焔が水に飛び込んでから大分時間が経っていると感じていたが、実際過ぎたのは十分以内だった、時間的には、今はちょうどEMのひれが全部切られたところくらいだった。
だがそれについて、愛は疑問が沸いた。
例え火焔が十分くらい息を止めても平気な体質だとしても、これは普通の泳ぎではなく、戦いだ、水圧が高いところにいられるはずがない、それで大丈夫なのか、と。
「大丈夫、水のエレメントは『ユーザー』を水中戦に適した体に変えるから」
水のエレメントで体を強化することで、「ユーザー」は酸素や水圧の問題を心配しなくて済むようになる。
しかしその能力はもちろん「ユーザー」がエレメントをコントロール出来る能力の強さに関わる、弱い方は十メートルでもきつく感じる、強い方なら百メートルくらい余裕。
この時、水中で大きな爆発が起きた、水面上にも大きな波しぶきが上がった。
「あれは……」
そして、EMを片付けた火焔はこの時水から地上へ跳び戻った。
「火焔くん! 無事だった?」
「気を抜くな、もう一体いる、後ろを見ろ」
びしょ濡れの体を火のエレメントで体を乾かした火焔は、自分を心配してくれる愛を無視して、二人の後ろを指差した。
そこに二体目のEMがいた。
だがそのEMは今までのと比べて全然様子が違う。
「人間……?」
何故なら、そのEMと呼ばれた物は、見た目はただの人間だからだ。
「寄生型か……」
そのEMの姿を見て、火焔はまた妙な名詞を言いだした。
それについて概念がない愛はもちろん問いかける。
「どういうことなんですか?」
「EMは実体を持つ怪物だけとは限らない、人の精神に潜んで、人間の体を乗っ取る奴もいる」
EMは普通に化け物の姿を持つ者だけではない、人間の体乗っ取って操るものもいる、それが「寄生型」、もちろん他の種類のEMもある。
本来なら寄生型のEMは本来の姿を現すまで判断する術はないはずだが、火焔は今回偶然に感知の能力で見つけた。
その寄生型のEMはどんどん三人に近づいていく、それで三人は徐々にあの乗っ取られた人の顔が見えるようになった。
それは四、五十代の男性で、細い体に整った顔。
見た目に似合わないゾンビのように力が入っていなさそうな動きをして彼は前に進んでいた。
「一般の男性でしょうか……」
その人の外見を見てそう予想した希。
が、次の瞬間――
愛が突然「氷花」を取り出して、何も言わずまま乗っ取られたあの人へ駆け出した。
そして、彼女はすごい勢いで男の胸を刺した――
――が、その攻撃が当たる前に、火焔は体を男の前に投げ出し、素手で「氷花」を掴んで、彼女の攻撃を止めた。
愛が急に攻撃を仕掛けたのは裏人格に入れ替わったからだろうと思ったら、違った。
愛の瞳はまだまだ綺麗な碧い色で、彼女はまだ表人格のままだった。
裏人格と違って、大人しい表人格の愛が何故こんな行動をとったのか、火焔はその理由を突き止めたい。
「どうした」
「止めないでください……」
そう言って、愛は剣に益々力を込めた。
素手で高速移動してる「氷花」の刃を掴んだため、火焔の左手は既に血まみれになり、傷は更に深まる。
二人共止まっていたこの一瞬の隙をついて男は火焔の背中にパンチを出した。
「止めるさ……」
そうやって、愛に答えながら火焔はパンチが届く前に男を蹴飛ばした、そして右手で再び「赤玉」を取り出した、火焔が戦うと思いきや、彼はまさか剣を空に投げた。
自分の使い主の動きを察し、希は空に跳んで、剣を取ってから、男の前に着地した。
「希! あいつは頼んだ」
「了解です、ご主人様」
男との戦いよりも、突然暴れ出した愛をどうにか止めるべきと判断して、火焔は男のことを希に任せた。
「あの人は……私が倒します! 私が倒さないと……私じゃないと……」
焦って、愛は泣き出して、強く握っていた「氷花」を地に落とした。
左手の傷に構う暇もなく、火焔は愛の肩を掴んだ。
「愛! 落ち着け、何があったんだ!」
「彼が……あの人が……お姉ちゃんを……殺したんだっ!」
「え?」
愛の言葉を聞いて火焔は驚いた。
何故なら、美月から聞いた話と違うからだ。
愛の姉は、交通事故にあって死んだはず。
「お前の姉は……交通事故で亡くなったんじゃないのか……」
美月も知らなかった、愛の姉の死の真実を。
そして今から愛はそれについての事実を語り始める――
「お姉ちゃんが自殺したのは……この人のせいだっ!」
あとがきになんで書くべきかわからないので、次回予告とたまたま雑談書こうかなあ――
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(雑談)この回をラ○ダーで言うと フォームチェンジ回です。フォームチェンジ なので、設定としては火焔は属性違うエレメントを同時に一つしか使えません、本編で書くべき内容なんですが、どうしてもおかしくなるので割愛した、ラ○ダー時代の名残りその二です
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美月から愛の過去を知った火焔は、美月でも知らなかった愛の過去の真実に近づこうとしている。
そして同時に、愛も火焔の過去を少しずつ触れている。
「過去の鎖は、あいつ自身で切らなきゃ意味がないんだ」
「火焔くんのこと教えてくれますか?」
過去に大切な人を失った二人、「ユーザー」としてEMと戦う道を歩んだ二人、似たような二人。
「私って最低だよね?」「最低なんかじゃない!」
果たして、愛は過去の鎖を断ち切れるのか。
「覚悟はできてるか?」
二人の行方は?
「さあ、すべてを――「終わらせよう!」「終わりにしましょう!」」
次回、第六話、「似ている二人」