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エレメントユーザー  作者: 野上飛鳥
11/14

第八話 天使、降臨

日本人ではないので、日本語が間違っているかも知れないです。その時は教えてください。

放課後の夕暮れ。

どしゃ降りの大雨。

愛を探しに学校へと戻っている火焔は街の真ん中で、足を止めた。

降水確率0%、本来なら雨が降るわけがないこんな日。

またして、戦うために学校を離れた火焔は当然傘を持っていない。

そんな彼の前に立っているのは、傘を持っている一人の女性。

突然の豪雨にびしょぬれになった火焔に、女性は心配そうに声を掛けた。

「ね、君……大丈夫? こんな大雨に……」

その一言に火焔は注意力を天上の雨から彼女のところに移した。

 彼女は決しておかしそうな人ではなく、本当に火焔のことを心配をしているだけの一般人のように見える。

 だが一瞬だけ、火焔は彼女から怪しい雰囲気を感じた。

 本当にほんの一瞬だけだったから、すぐにそれを気のせいだと思う火焔であった。

 「あ、大丈夫、急いでるので……」

 心配してくれた女性の好意を拒んだ後、火焔はまた走り出した。


* * *


 火焔を探している途中に、怪しい者が愛の前に現れた。

 性別ですらわからないほど身と顔を隠した者が、愛を見てニヤッとして、声を出した。

 「やっと見つけた、飛鳥姫 愛」

声を聞いて初めてその人は男性であると分かった。

だがその言葉を聞いた愛に、今は謎の男について考えるような余裕は無い。

何故なら、彼は自分の名前を平然と口にしたからだ。

初対面の人に、しかも自己紹介もしたことのない者に名前を呼ばれるのは、どれだけ気色悪いことなのかを、愛はやっと気づいた。

 「どうして、私の名前を……」

 ちょっと震えている声で、愛は目の前の男子に問いた。

 しかし、彼女の質問を彼は無視して、続けた。

 「ずっと探していた、さぁ、こちらに来い」

 「えっ?」

 突如訳がわからないことを言われて、愛はどう反応すべきかわからなくなった。

 困惑している愛の顔を見て、男は続けた。

 「こっちに来ればお前の望みを叶ってあげよう」

 「私は……そんな――」

 男から出している不気味なオーラに今でも押しつぶされそうだったのに、愛は強がって言い返えそうとした。

 だが、そんな彼女の言葉を待たずに、男はまた続けた。

「欲しがってんだろ? 力とか、本来いなくなったはず命とか……」

 「なにを……言って――」

 男のセリフに愛が驚いているその時、また驚くべきことが起きた。

 男と同じように何者かが歩み寄ってきて、彼の後ろにスッと立った。

 それは一体のEMだった。

 いつものEMと違って、そいつからは動物みたいな要素が何一つ見当たらない。

 今までもそんなEMと会ったことはあるが、このEMは今まで見た特例――「悪魔」や愛の叔父さんだった「侍」とはまた違う。

 そのEMの片肩にはものすごく美しい花が咲いていて、全身所々にキレイな花びらがついてあって、恐らくこれは花のEMだろう。

 そしてスリム体型と膨らんでいる胸部から見ると、恐らく女性。

 だからこそか、彼女の顔も少しだけ人間に似てて、EMとしてはとても美しい。

 見た目はともかく、男と同じ仕方で登場した彼女を見て、愛は驚いてつい口を止めた。

 「で、どうする?」

 わざわざさっきのことを見せて、自分はEMと一緒だと愛に示したあと、男は再び彼女に問いた。

 だがこの状況に、愛の答えは当然ひとつのみ。

 「断る、EMの仲間なんて、なるわけがありません!」

 その答えを聞いて、予想してたように男はふっと笑った。

 「なら一ついいことを教えよう」

 「えっ?」

 そして、話を変えた。

「お前は今、ギルド、DELE、EMの三方共から狙われてる」

 と、男は突然驚くことを言い出した。

 元々無差別に人襲う敵のEMはともかく、愛は現在、ユーザー、人間に情報を掴まれて、狙われた。

 その有力な証拠の一つが、さっき襲いかかってきたユーザー達。

 あの二人は愛を狙って来たと、火焔はとっくに知っていた。

 そして、火焔が言った通り、人間はユーザーに対抗できる技術を手に入れた。

 化け物だとみなされているユーザーとして戦うと決めていた愛は実際、人間の敵となった。

 つまり、愛と火焔は今同時にEM、DELE、ユーザーと敵に回している。

 だが、火焔から何も教われてない愛には当然その言葉の意味がわからない。

 「どういう、意味?」

「言葉通りさ。野上火焔はお前に隠れて、お前を守るために三つの勢力と敵に回してるんだ」

「火焔君が?」

彼の言葉を聞いて戸惑った愛を見て、ふっと笑った男は続く。

「お前がやつのそばに居続く限り、やつは苦し続ける」

愛がその情報を消化しきれるかどうかを構わず、男はただ自分が愛に知らせたいことを伝えた。

彼女を味方に引き入れるために。

「やつのためにも、お前自身のためにも、どうするべきかわかっているよな」

最初は誘いに来たのに、どんどん脅かしているように聞こえた。

急に現れて色んな情報を吹き込んで、ただ自分を味方に引き込むために、

そんな謎の男の話は信じがたい。

彼の話を聞いて、今愛が確信を持てることはだたひとつ。

目の前の男はEMの仲間、それだけ。

 さっき現れた花のEMから見ると、この男は恐らくEMを操れる力を持っている。

下手したら、今まで相手にしていたEMは全部この男と関わっている。

 ならば、彼に従わないと、自分と火焔今までにないほど、強力のEMと戦う事になるだろう、その可能性はデカい。

 だが逆に、従ったらもしかしたら、EMのことについて何かを知れる、またEMの勢力を戦いから手を引かせることも、そういう可能性があるかもしれない。

 そうすれば、火焔を何年も続く長い戦いから解放できる。

 また、彼がさっき言った、力を手に入れれば……

 それはめちゃ惹かせること。

 だがそれじゃあ、火焔を裏切ることになる。

 「狙いはなんですか……?」

頭の中で悩み始めた愛はすぐに答えを出すことができない、だから彼の真意を問い出してから決めると。

その考えに気づき、男はにやけた。

「俺の狙いはただ一つ――」

そして、自分の目的を告げた。

そんな彼の目的を聞いてただショックを受けた愛。

さっき聞いたことをまるで信じられないよう、震えた、体も、声も。

 「ちょっと……考える時間を……」

衝撃的の話を聞かされて、混乱の極まりにはまった彼女は、ちょっと考える時間を願った。

「いいだろう」

その願いを聞き、望んだ答えを聞けたようにニヤッとした男はすぐに応じた。

 「おう? もう来たか……」

何かに気づいて、男は振り向いた。

 「帰るぞ」

 すると、彼は花のEMを連れて黒い霧の中に戻って消えた。

 それを見て、一安心した愛は力が抜けて、へたりこんだ。

 「はぁ……はぁ……」

 さっきから感じていた男の不気味なオーラから解放されて、愛は激しく喘いた。

 「愛!」

この時、火焔は路地にいた愛を見つけた。

 「火焔くん!」

 火焔の顔を見た瞬間色んな感情が溢れて、泣き崩れて彼を抱き締めた。

 「え……」

 この状況を見て、さっきなにが起こったか知る由がない火焔はどうすべきかわからなくて戸惑った。

 彼女を慰めるつもりか、手を動かそうとしたら、その時――

 「――後ろっ」

 いつの間にか現れたEMが火焔の後ろから襲いかかってきた。

 火焔を抱いていたこそ、それを見た愛はすぐ火焔に伝えた。

 それを聞いた火焔は一瞬で、後ろに振り向いて確認もせずに、回避行動を取った。

 愛を抱いて前へ跳んで、攻撃を避けた。

 そして地面に落ちる前、自分が下にくるように体を回して、愛を守った。

 「「大丈夫?」」

 と、着地した瞬間すぐに相手は無事かと確認しようとした二人は、ちょうどタイミングがぴったり被った。

 そのあと、お互いを離して立ち上がった二人は攻撃の正体を確かめた。

 それはさっきの花EMとは別体のEMだった。

 「EMか……お前は先に帰れ」

 言って、横にゲートを展開した。

 さっきの愛を見て、今は戦える状態じゃないと判断して、彼女を帰らせようとした。

 「いいえ、私も……」

 「いいから」

 自分も一緒に戦いたいと言うつもりだった愛はだが、喋っている途中に火焔に止められた。

反応しきれなかった愛を無理矢理にゲートへ押し込んだのだ。

 「今のお前は休んだ方がいい」

その言葉だけを残したあと、ゲートを閉じた。

 少し強引ではあったが、愛を安全な場所に送り込んだら、火焔はEMに向けて構えた。


 火焔とEMは戦って、いつの間にかとある廃棄工場まで移動した。

 今回のEMは豹をモチーフにしていて、その見た目にふさわしい速いスピードを持っている。

 人がついていけないほどの高速で一気に火焔に急接近したEMは、右手にあった大きく長い爪を振り下ろした。

 だが、まるでそれを予見したように、EMの攻撃が当たる前に、火焔はすでに「紅蓮」で防御するよう構えた。

 すると、ぴったりと振り下ろしてきたEMの爪は「紅蓮」に防がれた。

 「ん?」

人間が反応できないほどの速度という自分の長所を一番わかっているEMはもちろん、「たかが人間」が自分の攻撃を防いたことに驚いた。

まだ混乱しているEMを、火焔は蹴っ飛ばした。

エレメントを込めた一撃に結構な距離に飛ばされたEMは、ダメージが少ないようにすぐ立ち上がった。

そして同じ速度でまた攻撃を仕掛けた。

 それに対して、火焔は今度身をかがめて前を斬った。

 「人間、なぜだ……」

 次の瞬間、火焔の後ろに止まったEMは、自分の腰を触れながらその野太い声で火焔に問いかけた。

 何故EMはその疑問を投げ出したかというと、さっきの一瞬で起きたことから説明しなければならない。

 さっき、EMは火焔の上半身を狙って攻撃した。

 その攻撃を身をかがめて避けたと同時に、火焔の斬撃がEMの腰に当たって傷を残した。

 だが、普通のEMならともかく、戦っているこれは高速移動の能力を持っている。

 そう簡単には反応できはずがない。

 なのに回避、それに反撃を成し遂げた火焔がいた。

 「戦いで相手の動きを予測するのは基本中の基本だろ? お前の動きが単純すぎるんだよ」

 高速の能力を持っているのに、目の前の豹EMは正面から接近して攻め込むという極めて単純な動きしかしなかった。

 この前もいっぱい攻撃を仕掛けたが、どれも火焔に簡単に躱された。

 だが火焔でなくても、そんな簡単な攻撃なら、多少戦闘経験を持てば簡単に避けるだろう。

 まして火焔は十年間の戦闘経験があって、心理戦を得意とする。

豹EMの攻撃を避けるのは簡単すぎ。

 「貴様、何者だ?」

 「ただの刀使いだ」

 EMが投げ出した質問に、また煽るような言い方で火焔は答えた。

 「ふっ、面白い、この勝負は預がっておくとするか」

 そう言い終えたら、高速移動の能力でEMは逃げた。

 「逃げたのか………」

 流石に、EMの動きについていけても、そんな速度で逃げるEMに火焔は追いつけない。

 「ふぅ」厄介な敵を撤退させて、火焔はほっとした。

 さっきはあれほど余裕ぶってはいたが、実はブラフだった。

EMの攻撃パターンが単純なのは実話で、それを予測できたのも事実。

だがあのまま戦い続けたら、いつかEMはその攻撃に変化を加えるはず、そうなると、対応できる力を持たない火焔はおしまいだ。

あらかじめいくつもの行動パターンとその対処法を考えて、相手の動きを観察し一番可能性が高い選択肢に瞬時反応する。 それが火焔の予測の正体だった。

 それが超高速の相手に通用するわけがない、だからブラフで相手を引かせた。

 だが、次また現れたらどう対処するか……


 EMに逃げられて、家に帰った火焔は愛の部屋に来た。

 ノックしても、返事はなかったから、火焔は直接に部屋に入った。

 すると、床で寝込んだ愛に気が付いた。

 自分の部屋に帰ってホッとしたからか、床で熟睡している。

 彼女の隣にゴロゴロする、ミキと名付けられた猫から推測すると、多分帰ってから猫の遊び相手をしていたのだろう。

 ちょっと前くらいまで戦っていて、体力を結構使ったのに。

 「にゃー」

 家に帰ってきた火焔を見て、ミキは早く彼女をベッドまで運べ! と言ってるように鳴いた。

 「はいはい」

 ミキに返事しながら、愛をベッドまで運んだ。

 そして、一息を吐いていたあと、愛の頭を軽く撫でた。

 本来なら彼女にさっき何が起こったか聞きたかったが、寝たらしょうがない。

 そのあと一回、ミキを撫で回してから火焔は愛の部屋を出た。

 「おやすみ」


翌日、放課後の夕暮れあたり。

豹のEMがまた現れた。

 探知の力でそのを知った火焔はそして、愛と一緒にEMがいるとある広場に来た。

 「防御施設が……」

 そこに着いた二人はまず、EMが出現して暴れているのに島の防御施設が作動していないことに気づいた。

だがそれはさておき、現場ではEMの他に一人の男の子がいた。

その男の子の手には武器として槍が握られている。

 ちょっと距離があるその二人は向かい合って、構えている。

 どうやらさっきまで戦っていたみたいだ。

 「来たか?」

 火焔に気付いた瞬間、EMは口を開けた。

 どうやら彼は、火焔を待っていたようだ。

 だがそんなEMを無視して、火焔は男の子に話しかけた。

 その見た目が中学生くらいの男の子を見て、火焔は息を吐いてから口を開けた。

 「はぁ、やっぱお前もか……(らい)

 「久しぶりだな、兄さん」

 すると、男の子――雷は火焔のことを兄と呼んだ。

 「火焔くんの弟……ですか?」

 「うん」

 素朴な質問をした愛に答えたの雷だった。

 「お前もいきなり帰ってきて、一体どういうつもりだ」

 火焔には二人の兄と、二人の弟がいる。

 四年前、その弟の一人と親が突然行方不明となり、彼らを探すために他の三人は家から出た。

 もちろんついて行きたかった火焔はだが、兄達に止められた。

 家を守る人がいるという理由で、火焔は一人だけ家に残された。

 姉一人と妹一人も一緒に残っているが。

 そして二週間前、兄の流が突然帰ってきた。

 火焔に水属性のエレメントを託すために、わざわざアメリカから戻ってきた。

 その行動にちょっとわけがわからない火焔だったが、他の二人も近いうちに一回帰ってくるんじゃないかと、予想はしていた。

 そのため、さっき雷を見た時、火焔は全然驚いてなかった。

ただ“やっぱりか”と嘆いただけ。

 「まあ、それはともかく、兄さん、僕と契約を」

 「やっぱお前もか……」

 火焔の質問から逃げて、雷は契約しようと彼に提案した。

 契約とは、雷のエレメントを火焔にも使えるようにするために行う儀式。

 流の時もそう提案したから、雷がそう言ってくるのもおかしくない。

 ただし、何故なのか、二人の行動を見るとまるでエレメントを火焔に集めているような……

もしそうだったら、それは何のためか。

「まぁ今はお前の力は必要だ、貰っておくよ」

 少し考えて、そしてなぜか愛を一目見たあと、火焔は雷の提案を受けた。

 「じゃあ、決まりね」

 すると、流の時と似たように、雷属性のエレメントでできた契約書らしき物が、火焔の前に出現した。

 その契約書に書いていた文字の下にあった確認のボタンを、火焔は指にエレメントを纏ったあと押した。

 すると――何も起こっていなかった。

 だが、それはただ外見の話。

 視認はできないが、火焔は今雷のエレメントを使えるようになった。

 「話は済んだか?」

 二人の動きから対話が終わったと判断し、EMは話しかけた。

 「ああ」

 と、振り向いてEMに返事したのは火焔。

 すると、EMは戦いに備えて構えた。

 安心して雷と話していた火焔と違って、さっきからEMを警戒していた愛は、最初から「氷花」を持ってスタンバイしていた。

 EMが構えたと見て、彼女も剣を構えた。

だがそんな彼女を火焔は手を挙げて止めた。

 「こいつは俺一人でやる、まだ決着がついてないからな」

 先日の決着ができなかったから、火焔は一人でEMの相手をすると宣言した。

 さっきあんなに無防備で長く話していたのに襲いかかってこなかったことから見ると、多分EMも火焔との真っ向勝負を望んでいたのだろう。

 「わかりました……」

 本来そんな火焔を止めたかった愛は、無言の火焔から決意を感じ、諦めた。

 こっちは一騎打ちするつもりとEMに示すために、愛と雷から離れて、一人前に出た。

 その動きの意味を理解したEMは、フッと笑ったあと、煽り始めた。

 「この間の俺とは一味違うぞ、準備はできてるか?」

 「お前こそ、今度こそ俺を楽しませてくれよ」

 手と足を動かして、火焔はウォーミングアップをしながら煽りを返した。

 その煽りと同時に火焔の顔に表れたのは、不気味な笑み。

 火焔の後ろにいてその顔が見えなかったけど、そのセリフを聞いて、愛はつい眉をひそめた。

 そんな愛を気づかずに、二人は続ける。

 「今度こそ決着をつけてやる!」

 「ああ、すべてを終わらせよう!」

 いつもの決めセリフを言ったあと、火焔は「セーブ」から自分の武器を取り出した。

 だが、今までと違って今度は剣でも銃でもない。

 彼が取り出したのは長い槍。

 前回鮫のEMと戦ったときもそうだったが、火焔にはエレメントに応じて、色んな戦闘スタイルや武器を変えるという独特なこだわりを持っている。

戦いは既に始まった。

 火焔が武器を取り出すのを待ったEMはこの時、駆け出した。

 「速い……」

 隣でこの戦いを見ることになった愛は、一瞬で火焔との距離を縮めたEMの速さを見て、素直に驚いた。

だが、EMの高速の攻撃はやはり、前回と同様に火焔に防がれた。

一撃が外れて、EMは火焔の反撃を警戒しすぐに距離を取った。

前回の経験から学んだのか、すぐに次の攻撃を仕掛けず、EMは円を描くように火焔を回って走った。

どこから攻めるかを火焔に予測させないためだろうか。

 自分の速度を活かせる戦術を取ったEMはだが、さっき火焔が雷から雷のエレメントを受け取ったことを知らない。

 EMの戦術を見破った火焔はそして、思わぬ行動を取った。

 火焔はEMの移動ルートを予測してなんと、EMと同じぐらいの速度で駆け出した。

高速でEMに接近して一瞬、槍を突き刺した。

「うっ……」

すると、槍はEMの腹を貫いた。

「……人間、その速度は、どこから……」

自分の動きに追いついてこられた火焔に衝撃を受けたEMはつい問いかけた。

 「まぁ、高速はお前だけの力じゃないってことだ」

 そう、雷のエレメントには高速化の能力が持っている。

 その力で火焔はEMを動きに追いつけた。

 本来なら、人間の体ではこんな高速の動きに耐えることは不可能。

 簡単に言うと、空気の粒子や抵抗で体が押しつぶされて、体がバラバラになるはず。

 しかし、水のエレメントがユーザーを水中戦に適用する体質に変えるように、雷のエレメントを身に纏うことで、ユーザー達はそれらを無視して加速することができる。

 もちろん、どれくらい加速できるのは個体差による。

 さっきの火焔の動きを見て、「え、何が起きたの?」と思わず聞き出した愛に、雷はこのように説明した。

火焔に刺された状態のまま、EMは腕を振り下ろして、反撃をした。

すると、回避行動を取るために、火焔はEMの体から槍を引っ張り出した。

傷が広がった痛みで、攻撃しているはずのEMは一瞬動きが止まった。

その隙を掴んで、火焔は槍を抜く時の力に乗って回転。

体を遠心力に任せたまま、槍を横払った、狙ったのはEMの足。

だが、この攻撃にEMは反応して足を逸らして避けた。

 一撃避けたら、槍のリーチに警戒しているからか、EMは高速で火焔から離れ、距離を取った。

 それに対して、もちろん火焔は雷のエレメントで追撃していった。


 「速すぎて全然見えない……」

 二人の戦況についていくよう、愛は目を必死に動かしていた。

だがどう頑張っても、二人の残像しか見えない彼女はつい心の声を漏らした。

 逆に、高速の世界に入った二人から見ると、愛の動きはまるで止まっているように見えた。

 この時、そこの二人の周りに大勢の「初型」が現れた。

 「『初型』か……」

 「でもなんで?」

 二人共驚いた。

 火焔との勝負に夢中な豹EMなら、このように突然「初型」を呼び出して、無関係の二人を襲ったりはしないはず。

 なら、この「初型」群れは何故出現したのか。

 「今はそんなことを考える場合じゃない。行くぞ、お義姉さん」

 「はい……って、えっ!?」

 雷の言葉に最初は反応できなくて「はい」と答えた愛はだが、すぐ違和感を感じて彼の自分への呼び方に驚いた。

 突如お義姉さんと呼ばれて、どう反応すべきかわからない愛はだがそれに考える暇もなく、「初型」達は襲いかかってきた。

 万が一のため、さっき武器をしまわなかった二人はそのまま駆け出して、「初型」の大軍と戦い始めた。


火焔とEMの戦いに戻る。

さっきから二人の攻撃は相手に当たらなかった。

EMのあらゆる攻撃を火焔は防ぐ、火焔の攻撃をEMは何度も避けた。

だがこの時、戦況が変わった。

火焔は槍を振り下ろして、EMを斬った。

その攻撃を長い爪で防いたらすぐ、EMは槍の柄を掴んで火焔の腕を狙って攻撃した。

すると、槍は火焔の手から離れて、EMの後ろまで弾き飛ばされて、地に刺した。

その行動に一瞬驚いて隙を見せた火焔に、EMは右手を突き刺した。

その攻撃を受け流した瞬間、火焔はEMの腕を掴み、引っ張ってバランスを崩したあと、肩でEMを突き飛ばした。

その攻撃を喰らって少し下がったEMを、火焔は続いて足にエレメントを注いて蹴っ飛ばした。

まだまた追撃が続く。

槍が落ちたところまで蹴飛ばされたEMに、火焔は今度飛び蹴りをした。

さっきの攻撃でまだ立ち上がったばかりのEMは意外とすぐ反応して、両腕を胸の前に構え攻撃をブロックした。

その挙動によってダメージが軽減されたものの、衝撃によってEMは後ろへ三歩下がったEM。

キックが防がれた事を気にせずに、蹴った直後、空中で自分の槍の掴み取って、火焔は再び地に降りた。

そして、槍を抜き出した。

その一瞬の隙に、背を向けている火焔にパンチをするつもりで、EMは腕を上げて力を貯めた。

だが、その姿はちょうど火焔が抜いた槍の刃に映された。

 そしたら、まるでEMを狙っていたかのように、雷が落ちてきた。

 雷に直撃され、EMはまた遠くに飛ばされた。

 これももちろん火焔の攻撃であった。

 いや、正確に言うと、これは攻撃ではない。

 落雷が当たった位置に、地に刺しているのは、もう一本の槍。

 火焔が今持っている東洋式の矛みたいな槍とは違い、今度のこれは西洋騎士が使いるような長いランス。

 そのランスの持ち主ももちろん火焔であった。

 さっき何かあったかというと、「セーブ」を応用して火焔は武器を召喚しただけ。

 その召喚時の落雷が“たまたま”EMに当たっただけ。

それも火焔の計算の中だが。

 両手で持っていた槍を左手だけに持ち換えて、地に刺したランスを抜いた。

 再びEMのとこを見ると、雷のせいかフラフラになっていて、反撃できる力を失った。

 雷のエレメントには相手を麻痺するという隠れ能力が持っているようだ。

 だが、あくまで「セーブ」の応用型として使ったので、さっきの落雷ではそれほどの威力がなかったはず。

 豹EMの雷エレメントに対する耐性が低すぎたかなんだろうか。

 その現象は火焔にとっても想定外で、すごく驚いていた。

 「まぁ、そろそろトドメだ」

 考えるのを諦めてそう言ったあと、火焔はランスを構えて駆け出した。

 高速でEMに接近し、ランスで突き刺してEMの体を貫いた。

 すると、ランスがEMの体に刺したままで、火焔は回転して、EMを空へ投げた。

 空に飛ばされるEMを見て、ランスを再び地に挿した。

そしたら、EMの後ろにエレキに纏まれたクリアイエローな壁が現れた。

 その壁にぶつけられたEMはそして空中で固定された。

 「これで終わりだ!」

 その後、エレメントを足に貯めて、EMの高度まで跳んだ火焔は左手の槍と右手のランスを鋏みたいな形にしてから、口を開けた。

 「〈ライトニング・カッター〉!」

 長い武器二本が合体しできた大きな鋏にエレメントを注いて、EMの体を切り裂いた。

 そして当然のように壁を通り抜けた火焔が地に降りたと同時に、EMは爆発し消えた。

 すると、火焔の必殺技が終わったと示すように壁は消えていった。

 加速していた二人からしては、結構長かった戦いだったが、加速の能力を持たない愛のような“一般人”らにとって、すべてはほんの短い間の出来事だった。


 火焔がEMを倒した時、愛と雷はまだ「初型」と戦っている。

 EMを処理した火焔は槍二本を締めて、代わりに「銀月」という拳銃を取り出して、二人を支援した。

 「どこから出たんだ、こいつら」

 どうやら、火焔はさっきの戦いに専念していたため、「初型」大軍の出現に気づいていなかったみたい。

 実際、雷のエレメントが上げる能力の大半は動きの速さだけ。

 思考速度、反応速度もそれなりに上昇するのだがほんのわずか。

 それだけの脳力であれほど長い高速バトルを処理するにはそれぐらい集中しなければならない。

これ以上体力を消費したくないだろう、剣で戦うよりも火焔は銃で遠いところから二人を支援することにした。

 その勢いで三人はさっさと「初型」達を片付けた。

 戦いを終えて、嬉しそうに火焔のところに振り向いた愛はだが――

「火焔くん、危ない!」

 手強いEM一体と急に現れた「初型」の大群を倒したばかりで、火焔が気を抜いたところ。

そんな中、紫の光と共にもう一体のEMが突然現れて、彼を襲った。

 「!?」

 雷のエレメント、そして愛の警告のお陰で、火焔は一瞬加速して、急な襲撃を避けた。

 だがやはり一歩遅かった、火焔の頬に傷が残された。

その回避行動と同時に、火焔は二人のところに戻った。

 (この気配は……)

 EMが現れて本来は感知の能力が発動し、火焔の心臓が急に痛くなるはず。

 だが今回はEMが目の前に出現したので、そもそも感知する必要がないため、能力が発動しなかった。

 その代わりに、そのEMから嫌な気配を感じた。

 火焔だけではない、三人ともその姿を見た一瞬で、これはかなりやばい敵だと悟った。

 次の動きがないEMに警戒しつつ、火焔はじっくりと観察した。

 突如現れたこのEMは、黒い体を持って、その上には尖っている黒くかっこいい装甲があった。

その体の所々に入っているラインは紫に光っている。

その頭上に生えている紫な二本角、そして腕にあった同じのように二本角が生えている龍の頭を模した装甲、それらから見るとこれは龍のEMのようだ。

「幻想系か?」

 それはそう判断した火焔の口から漏らした言葉。

 幻想系というのは、ドラゴンやユニコーンのように、現実にはない神話や伝説などで出てくる生き物をモチーフとしたEM達への呼び方。

 EMを分類する方法は主に二つ。

 一つは、怪人型、寄生型のように、EM自身の特徴で辨える。

 ちなみに、「初型」はいつも雑魚扱いされていたが、実はそれらもこの分類法で分かれたEMの一種である。

そしてこの三種以外にも色んなタイプがいる。

 もう一つは、動物系や幻想系、植物系など、EMのモチーフ元の種類で辨える。

 見る限り、目の前のドラゴンEMは幻想系で怪人型のEMであろう。

 「やっぱりEMは動物だけじゃないんですね……」

 火焔の言葉からそれを知った愛は、今まで“特例”だと思っていた人造物系の「侍」、植物系の「花」と幻想系の「悪魔」の存在について、心の中で納得した。

 EMから溢れ出る圧迫感に三人はうかつに動けない。

 そんな三人にEMは指で「かかってこいよ」と挑発した。

 すると、「銀月」を締めて、「紅蓮」を取り出した火焔はEMに向かって駆け出した。

 火焔を支援しようとする二人はだが、また突然現れた初型達に足止めされた。

 どうやら、さっきの初型大軍もこのEMの仕業らしい。

 やむを得ず、二人は今初型を相手に専念するしかない。


 振り下ろしてくる「紅蓮」を左手の装甲で防御したら、EMは右手で火焔にパンチした。

 「うあっ」

 グローブにも見えるその手につけた装甲がEMのパンチ力を大幅に上げた。

故に、火焔が喰らった一撃は口の中から何かが吐き出されるほど重い。

そして、「紅蓮」を弾けたあと、EMは左手で追撃をした。

さっきと同じく重い一撃、今度は火焔の顔面に直撃。

それによって、火焔はぶっ飛ばされた。

「カハッ……」

火焔を気にしながら戦っていた二人はこの時思わず叫んだ。

「火焔くん!」「兄さん!」

そのことに気を取られて、隙を見せた二人を、初型達は襲った。

その襲撃に雷はエレメントで加速し避けて、愛は裏人格に変わって反撃をした。

 さっきの衝撃に立ち上がる火焔に、EMは次なる攻撃を用意した。

 EMは両手の装甲を合体するように手を合わせた。

 すると、二つの装甲が合わさることでまた、一つの龍の頭が浮かび上がった。

 その龍の口に、デカい紫色の光球が形成された。

 火焔が立ち上がった瞬間を狙ってEMはその光球を撃った。

 それにギリギリに反応できて、雷のエレメントで体を加速させ、無理やりに火焔は躱した。

 とこの時、雷は急に倒れた。

 反撃ができなくなった彼を守るためだったか、「愛」は氷の棘を生成して彼を襲う初型達を倒した。

 だがそんな彼女も、初型を片付けたあと意識を失った。

 大技を一つ避けて、二人に構う暇がない火焔はただ一瞥して二人の状況を確認した。

 そして、彼は足に火のエレメントを注いで、一瞬でEMに接近して剣を突き刺した。

 しかし、その攻撃に反応したEMは素手で紅蓮を掴んた。

 それによって、紅蓮の切っ先はEMの胸先二センチのところに止められた。

 次の瞬間、EMはもう片方の手を高く挙げた。

 多分、そのまま紅蓮を叩き割るつもりだったんだろう。

 剣の強度には自信があるが、何もわからない相手に対してそんなリスクを負いたくない。

 EMの行動を見て、火焔はあっさりと紅蓮を手放した。

 だがそれと同時にEMに近づいて腹にパンチをした。

 エレメントを注いでいたこの一撃は、効いていて、EMを数歩引かせた。

 一撃貰って火焔はすぐ追撃をしたが、さっきまで掴んでいた紅蓮を遠く投げ捨てたEMにまた防がれた。

 そしてすぐに、EMは反撃をしかけた。

 腕にエレメントを溜めてEMはまた重いパンチを火焔に打ち込んだ。

 「グッ……」

 さっきのよりも断然重いパンチを喰らって、火焔の全身が痺れたように一瞬動けなくなった。

 この隙にEMはどんどん攻める。

 怒涛なパンチ連撃に叩かれて、火焔は10メートルほど遠くぶっ飛ばされた。

 「クァッ!」

 地上でぐるぐると数周回ったあと、上を向いて寝っ転がっている状態。

 そんな火焔にトドメを刺すつもりでドラゴンEMは一歩一歩と彼に近づいた。

 その足音を聞こえるはずなのに、火焔は床に転がってるまま動かなかった。

 さっき重い攻撃を何度も喰らったから、反抗する力がもう残っていないのか。

 火焔は、負けるのか……

 「ふっ……」

 だが、次に聞こえる笑い声はそのことを否定した。

 「ふっははははははは……」

戦いの最中、大怪我しているのに、この状態で火焔は急に笑い出した。

 楽しんでいるようにも、嘲笑っているようにも聞こえるその笑い声。

 誰から見ても、火焔は狂っているように見えるだろう。

 そこから違和感を感じ、次なる攻撃として、EMは手に紫の火球を生成した。

 「うっ、火焔……くん……」

 この時、意識を取り戻した愛は無理矢理に体を動かした。

 EMが投げ出した火球を、火焔の前まで駆け出した愛は氷の壁を作ってガードしようとしたが、それが出来る前に――直撃された。

 その後の追撃で、EMが打ち出したエネルギー弾も、愛は身を投げ出して火焔を庇った。

 キレイな顔が血に汚れても、体がボロボロになっても、EMの攻撃から火焔の壁となって彼を守った。

 

すると、後ろから誰かか彼女の肩を掴んだ。

 振り返ってみたら、そこには狂気が満ちた顔を見せた火焔。

 「どけ、邪魔だ……」

 言って、火焔は彼女を押しのけた。

 火焔のその言葉を聞いて、愛は驚くしかできなかった。

「えっ」

 何も言い返せない、ただ心が打たれたように、ショック。

 火焔の口からそんな言葉を聞くなんて、思ってもしなかった愛は力が抜いて、その場にへたり込んだ。

 そんな彼女を無視し、火焔はEMに向かって歩きだした。

 再び立ち上がった火焔を見て、EMはまた攻撃を仕込んだ。

 手にあった龍の頭を模した装甲、その二本の角が前に倒されるように折りたたんだ。

すると、装甲がグローブからフォークのような形に変わった。

走り出したEMはその武器で火焔を突き刺した。

 EMの手を捌いて、火焔は瞬速にEMの腹に殴りかけた。

 さっきとは全然同じ人とは思えないほど、攻撃は効いている。

 先ほどはEMに抑えられていたが、今度は火焔が押し返した。

 何発も殴って、EMが反撃ができないほど連続で攻撃を繰り返す。

 蹴り、パンチ。

そのまま、紅蓮が落ちた場所まで押し返したら、火焔はEMを蹴っ飛ばした。

「久々だな……こんな強い奴は……」

地に刺していた紅蓮を左手で抜き出しつつ、火焔は喋った。

「俺も、ちょっと本気だそうかな」

言い終わって、火焔が「セーブ」から取り出したのは、赤玉というもう一本の剣。

 左手には紅蓮、右手に赤玉、対となる二本の剣での二刀流、それが火焔が言う本気だそうだ。

 接近してきて拳を突き刺してきたEMに対して、火焔は全く焦らず、赤玉で軽く攻撃を止めた。

そして、EMに反応する時間を与えず、剣の角度を操作し、EMの手を動けなくなるようにロックした。

同時に左手の紅蓮で斬った。

続いては赤玉での斬撃、それから二本の剣をX字のようにする斬撃、回しながらの回転斬り、最後には双剣一斉での突き刺し。

一連の動きをスムーズにこなした姿は、非常に美しかった。

 それらの攻撃に大きなダメージを受けたEMは、後ろに下がって片足跪けた。

 この隙に火焔は大技を使おうとした。

 「二刀流・焔舞(えんまい)

 火焔のその呟きに応えて、炎が現れて二本の剣を纏った。

 〈焔刄〉のように刀身を何倍か増幅することはなく、ただ纏うだけ。

 その炎の剣を持って、火焔はまた一連の攻撃を始めた。

 斬撃、斬撃、また斬撃。

 二連、四連、六連、八連、十連……

 〈焔舞〉の名前に相応しく、踊っているように火焔は双剣を振り回す。

 EMに充分なダメージを与えたあと、火焔は攻撃を止めた。

 ここまで来て、計30回の斬撃を行った。

すると、次の瞬間、EMの体が爆発が起こった。

 双剣に纏っていた炎もそしてふっと消えていなくなった。

だが、誰でも想像しなかったのは、ドラゴンEMはさっきので倒されていなかった。

爆発を経っても、彼は尚生きてる。

 だがどうやら負傷して、フラフラとしか立ち上がれなかった。

 「やるなあ……」

 火焔を睨むようにその言葉を言ったEMは、目が紫に光って、体に黒色の炎を纏わせた。

 また何かしようかわからないEMに、火焔は双剣を構えて待った。

 だがそのあと、炎と一緒にEMは消えてなくなった。

 どうやらさっきのは攻撃ではなく、逃げるための動きみたいだ。

 「ふぅ……」

 戦いが終わって、ボロボロな体を持って火焔は雷のとこに戻った。

 戦場で倒れた弟を見捨てるわけにはいかないから。

 「雷くんは大丈夫?」

 後ろに来て、雷のことを心配しているように、愛は火焔に問いかけた。

 「ああ、体力が消耗しすぎただけだ」

 ここで、何故さっき雷は突然倒れたのか、それは契約のことに触れなければならない。

 他の人のエレメントを使えるように行う儀式。

 だが契約には一つ、大きな欠点がある。

 それは、他の人のエレメントを使う時、自分だけではなく、元の持ち主の体力も一緒に消耗されるのだ。

 だからさっき、火焔が雷のエレメントを使う度、雷の体力も消耗されていた。

 火焔が来る前に既にEMと戦っていて、火焔に雷のエレメントを貸してから、長い時間の高速バトル、それと同時に初型の群れと戦っていた。

 あれほどの体力を消耗されて、逆に倒れないほうがおかしい。

 武器を締めて雷を支えて持ち上げようとした火焔だが、その時彼自身もへたり込んだ。

 「大丈夫?」

 「ああ」

 と、心配してくれた愛に、火焔はそう言って誤魔化した。

 雷だけじゃない、本当は彼も体力ギリギリな状態になったのだ。

 「雷くんは私に任せて」

 それに気づいた愛は、言って火焔の代わりに雷を支えた。

 しかし、さっきの火焔のことを思い出したのだろう、愛は火焔を見つめていた。

 彼女の心の中はきっとこう思っているのだろう――

 (火焔くんが……怖い……)

 とこの時、またEMが現れた、それによって感知が発動、地に座っている火焔の心臓に痛みを与えた。

 「うあっ……」

 EM達の方向へ、火焔は視線を投げた。


 * * *


 「長官! 出動なしとはどういうことですか!」

 DELE本部、EMが出現したというのに部隊を出さない判断に不満を抱えた部隊の隊長――入間がいた。

「……これより、最終テストを行います」

 そんな入間の疑問に古木長官は沈黙を保ったままだった。代わりにメンバーの一人が声をあげた。 

 なにかテストをしているようで、そこに集まったDELEの全員がモニターに集中していた。

 「あれって……いきなり実戦に投入ですか……」

 どうやら、新しい兵器の最終テストとして、実戦に投入してみる作戦だそうだ。

 そのことに今気づいて入間はすぐ心配そうな顔になった。

 「まあ、早いうちにアレの力がわかれば、君たちにもやりやすくなるだろう」

 彼の疑惑を解くため、長官である古木は改めて今回の作戦の重要性を示した。

 「それはそうですが、まだ不安定な兵器を戦場に出すのは危険かと……」

 「まあ見たまえ」

 だがやはり不安そうな入間に、古木はただそう言って口を塞いた。



* * *


 火焔が戦っていたところの空域に二体のEMが飛んでいた。

見た目から見ると、これは戦闘機とヘリのEMだと言うべきだろう、二体共人造物系のEM。

 彼らの向かい先はもちろん火焔のところ。

 だがこの時、EM達はとある障害物に止められた。

そいつらの前にあったのは非常に巨大な輸送用ヘリコプター。

 キャビンの扉が開き、そこには鎧が、いや、鎧を着ている者が立っている。

 中世期風的なデザインをされていたその鎧は、金色になっていて輝いている。

 そして、まるで天使のように、その背中には、今は折りたたんでいるからわからないが、大きな翼が生えている。

 更に、その左手には、先端が天使の翼を模した、機械の造形をした杖。

 「いきます!」

 鎧から無感情で、無機質な声が伝わってきた。

その声がしたのは中の人が呟いたからだ。

 正確には、鎧にはDELE本部と繋がっている通信設備が設置されているため、DELE本部に直接声が伝わる。

 だから実際、それは呟きではなく、DELE本部の通信員への報告だった。

 そしてもちろん、そんな無機質な声は中の人の地声なはずがない、中の人の正体を隠すために加工させたものであった。

 ちなみに、本部で聞けるのは本人の声だった。

 そしたら、鎧は跳んでヘリから離れた。

 背中に生えている巨大な翼を展開して、鎧は空を飛べるようになった。

 「〈大天使の杖・セイバーモード〉」

 呟きながら、鎧は左手に持っていた杖を右手で逆手持ちに変えた。

 その言葉と行動に応え、杖の下半部が光に包まれて、剣の形のようになった。

 〈大天使の杖〉、どうやらそれが彼女が持っている杖の名前のようだ。

 まるでライトセーバーのようになった杖を使って、襲いかかってきた戦闘機EMの方翼と片腕を斬り裂いた。

 方翼と片手を失ったと共に平行を失い、戦闘機EMは地に落ちていく。

それを見てヘリEMは慌てて逆方向へ飛んで逃げようとした。

そんな状況で、すぐに追撃するのではなく、それところか、、鎧はヘリEMとは真逆の方向へ飛んだ。

 その行動を取ったのは、EMを逃がすつもりではなくて、ちょうど逆。

二体のEMが一直線になるように鎧は飛んで自分の位置を調整した。

 そして、〈セイバーモード〉を解除して、元に戻した杖を先端でEM達を狙うように構えた。

 「〈大天使の杖・ブラスターモード〉」

 そして、杖がまた姿を変えた、先端にあった天使の翼が杖を包むように畳まれて、それで砲口らしき物に変えた。

今持っている持ち手の部分とは違って、砲身にもう一個のグリップが展開されて、そのグリップを右手で持った。

そんな体勢で杖を構えたら、鎧はまた口を上げた。

 「出力最大、チャージ開始! 10、9、8――」

 すると、砲口が周りからエネルギーを収集して光った。

 それと同時に、チャージ完了までのカウントダウンを鎧は始めた。

「3,2,1,0、ファイア!」

 そのカウントダウンがゼロになったと同時にトリガーを引く。

すると砲口から金色のビームが撃ちだされた。

 大範囲のビームに浴びた二体のEMは一瞬で爆発し消えた。

 

* * *


 地上にいた火焔と愛は空を見た。

夜に入って黒くなった空に金色の流星が線を描いた。

すると、爆発が起きたあとに、EM達の気配が消えた。

「なんですかそれ?」

愛の質問を聞いて、火焔はただ頭を振った。

彼もあの「流星」について何も知らない。

 目の前の状況を見て、流石に彼も驚いている。

 そんな火焔の反応を見て、愛も空を見てついと眉をひそめた。


* * *


「これが、我々の新たな力……」

 DELE本部でその戦いを見た入間は、その戦果に驚いた。

 まさか、これほど戦闘力があるものが作り上げられたとは、思ってもしなかった。

 「そう、これが我らの新たな力だ」

 入間の言葉を聞いて、古木は嬉しそうに返した。

 そして、これからが楽しみというように、古木が笑った。

 「ははは、ははは、ははははははは――」


次回予告/雑談


――――――――――――――――――――――――――――――

ドラゴンEMとの戦いで、火焔は戦いに飢える一面を見せた。

周りの何もかもを見えなくなったように、ただ戦うことに夢中で。

助けに来た愛にも「邪魔」と、冷たく。

今までの出来事で、心を開いたと思いきや、むしろ逆に、火焔はもっと心を閉じ込めた。

「私は一体どうしたら……」

そんな火焔を助けたい愛は、悩みまくる、自分はどうしたらいいか……


「……失踪事件の真相がわかった」

そして、桜見学園の生徒に纏わった失踪事件も、その真実がわかるようになってきた。

「前川さん」

「山崎君……」

行方不明になってた女子生徒と、其れを探していた少年が、ようやく再会した。

一体何が起こったのか……


次回、第九話、「別れ」

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