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エレメントユーザー  作者: 野上飛鳥
13/14

第十話 復讐の果て

日本人ではないので、日本語が間違っているかも知れないです。ご了承ください。


あれから何時間経ったか。

気づけば、周りが大雨がこんこんと降っている。

そんな大雨の中、一人で街中に走っている。

急にいなくなったあいつを……愛を探すために。

失踪事件を解決して体育館に戻ったら、彼女はすでに去ったと言われた。

まったく、どこに行ったんだ……

どこに行くんだよ……

「ごめんなさい」って言葉まで残しやがって。

だが、それを残したのなら、最初に思ってた「EMに倒された」とかの可能性は、排除できる……と思う。

だが、体育館の外に残されたメッセージは“ごめんなさい”だけじゃなかった。

それ以外に、もう一つあった。

『さようなら』、と。

どこか遠いところに行きそうで、いやな予感。

ここから去って行って、もう戻らないつもりなのか。

そうでなきゃ、なんでそんな言葉まで残した……


さっき山崎に聞いたところ、愛が去ってからはまだそんなに経ってない。

――「えーと……確か半時間前に……」、だと。

家に居るはずの希にも電話を掛けてみた。

――「姫さんですか? 帰ってはいませんが……どうされました?」

家にも帰っていない。

考えてみたら当たり前だった。

何せ、ゲートについてまだなにも教えたことないから。

だがそれで、手掛かりがなくなった。

彼女が行きそうなところなど、心当たりがない。

だからこそ、俺は今こうやって、当てもなく街中を走り回っている。

もしかしたら、まだ遠くには行ってない、という僅かな希望を抱いて。

どしゃ降りの大雨に、傘も持っていないのに、必死に走る。

口がずっと叫んだのは、愛の名前。

他人から見ると、きっと怪しい奴だと思われるんだろう。

だがそんなの気にしていなく、ただただ走っていた。

愛を探すために。

あいつにいろいろ聞くために。

なんでいきなり去っていくのか。

信じていいんじゃなかったのか。

俺を笑顔にするんじゃなかったのか。

俺の心を救うんじゃなかったのか。

何も出来てねぇんじゃないか……

これでいいのかよ……

約束はどうするんだ! ……

…………。

どこに行くつもりだ……

どこに行っちまったんだよ……

俺がついてなくて、ユーザー、EM、DELEの争いに生き残れるのか……

俺は……

俺は…………

あれ?

俺はなんで、こんなに焦ってんだろ。

ただのどうでもいい奴のために。

勝手に俺の生活に入り込んだだけで、本当はなんの関係も責任もない奴のために。

どうぜすぐに別れるって最初からわかってる奴のために。

なんでこんなにも必死なんだ……

頭はそんなことを考えていても、足は止まってはいなく走り続けていた。

そのあとまたどれくらい探したのか、もう覚えていない。

多分数十分、いや数時間が過ぎたかな。

知らぬ間に疲れ始めていた。

雨に浴びすぎたせいか、体が段々寒くなってきた。

疲れも加え、酸素を求めた俺は激しく喘いている。

いい加減体を休まないと体が壊れるとわかって、ついに街のど真ん中で足を止めた。

頭が疼き始め、片手で頭を抱えた。

当然それで痛み消えるわけじゃない。

体がフラフラし始め、今でも倒れそう。

こんなところで倒れるわけにはいかない。

そう思った俺は、なるべく自分を起こすために、軽く頭を振った。

となりのビルの壁に手を乗せ、体を支えた。

前回こうして体がボロボロになったのはいつだっけ。

もう覚えてないほど、古い話だったのか。

いや、今までずっとボロボロだったから、感覚が麻痺されただけだろ。

なんて、頭が勝手に変なことを考え始めてるうち、めまいがどんどん悪化してる。

そしてついに体を支えられなくなり、倒れる。

誰ひとりいないはずの街に、一人だけ誰かが俺に接近した。

地面に倒れる前、俺を支えてくれた。

「ね、君、大丈夫?」と叫びながら、意識がぼやっとした俺の体を揺らした。

意識が朦朧した俺は、ただ最後の力を持ってほんやりとその人の姿を確認した。

特に特徴がない、ただ傘をさしている一人の女性。

あれ? なんか見たことが……

 あの時も、今みたいに雨が降っていたような……

…………。

 その瞬間、俺は気絶した。


* * *


 目が覚めたら、最初に目に映したのは目覚えがない天井。

 「いったっ……」

 頭が痛い……雨を浴びすぎて体調が崩れただろうか。

頭を抱えて呻きながら、体を起こした。

その時、ひと袋の氷が隣に落ちた。

街に倒れた俺を、誰かが見つけて、この場に連れてきたのだろうか。

気絶したからわかんなかったが、多分熱が出ていた。

だから俺を助けたやつが俺の頭を冷やしてくれた。

さっきの氷袋がそれだったんだろう。

相当熱心なやつらしくて、汗が出るよう布団まで用意してくれた。

隣のちょうどいいところに、焚き火があって、その上に一個の鍋が固定されていた。

俺の体温を維持しつつ、何か料理をしているらしい。

周りの状況から見れば、中身は多分粥が入ってる。

それに、電気がついてなく、ほぼ真っ暗なこの室内では、焚き火の炎が光源の役割まで持ってくれた。

そう言えば、助けてくれた当の本人は見当たらないな、どこに行ったか……

それより、ここはどこだ。

 俺が置れたこの場所は一体どこなのか、それを探るため、周りを見回った。

 どうやら、どこかのビルの中らしい。

 いや、廃墟と言った方がいいかもしれない。

 部屋を分ける壁が全部壊したからか、やけに広く感じる。さらに、物が少ない。

 一言で言うと、そう、空っぽ。

 ボロボロで汚い壁が、多少亀裂が入って、壊れかけている。

元々は窓だったであろうところがガラスがなくなり、穴だけが空いてあった。

このビルは間違いなく、昔に廃棄されたんだろうな。

若干不気味なところもあるが、逆に言うと誰も来なさそうなところだから、休み場としてはちょうどいいかも知れない。

しかし、見れば見るほど、なんだか懐かしい感じが浮かんできた。

近くの「窓」から外を睨むと、まだ雨が降っている。

倒れてから何時間経ったかわかんないんが、空がとっくに黒くなっているのにいまだにどしゃぶり。

今は一体何時なのか、俺は手元に置かれていた携帯で確認しようとした。

だが、電池が切れてしまった。

外界への連絡手段はこれで失った。

ひとまず、ここから出ようか。

そう思った俺はだが、何故か力が出ない。体力がまだ回復しきってないからか。

 体力が回復する前にもうちょっと休もうとした、俺の耳に一人の女性の声が伝わってきた。

「ああ~~もう起きたんですか」

それを聞いて、振り向けるとそこにいたのは、見覚えがある女性。

なんか、この間どこかで会ったような感じがして。

今みたいに雨が降っていた日に。

あの時も、愛を探していたみたいだ。

今回は拾ってくれたのか、街に倒れた俺を。

「いやーー、本当にびっくりした、こんなん大雨に傘も持ってなくて、急に倒れて」

何も言ってないのに、彼女は勝手に説明し始めた。

自分は悪い奴だと誤解させたくなかったのか。

優しく、「大丈夫だよ、悪い人じゃないんだよ」と言っているように俺に話しかけてきた。

どうやら、本当にこの人が助けてくれたらしい。

まあ、別に彼女が何も言わなくても、その手に持っていたレジ袋の中に入った氷はすべてを語った。

さっき隣に落ちた氷袋も若干溶け気味だし。

「あの……どれくらいの時間倒れていた?」

現状、と言うか、単純に自分が何時間寝たかを確認するために、彼女に問いかけた。

すると、彼女はこう答えた。

「えーと……6、7時間くらいですかね……」

 想像してたよりも、全然長かった。

 換算してみると、少なくとも十二時は過ぎた。

 希達はちゃんと夕食食べたか……

今日の料理当番は愛のはずだったから、きっとテンパってたんだろうな。

 そしてこの時、俺はあることを思いついた。

 そう言えば、ユメは帰ってきたんだな。

 電話がなくても、言葉の意味通り自分の分身であるユメとならば、連絡はできる。

 「あっ、雨が止むまでここにいていいよ」

 「お、おう」

「あと、粥が出来上がったみたいなんで、どうですか?」

と、俺が考えているうち、彼女は粥を盛り付けようと鍋へと向かった。

体力は回復しつつあるが、一人で帰れる程度にはまだ戻ってない。

それに、正直なところ腹が減ってて、その気遣いはとても断われない。

「じゃあ……遠慮なく」

「はーい」

今のうちユメに連絡を。

――いるか? ユメ。

心の中にそう呟いた。

『ようやく連絡してくれたのか』

すると、ユメの声が直接頭にくるように伝わってきた。

これが、分身だからこそできる俺らの連絡手段、普段は使わないが。

四年前、あいつが生まれた時から、俺はあいつに「自由」を与えた。

――「せっかく手にした自分だけの意志だ、好きにしろ」と。

あいつはあいつ、俺は俺。

だから他の分身みたいに扱わない。

自分の意志がない他の分身なら、視界や思考を共有し、思い通りに操ることが出来る。

 遠くからGPSのように位置情報を交換することも。

だがユメにだけは、そうしてない。

そうして彼女に自由を与えていた。

だから、俺の代わりにギルドの本部に行って仕事を果たすと言ったのも、先日急に帰ってきたのも、彼女自身が決めたことで、俺は事前になにも知らなかった。

今のような遠距離通信みたいな能力も、電話のようにあいつが出ない事もできるようにした。

あくまで、非常時期の通信手段としてだから。

 ――ちょっと家の様子を確認するだけだ。

 『急にいなくなったから、みんな心配してた。あ、でも大丈夫だ、夕食は希となんとかしたから』

 さすがは分身、質問をする前に答えてくれた。

ちなみに、ユメのことは一応、家のみんなも知っている。

 ――そうか……

 『そっちは?』

 ――こっちは……

お粥を盛り付けてくれている例の女性の後ろ姿を見て、続けた。

――…もうちょっとだ。

 『わかった、じゃ』

 それだけを残したら、ユメは切れた。

 「ごめんね、待たせて」

 ユメとの連絡が終わった瞬間、ちょうどあの女性は椀を二つ持って帰ってきた。

夕食を食べてなかったからか、俺が食べると聞いたら自分も食べたくなかったのか。

原因はともあれ、どうやら彼女は自分の分まで用意したらしい。

こうして、俺は夜中に廃棄ビルで粥を食べる状況になった。

椅子がないから、普通に床に座ってる。

「味付けはどう?」

「うーん、ちょっと薄いかな」

とか言って、実際なとこはほとんど味がしなくて、まるで水を飲んでるみたいだった。

だがそれでも、彼女は美味しそうに食べている。

まあ、味覚って言うのは人それぞれだし、いいっか。

二人は黙々と、食事をすすめた。

そして、粥を食べ終わって碗を片付ける彼女の姿を見て、一つ疑問が沸いてきた。

「あのさ……」

「なに?」

「こんな遅くまでいて、まだ家に帰らないのか?」

俺の面倒を見る気持ちがあったとは言え、12時すぎの深夜に、こんな廃墟でぶらついて、いいのかと。

家には帰らなくていいのか?

見た目から二、三十代の女性が、真夜中にまでこんな危なっかしいところにいて大丈夫なのか。

すると、彼女の返答はちょっと予想外だった。

いやむしろ意味わかんなかった。

「ううん、私ここに住んでるから」

「は!?」 

いやいやいやいや、ここに住んでる?

そんなわけが……

彼女の話を聞いた瞬間、俺はそう思った。

だが、再び周りを見れば、なんだかわかる。

布団、鍋、椀。

街で倒れた赤の他人のために態々買って用意したなど、お人好しにも程がある。

でも、ここが「家」だと言うなら、少なくとも納得できる。

また、彼女の顔を見ると、嘘をついているようには見えない。

「マジか……」

思考を終えた俺は思わずそのセリフを漏れた。

すると、俺のその呟きを聞いた彼女は頷いたあと、それについて詳しく語り始めた。

「うん。昔、私のせいで命を落とした女の子がいてね……」

「えっ?」

ただの世話好きな一般人だと思ってたのだが、どうやら普通の人間ではないらしい。

驚いた俺に構わず、彼女は自分の手を見て続く。

「どうしたのかは覚えていないが、気がついたら、私はあの子を殺した……この手で」

「……」

それは流石に意外だった。

心やさしい人だと思ったが、まさか心の中にそんな闇が潜めていたとは。

自分の手でなんの関係もない奴を殺した、その罪悪感は半端ない。

だが、覚えてないとは、どういうことなのか。

他人のことを言えないけど、会ったばかりのヤツから急に自分が人を殺したと告白するの聞くってのは、こんな気分なんだ……

なにも言えない。

何があったか気になるし、慰めたい気もある。

だが、何を言っても相手を傷つくかも知れないから、言葉が出なくなった。

(あいつ)もあの時はこんな気持ちだったのか……

――『別になにかすれば、亡くなった人が蘇るわけではないから、過去のことは過去に残されるべきで、大事なのは今だよ』

なぁんて、あの状況でそんなことを言い出せるあいつの度胸はすげぇな。

「何故そんなことをしたのか、何故彼女なのか、わからない。罪悪感だけがずっと私を苛めていた」

それって、誰かに催眠されたか、操られて殺ったのか?

聞けば聞くほど、彼女の正体の謎が深まる。

DELEの人なのか、ユーザーなのか、あるいはEMだったのか……

今朝の前川もEMが正体だったから、他にも人間に化ける……いや、なれるEMが居てもおかしくはない。

だが、倒れている間に襲ってこなく、世話をしてくれたから、今は信じていいかな、今は……

「だから、彼女が死んだこの場に暮らし始めたの」

俺が彼女の正体について考えてる時も、彼女は続けていた。

「あの子への償いとして……か」

無意識だった。

彼女の言葉を聞いたら、思わず口に出た。

それを言ったあと彼女の顔を見たら、驚いてるみたいな顔をしている。

図星だったんだろう。

彼女の考えを、俺はなんとなく分かる。

「俺も昔、あんたに似ていたから」

十年前、楓が死んだとき、月夜が意識を失ったとき、長い時間自分を責め続けていた。

「俺がちゃんと、あいつのことをちゃんと守っていれば……」

あの時、あいつを連れて逃げてさえあれば……

あの時、あいつをあんなところに連れて行ってなければ……

『大丈夫、俺がついてるから』なんて、かっこつけてさえなければ……

俺がアレを避けてさえあれば……

「あの二人はきっと今も元気にいるはず……だから、償いたいって気持ちはわかる」

彼女達を守れなかったことを自分の罪だと思い込み、その罪を償おうと、EMと戦い続けた。

正直、いっそEMに殺されて死んじまおうなんて、考えた時期もあった……

いや、今でもそうだった。

誰かに殺されたいって、こころのどこかでそう思って戦っているかも知れない。 

この人も、似たような心境なんだろうな。

詳しいことは知らないが、誰かが自分のせいで死んだことを少しでも償うために、あの子が亡くなったこのビルに暮らし始めた。

そうだったんだろう。

「で、ここで暮らしているって言ってたが、私物はこれだけ?」

少してもこの重い空気を変えようと、俺は話題の方向を変えた。

雨もまだ止んでないし、どうせ当分は帰れない。

これだけの時間が経っているなら、愛ももう遠くに行ったと思うから、もう少し話そうか。

さっきからの、ここに対する懐かしい感覚も突き止めたいから。

とは言え、本当はちょっと気になってる。

こんな時代で、何もないこんなところでどうやって生きてたのか。

「ううん、もっとあるんだけど、上の階に置いてあった」

「上の階もあるんだ」

この階しか使ってないと思ったけど、まさか上の階まで使ってたとは、想定外だった。

いや、このビル自体が彼女の家になったかな。

そして、思ったよりも生活感がある家なのかも知れない。

「じゃあ電気と水は?」

水はさっておき、スマホが現代人として欠かせない存在となった今、電気なしでは辛いだろう。

「水はまぁ、すぐそこの山に川があるから、でも電気は流石に……」

「スマホはやってないのか?」

「うん、やってない、携帯とか」

「えっ、そうか……」

いや、携帯やってないなんて……想像できねぇな。

「なんか……私のことばかり喋ってるよね」

この時、彼女はまた話を変えようとした。

これ以上聞かされたくないだろうか。

まあプライベートだし、無理もないか。

「今度は君のことを教えてもらおうかな?」

と、俺のことを聞こうとした。

「そう言えば、まだ君の名前を聞いてないね。私は舞、江口舞、君は?」

「火焔、炎の火焔と書いて、ファイア」

「火焔、ちょっと珍しい名前だね」

「まあ……」

否定はしない。

正直、変な名前とか言われても変な気分にはならない、事実だから。

「で、君はなんであんなところに倒れていたのかな?」

早速それを聞いたか……

だが考えてみたら当然か。

全く相手のことを知らない俺達にとって、それが唯一の接点だから。

さっきいろいろ質問してたのに、今度は答わないわけいかないもんね。

そう思って、俺は正直なことを答えた。

「ちょっと、人探しを」

「それで倒れたの?」

「うん」

「こんなに大雨だよ?」

その口調から、なんで倒れるまでこんな大雨の中人探ししてたのかって聞きたいような。

さすがにどう答えるべきか迷う。

相手の正体がわかる前に、エレメントやEMのことを迂闊に話すわけにはいかないんだからな。

「あっ、話たくないならいいんだけど……」

「いや、ただ……どう答えるか迷っただけ」

「じゃあどんな関係の人?」

こっちの難所に気づいたのか、彼女は質問の方向を変えてみた。

俺に話しやすくさせるため、俺と愛の関係から聞いてきた。

だが、これもまた答えつらい。

ただ、昔からよく面倒を見てくれたおばさん……って言ったら怒られるか――七瀬に押し付けられてから、同居して、あいつに戦い方を教えるだけの仲だ。

こういう関係って、どう説明すればいいか……

「あっ、もしかしたら彼女?」

また、俺の表情から悟ったように、少しずつ俺を誘導しようとした。

それに対し、俺はすぐ頭を振って答えた。

「いや、違う……」

そう、俺と愛は付き合ってなんかない。

ただあいつに戦いを教え始めてから、あいつがずっと俺の周りをウロウロしてただけ。

気づいたらこの一ヶ月、あいつと一緒に行動するばかりになっていた。

「告白されたことはあるが」

初めて会った時に愛に告白された。

「まぁ強いて言えば、同居人……かな?」

俺達の関係はそれだけ、それ以上も以下もない。

「ちなみに、その告白を君はどう答えた?」

「断った」

「えっ、かつて振った人と一緒に住んでたの?」

「まぁいろいろあって」

「うっわ……」

と、彼女から引いてるの声が漏れてきた。

「どれくらい?」

一緒に暮らし始めてどれくらい、か、そういえば……

「丁度一ヶ月くらい、かな」

「うっわ……」

と、また同じことが繰り返した。

そう聞くと、俺は思わず突っ込み気味で返した。

「いちいちそれやる?」

「まぁ……」

すると彼女は笑ってごまかした。

「そういえば、あの子も君もよく一緒に暮らせたね」

そう言ってるときの舞はちょっと苦笑してるようにも聞こえた。

「で、断れられた時の彼女は? どんな反応?」

「『諦めないぞ』って気満々だった」

当時のことを思い出し、舞に答えた。

好きだと言い張って。

勝手にだが、“一ヶ月間私が大した傷を残していなかったら、ちゃんと付き合うことについて考えて!”って約束を決めつけちゃって。

思い出して見たら、本当、馬鹿みたいな約束だ。

だが、それを言い出したときの愛の目は本気だった。

一体何があったら、そこまで俺を好きになれたのか、あいつは。

今でもわからない。

そう言えば、あいつと一緒に暮らしてから丁度一ヶ月過ぎたってことは、あの約束も、丁度今日で期限についた。

期限がついてあいつがまたこのことを引っ張り出したらどう返すべきかって、本当はずっと思ってた。

だがまさかこんなことになるとはな。

よりにもよって、今日で離れていったとは……

「気の強い女ね……」

「ほんっとだ」

舞から愛への評価を聞いて、思わず苦笑しあいづちを打った。

そして、彼女はまた新たな質問をしてきた。

それはちょっと予想外な質問。

「で、君は彼女のことをどう思ってるの?」

「えっ」

まさかそう聞かれるとは思ってはいなかった。

そんなの、考えてなかった。

あいつのことを本当はどう思っているのか、あいつは俺にとって何だったのか。

そういうの真面目に考えてなかった。

「まぁ……」

その質問について思考を巡らせながら、深呼吸してから、重く一息を吐いた。

「よく分からないやつだ、いつも不思議で、なにをしようとしてるのか、全く読めない奴」

振り返ってみたら、俺はあいつのことをなんもわかってないな。

あいつがなにがしたいか、なにに興味を持っているか、よく考えたら全然知らない。

好きなものだって、イルカとネコくらいしか知らない。

本当、よくわからないやつだ。

裏人格を除いて、表人格でもそうだ。

「普段は穏やかな姫様みたいだけど、時には強気になったり、時には弱みを見せたり、時には変なところにこだわったり」

会ったばかりなのに告白しにきたり、エレメントの進歩がやけに早かったり、EMを見ても逃げなかったり、急にデートを誘ってきたり。

自分の過去に向き合える強気な一面もあるが、心が痛むほど泣くなど弱みを見せる一面もある。

欲張るときもあるし、簡単に満足するときもある。

本当、訳わかんねぇ。

「……よっぽど大切な人みたいだね」

「え?」

「だっていなくなったあの子を雨の中で倒れるくらい必死に探したでしょう? 大事な人じゃないと、そこまで体を張ったりしないでしょう?」

「……確かにそうかもな」

苦笑しながら返した。

確かに、あいつが去っていっただけで、そこまで焦って、自分の体調さえも壊した。

どうでもいい奴だと思ってるなら絶対そうにはならない。

それってつまり、あいつはいつの間にか俺にとって大切な人になったんじゃないかな。

「……大切、か……」

気づいたら、頭はあいつのことでバンバンだった。

気がづいたら、いつもあいつがいる前提で動くようになった。

自分でも気づかないうち、あいつのことを、今までにないほど信頼していた。

あいつと出会えて僅か一ヶ月だけなのに、なんだか何年も付き合ったような感じで。

だからこそ、あいつが去ったと聞いて、焦ってなにも考えずに走り出したんだろう。

それほど、あいつは俺の心に大事な位置を占拠していた。

本当に魔性の女だ。

こうして、舞と話してたら、また長い時間が過ぎた。

「うっうん、いい話聞かせてもらったわーー」

長い時間座っていたから、体を伸ばしたり、動かしてみたりしながら、舞は唸いた。

「こっちこそ、話してみたらなんだか気持ちよくなった」

久しぶりに、気持ちよく話してた。

家では、空姉と桜はもちろん、希にまでこれほど本音を語れなかった。

それなのに、名前だけを知っている赤の他人に本音をぶつけた。

知らない人にだからこそ、話せることがあるんだなってことかな。

「……あれ? もう朝なんだ」

「窓」から僅かな陽の光が注ぎ込んでくるまで、二人共朝の到来を気づかなかった。

空が段々明るくなってきた。

「本当だー、ってまだ雨が降ってるのか……」

しかし、雨はまだ止んでない。

俺が起きたばかりのときと比べると明らかに雨が小さくはなった、が、相変わらず止む気配を感じない。

「たっく、いつまで降るつもりなんだか……」

雨の様子を気にして、舞は一番近い“窓”に近づいた。

光が当たったことによって、彼女の容姿をよく見れるようになった。

そして、今まで気づかなかったことに一つ気づいた。

「あのう、舞さん……」

半分隠れているが、短パンを履いてた彼女の右足の太ももには大きな傷があった。

「なあに?」

「その傷……なに?」

見た感じだと、ものすごいひどい火傷。

あんまりにも酷すぎて、肌が一部肌色に留まれず、白くなっている。

だけど治った程度からみると古い傷だと思えない、強いて言えば一ヶ月程度か。

しかも、まるで周りに拡散してるみたいに、面積が広く少し脛にまで残してあった。

俺が推測すると、腰や腹にまで行ってるかも知れない。

もしそうだったら……まさか……

「そのう、えーっと……」

うろたえた彼女の顔を見て、怪しいと思った。

少し前だったら、話したくないんだなと思い、聞くの諦めるのだろう。

だが今の俺は、頭に浮かんだ考えを確かめるために、その火傷について食いついた。

「そんな大きな傷、相当痛かっただろうな、多分今もうずうずしてるだろう?」

「えっなにを――」

俺の言葉を聞いた瞬間顔に出たのは“なに言ってるの”と“なんで知ってるの”が纏わった複雑の表情。

その非常に驚いてるような表情で見てくる舞に、俺は無言を返した。

そのプレッシャーに耐え切れず、彼女はその傷について語った。

「ちょっと昔、事故で――」

「嘘つくな」

それは嘘だ、最後まで聞かなくてもわかる。

どうせ小さい時に事故で残した傷だとかを言って逃げるんだろう。

だが傷から見ると最大でも一ヶ月過ぎの傷、それには合わない。

それに、少しだが声が震えてる。

嘘が見抜かれて、もう聞かれたくないからか、彼女は俺の視線から逃げようとした。

それが正しい、今なにを言ったって、俺を騙すことはできない。

なぜなら……

「俺はその傷を知っている――」

そう、俺はその傷がどうやって残ったか知っている――

「――いや、俺が残したっていうべきか」

というより、俺がその傷を残した張本人だから。

丁度一ヶ月前、俺は攻撃手段として、火のエレメントを駆使し、とある相手の体を燃やした。

太ももから始め、炎を体内に埋め込んで拡散させた。

その時を火を走り方と、一部だが今目に焼き付いてる火傷がマッチしていた。

「だ、だからなにを――」

あくまでも知らないふりをするつもりか。

そんなの、もう通じるわけがない。

「恍けるなっ!!」

さっきから握っていた拳に火のエレメントを貯める。

そして思い切り前へ殴った。

彼女、江口舞の正体を、今暴かしてやる。

さっき俺が言ってた条件に合う、そして、嘗て俺が逃したやつ。

一人、いや、一体しかいない。

「『悪魔』ぅううう!!!!」

もし、俺の予想が外したら、舞が「悪魔」ではなく、ただの人間だったら、この拳は生身を人間に打ったことになる。

エレメントにより、パンチ力が数倍上がってた拳が。

そんな拳が生身の人間に当たったら、傷ところじゃ済ませない。

だが、その時の俺はそんなの考えていなかった。

俺は確信していたから。

俺が突き刺した拳を見て、舞は反射的に両手を前に構え、ガードの姿勢を取った。

そして拳があたる前の一瞬、彼女は――変身した。

予想が当たった。

俺のパンチを喰らって、後ろへ数歩下がった舞は姿を変えた。

人間の体から、あの「悪魔」という名のEMに。

「やっぱりか……」

さっきも言ったように、エレメントを貯めたパンチを生身の人間の体で受けたらやばい。

だが、EMの体なら話は別。

元々人間の体と構造が違うものの、身体能力が人間の数倍上で、優れた防御力を持ってる。

増してEMの中でも強い方とは言える「悪魔」。

さっきの拳を止めることがさほど難しくない。

しっかし、驚いた。

今までずっと低くて不気味な声でしか喋ってなかったから、てっきり男性だと思っていたが、まさか女の姿になったとは。

何を言ったって、江口舞の正体が「悪魔」と知った今、戦いは避けられない。

だが、あいつをやっつける前に、どうしても聞きたいことがある。

「最初から俺だと気づいたのか……」

「えっ」

「最初から俺だと気づいたから雨の中から『助けた』のか」

「それは――」

「全部嘘だったのか」

「……」

「今まで話してたこと、全部俺の気を逸らすためだったのか!」

女の子の死を後悔し、自分を責めるためにこんな廃墟に暮らし始めたって話は俺をはめるための作り話だったのか!

「嘘じゃない」

「なに?」

「罪を償いたいっていうのは本当だ」

 「ふざけんな、十年前、お前は楓を……俺の大切な人を殺した! 今更その罪を償えると思ってんのか!!」

あいつの姿を見た瞬間、思い出した。

俺はなぜ、ここに懐かしいって思ったのか。

それはここが、十年前楓が死んだところだったからだ。

精確に言えば、ここの天井だ。

十年前からここは廃棄されてた。

あの時、俺は楓をここの天井に連れてきた。

そしたら、あの悲劇が……

登ってる途中で見たんだろう、だから懐かしいって思った。

 「わかってる……だから、来い」

 戦うつもりなら、俺は容赦しねぇ。

「上等だ。 十年前の借りを、返してやるっ!」

十年前のあの日から、ずっとずっとこの瞬間を待っていた。

「悪魔」を倒す!

十年前にできなかったことを、今こそ果たしてみせる!

「さぁ、今度こそ、すべてを終わらせる……すべてをぉ!」

「悪魔」を倒せば、全てが終わる。

EMと戦い続ける運命が、十年間俺を囲み続けた復讐という鎖が。

自分を苛まれり続けた罪悪感が。

自分の苦しみが、自分の悲しみが。

何もかも……終わるんだ ――この戦いで。


「はっ!」

最初の一撃は右フック。

この一撃を「悪魔」は体を下にして避けた。

簡単かつ直接のこの一撃は当然避けられやすくて、元々当たるとは思ってない。

「悪魔」が体勢を戻すタイミングを測って、さっきのフックに逆らってスラップするように打った。

この変化球みたいな攻撃はだが、すぐに反応できた「悪魔」に手でガードされた。

しかし、これも防がれることは予想していた。

「ふっ!」

体を回して、「悪魔」の頭を狙って左手で肘打ち。

またしても予想がつかない攻撃だと思うが、これも「悪魔」に防がれた。

だがそこが狙いだ!

「悪魔」の手に防御された一瞬、さっきの肘に力を入れて体を回し、右足で後ろ蹴り。

さすがに連続二回の攻撃を防ぐことができて油断したのか、この一撃はダメージが入った。

それを喰らって数歩後ろに下がった「悪魔」に追撃し、足にエレメントを貯めて前蹴りをした。

この一撃も「悪魔」の腹に当たった……と思った瞬間、彼……もとい彼女は俺の足を掴んで上へ払った。

こっちの攻撃を逆に利用しようとしている。

このまま何もしないと、それによってバランスが崩れて倒れ、一気に劣勢に落ちる、それが彼女の本来の考えだろうな。

そうはさせるか。

「悪魔」の腕力に乗せ、俺は空中に投げられた、そして宙返りしてから着地した。

だが、俺の動きについてこられたか、予想をしていたのか、俺が着地した一瞬を掴んで反撃を仕掛けた。

一番手始めにはパンチによるの二連撃、二回共上半身を逸らして避けた。

三発目はストレートパンチ。

これがチャンスだと思う俺は、「悪魔」の拳捌いて避けてから、彼女の腕を掴んでそのまま壁へぶん投げた。

人間より遥かに強い怪物と肉弾戦してるんだから、俺は最初から多めのエレメントを自分の身に張っていた。

そうすることで、身体強度が上がり、生身だと防げない攻撃をある程度防ぐことが可能になる。

さらに、人間が受けると脳や内臓にダメージを与える、最悪死ぬかも知れない衝撃もある程度軽減できる。

言わば、エレメントを装甲をように自分の身に纏うことで、EMみたいな体質に近づいたって訳だ。

防御面だけでなく、攻撃にも強化される。 パンチ力、キック力、握力やジャンプ力など。

言い換えれば、体中に常時エレメントを貯めてる状態。

この状態で腕や足に更なるエレメントを注ぎ込むこともできる。

そのため、さっきの挙動によって、壁が壊れた。

穴が開いて、亀裂が広まっている。

「悪魔」が外に吹き飛ばされるほどではないが、もうちょっとで割れそうになった。

そこに嵌まったような「悪魔」に追撃しようと、俺はもう一発サイドキックを繰り広げた。

だが、「悪魔」は俺の背中に回って俺の蹴りを避けた。

このままだと壁を蹴りて壊し、そのまま外にぶっ飛ばされる。

やばい! そう思っ俺は、一瞬で足の力を抑えた。

「ふう……」

壁に当たっただけで、壁は無事だと確認できた瞬間ホッとした。

次の瞬間、背後から危ない気配を感じて、「悪魔」の動きを確認もせずにそのまま正面に避ける、それと同時に後ろに向いた。

振り向いて「悪魔」の体勢と位置を見たら、どうやら攻撃を仕掛けたようだ。

パンチだったかキックだったかわからないが、考える暇もなく、次の攻撃がきた。

予想してたよりも「悪魔」との距離が近くて、このパンチをギリギリ避けられなかった。

相手もエレメントで技を強化してたから、その一撃で俺は後ろの壁まで弾き飛ばされた。

「うっ……」

後ろの壁と結構距離あったのに、壁はさっき俺が壊したのとほぼ同じようににボロボロになった。

そのあと地に落ちた俺は、突然口元がネバネバの何かがついてると感じて、手で触れてみたら、血だった。

壁にぶつけた瞬間、吐血したんだろう。

床にも俺が吐いた血と思われる跡を見当たる。

それくらいこの一撃の威力が半端なかった。

エレメントで身を守らなかったら危ないとこだった、と言うより死んでた。

休憩する時間を与えず、「悪魔」はまた攻撃を加えようとした。

このままでたまるか。

と、俺も攻撃を展開した。

ストレートパンチしようとした「悪魔」に対し、俺は跳んで空中でエレメントを貯めて左足、右足で連続蹴りを繰り出した。

そしたら「悪魔」のパンチより先に、俺のキックが効いた。

このチャンスを見逃さずに、次の攻撃に繋げた。

空中回し蹴り、着地したら逆回し蹴り、それに繋がる後ろ蹴り、エレメントを込めた蹴り技を中心にしたコンボを繰り広げた。

どれも確実に「悪魔」にダメージを与えて、まだまだいくぞ! と思った時に、四回目の攻撃に変化が起きた。

「うっ……」

四回目の蹴りが当たった瞬間、「悪魔」にまた足が掴まれた。

だが今度払うんじゃなくて、そのまま俺を持ち上げた。

そしてバン! と、反対側の地面に叩き落とした。

すると――

「ふぅ……」まさに千鈞一髪だった。

顔面が床にぶつかる前の一瞬、腕にエレメントを注いて床に支えた。

だが足は相変わらず「悪魔」に掴まれてる、また同じような技を繰り返されたら、体力がどんどん消耗される。

この状況を早めになんとかしないと……

そこで俺は、片手にエレメントを貯めて床を叩いた。

その反作用力で、体を起こし「悪魔」に手放させ、そしたら空中で腰をひねって彼女の頭を蹴った。

あの体勢の蹴りが終わって地に落ちった俺は、立ち上がって今の攻撃の成果を確認しようとした。

結構ギリギリな距離で当たって、体勢的にも結構無理やりで力が出し辛かった攻撃だが。

意外と効いてた。

攻撃を喰らった「悪魔」は結構な距離を下がった。

「へっ」

今の俺は多分ニヤってたんだろうな。

そしてすぐに、「悪魔」は体勢を整え、俺の次の攻撃を警戒する。

こっちも同じように反撃に備え構えた。

お互い睨んで、移動しながら間合いをはかった。

お互い次の攻撃を警戒してる。

そして、壁の隣まで行った瞬間、「悪魔」は攻撃しにきた。

すると、俺は右に跳んで壁を踏んでその瞬間また足に力を入れて、方向を変える擬似二段ジャンプをした。

その動きで俺は彼女の攻撃を避けて、それから本命の膝打ちを使ったのだが。

それが「悪魔」に見切られて避けられた。

お互い同じタイミングで攻撃を終え、背を向けた状態で一瞬止まった。

このチャンスを掴み俺は紅蓮を取り出して、振り向いた瞬間に「悪魔」を斬った。

しかし、想定外だったのは、彼女も同じ戦法で自分の剣を取り出した。

 紅蓮と「悪魔」の剣がぶつかりあった。

 「ちっ」

 まさか両方ともこの状況は予想してないだろう。

 お互い剣を持ってる腕に力を入れてお互いを弾けた。

 そしたらすぐに体制を整え、もう一回斬った。

 が、まさかこれも同じように打ち消した。

 そして、お互い次の攻撃と対策を予想して一瞬膠着状態に嵌った。

 さっきの激しい戦いを繰り広げて、お互い疲れたように喘いた。

 「もう終わりか?」

 煽り気味で「悪魔」に言いかけた。

 「そっちこそ」

 「まさか…」

 ニヤついて、俺は次の攻撃をしようと、剣を持ってない手で「悪魔」の腕を掴んだ。

すると、俺がやりたいことを察したからか、「悪魔」も同じ動きを取った。

そしてそのまま、お互いを相手を反対側の壁にぶつけようと走り出した。

その結果、俺達は壁をぶち壊し、一斉に外に飛ばされた。

その瞬間ものすごい痛みが体に伝わってきて、これも生身だと死ぬほど痛いやつだと、改めて、エレメントを身にまとった状態でよかったと思った。

だが正直体力もそろそろ限界だ、早く仕留めないと……

で、俺達がいてた階層は一階じゃないとは思ったけど、思った以上に高かった。

5、6階じゃなくても3、4階くらいはある。

その高さから俺達は地面に向かって墜落してる。

そして、地面に落ちた瞬間、傷に構う暇がなく、「悪魔」がいた方向と逆なとこに転がっで距離を取った。

見えてないからわかんないが、多分「悪魔」も同じことをしてるはず。

それで一回距離を取ったらすぐ銃を取り出し、振り向いてすぐ数発撃ち込んた。

するとその玉は全部「悪魔」が撃ってきたエネルギー弾にぶつかってお互い打ち消した。

「ちっ」

遠距離攻撃が通じなくて、銃で撃ちながら彼女に接近した。

彼女ももちろんエネルギー弾を返してきた……が、彼女に接近しようと走った俺と違い、彼女の足は動きがしない。

これが突破口だ!

「悪魔」に接近した瞬間、右手の剣で彼女を斬った。

これを彼女は剣で防いだ。

が、これが狙いだ。

左手に持っていた銃を捨て「セーブ」から赤玉という二本目の剣を取り出した。

さすがに二刀流は読めないだろ! これがお前を倒すための切り札だぁああああ!

「はああっ!!」

さっきの垂直の斬撃に対して、赤玉で水平に「悪魔」の腹を斬った。

この一撃が通じた。

だがこれで終わりじゃない。

次の攻撃に繋げようと、一周回って紅蓮で追撃。

二連撃を喰らって退いた「悪魔」は反撃しようと剣を切り下ろした。

それを見てすぐ反応し、体を回して彼女の切りを回避し、彼女の後ろに回りながら斬った。

「〈二刀流・炎舞〉!」

と一声で、炎を二本の剣に纏うように操った。

背後から不意打ちしようとした「悪魔」の斬撃を、振り向かないまま、紅蓮を背後に構えてガードした。

そしたら、「悪魔」の剣を弾き、振り向いて赤玉で彼女の腹を斬った。

その攻撃をまんまと喰らったが、ダメージに構わず反撃しようと「悪魔」はまた攻撃を仕掛けた。

まだ反撃できる力が持ってるのか……

襲いかかってきた彼女の剣を俺は回して蹴っ飛ばした。

さらに追撃し、二本の剣をX字にかざしてX字斬り。

これだけ多い攻撃を喰らってようやく弱まった「悪魔」は、片足で跪いた。

あと少し……

「悪魔」の膝を踏み台とし、高く飛び上げ、また彼女の背後から斬り下ろした。

それを完全に喰らった「悪魔」は両手を垂らし、ようやく沈黙した。

これで……

終わったんだろ。

「はあああっ!」

そう思ったときに、彼女は衝撃波を放し、俺を吹き飛ばした。

「……往生際が悪いぞ!!」

吹き飛ばされる前の一瞬に反応できて、防御姿勢を取ったからダメージはなかったが、結構遠くに飛ばされてる。

そして、俺が空中にいる時を狙って、さっき俺に蹴っ飛ばされてそこらへんに落ちた剣を操って、高速で俺に向かって突き刺してきた。

「あ……」

それは、その技は――

一ヶ月前に俺がやられた時の技……そして……

十年前、楓の命を奪った技。

あの時俺がこの技を避けてなければ、楓は死ななくて済んだ。

二度目の時は、愛が隣にいるから戦い辛く、最初から劣勢に嵌った俺が逆転の機を探るためにわざとは言え、まんまと喰らった。

思い出して見れば、これで三回目。

本当、とんでもない腐れ縁だ。

だがなぁ!

俺はもう同じ技にやられない!!

やられてたまるかぁあああ!!!

飛んできた剣に俺は、紅蓮を投げ出した。

真っ直ぐに飛んできてた剣はそれによってかく乱され、グルグルと回して来たように変わった。

そいつを使わさせてもらう!

飛んできた「悪魔」の剣を取った。

そして時間稼ぎに、俺の動きを見て驚いていたが、すぐ次の策を考えようと動きだした「悪魔」に、左手に持ってた赤玉を投げた。

これで空いた両手で「悪魔」の剣を握って、

「〈一刀流・焔刃〉」

「悪魔」の剣で〈焔刃〉を使った。

「今度こそトドメだ!」

そして、その炎に纏った剣で「悪魔」に向けて、斬り下ろす!

すると、「ドッカン」と爆発が起きた。

EMが倒されたと示す例の爆発。

だが、目の前のこれは今までのどのEMと比べても大きな爆発だった。

「ん?」

しかし、その爆発に舞い上られげた塵が鎮めたあとに見たら、「悪魔」はまだ消えてない。

ただ江口舞という人間の姿に戻って、地にへたり込んだだけ。

この状況を見て俺は重く深呼吸をした。

彼女の剣を持って、そこへ向かった。

「俺の勝ちだな」

言って、彼女の前に止めた俺は剣を彼女の首に当てた。

そういう俺の言葉を聞いたら、彼女は目を閉じた。

微笑みながら。

まるで、覚悟を決めたように。

そんな彼女の姿を見て俺は昨日の前川――鶴EMのことを思い出した。

あいつも今みたいに、死ぬとわかっていて、俺がトドメを刺すのを待っていた。

だが俺はあの時、トドメを刺さなかった、刺せなかったんだ。

前川が欲しがっていたのは愛情だけだと悟った愛は、俺にお願いしたから、「彼女を倒さないで」って。

目の前の「悪魔」を見てそのことを思い出した俺は、剣を彼女の喉から離れた。

「まったく、人間に成れるEMってどいつもこいつもそうだな」

言って俺は、「悪魔」の剣を膝で真っ二つに折った。

もちろん、膝にも手にも相当エレメントを注ぎ込んでやっていた。

「えっ……」

前川のことについて何も知らない「悪魔」は俺のこの動きに当然ぼーとした。

「そう簡単に殺さねぇ」

そんな「悪魔」に、俺は言い放った。

「どうした、私が憎いんじゃなかった? 私を倒すんじゃなかったのか?」

「憎いさ、だからこそ、お前を殺すのは今じゃねえ」

「何を考えてる……」

「ふん……」と、彼女の疑問を聞いて俺は一息吐いた。

「あのさ、罪を償いたいならそう簡単に命を諦めるな」

「えっ」

俺はなぜ彼女を殺せなかったのか、その理由は……さっき彼女が言っていたことを思い出したからだ。

昔殺した子――楓に償いたいからこんな廃墟に暮らし始めたと。

周りに散らばっていた二本の剣に向かって、回収しながら続けた。

「お前は、俺に倒されたかったんだろ?」

俺は気づいた、「悪魔」はわざと俺に正体を気づかせたと。

あんな酷い火傷があるのに隠してなくて、更に雨の中で倒れた俺を救って、わざわざここに連れてくれた。

最初から、俺に正体を明かそうとしたんだろう。

そして、俺に倒させる、十年前にできなかったことをさせる。

それを含めての“償い”だったんだろう。

しかも、手を緩めて戦ったらこっちは絶対に受け入れないとわかってて、本気を持って俺と最後まで戦った、こっちの気持ちまで気遣って。

「ほんっと、余計なお節介だ」

上を向いて、彼女の思惑に苦笑した。

「本当にあいつに償いたいならな、お前がやるべきのは俺に殺されるんとかじゃなく――」

 楓に償いたい、そんな仇からの言葉を、なぜか心の中に信じたいって気持ちが浮かんできた。

愛が、前川を信じたみたいに。

「――過去を背負って、強く生きることだ」

本当に罪を償いたいなら、そう簡単に俺に殺されるな。

「彼女への罪悪感、自責、後悔、その全部全部を背負ってちゃんと生きろ! 罪を償いたいなら、もっと人間として苦しめ、俺みたいにな」

そうだ、こいつのせいで楓は命を落とし、俺はそのせいで十年間ずっと苦しんでた。

ここでそう簡単に殺すか。

俺みたいな苦しみを味わせる前に。

……。

それに、昔の愛の一言も大きかった。

「……あいつは言っていた、“別に俺達がなにかしたら、亡くなった人が蘇るわけじゃないし、過去のことは過去に残されるべきて、大事なのは今”ってな」

あの言葉、彼女は自分へ言ってるのに、俺にも効いた。

あいつは自分の姉を死なせたおじさんを倒すことで一歩前に進めた。

だが俺は止まったままなんだ、十年前からずっと。

その一歩を踏み出すために俺は……

「お前を殺したって、別に楓が蘇るわけじゃないし。 だから、お前も一緒に罪を償わせて貰うぞ」

そうだ、「悪魔」を殺したって、楓は生き返れない、月夜も目覚めることができない。

だから思ったんだ、俺が本当にすべきことは、あいつらの分までちゃんと生きることだ。

だったら、罪を償いたいのなら、「悪魔」も一緒に生きなければならない。

「俺がたっぷり、お前を苦しめるからな」

剣を回収し終え、再び彼女の前に戻った。

「君、バカだね」

俺の話を聞き微笑みながら「悪魔」、いや、江口舞は喋った。

「また暴れるかも知れないよ、今度はあの子を、君に新しくできた大切なものを奪うかも知れないぞ」

「その時はまた力尽きてお前を倒すだけだ、今みたいにな」

今度また「悪魔」になったら、倒すのみだ、今みたいに。

「だから、俺に殺されるまで死ぬんじゃねぇぞ、『悪魔』」

言って、俺は舞に手を差し出した。

「裏切られないように、気を付けてね、君」

と、俺の手を取った。

「重々承知だ」

その時、十数時間にわたって降り続けた大雨がようやく――止んだ。

空はやっと、晴れたのだ。


次回予告/雑談

――――――――――――――――――――――――――――――

取り返しのつかない過ち、後悔悲しむ憎しみ孤独

辛い痛い苦しい、大声で叫びたい泣きたい死にたい

誰しもが抱いたことのある負の感情、暗闇

自分の中の暗闇を全部曝け出して、聞いてくれる誰かにすべてぶつけてから、初めて本当の自分に出会える気がする、自分は本当なにがしたいかわかる気がする


自分の暗闇と思いを全部詰め込んた一話です

――――――――――――――――――――――――――――――

十年を経て、ようやく「悪魔」を倒した火焔。

復讐しか目に見てない彼が、復讐を果たせた後、あとなにが残されているのか。

そんな考え考える火焔の目の前に、新たな人物が現れる。

「『外道』か……」

「妾の名はしずく、人間達が言う――妖狐じゃ」

戦いを挑んでくるしずくと名乗った女性に、応戦する火焔を見て、希は涙した。

「こんなの、わたしが知ってるご主人様じゃない」

そして、火焔を誘き出すために一般人を人質にするEMが、新たに火焔の前に立ちふさがる。

「ここにいる全員を、俺は守る」

「俺が、ヒーロー……」

「さぁっ! ここからが、始まりだ!」


次回、第十一話 「仮面を外すヒーロー」

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