第十一話 仮面を外すヒーロー
日本人ではないので、日本語が間違っているかも知れないです。その時は教えてください。
第十一話 仮面を外すヒーロー
「一体何やってんだっ!!!」
自分を殴るように、バン! っと壁を殴りつけた。
「あいつを倒すために今まで生きて来たんじゃなかったのかっ!」
「あの二人の仇を取るんじゃなかったのかっ!」
自分に問いかけながら、一発一発と、壁を殴り続ける。
「せっかくあいつを倒し、十年前のことに決着をつける機会なのに……」
ついさっきまで、俺は十年前に俺の大切な人を奪ったEM――「悪魔」と戦っていた。
戦った、そして勝った。
これで十年も渡った俺の復讐もやっと終われる。
そのはずなのに……俺はあいつにトドメを刺さなかった。
刺せなかった。
あいつを逃した。
愛がそうさせたのか。
自分が心の中からこっそりそうしかったか。
もうわからない。
なぜ、自分がトドメを刺せなかったか、わからない。
だから。
復讐のためじゃなく、自分に似たような犠牲者が出ないよう戦う愛みたいに、復讐を捨てるって。
逃がすんじゃない、あとに引き延ばしただけだって。
なーんて。
いっぱいいっぱい、自分を騙すような、自分を催眠するような無数な言い訳。
「はっ、ははははは、はははははははは――」
わらった。
自分の甘さを嘲笑っているのか、自分の情けなさを笑っているのか。
わからない。
十年間も頑張ってたのに、最後の最後に、EMに報復する事もできないなんて。
そんな無力な自分をわらっているのかもしれない。
「本当、何やってんだ……」
「バン!」とまた一発殴った。
アホくさいよな、十年間もずっと戦ってきたやつが、最後の最後に戦いをやめた。
仇を取る絶好なチャンスだったのに、見逃した。
あいつを倒すためにこの十年間を生きてきたっていうのに、最後の最後に諦めた。
この十年の生きがいを、あっさりと。
その十年のすべてを全部台無しにした……
だから悔しがって、腹いせに自分を殴っているように壁をぶん殴る。
拳が血に染まっていくほど。
この状態でもうどれくらい経ったのか、もう覚えていない。
拳に伝わる痛みが強烈すぎて、むしろ麻痺されてるように、もう痛みを感じもしない。
「なんのための十年だったんだっ!!」
自分に問いかけて、下に向かって叫んだ。
これも全部……あいつのせい……
飛鳥姫 愛、あいつと出会うまでは、復讐しか考えてなかった。
でもあいつに出会ってから、俺はいろいろとおかしくなってた。
ずっと押し殺してきたはずの感情が、抑えられなくなった。
誰も信じれなくなったはずなのに、あいつのことを信じようとした。
あいつとのやりとりをいつから楽しむようになった。
鶴EM――前川と戦った時も、あいつが言った言葉で、倒すのを諦めた。
本当……あいつに出会ってからいっぱい変わったなぁ……
「また俺のせいで……」
だがまた自分のせいで、大切な人が……
「どこに、行ったんだ……」
気がづいたら、自分は壁を叩いてた手を止めた。
そして、力が抜けたように、壁に沿って倒れかけた。
復讐を果たせなかった、楓と月夜の仇を取ってやれなかった、生きがいを失った、EMを二体を逃した、そして、愛さえも失った……
俺は……また、すべてを失った……
なんでだろう。
あいつとは長く、深く関わらないって最初からわかってるはずなのに……
最初からあいつが独立できたら、すぐに縁を切るつもりだったのに……
最初から期待してないはずなのに……
最初から希望持ってないはずなのに……
最初からこうなるって予想してたのに……
そのはずなのに……なんで、なんでこんなにも心がモヤモヤしてるんだ……
なんで心がこんなにも痛いんだ……
なあ、お前は今、どこでなにをしてるんだ……
突如、一滴の露が腕に落ち零れた。
「え……」
それまで気づかなかった、自分は泣いていたと。
目から溢れ、地に一滴一滴と降りる涙を見て、つい苦笑した。
「ふっ」
なんだ……まだ泣くことを知っているのか……
楓と月夜の件以来、ずっと泣けなかった。
どんなに苦しいことがあっても、どんなに辛いことでも、涙が出なかった。
四年前の時もそうだった。
十年前に既に心が折れたから、もう一生泣けないと思っていた。
まさかこんな風に、また泣ける日がくるなんて思ってもしなかったな。
「もう、帰ってきたんですか……」
この時、後ろから希の声が伝わってきた。
なんてこんな時に……
帰ってきた時はまだ誰も起きてないのに、もういつの間にこんな時間か……
彼女に答えて振り向こうとしたとき、今の自分の状態を思い出し慌てた。
こんな様じゃ希に見せらんねぇな。
「ああ、希か? もう起きたのか?」
希に背を向けたまま涙を拭き、咳払いをして、普段通りの自分を装って応えた。
「昨日は悪いな、連絡もせずに外で……」
すると、背後からまた声がした。
だがそれは希の声じゃない。
「なにしとるんじゃ?」
耳に伝わってきたのは聞き覚えがない声。
誰か家に入った、俺が知らない誰かが……
敵か……直感で危険を感じて、すぐ剣を取り出して振り向いた。
だがそこに立っていたのは、一人だけだった。
そう、希だ。
いや、厳密に言うと、彼女の胸に一匹のネコが抱かれていた、ミキというネコが。
いつ入ってきたんだろう。
俺としたことが、希はともかく、ミキが部屋に入ったことですら気づかないなんて……
そう言えば、愛が行ったあとミキはどうするんだ? 俺が飼い主になるのか?
でもまぁ、俺がやらなくても、希や空姉で何とかするか……
この間空姉がミキと戯れたとこを見てたから、なんか仲良くなれるかな。
あんな動物が好きなタイプだったっけ?
そういや、いつの間にか愛と空姉が親しくなったな。
最初の頃は空姉が一方的に敵視してたのに、いつの間にもか姉妹に見えるほど仲良くなってた。
学校で二人でランチするとか、一緒に風呂に入るとか。
――あっ、なんてまたあいつのことを思い出したんだろう……
まぁそれらはさておき、一人と一匹を見た瞬間ホッとした。
敵が入ったわけじゃなかった、って。
だがすぐに思いついたのは、擬態能力や透明化能力を持つ敵という可能性。
今まで戦っていたEMの中にも、そういうやつもいた。
当然だが、ユーザーの中にもそういう奴がいる。
そんな可能性も考えて俺は警戒を解けず、希に剣を向けたままでいた。
そんな俺の動きを見て悟ったからか、希はすぐ弁解をした。
「大丈夫です本物です、ご主人様」
言うだけじゃあんまに説得力がない、だが、側で務めてきたメイドがそういったからそうしようっか。
その言葉で警戒を解け、剣を下ろした。
さっきのは気のせいか……
希に情けないとこを見られてテンパってたからかな。
ちょっと頭がおかしくなってたかもしれない。
だが、また耳に入ったさっきの見知らぬ声が俺を現実に連れ戻した。
「妾をお探しておるか?」
そのセリフと共に、体が変化し始めた――ミキが。
体が光って大きくなって姿を変えた、一人の人間の女性に。
「ミキ、お前……」
それを見て俺は驚くしかできなった。
目の前にネコが人間になったことについても、目の前の女の子が明らかにモフモフな獣耳と尻尾が生えていることについても。
キツネみたいな耳と尻尾、和服を纏っている姿はまるで、日本の伝説や神話で出てくる、キツネの神様のようなイメージだった。
それはつまり……
「『外道』だったのか……」
聞いたことはあった。
ユーザーの中に、エレメントの融合により、独自な属性に進化し、ユーザーではなく独立の種族として名乗るやつらがいたと。
世間に存在を隠してたユーザーと違って、悪魔や妖怪、古今東西で神話や伝説として存在を残していた。 そんなやつらを「外道」、と呼んでいた。
今まで噂程度だったが、まさかこうしてお目にかかれるとは。
しかもまさか、愛が偶然拾った野良猫がそれだったとは、さらに思わなかった。
「まあ、主らはそう呼んどるらしいじゃが……」
「外道」であることを、否定はしなかった。
だが改めて、ミキは自分がどういった存在かについて説明した。
「妾の名はしずく、人間達が言う――妖狐じゃ」
否定こそはしなかったが、外道って呼ばれることがやっぱりあんまり好きじゃなさそうに、妖狐の二文字にアクセントをつけた。
まるでお前もそう呼べと告げているように。
そして、しずく、と。
ひょっとしたら、ミキの本名かもしれない。
「で、その妖狐さまが、うちに何の用だ?」
正体を隠し、うちで二週間も住んでたミキが、今更なぜ俺達の前に姿を明かす?
その真意を知る前に、ここは一旦彼女の思いのままにするか。
「そうじゃのう……」
言ってニヤついた、そして――
「このためじゃっ!」
どこから取り出した刀で切りかけてきた。
ミキだからか、さっきのこともあったからか、気を緩めた俺は、彼女が刀を取り出すとこさえも気づかなかった。
鍛え上げた反応速度に救われ、千鈞一髪の瞬間で後ろにステップして、ミキの攻撃をギリギリ避けた。
「これはどういうことか、説明してくれるかな? ミキ」
不意打ちはされたが、さっきの一撃に殺意を感じてない。
追撃もしてこない。
さらに、彼女の隣にいた希もまったく動じてない。
それらから、これになにか裏があると判断した俺は疑問を投げ出した。
「お主の迷いを断つためじゃ」
「俺の、迷い?」
「こんなにも落ち込むお主を、小娘は絶対見たくないじゃろうにゃ。 お主を元気にするためには、戦いが一番手っ取り早い!」
言ってまたかかってきた。
二度も不意打ちくらってたまるか。
今度は余裕を持って、攻撃に反応でき、赤玉を取り出して防御した。
剣と刀がぶつかり合い、摩擦によって火花が出た。
「小娘って、愛のことか?」
「そうじゃっ!」
言いながら、刀に力を加えてこっちを弾いた。
そしてすぐ俺に反撃もさせないくらいの勢いで連撃を広めた。
「小娘はお主のためにあんなにも悩んどったのに、お主はその気持ちから逃げ続けとった」
「俺のために?」
彼女の怒涛な攻勢に、圧倒されていた。
「毎日毎晩、小娘はお主のことを思っていた。 どうすればお主を救えるか、ずっとずっと考えとった」
口は続きながらも、ミキは手を止めずにずっと切りかかっつてくる。
言えば言うほど高ぶる感情に攻撃が段々重くなっていく……
あんまりも強烈な攻勢に、一歩一歩下がりつつ避けた。
「あいつの行動はすべて俺のためだって言うのか……」
「そうじゃ」
「じゃあこうして何も言わずに消えてなくなったのも、俺のためにだと言うのかっ!」
無意識に、別に隙を見たとかでもなく。
ミキの言葉に返しながら剣を振り払った。
感情のままに。
「ようやく戦う気ににゃったようじゃのう」
思考を経ってない攻撃は当たり前のように外した。
余裕でこっちの反撃を躱したミキはまた、攻撃を仕掛ける。
「そういうの自分で考えとけ」
言って刀にエレメントを纏い。
それを切り下ろすと同時にエレメントを衝撃波に変え撃ってきた。
空気を切り裂く衝撃波に対応し、こっちは剣に炎のエレメントを纏い、「焔刃」を繰り広げた。
タイミングを測って、前へ横払った。
すると、焔刃の火が衝撃波とお互い打ち消した。
だがこれだけじゃまだ終わらない。
こっちの動きを先読みしたかのように、いつの間にか消えたミキは上空からまた攻撃をかかってきた。
「はっ!」
「うっ……」
空からの縦切りに、剣で防いた。
だが、空から、しかもエレメントを纏った斬撃はさすがに腕に来る。
「……ようやく見つけた、我が主ににゃれる者じゃのに、お主にゃんかのために」
「ミキ……」
「小娘が名づけてくれた名前で呼ぶにゃっ! 妾はまだお主を認めておらん!」
腕にエレメントを注いて押し返して、今度はこっちから斬撃をかかった。
しかしまた読まれたように先に避けられた。
「ちっ」
攻撃を避け、今度は距離を取って遠くから攻撃を仕掛ける。
「お主は妾に似とった」
言ってミキ……もといしずくの周りに青色の火の玉がいくつも現れた。
「狐火……火のエレメントか……」
本人は認めないであろうが、妖狐の力も所詮エレメントの力。
何の属性か解れば対応しやすくなる。
だが……
今確認したところ、少なくとも動物のような身体能力を身に付ける獣のエレメント、さらに空気を切り裂く風に、狐火の火。
けど、その余裕さから見ると、おそらくまだ本気を出していない。
妖狐のエレメントの正体がわからない。
これはちょっとキツイ……
「人間に裏切られ、人に対する信頼を失った。 妾もかつてはそうじゃった」
言って狐火を操って襲いかかってきた。
それに対し、こっちも火の玉を返した。
火の玉がお互いぶつかり合い、お互いを打ち消した――
「だが妾はお主と違う!」
――と思っていたら、狐火は俺の火球を突破し、俺の体に直撃した。
「妾は救われることを拒否しとらんからじゃ!」
「くあっ……」
体にエレメントを纏っているから、傷まではいかないが結構痛い。
それに、どうやらあっちのエレメントのコントロールがこっちよりうまいようだ。
「救われることに拒否してる、だと……?」
さすがに、ずっと隣で見ていてこの戦いに介入するつもりがなかった希もちょっと動揺しちゃった。
だが、俺の返しの言葉を聞いて、希はまた動きを止めた。
「……確かにそうかもな」
苦笑してしずくの言葉を肯定した。
「……俺には救われる資格がないから」
そうだ、俺には救われる資格なんてない。
俺のせいで楓は死んだんだ。
月夜もあの様に……
俺じゃなきゃあんなことにはならなかった。
俺のせいであの二人は……
いつもそうだ。
俺の側にいる人はみんな不幸になる。
俺がいると、みんなは傷つく。
こんな俺に、救われる資格なんて、あるもんか。
「……またそうやって自分を見限るんですか?」
「えっ?」
希の声だった。
遠くて小さい、よく聞き取れないが、どこか震えているような声。
「希? ……うっ、くっ」
この時、ぎゅっ! と、心臓が痛くなってきた。
EMが出現した証だ。
俺達の家の下にある桜見島のとこかに、EMという怪物が現れている。
「汚れが現れたみたいじゃにゃ、行かんでよいのか?」
汚れ、とな…… こいつからはそうやってEMを呼ぶのか。
どうやらしずくにもEMの出現がわかるようで、俺に行けと唆した。
だが。
「復讐を果たせた今の俺に……もう戦う理由なんてないんだ」
俺はもう戦うつもりはない。
復讐を果たした今、もうEMと戦う理由がなくなった。
それに、EMを二匹も見逃した俺に、もはや戦う資格もない。
EMを殺せないユーザーなんて、いらないんだ。
どうぜまたあの二体のようにEMを見逃すから。
「大体、桜見島には防御施設とDELEがあるんじゃねぇか。 俺が行かなくても」
そうだ、あそこには防御施設やDELEがいる。
俺が戦う必要なんて最初からないんだ。
今まで戦ってきたのは、復讐に向かって戦闘経験を積むことだけだ。
そしてなにより、EMが出現する度に、感知の力により生じる心のもやもやを解決するためだ。
EMが消えてなくなるのを、胸の痛みが消えるのを待てばいいんだ。
それよりも、
「それに、まだこっちの戦いが終わってない、続けろ」
しずくとの戦闘を続行しようとして、また剣を構えた。
――またそうやって逃げるつもりですか!
「え?」
言葉を返してくれたのは、しずくじゃなくて希だった。
希?
「もうとぼけないでくださいよ、ご主人様」
自動人形なのに、感情が溢れて震えた声で。
「復讐とか、戦う理由だとか……そんなのたたの言い訳じゃないですかっ!!」
……。
…………。
……やめろ。
「あの時は、十年前のご主人様は復讐なんかのために戦うような人じゃありませんでした!!!」
……それ以上言うな。
「いつもやさしくて、周りを見ていて、困った人をほっとけなかった……なのに……」
やめろって言ってんだ。
「なのに、四年前のあのことで変わった。 自分と一緒にいると周りが危険になるって勝手に思い込んで、周りを拒絶して、さらに復讐に目を曇らせた」
俺は……別に……
望んだわけじゃない。
お前になにか……
「自分を見限って、ふてくされて、何もかもを簡単に諦めて。 そんなの、ただ逃げているんじゃないですか」
……。
「こんなの、わたしが知ってるご主人様じゃない!!!!」
「お前になにかわかるんだ……」
お前の知ってる俺だと?
ふざけるな……
「自動人形のお前に、俺のなにがわかるって言うんだぁっ!!」
エレメントで動かしているのに。
感情なんかないくせに。
わかったような口調すんな!
「この十年間の苦しみ、心もないお前にわかるもんかっ!」
「ご主人様……?」
驚いてるような声。
信じれない顔でこっちを見ている、
そしてその顔が、今でも泣きそうな顔に変わった。
あれ? 俺今口に出したのか。
一番言っちゃいけないことを。
自動人形だから俺達のことをわかんないって。
自動人形ごときでわかったような口調で言うなって。
俺達は違うって。
今までずっと言わないように気をつけたことを。
彼女が一番気にしてたことを。
また俺は、自分の周りを傷つけたのか……
「…………ああわかんないよぉ!!」
涙と共に、希は叫んで返してきた。
初めて見た希の涙に俺は愕然とした。
「……確かに……あんた達人間がなにを考えているのか、私にはわかんないっ! 差し出してきた周りの救いの手を拒んで、大切なものを何度も見失って、一人で何もかもを背負いこんで、一人で落ち込んじゃって……ご主人様が一体なにを考えているか、自動人形の私にはわかんない……!」
顔を見せないように下を向いているが、やはり泣いていると声でわかる。
「……でもねご主人様……一つだけ、こんな私でもわかることがありますよ……あんたがずっと逃げてるってこと!!」
「希……」
「あの時からそうだった、あなたはいつも、自分を助けにくるみんなから逃げていた。美月様からも、美空お嬢様からも、わたしからも、そして
――姫さんからも……」
「なんでそこにやつの名前がでるんだよ、あいつとは関係ないだろっ……」
「……もういい加減にして!」
「……!?」
「本当は気づいたんでしょう? 姫さんに出会ってから自分がどんどん変わったって。 あの人ならがあなたを救えるって、あの人なら自分を変えられるって! それを知らないふりをして、自分を否定しようと、開かれた心をまた閉じ込めた……もういい加減自分に素直になりなさいよ」
……。
「ご主人様って、本当は救われたいでしょう?誰も信用できなくなった自分を、復讐と戦いに囚われた自分を絶望から救ってくれる。 そんな人が現れるのを、ずっと待っていたんでしょう?」
…………。
希の言葉に、俺はなにも返せなかった。
希が言ったことが全部図星だったから。
「ああそうなんだよ! 全部お前の言うとおりなんだよ!」
希の泣き顔をみて、やけくそにすべてを認めた。
感情がありもしないはずの自動人形が、涙したほど自分に言いかけてきた。
そんなのに、心が揺るがないわけがないだろ。
あのとき、楓を失ったそのときから俺は逃げてきた。
目が枯れるほど泣いた俺に心配で、慰めてくれた空姉に、心配かかせたくなくて、大丈夫だって誤魔化して逃げた。
俺の堕落に自己責任を感じ、心を変えさせようと手伝ってくれた七瀬にも、無理だって逃げた。
ずっと傍で力になりたかった希の気持ちを無視して、知らないような振りをして逃げた。
そして、愛からも。
全部全部、言い当てられたんだ。
「……怖いんだよ、また傷つくことが、また大切な人を失うことが、だから……」
楓を失って心を閉じ込めた。
自分を守るために、二度とあんな傷つかないために。
だから俺は、周りから逃げて、この苦しみを一人で背負うことにしたんだ。
でも本当はわかってたんだ、あの時、愛の戦いに加わったときから、心に掛けた鎖はこそりと開かれたって。
だからこそあの時七瀬に言われたときまた逃げようとした。
今まで以上に周りに冷たくしようとした。
今まで以上に戦いに溺れようにした。
また戦いで自分の頭を冷やそうと、自分の心を麻痺しようとした。
それで愛と距離を取るつもりだった。
あの時みたいに。
心を開かれたらまた傷つく気がして、それが怖いから。
「だから俺は逃げ続けてきた。 なのに……今はこうして、EMを倒すことすらできない……、俺から楓を奪った「悪魔」すらも……」
逃げるために戦いに専念した。
そのはずなのに。
今の俺はEMを倒すことすらできなかった。
「鶴」も、「悪魔」も。
そして、こうしても頭が愛のことでいっぱいに。
閉じ込めたはずの心が……
「……俺だって逃げたくはなかった、でも……どうしろって言うんだ、俺は一体どうすれば……いいんだ?」
もうわからないんだ。
自分はどうすればいいか。
自分はどうしたらいいか。
どうすれば、もう苦しまずに済むんだ。
どうしたら……
「ならご主人様――」
さっきの涙顔から一転して、希は今和む顔に変わった。
「周りを守ればいいじゃない?」
「……周りを、守る?」
「失うことが怖いなら、失わないように守ればいいじゃん、姫さんのときみたいに」
なにも言い返せないほど、希が言ってることは正しかった。
失いたくないなら守ればいいだけの話だ。
でも。
「人を守るなんて、俺はヒーローじゃないんだ、俺にそんなことが……」
「できる」
「えっ?」
「思い出してみてください。 最初の頃、十年前、ご主人様は何のために戦いを始めたのか。 復讐じゃない何かを……」
涙を全部拭いて、今度は微笑んで。
「そしたら、本当の自分を取り戻せるはずです」
本当の、自分……
「そんなの、本当にあるのか?」
楓を失ったあの時、俺は「悪魔」に復讐するためにEMと戦ってきた。
そのはずだが、希に否定された。
だったら、俺は何のために戦ってきたんだ。
「うん、ずっとご主人様のメイドとして、傍で見ていたわたしが保証します!」
「小僧、ここで戸惑うよりも、体を動かしてみたらどうじゃ?」
言ってしずくは、和服からある巻物を取り出し、こっちに投げてきた。
「えっこれは?」
「まあ中身を見るのじゃ」
巻物を受け取って言われた通りに巻き開いて中身を見てみた。
それはこの前二回も見たことがあるものだった。
いつの時代なのかわからない文字の羅列、その最後に選択肢らしきものが二つあった。
形は違うが、巻物の内容を見て「契約」を思い出した。
それってつまり……
「妾の力――妖狐の力じゃ、お主のところに預ける」
自分の力を渡してくるのか。
「いいのか、しずく?」
「もうミキでよいのじゃ、お主のことを認めてやろう。ただし、また変な理由で落ち込んだらすぐ返してもらうからのう」
「もう何もかも一人で背負い込まないでください」
この時、もう涙を拭って落ち着いた希も口を上げた。
「私達がいるから、私も、美空お嬢様も、桜さんも、美月様も……みんながいるから。苦しい時は一人で背負うんではなくて、もっとみんなに頼って! ご主人様の苦しみを私達も分け合えるんですから」
「今まで周りを拒絶してきたやつに、周りに頼れって言うんのか?」
そんな俺の問いかけに、希は「うん」と頷いた。
シンプルながら、力強く。
……そうか。
この二人、最初から俺のために……
「ふっ」やっと気づいた俺はつい笑った。
そして、希と話してた時の涙を全部拭いた。
「わかった、行ってみるよ。 お前らが言ったことを、確かめに行くよ」
言って、親指を噛んで血を流した。
その指で巻物の、いつもならはいと答えるところに触れた。
すると、青い炎に包まれて巻物は空中で燃え尽きた。
これで、実際どんな能力かわからないが、妖狐のエレメントを手に入れた。
「じゃあ、行ってくる!」
この二人が言ってたように、自分の初心を思い出し、本当の自分を取り戻す。
そのために、俺は桜見島――EMが現れたところへ向かう。
「「いってらしゃい」」
二人の声の元に、俺は一歩を踏み出した。
* * *
「あっそうだ、ミキ」
二人に説得されてまた戦いに向かった火焔。
一度部屋を出たが、また何か忘れたように帰ってきた。
「にゃんじゃ」
さっきまで火焔にミキと呼ばれたくなかったのに、今は抵抗しない。
それは火焔を認めた意味であった。
「キツネはネコ科じゃないんだぞ」
何かあったかと思いきや、まさか妖狐にして今までネコとして野上家に潜んでいた。
しかも、「な」が全部「にゃ」に変換した口癖までについて。
キツネなのに色々と猫を真似したミキにツッコミをした。
それだけのためだった。
「し、知っとるんじゃ!!!」
想像を越えたツッコミに思わずテンパってたミキ。
その慌てぷりに、火焔は――
「はははっ」
――笑いだした。
そして今度こそ、EMのところに向かって家を出た。
そこに残された二人。
「……笑顔」
火焔の異変に気づき、希は驚いた。
「何年ぶりなんでしょうか……」
いや、感嘆した。
その笑顔、苦笑とかニヤつきではなく、本当に心から笑いだしたような笑顔、いつぶりなんだか。
「小僧を笑顔にさせる、これも小娘の願いじゃったのう」
「これでいいかな、姫さんは」
火焔が去っていく姿をみて、希は先日愛からの言葉を思い出した。
――希さんに頼みたいことがあるんです。 私、火焔くんを救いたい! 手伝ってくれます?
「小娘がそう言とんじゃ、きっとこれで大丈夫じゃろ」
「……そういえば、ミキさんはなんで手伝だってくれたんですか?」
話題が突然自分のところに振られて、ミキはちょっとびっくりした。
「最初の主、名前をくれた人に似とるからじゃ」
そして自分のこと語り始めた。
「遥か昔、ずっと外で野良しとった妾を拾うてくれ、“しずく”って名前をくれた、人類の悪意を見続けた妾に、善意を感じさせてくれた初めての人間じゃ」
自分の初めての主に愛は似ていた。 だから希に手伝い、愛の願いを叶えようとした。
ミキを動かした理由は、極めて単純だった。
「なるほど、だからその人に似てた姫さんを……」
「おお、そうじゃ」
だけど希は気づいた。
さっきの戦いで、ミキは言っていた。
――お主は妾に似とった。
自分に似ていた火焔のことを、実はミキは救おうとしたんじゃないかと。
昔、一人の人間救われた自分みたいに。
その気持ちに気づき、火焔のメイトとして、希は嬉しそうに微笑んだ。
――キャーーーーーー!!
――お願いから誰か!!
――誰か助けてくれ!!!
桜見島、EMが出現したのに、なぜか島の防御施設が発動しなく、ただDELEの部隊だけが派遣された。
しかしその部隊もこのEMの実力の前に圧倒され、ほぼ全滅に追い込まれた、 ただ一人を除いて。
最後に残された隊長である入間は最後の足掻きとして、手に持った拳銃でEMに対抗していた。
そこから打ち出された弾丸を無傷でくらいながら接近し、そして入間を片手で持ち上げた。
「くそ、いつもならあのユーザーも来てたのに……って今俺期待しっちゃた?」
いつもなら火焔も来ていたはずなのに、その姿が見当たらなかった。
すると彼を投げ出したら、今度は一般市民を無差別に襲撃しようと民衆に迫り込んだ。
「そうだそうだ、逃げ逃げ逃げ回れ! こうしないと面白くないからな」
全身が赤色の鎧に纏われた、人型のトカゲに見えるEM。
その渋く凶暴そうな声に非常に軽いそうな口調、それだけで、このEMはただ者じゃないと想像できる。
「勝手に殺すなって言われたが、さすがにもう我慢できねぇわ、恨むならやつを恨め」
どうやら、誰かを待っているようだった。
その人に会う前に人を殺すなと言われたが、さすがに待ちくたびれた彼はついに、周りの人間に手を出した。
追っかけて、悲鳴を、恐怖により歪む顔を楽しんで。
逃げ回る人の恐怖心をニヤニヤと弄んでいた。
「うあっ」
逃げ回す人混みの中、転んだ一人の子供が悲鳴を上げた。
その声を聞き、獲物を見つけたのような目で子供を見つめた。
「ふはははははははははーーーー まずはお前からにしようか」
「や、やだぁあああ、誰か!!」
恐怖に包まれて、立ち上がる気力もなくなった男の子はただ叫ぶしかできなかった。
だがその悲鳴が逆にEMを楽しませた。
「いい声だぁぁ! なぁっ!!!!」
不気味な笑いをしながら接近したEMはそして、手に持っていた杖を振りかぶった。
その子を助けようと、地に転がっている入間が必死に手を伸ばすも、誰にも気づかれなかった。
すると、「パン」と大きな音がした。
子供は――――無事だった。
「ユーザー……」と、状況を理解した入間はこの時、気絶し倒れた。
間一髪のときに駆けつけた火焔は、無防備のEMを蹴っ飛ばした。
「大丈夫か君?」
「あっはい!」
男の子の身の安全を確認し、火焔は左右を見回した。
「あっちだ、早く逃げろ」
「うん!」
男の子を逃がしたら、後ろからEMの声が伝わってきた。
足にはエレメントを貯めてはいたが、さすがに距離をとるくらいしかできなく、ダメージは通れなかったか。
「やっと来たか……随分と待たせてくれるな……」
「EM……」
「でも遅かったな!」
「なに?」
「――たった今、ここにいる全員を殺してやると決めたから」
嬉しそうな軽快な口調でとんでもないことを言い出した。
危ないとは言え、周りにはまだ沢山の人がいる。
EMが世間に姿を見せたのは初めてだから。
その存在を確かめたい好奇心もあるが、
今いったいなにか起こっているのか、いつになれば安全になるか、それらを確認するためにみんな、恐れながらもEMから目を離せなかった。
そして火焔ももちろん、そんな人達の視界に入ったのだった。
「恨むなら、遅すぎた自分を恨め!」
建物の中に逃げ込んだ人群れにEMは目を向けた。
その動きに引いた人混みに「ふっ」と楽しみながら、杖を向けた。
そして――杖の先端にエレメントを貯めて、数秒内でエネルギー弾を形成し人群れに撃ち込んだ。
「そうはさせない」
シャキーンシャキーンと、紅蓮を持ってエネルギー弾を切り裂いた。
「ほぅ、それって人間を守るつもりか? ユーザーの分際で」
「さぁ、俺もよくわからないんだ」
希とミキに唆されてここにきた。
人間を守るのかどうか、火焔は全然考えていなかった。
「なら……」と、駆け出したEMは今度火焔に攻撃を仕掛けた。
一瞬で近づいて、振り落としてきた杖を剣で防いた。
だが次の瞬間、腹から攻撃をくらった。
剣や槍みたいな刃物ではなく鈍器のため、ものすごく重い一撃。
「くっ……」
そして火焔が反応する前に、今度は杖で顔面にビンタするように叩き込む。
「くはっ……」
その一撃に重心を崩された火焔に容赦なく更なる追撃を。
杖の長距離を活かし足に手を出し、さらに重心を崩したら、杖の先端を喉に当てた。
さっきと同じようなエネルギー弾を、今度は首にゼロ距離で撃ち込んだ。
「ふはっ」
遠くに飛ばされた火焔は地に倒れ、血を吐いた。
このEMの戦闘力は桁違いだった。
スピードも、パワーも、普通のEMがくれべものになれないほど。
そんな敵の攻撃をゼロ距離に直撃された。
正直死んでもおかしくはなかった。
今までより大量のエレメントを、対「悪魔」のときみたいに身に貼ってようやくギリギリ凌いた。
「いいぞその顔、もっとだもっと見せろ!」
苦しむ火焔の顔をみて、EMは楽しみ始めた。
「なぁ、どうしたらもっとその顔を見れるんだ? ここにいる全員を殺せばとか??」
「てめぇ……」
火焔に更なる苦しみを与えるべく、イヤミを言い続けた。
そして自分の言葉を実行するみたいに、また周りに獲物を探しているような顔をした。
一番近い人混みに目当てをつけ、今度は杖ではなく自分の手にエレメントを溜め込んだ。
「ははははははは」
怖がっている人間に笑いながら、エネルギービームを放射した。
「てめえええぇ!!!!!!!!!!!!」
それを見て無理矢理に体を動かして、火焔は人混みの前に両手を広げて立ち塞がった。
その結果、火焔はビームをもろにくらった。
ビームが照射し終わった瞬間、地面に刺さった剣で体を支えてそのまま両足で跪いた。 両手を垂れて、下を向いた。
「へーーまだこんな力が残ってたのか」
「……」
どうしたか、じっとも反応をしない火焔。
「あっもう死んだか」
またも笑いながら。
もはやイヤミなのか、なんの気持ちで言っているのかわからない。
ただ現状を満足していそうで、また別の獲物を探しに頭を振り向いた。
そのときに。
――やっぱ似てるんだな……
やっと喋りだした火焔。
それに驚いてEMはまたすぐ体の向きを変えた。
――あいつらの言うとおりだった……
「はあ?」
――なんで忘れたんだろ……
「ついに頭までおかしくなったか」
――戦うって決めたのは、楓と同じ目に遭う犠牲者が二度とでないためだったんだ。
――そうだ。
――あいつと同じだ。
そしてまた自分を笑った。
なんで自分はもっと早く気づかないのか。
誰かを守りたい心を、傷つきたくないから周りから逃げるために、復讐という仮面の下に隠したことを。
なんでもっと早く自分に素直にできなかったんだろう。
「……一体なにを言いたい!!!」
わけがわからない言葉の連続にEMはキレた。
――「お前は言ったよな、ユーザーの分際で人間を守るのかって……」
剣に支えて、苦しそうに立ち上がってきた。
「ああ守るんだよ! ここにいる全員をっ! 俺は守る、守ってみせる! 今度こそ!」
――ようやく思い出したんだ、
俺の初心を。
俺はみんなを守りたい。 二度と、楓のような犠牲者がでないためにも。
「だからさぁ、すべてをっ……いや」
奮起した火焔がいつもの決めセリフを言うその瞬間、彼は突然止めた。
いや、もう終わらせることなんかなんだ。
戦えば自分の悲しみが、苦しみがなくなる、戦えばすべてが終わる、そう思っていた。
だがそんなおまじないみたいなのはもういらないんだ。
自分はもう迷わない、もう逃げない。
自分に素直になる。
EMと戦う運命も、自分を縛った復讐という鎖も、自分が逃げるために空想したもんなんだ。
だからそういうのはもういらないんだ。
また一から作り直す!
戦うための理由を、生きる動力を、次なる目標をっ!!
だからぁ!!
ペン回しをするように、手に持った剣をぐるぐると操った。
――「……ここからが、始まりだ!」
「ぐぬ……」
さっきから話が通じなく、EMは怒り湧いてきた。
「さっきあんなにぶざまだったのに、なにほざけるんだあああ」
そして怒りに任せ、杖の先端からエネルギー弾を数発撃った。
さっき火焔を倒しかけたエネルギー弾だ、またそれを喰らって死にたまえ、と考えていたEMだが。
飛んできたエネルギー弾を全部漏れなく腕でいなした。
「なに!?」
さっきまで通じていた攻撃が突然効かなくなり、焦ったEMは近距離攻撃に転じて駆け出した。
一方、火焔はゆっくりと近づいた。
距離が縮まったら、EMから先に攻撃を仕掛けてきた。
火焔は剣で防ぎ、5分ほど前と状況は同じだ。
速度ならEMの方が上、ここで同じ繰り返したらまた戦いの流れがEMの方にくる。
そこで、剣と杖がぶつかった瞬間、火焔は剣に力を入って、杖を弾いた。
そしてEMのバランスが崩れた瞬間、剣の柄頭で腹へ突いた。
これで今度の流れは火焔の方に転じた。
さっきのお返しだ。 まるでそう語っているようなニヤつきを一瞬見せた。
そして続いたのは猛烈な攻撃だった。
剣に炎のエレメントを纏って、斬撃を繰り広げた。
縦切りからの横切り、そこから斬撃の作用力に乗って一回転してからの切り上げ、そしてまた縦切り。
しかし、この四度目の攻撃はEMに防がれ、流れるような連撃は止められた。
「さっきと全然違う、なにをしたぁ!」
さっきはあんなに有利だったのに、今度は一気に劣勢に落とされ、こんな展開に想像がつかないEMは質問を投げ出した。
「別に、迷いを吹っ切れただけだ」
その質問に笑いながら答えた。
迷いを断った、それだけ。 それで本来の、それ以上の力を引き出せたのだった。
手に持った剣に力を入れ、EMに押し付けた。
腕にエレメント注いたことにより増したパワーに負けないよう、EMも力を入れて押し返した。
だがそれが火焔の狙いだった。
相手が押し返してきたら剣を手離して、空に剣を弾き飛ばせた。
「〈焔刃〉!」
更にその力に乗って回り、もう一本の剣を取り出し、下から切り上げた。
〈焔刃〉を使ってはいるが、剣に纏う炎のサイズは今までのようにデカくなく、〈焔舞〉のような普通のサイズになっていた。
その技をまともに喰らったEMのダメージは絶大だった。
この一撃は、鎧を突破して体に傷を残した。
「この俺が、雑魚ともを呼び出す日がくるとはな!」
ダメージを喰らったEMはそして下がって、「初型」の群れを呼び出した。
この隙に火焔はさっき空まで飛ばされた剣を再び受け取った。
二刀流、対ドラゴンEM戦の時の本人の言葉によると、本気を出した証。
「振り切るぞ! 二刀流・〈焔舞〉!」
両手の剣にそれぞれ炎のエレメントを纏い、襲いかかってくる「初型」の群れを一体一体ぶった斬った。
元々雑魚である初型の群れが、全力でやっている火焔に敵わえるわけがない。
雑魚共を倒し、休むことのなくまたEMに攻撃した。
〈焔舞〉の効果が続いているうちに、例の踊りをするような斬撃。
〈焔刃〉に続いて〈焔舞〉。
二つの大技を喰らったEMはもはや風前の灯火。
「くっ、この俺が、負けるだと?」
「ああ、これで終わりだ」
言って剣を捨て、腰を落として、足にエレメントを貯めて空へ高く飛んだ。
「はっ!」
そして、落下と共に飛び蹴りを放ち、右足から大量のエレメントをEMに叩き込んだ。
すると、体の構造が壊され、EMは爆発と共に消えていなくなった。
その後、片膝をついて着地した火焔。
EMを倒したと確認してから、「ふーー」と重く一息を吐いた。
そして、喘ぎながら自分の手を見つめた。
「妖狐のエレメント、精神力を上げられるのか」
戦いの中で、火焔は気づいた。 エレメントに対するコントロールが今までより精確になった。
エレメントを操縦は頭、謂わば精神力と関わっている。
それが突然上手くなったなら、ミキから貰った妖狐のエレメントには精神力を上げる力が入っているに違いなかった。
こうして火焔が考えことをしている間、周りに人がいつしか火焔を中心に集まった。
自分に集まっている視線に気づき、火焔は一回深呼吸をした。
これを見たことあった。 四年前のあの時もこのように周りに見られていた。
またあれを言うんだろ? わかっている。 そうこっそりと思った火焔だったが。
「お兄さん!」
後ろからの呼び声に火焔は振り向いた、そこにはさっき火焔に助けて貰った男の子と、後ろで彼を心配そうに見届ける母らしき一人の女性。
いくら叩かれても、また化け物呼ばわりされても、そんな覚悟を出来ていた火焔に、子供は言う。
「助けてくれてありがとう! お兄さん!」
驚いた。
火焔にとってEMを倒すことは一種の逃避、そして金を稼げる仕事だから。
お礼されるなんて、思ってもしなかった。
少年のお礼を聞いて、火焔は「ふっ」と軽く笑ったと同時に一息を吐いてから、しゃがんで、子供と同じ目線になった。
「こっちこそ、ありがとうな」微笑みながら。
なんで逆にお礼されるかわからない戸惑った男の子に、お母さんは代わってまたお礼をしてきた。
「すみません、うちの子が……本当にありがとうございました」
そして、自分の子を連れ戻した。
すると、周りから絶えない拍手と歓声があげた。
それに対して、火焔はまたふっと笑って、空を見上げた。
戦いで死ぬほどのひどい怪我をしていた、エレメントをいっぱい使って体力がギリギリになっていた。
だがなぜか楽しい、そしてパワーを貰えた。
人を守った戦いに満足をした火焔は空を見てこっそりと一人で呟いた。
「お前は、こんなのを目指してたんだな」
* * *
「へーー、あれが君が言ってた男なんだ」
遠くても近くてもない、とあるのビルの屋上に、二人の少女が火焔の戦いを見ていた。
その一人が立っていて、火焔のことを評価していた。
「サラマンダーを倒せるなんて、中々強いじゃん」
「うん、火焔くんは強い、誰よりも。 だけど同時に誰よりも弱い」
そして端に優雅に座っていて、彼女に答えたのはほかの誰でもなく、愛だった。
「……君たち人間って本当にわけわかんないね」
言って女の子は体から花が咲いて、姿を変えた。
あの時愛の目の前に現れた、花のEMの姿に。
「さぁ、戻ろう」
「あっ待って花ちゃん!」
言って、EMと一緒に屋上から離れようと立ち上がった愛は、火焔がいるところへ向かって呟いた。
「やっと本当の自分を取り戻したんだね」と。
次回予告と雑談
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(雑談)ヒーロー(ってよりラ○ダー)と言えば、ラ○ダーキ○クですよね
ラ○ダー時代の名残りもあって、今回の最後でキックでEMに止めをさしました。
それは火焔がヒーローになった証です。
自分の負の感情に向き合って、誰かを守りたかったという自分の思いを思い出し、火焔は復讐の戦士から初めてヒーローになれた。
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希とミキに導かれて、ようやく自分から逃げるための、周りから逃げるための仮面を外し、人々を守るためのヒーローへ一皮むけた火焔。
EM達の目的を探るための第一歩を踏み出した。
「無から産まれ、ひたすら周りを破壊し、邪魔者を排除する。」
だがその時、火焔はユーザーであることがなんと、クラスメイト達にバレた!?
さらに、彼の前に立ちふさがる新たな敵――!
「『人工ユーザー』……」
「目には目、歯には歯、ユーザーには、ユーザーだ!」
DELEの新兵器――人造ユーザー!?
次回、第十二話 「DELEの人工ユーザー」