第七話 加速する運命の歯車
日本人ではないので、日本語が間違っているかも知れないです。その時は教えてください。
桜見島のとあるところに、一体のEMが出現し、大暴れをしている。
その首を纏う派手なたてがみや、大きな爪を持つ装甲を纏った右手から見ると、どうやら獅子を模したEMのようだ。
そいつは、島の防御設備が働く前に逃げきれなかった一般人達を襲っていた。
そして今、そいつは一人の女性を壁まで追いやった。
右手を高く上げたEMを見て、ここから先に起きることを理解して怖がる女は悲鳴を上げ、泣き崩れた。
この時、「不思議なこと」が起き、EMに攻撃を止めさせた。
誰かがEMに攻撃を仕掛けたのだ。
すばやく飛んできたものに、反射的に右手で防いた。
その結果、高速に飛んできたものが全数右手に当たった。
しかし、攻撃を喰らったのにダメージが少ない。
それによって、自分に当てたものが一体何なのかを確かめるために自分の腕を見た。
すると、手に差し込んだ氷の棘が溶け、手が一層の氷に覆われた。
攻撃の主を確かめるために、今度はその氷棘が飛んできた方向へ向けた。
そしたら、いつの間にか接近していた一人の少年が炎の剣を舞って斬りかかってきた。
一瞬で反応はしたが、予想外の攻撃に完全に避けることができず、傷を負った。
一撃を貰って続けて攻撃を仕掛けてくる少年に、やむなく下がった。
するとこの時、戦う二人と女性の間にデカい氷の壁が出現し、両方を隔絶した。
この状況を見て、当然のことながら、女はさっきよりもびっくりしている。
「大丈夫ですか?」
そんな怖がっている彼女の元に一人の少女は走ってきて、彼女を見舞った。
だが好意的な彼女に、女はただ化け物を見たような顔で叫ぶ。
「ば、化け物!!」
その言葉を聞いて、へこんでいるように少女は少し下を向いた。
この隙を見て、女はすぐに逃げていった。
その場に残された少女は、下を向いて顔が前髪に隠れて見れないが、今でも泣きそうな悲しい顔をしている。
氷の壁の向こうで、少年とEMは戦っている。
その大きな爪でEMは少年に次々と攻撃を仕掛けた。
それに対し、少年は手に持っている「紅蓮」という剣を使ってEMの攻撃を防いたり、避けたりしていた。
武器を持っているのに、何故か反撃はしない。
この時、壁の向こうの少女は深呼吸して、元気を取り戻した。
彼女は目をつぶって自分の剣――「氷花」にエレメントを注ぎ始めた。
すると、「氷花」は白く輝いた。
「いきます!」
そう呟いたあと、彼女は剣を壁の真ん中に刺し、亀裂させた。
亀裂した壁はそして砕けて、いくつかの剣をかたどった塊となって、一斉に少年の背中に向かって飛んで行った。
平然とEMと戦いを続ける少年はそのことに気づいてなさそうに見えるのだが、次の瞬間、まるで打ち合わせをしたかのように、攻撃に当たる前に空へ跳んだ。
そんな少年の行動に気を取られたEMは、前方からの攻撃をまったく気づいてなかった。
それによって、少女の攻撃は外れなく、全部EMに当たった。
「ふっ」
しかし、その攻撃をまんまと喰らったEMはただ少女を嘲笑っているように鼻で笑った。
その反応からみると、どうやら少女の攻撃はそんなに効いてないようだ。
だが、少女の狙いはそこじゃなかった。
「なにっ!?」
EMの体に入り込んだ氷の塊は溶け、水のように下へ流れてからまた固まった。
そうして、EMの下半身と両手が封じられた。
この思わぬ攻撃に、EMは焦った。
氷から抜けようと、体をいっぱい動かす。
しかし、EMがどう抗おうと、氷はまったくも動じない。
さっき空に飛んだ少年はこの時、降りてきた。
手に握っている炎に纏った剣で少年はEMを切り下ろす。
「かっ……」
少女に動きを完全に封じられたせいで少年の攻撃にまんまと受けたEMに対し、少年はまだ攻撃を続ける。
すぐ手の向きを換え、EMの腰を狙って少年は右側に回りながら二回目の斬撃を行った。
縦と横、十字になった二回の斬撃の軌跡が赤く光る。
そして次の瞬間、EMは爆発し消えていなくなった。
戦いが終わって、少女――飛鳥姫 愛は野上 火焔という少年の元に行って、声を掛ける。
「やりましたね」
EMを倒したのに、何故かちょっと切ない顔をしている愛。
「さっきのこと、か?」
そんな彼女の顔を見て、壁の向こうで何があったか、見ていなくてもわかる。
助けた人間に拒まれたのだろう。
「気にすんな、そう上手くいかないくらい、覚悟してたんだろう?」
「うん……」
「さぁ、学校に戻るぞ」
「はい」
EMが出現してすぐ戦いに駆けつけてきた二人だけど、実は高校生で授業中だった。
戦いが終わって、授業に戻らなければならない二人はそして学校へ走り出した。
授業に戻るはずのだが、学校に戻った二人は教室に戻る前に理事長室に来た。
「授業中だったなのに悪いな、二人共ご苦労だった」
二人を迎えたのは中学生にも見える一人の女の子――七瀬美月。
見た目はこんなでも、彼女はこの桜見学園の理事長を務めているものすごい偉い人だった。
そんな彼女に、火焔はさっきの戦闘について報告した。
あのことから、愛の叔父さんの件以来、二週が経った。
この二週間、「ユーザー」として知っておくべきことを愛はたくさん学んだ。
例えば、「ギルド」について。
EMを倒すたびに「ユーザー」はギルドみたいな組織から金を貰える。
そうするために戦いをギルドに報告するのは必要な行為。
そこで美月は火焔とギルドの間の仲介役を担当している。
火焔は戦いのことを美月に報告したら、今度は美月がギルドに報告する。
すると、ギルドからEM討伐の報酬を貰えて、また火焔に渡す。
という過程で、火焔は学生でありながらずっと金を稼いでいた。
もちろん、愛もそこから収入を貰っている。
「いいえ、するべきことをしたまでです」
美月に答えたのは愛。
「そうか」
それを聞いて、美月は微笑んだ。
「それにしても、随分と早いなお前ら」
時計を見て、美月はそう言った。
二人が学校から出てEMを倒してから帰ってきて報告するまでの時間が、僅か二十分で、結構早かった。
「まあ、愛も進歩が早くて、戦力になれたからな」
この二週間の間、愛は毎日エレメントの練習をしていて、火焔にも色々コツを教わった。
その結果、彼女はさっきのように、火焔と連携できるくらい成長してきた。
そんな愛の進歩を、火焔も認めている。
「ふっ、お前が他人を褒めるなんて初めてだな」
そんなはっきりと愛を褒めた火焔に、美月は驚いた。
「ほんと、変わったな」
この間まで、仲間をいらないとか口にする者が、誰かと一緒に戦えることができて、随分と成長したなぁと、美月は感嘆した。
「変わった?」
そんな美月の思いを聞いて、今度は逆に火焔がびっくりした。
「俺が? ふざけんな」
そして彼は否定した。
火焔から自分の変化を否定する言葉を聞いて、美月は彼の側にいた愛を一目見てから、続けた。
「気づいてないのか」
その一瞬の眼差しから美月の言葉の意味を悟って、火焔は下を向いた。
なんだか不服そうに、だが小さな声で呟く。
「俺が……変わったと」
彼のその反応に気づいていない美月は突然あることを思い出して、それを火焔に伝える。
「そうだ、頼みたいことがある」
「なんだ?」
頼みがあると聞いて、火焔は一息を吐いたあと、美月にその内容を言わせた。
「何人か生徒が行方不明になったらしい」
「生徒が、行方不明?」
そのことを聞いて驚いたのは愛。
「そうだ。一週間前から三年C組に生徒数人が行方不明になったっていう噂が出た、連絡が全然つかないらしい」
基礎情報を聞き終わったあと、今度は火焔から質問する。
「で、それをEMがやったと?」
生徒が行方不明になった、そんな由々しいことが起きたら、警察も動いているはず。
なのに、火焔達、まして生徒達は今まで知らされなかった、なお、そのようなニュースも見当たらない。
多分、美月が何かの方法で情報を封鎖していたのだろう。
しかしながら、彼女は今こうして、火焔と愛にそのことを伝えている。
となると、その理由はただ一つ。
この事件にEMが関わっている。
火焔が既に状況を把握したとわかって、美月は続ける。
「調べてくれないか?」
「わかった」
事情を聞いて、彼はただそう言ったあと、理事長室を出た。
「じゃあ、私もこれで……」
と言って、去って行く愛を背中を見て、美月は穏やかな笑顔を表して独り言をした。
「頑張れよ」と。
ベルの音が流れて、休み時間になった。
先ほど美月の頼みごとを調べるために、火焔は三年C組の教室へ向かっている。
そして――
「なんでついてきた」
――彼は自分の後をついていた愛に不満の声を上げた。
学校では近づくなと、彼女に伝えたはず。
だけど、彼女は今こうして、自分の後ろにいる。
「私も、そのことに気になりますから」
数人の生徒が行方不明になったことが、愛はどうしても気になる。
だから、火焔と一緒に調べようと、ついてきた。
愛のことだから、止めてもついてくるとわかって、火焔はほっておこうとした。
こうして二人は、三年C組の教室まで来た。
中に入ると思いきや、火焔はただ外から中を覗ぐ。
教室では五つくらい空き席があった。
多分それらが行方不明になった生徒たちの席であろう。
そのことのせいか、教室中にはとても重い雰囲気になっている。
とても静かで、他の教室の声だけが聞こえる。
クラス内では、数人が祈っているように手を合わせている。
もう他に手掛かりになれそうなことがないかなと、火焔が思ったこの時、一人の女の子が突然泣き出した。
その異変に気づく、隣の生徒が彼女を慰めるため、彼女の肩を軽く叩いた。
この不自然なほど辛い雰囲気の中、愛は火焔に問いかける。
「入らない……ですか?」
一旦観察を終えて、火焔が彼女に答えようとした時に――
「あの……誰かを探してますか……?」
少し弱気そうな男の子が二人に話し掛けた。
「このクラスの生徒か?」
観察して彼の正体を察した火焔の質問に男の子は頷いた。
彼の出現はちょうどいいとも言える、クラス内のことについて火焔はちょうど誰かに聞こうとしていた。
「ちょうどいい――」
そして、続きを問いかけようとする火焔だが、愛に話を遮られた。
「――七瀬理事長に頼まれて、生徒行方不明事件を調べにきたんです」
と、流石に先輩を相手に、タメ口を使おうとする火焔より、自分の方が適切だと思って、代わりに説明をした。
美月に頼まれてと聞いた瞬間、男の子はちょっと嬉しそうな表情を見せた。
「わかりました」
話しやすくするために、三人はこの時間だと人が少ない階段まで移動した。
ここに移動している途中、男の子は二人に簡単な自己紹介をした。
彼は三年C組の生徒で、山崎というらしい。
「で、何が必要ですか?」
「まずは……」
そう聞かれて、火焔は失踪事件を調べるために必要な情報を聞き取ろうとする。
また先輩にタメ口を使うつもりの火焔を、愛は止めようとした。
だが今度は、愛の考えに気づいて、火焔は今度手を挙げて彼女の動きを止めて、続ける。
「あのクラスに何が起きた?」
その質問に、山崎は非常に驚いた。
失踪事件を調べるなら、被害者の情報を聞くのが最優先じゃないのか。
人を探すには、いなくなった人達の姿や前日どこに居たか、普段はどんなところに行くか、最後見かけたのはいつなのかとかから手をつけるべきじゃなかったのか。
それなのに、クラスのことを聞くことにした。
「え!?」
その思わぬ行動に、山崎は驚いた。
「お前、いなくなった人を探したいんだよな」
さっき一瞬見えた山崎の嬉しそうな表情、火焔は気づいた。
失踪した自分のクラスメイトを探したくないものなら、きっとそんな表情を出さないだろうな。
「そうなんですけど。クラスメイトがいなくなりましたから、心配するのも当然だと思うけど……」
知られたとわかって、山崎は素直に認めた。
「お前のクラスの連中はそう見えないが?」
火焔は三年C組のクラスの中を観察したことをはっきりと言った。
突如泣き出した女の子、何故か祈っている数人の生徒、そして、失踪事件の情報を加えれば……
そう、まるで……
「まるで、自分が次の被害者になることを恐れてるみたいだな」
全ての情報を繋げて火焔が出す結論がこれ。
だから、クラスに何があったのか、彼は聞きたい。
その質問にどう答えようか迷っている山崎に、火焔は更に迫る。
「答えたくないならいい、だが、失踪したお前のクラスメイトに会いたくないのか?」
火焔はなんと、学校の先輩を脅かした。
そう言って、自分は教室へ帰ろうと振り向く火焔。
「待ってください!」
失踪したクラスメイトに二度と会えないかもしれないと言われて、山崎は直ぐに焦った。
それを聞いて、火焔は「計画通り」を言っているようにニヤッとしたあと、また身を回して、山崎の言葉を待った。
「クラスでは、いじめがあったんです」
「いじめ?」
そのことを聞いて平然といた火焔と違って、愛はびっくりした。
「はい……去年から、クラスでいつも活躍する四人組が、静かでおとなしい女の子をいじめていたんです」
と、山崎は続ける。
クラスにそこそこ人望がある四人が内気で、言葉も表情の変化が少ない一人の女の子をいじめていた、と。
「いつもあの子を嘲笑いをしたり、買い物に行かせたり、最悪な場合、サンドバッグみたいに扱うこともあった」
言えば言うほど、山崎は切ない顔になっている。
聞いて、愛の顔もだんだん悲しく見えてくる。
「そんなの……ひどい……」
「そして、今学期に入ってから……あの子を見かけなかった……」
今学期、とは言っても始まった一ヶ月ほど、に入ってから、いじめられたあの子が行方不明になった。
「学校やめたかって先生に聞いたら、そんなことはなかった」
いじめの圧力に耐えられなく退学した、という可能性を彼は既に排除した。
だから、何かあったと、彼は確信した。
「で、一週間ほど前に、あの四人組も一斉に行方不明になったと」
話の続きを、火焔は予想できた。
行方不明になったのは五人、四人組+いじめられたあの子だとしたら合点がいく。
そして、常識で考えると、四人組が失踪したのはあの子の所為かも知れない。
自分をいじめた者に仕返しをするために何かをした、というのが一番合理的な推測だろう。
だとしたら、あの祈っている人達は自分が次に消えるのかも知れないと怯えてるだと解釈されるべきか。
いじめに参加していないとは言え、いじめという行為を放任した、その人たちはある意味同罪だから。
そんな中、目の前の男の子だけが、行方不明となった生徒を助けたいと訴えている。
彼の思惑に気づいた火焔は続けた。
「で、お前があのいじめられた子を探したいのか?」
その問題に山崎は答えていない。
だが彼の表情からみると当たったんだと簡単にわかる。
「何故だ? いじめられっ子を庇うならお前もいじめられる側になるんだぞ」
「……」
新たな質問に山崎はまた答えを迷った。
――失踪したクラスメイトに会いたくないのか?――
しかし、さっきの火焔の言葉を思い出し、彼は焦ってすぐ火焔に答えた。
「僕は……あの子が、前川さんのことが好きなんだ……」
行方不明の女の子を探したい理由、好きだからだった。
山崎は前川えみという、いじめられていた子が好きだった。
という山崎の言葉を聞いて、二人は同時になるほどの表情を見せた。
「以前に一度だけ、僕は彼女を庇った。あの時初めて見た彼女の笑顔……僕は、その笑顔に惚れたんだ」
昔に一度だけ、山崎は前川を助けたことがあった。
そのあと、自分もいじめられる側に落とされていたけど、あの時、ありがとうと言った時に見せた前川の笑顔に、山崎という少年はそれに惚れてしまった。
だから、前川を探したくて、彼は助けを求めた。
「なるほど、あの前川っていう子を探せばいいんだろう?」
これだけ聞いて、やっと人を探す気になった火焔に、山崎は嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます」
「ただし――」
しかし、その笑顔を驚きに変えたのは、火焔の次の言葉。
「――希望を持つな」
「「えっ……」」
その言葉に驚いたのは山崎だけではない、愛もそうだった。
そんな二人に気にせずに、火焔は続けた。
「希望を持たない限り、絶望はしない」
その続きを聞いて、何かがわかったように、愛はすぐ切ない顔になった。
だが山崎はもちろんその言葉の意味をわかるはずがない。
「いや、なにを……」
そしてこの時、ベルが鳴って、休み時間が終わった。
「あっ、それじゃあ、僕はこれで……」
火焔の言葉を真意をはからない方がいいと思って、山崎はすぐ自分の教室に帰った。
帰っていた山崎を見送ったら、教室に戻ろうと振り向いた火焔はそして、泣きそうな顔をしていた愛に気づいた。
「どうしたんだ? 切ない顔して」
「いいえ、さっきの話、ちょっと重いな――って思ったから」
聞いて、火焔はただ「そうか?」と返した。
しかし、愛がそんなに切ない顔にしたのは、山崎や前川のことだけじゃなかった。
火焔のあの最後の言葉。
――希望を持たない限り、絶望はしない――
火焔が昔にあったことを、以前信じていた人間に裏切られたことを、美空から知った愛こそ、その言葉の意味を知り得る。
どれほどの絶望を味わってから、その言葉を言い出せたのか……
* * *
放課後、食材を買いに行こうと、約束した愛と希は校舎を出る時、そこに立ち止まっている火焔を見かけた。
周りから誤解されないよういつも愛や希と下校する時間をずらした火焔が、そのに突っ立っている理由を気になった二人は一斉に彼に話しかける。
「どうしたの? 火焔くん」 「どうされたんですか? ご主人様」
その声を聞いて二人に気づいた火焔は目付きで、学校の敷地にいる怪しい人物に気づかせる。
火焔が見ている方向に視線を向けると、そこには一人の男の姿がいた。
見た目から二、三十代、明らかにこの学園の関係者ではない男は誰かを探すように目を泳がせている。
その男から異様な空気を感じて火焔は立ち止まっていたのだ。
するとこの時、男は三人と目があった。
どうやら探していたのは火焔達のようだ、三人を見かけた瞬間男は笑顔を見せた。
しかしそれはとても不快な、陰険な笑顔だった。
そして、三人へ手を伸ばした。
その行動を見て火焔は一瞬で愛の腕を掴んで、自分の後ろまで引っ張った。
愛が「え?なに」と驚く暇もなく、水玉が男の手から現れて、火焔に向かって素早く飛んできた。
そのことにすぐ反応した火焔は、自分のバッグの盾に水玉を防いた。
だが、火焔のバッグに防がれた水玉は消えたわけではなく、逆に弾丸みたいにバッグを貫通しそうに、火焔の腕にどんどん圧をかけてきた。
このままだと危ない、そうわかってて火焔はバッグをすっと払って、水玉を弾き飛ばした。
勢いよく飛んだ水玉はそして近くの地面に当たって、地面に穴が開けた。
その光景を見て「キャ――」と叫び出して逃げ回した一般生徒達と違って、その水玉は一体何なのか、火焔達は知っている。
そう、エレメントだ。
そして、もちろん、その水玉を生成し投げ出した男は、ユーザー。
襲いかかることはつまり、火焔か愛と戦いたいんだろう。
ならば、これほど人が多い場所では戦えない。
さっきのことがあって、生徒達は多分すぐに学校外か校舎内に逃げ切れるはず。
これで安心に戦える……わけではない。
あと一つだけ、このあとの戦いを生徒達に見せられるわけにはいかない。
そう思って火焔は希に命じた。
「希、七瀬に伝え」
さっきの騒ぎが美月に伝えたら、そっちは何かをしてくれるはず。
例えば、戦いを人に見せないための結界を張るとか。
その思惑に気づき希はすぐ理事長室へ駆けつけた。
美月の行動を計算に含めて、戦いにふさわしい場所は……
「俺に用があるならこっちに来い」
言って愛を掴んでいた手を放し、火焔はグラウンドへと向かった。
火焔の思惑を悟った男はにやっと笑った後、彼の後をついた。
そんな二人を見て、嫌な予感がした愛も二人を追いかけていった。
グラウンドまで来た二人は距離を取って、お互い観察している。
いつでも戦いが始まりそうなこの緊張な雰囲気の中、火焔は男に問いかけた。
「な、ひとつ聞いてもいいか?」
火焔の話に応えず、男は水のエレメントで自分分の武器として、長くて刃を三つ持つユニークな造形の武器――トライデントを生成した。
もう戦いに備えている男を見て尚、戦いの構えをしない火焔は言葉を続けた。
「――ギルドからか?」
その質問に、やはり無言のままとした男。
そんな彼がここに来た理由、目的について火焔は自分の推測を言いかけた。
「EMを倒しすぎてギルドに大きな損失を与えた、だから俺を抹殺しに来た、ってことでいいよな」
目の前の男は、ギルドからの刺客だと、火焔は言っている。
ギルドとはユーザー達が組んでいた組織で、EMを倒したユーザーはそこから金や報酬を貰える。
そして近年、櫻見島に現れるEMが昔の何倍に増えた。
その櫻見島にいる数少ないユーザーの一人として、いつも一番先取ってEMを倒してきた火焔は儲けすぎたと。
その理由で、火焔に忠告しろうと、最悪な場合抹殺しろうとギルドから目の前の男は派遣されて来たんだろうと、火焔は見込みをつけた。
その煽りみたいなセリフを聞いて煽られたからか、男子は武器を構えて駆け出した。
それに対して、尚全く焦っていない火焔はのんびりと言葉を続けた。
ただ今度は誰に向かって言ったのではなく、呟きにすぎなかった。
「ギルドのお前が来たら、そろそろ――」
それを言い終わった瞬間に、空から何かが男子を襲いかかるようにものすごい勢いで落ちてきた。
猛スピードで走っていて攻撃に専念していたはずなのに、隕石みたいに落ちてくるあのものに男は間一髪で気づき、一瞬で攻撃を諦め、エレメントで自分の跳躍力を上げて、どうにかあの空からの落し物を回避できた、
すると、当然ながら、落ちてくるアレはドン! と地面に激突した
それと共に爆発と衝撃波が生じ、グラウンドに大きな穴が開けた。
「ふぅ」
この破壊力を見て、男は自分が回避できたことにほっとして息を吐いた。
突然落ちてきたモノの正体に気になる愛と男はだが、さっきの衝突で舞い上がる土ほこりに視界が遮られて見ることができなかった。
それによって、二人は土ほこりが鎮まるまで注目して待つしかできなかった。
そんな彼らとは違って、アレの正体をわかっている火焔はただ、ふっと冷笑した。
数秒を経って、土ほこりが収まったその時、二人はようやくその空からの落し物の正体を確認できた。
そこにいるのは一人の少女。
制服を着ている火焔達と違って、また、普通の私服を着ている男と違って、ファンタジーな物語で見かける覚えがあるような衣装を着ている彼女はどれだけ周りから浮いているかは言うまでもない。
空からの着地だからか、片足で跪いている彼女。
その手に持たれたのは持ち手の周りに彼女の手を隠すほど大きな花が飾ってあった独特な短刀。
そんな派手な造形の短刀を彼女は逆手で二本を持っている。
彼女その赤髪、さっきからずっと彼女を観察していた愛は火焔と似ていると気づいた。
火焔の方も見て、両方を比べたら、愛は改めてその考えを肯定した。
二人共空から落ちた少女に気を取られたこの時、いつの間にか男に接近していた火焔は「紅蓮」で、斬りかけた。
だがこの時突然、死角から水玉が火焔を襲いかかってきた。
それに気付いた時、水玉は既に簡単に避けられないほどに接近してきた。
まして、攻撃行動をしている火焔は避けたくても、すぐに動きを修正して回避することが難しい。
これはもちろん、男が仕掛けた罠だ。
火焔が攻撃する一瞬の隙をついて、思わぬところから彼を襲うという作戦なんだろう。
自分の策が上手くいった! そう確信した男はにやけた。
――が、次に起こる出来ことが彼の……いや、すべての人の想像を遥かに越えた。
この千鈞一髪の時、さっきの赤髪少女はいきなり火焔と水玉の間に現れて、火焔の代わりに身をもって水玉を喰らった。
「うあっ……」攻撃を受けた少女は苦しそうに唸いた。
こうなると想定していたのか、そんなことを見て火焔は尚平然と攻撃を続けた。
少女が体を呈して火焔に攻撃のチャンスを作るなんて当然想像もしなかった男は既に、攻撃を避けるチャンスを見逃した。
しかし、ここでまた想像がつかないことが起きた。
斬りかかった火焔の剣はまるで空気を斬っているように男の体を通り抜けた。
斬撃を終えてよく見たら、火焔に切られたはずのところが、傷さえも残らなかった。
その現像に驚く火焔に、男はすぐに反撃し武器を振った。
その動きを見た火焔はすぐ回避行動を取った。
一瞬で足にエレメントを溜めてから放出し、その巨大な推力を利用して、火焔は飛び退いた。
着地した瞬間にすぐ、火焔は「銀月」という銃を取り出して、襲いかかってきた方向へ撃った。
すると、「きゃっ!」と愛や赤髪少女とまた違う三人目の女性の悲鳴が聞こえた。
どうやら、男にも女性の仲間がいて、それがさっき裏で火焔に奇襲を行ったらしい。
お互い仲間が傷づいて、男性二人はここで一旦攻撃を止めた。
するとこの時、とある女の子が後ろの草むらから出て、男の元へ移動した。
ロリと言っても過言でない、とても若い顔をしているその女の子は手で二の腕を被せている。
どうやら彼女がさっき裏で火焔を襲いかかって、逆に火焔に撃たれたあの女の子だったのようだ。
若い女の子と、見た目から二十代の青年の二人コンビ、少し異様な光景ではあった。
女の子を一目見て傷を確認した男はそして、愛が驚愕するほどのとんでもない行動をし始めた。
彼の横にへたり込んだ、さっきの交戦で火焔の庇って身をもって攻撃を受け取った赤髪少女を、片手で持ち上げた――
「―――――っ」
そんな状況を見てすぐにでも駆け出して彼女を助けたい愛はだが火焔に止められた。
そんな二人に気づかず男はさっきからの動きを続けた。
弾丸と並ぶ威力の水玉に体が直撃されて、頻死状態になっていた赤髪少女の心臓を、男は無情に手に持っているトライデントで――貫いた。
「――――」
その見るに堪えない光景に愛は思わず目をつぶった。
元からさっきの一瞬な交戦についていけなくて、まして目の前に人が殺されるとこを見て何もできないなんて、心の中で自分を叱りながら愛は涙ぐんだ。
だが、彼女の隣にいる火焔はこの光景を見てただ――「ふっ」と冷笑した。
こんな状況で笑い出す火焔を不思議だと思い男。
彼が火焔の笑みの意味に気を取られている最中、彼に持たれていた赤髪少女の死体は――炎となった。
その炎は消えるであろうと思ったら、それらが分散して生き物みたいに火焔の元へ飛んでいって、また集まって人型に戻った。
すると炎が消えて、さっきの赤髪の少女がそこからまた現れた。
そのことを見て、赤髪少女と火焔以外、何か起こっているのか全然わからない三人はただ、ポカーンとしかできなかった。
そんな三人を無視し、生き返ったばかりの少女はのんびりと口を開ける。
「まだ挨拶もしてないのに、早速殺されたね、ワタシ」
「遅すぎるだろう」
その嫌味にも聞こえるセリフを言い出す少女に、まるで何も起こっていないように火焔は平然と応えた。
一人はさっき殺されたのに、まるで友達と話しているような軽快な口調で会話をする二人。
その二人の間に、戦いの緊張感がまったく見当たらなくなった。
「はいはい。じゃあお詫びに……」
火焔の言葉を聞いて、軽く笑った少女は、火焔達を襲いかかってきた二人のコンビに向けて続けた。
「……こいつらやっつけようっか」
言って、駆け出そうとした少女。
「待って――」
だが、すぐに火焔に掴まれて止められた。
「――やつらは俺達が何とかする」
言って火焔は愛を指した。
「お前には他にやることがあるはずた」
目の前の戦いは自分達で片付けることにし、もっと大事なことを火焔は少女に任せた。
二人のやりとりから見ると、さらに困惑した愛。
しかし今はそんなことを考える暇ではない、火焔の言葉を聞いて、愛も急いで戦いに備えた。
「はぁ、わかったよ」
一息を吐いてそう言い終えると、赤髪少女の体はまた炎に変えた。
今度は吹き消されたようにそのまま消えた。
「一体、何がどうなってるの?」
目の前の一連のことに困惑している愛は、火焔に説明を求めた。
「まあ、説明するのも難しいが、さっきのヤツはただの分身ってわけだだ」
「はあ……」
目の前に敵がいるのに、特に隠さずに火焔はさっきの状況を簡単に説明した。
しかしそれだけを聞いてもよくわからない。
でも、どうせ戦いが終わったら詳しく教えてくれるだろうなと信じる愛は一旦思考を諦めろうと決めた。
「それで……」
そして、火焔はこれから起こる戦闘に役に立つ情報を愛に伝える。
「先あの男を斬った感触……多分液体化の能力だ――」
さっきの一撃で火焔は男の情報を把握した。
水のエレメントによる液体化、それは水のユーザーの得意技だ。
そして、それがさっき男が火焔の攻撃を避けた方法でもある。
「――物理攻撃は通じない」
そんな能力を相手に、斬り、突き刺し、殴りといった物理攻撃では、さっきみたいに体を通り抜ける、つまり無意味だ。
でも、言い換えれば――
「なら火にも、氷にも弱い、ですね?」
ここ二週間のレッスンは無駄ではない。
水のエレメントの特徴とそれに対抗できる手段を、愛はガッツリと勉強していた。
液体化、それはつまり、体の一部を水に変える能力。
そうやって斬撃、銃撃などの物理的な攻撃を簡単に回避できるというわけだ。
そんな相手に、ならエレメントを用いた攻撃をすればいいだけの話。
都合の良いことに、火は水を蒸発させる、氷は水を凍らせる。
エレメントの属性はちょうどこっちに偏っている。
そんなことを一瞬で理解した愛の戦いのセンスの良さに火焔は笑った。
「そういうことだ、行くぞ!」
戦況は四人で2対2となっている。
男の相手を務めているのは、おかしなことに火焔ではなく、愛だった。
少女に対してやったように愛の体を貫くつもりで、男は武器を前へ突き刺した。
武器の長さを活かすつもりで、男は愛と距離を取っていた。
しかし、その距離が逆に愛に防御の隙を与えた。
片足で跪いた愛は、両手で地面を叩いた。
すると、彼女の前に氷の壁ができて 男の攻撃を防いた。
氷の壁にはまっていたトライデントはすると、抜き出せなくなった。
次の瞬間、氷の壁と接触している先端からトライデントは凍結され始めた。
「あぶなっ……」
このままだと自分の手凍っられるだとわかって、一瞬の判断で、男は自分の武器を手放した。
体型の差もあって、火焔と戦っている女の子はさっきから一方的に抑えられている。
今も、火焔は怒涛のような斬撃を繰り返してる。
攻撃の間の一瞬の隙をとって、女の子は一旦距離を取った。
そしてこの時、愛と同じ動きで、同じように氷の壁を作り出し、火焔の攻撃を止めた。
するとさっき男に起こしたように、氷の壁に当たった「紅蓮」も凍結される……はず。
だがそう起こらなかった。
何故かというと、よく見たら火焔は女の子が壁を作り出したことを見た瞬間彼女の思惑に気づき、剣にエレメントを注いでいたからだ。
高温な火のエレメントに纏れ、「紅蓮」は凍られるどころか、逆に壁を溶かしている。
そして、火焔は焦らずに相手のことを分析している。
「なるほど、二つのエレメントを併せ持ちか……」
さっき奇襲をかけた時に使った水玉、そして今こうして、目の前に使った氷の壁。
彼女は水と氷、二つの属性のエレメントの技を使った。
水エレメントをどんどん使って、明らかに水のユーザーである男と違って、女の子は戦いが始まってから二回しかエレメントを使っていない。
しかも、一回目は水で、二回目氷。
彼女が持っているエレメントの属性について不確定要素が多すぎた。
もちろん、男が一種類以上のエレメントを持っていることもありえなくはない。
しかし、まず体格から戦いに見合わなさそうな女の子が彼と組んで襲いかかってきた。
それはつまり、目の前の女の子には何か、男に匹敵する、或いはそれ以上の力が秘めているのかも知れない。
普通に考えると彼女の方がよっぽと危険だ。
だからこそ、火焔が彼女を相手にし、男を愛に任せた理由である。
氷の壁が溶けたと同時に、女の子は手に水玉を持って、火焔を接近した。
さっき水玉を投げて失敗したから、どうやら今度は水玉を手に持って直接火焔の体に叩き込むつもり。
守りが消える瞬間に攻撃を仕掛けて来るだろうと、先に予想できて、火焔は彼女の動きについていけた。
「紅蓮」を「セーブ」へ投げ捨て、彼はエレメントを注いた右手でパンチをした。
炎に纏わった拳は水玉を蒸発させ、そして女の子の掌にぶつけた。
こうなると予想しておらず、女の子は驚いて一瞬動きを止めた。
この隙をついて、火焔はもうひとつの手で彼女の前腕を掴んだ。
背負い投げをするような動きで、彼女を空へ投げた。
飛行能力を持たない彼女は空中で逃げ場がない。
女の子の空中での動きを観察しながら両手を構え、火のエレメントを集めて火球を形成している火焔はその結論を出た。
すると、彼はそのデカい火球を女の子に投げつけた。
ものすごい勢いで飛んでいった火球はそして女の子に当たって爆発。
その爆風によって女の子は空から落とされて、地面に穴を開けた。
しかし、火球にぶち当てられ、空中から地面に激突したはずなのに、すぐに立ち上がれた彼女は思ったより怪我をしていないようだ。
男は地面を叩いて、水の鮫を数匹作り、それらを操って彼は愛に攻撃を仕掛けた。
まるで水の中にいるかのように地で自由に泳いているその水鮫達の口には鋭い歯が並んでいて、水の塊とは言え、殺傷力は一般の鮫と比べても負けてなさそう。
その中の一匹、襲いかかってきたサメを愛は反射的に斬りかけた。
すると鮫は攻撃を受けた一瞬で水たまりに変わった。
そしたらすぐ、また鮫の形に戻って再びかかってきた。
それを見て、さっき男が液体化の能力を使った瞬間を愛は思い出した。
もしその原理が一緒ならば、物理攻撃が通じない鮫達にエレメントの攻撃なら通じる。
だがこの時、愛はあることを思いついた。
襲いかかってくる鮫達を回避しつつ、口に気をつけながら愛は鮫達の“体”を触った。
その一瞬の接触で、彼女は鮫の群れを凍らせた。
これで、水の塊から氷の塊に変わった鮫達の指揮権は愛の物になった。
「ほう」
その思いつきに男は感心した。
「行きなさい!」
と、さっきの状況と形勢が逆転して、今度は愛が鮫の群れを操って男を攻撃した。
だが水から氷へ構造自体が変わった鮫の群れはそれとともに液体化の能力を失った。
それを見抜いて、男はエレメントを駆使して簡単に鮫の群れを片付けた。
“鮫を巡った交戦”が終え、接近戦に戻ろうと二人は一斉に駆け出した。
武器が凍ってもう使えないから、エレメントと素手でしか戦えない男のパンチを避けたあとに――
――〈メテオ・ストライクっ!〉
と呟いて、愛はその〈メテオ・ストライク〉という技を使い出した。
それは、エレメントで衝撃力と貫通力を強化した三回の突き刺しと一回の斬撃が組み合わさった技であった。
そのことを知るはずもない男はただ必死に観察して躱すことしかできなかった。。
最初の突き刺しは運良く回避できたのだが、二発目は腕をやられた。
そのことで一瞬判断力が低下したからか、三発目の突き刺しは男の腹を貫いた――
と思いきや、男は当たる前の一瞬自分の腹を液体化させた。
結果的に三回目の攻撃もやはり避けられた。
男が液体化の能力を使ったことに愛も気づいた。
(今です!)
だがまさかそれが愛の狙いだった。
その一瞬を掴んで、彼女は「氷花」にエレメントを注いた。
「氷花」を通じて氷のエレメントは男の液体化した部分を凍らせた。
突然腹の一部が氷に染められて、その形容しがたい異物感で、男は苦しそうな表情を見せた。
そして愛は「氷花」を男の体から抜き出して、回転しながら彼を斬って、最後の斬撃を終わらせた。
だがその攻撃もなんと避けられた。
男は自分の体を水たまりに変えて、その状態で最後の斬撃を避け、愛と距離を取ってから元に戻った。
「愛! あいつはお前一人で倒せるか?」
流石に二種類以上のエレメントを持つこと、様々の技を使って女の子は火焔と互角して戦えた。
戦いを続けている最中、何かに気付いた火焔は大声を出して愛に聞いた。
その男を相手に、愛一人で充分かと。
「えっ? はい!」
その質問に驚いてながらも、愛は頷いた。
この隙をとって、女の子は反撃を仕掛けようとした。
「なら任せた」
言って女の子の攻撃を避けたら、火焔は彼女を学校の外へ誘導した。
火焔達が行ったあと、男は既に元に戻った武器を拾って、火焔に答えて気を抜いた愛の後ろに回った。
背を向けていて、反応できるはずがない。
そう思った彼は後ろから、愛の心臓を狙って突き刺した。
だが、まるで後ろに目がついているように、愛はそのまま右へステップして男の襲撃を避けた。
トライデントの構造によって彼女の左腕に傷を残せたが、それに対し、唸り声一つ上げずに愛は一瞬で身を回して、男を突き刺した。
その一撃のパワーも、スピードも先の愛とは同じ人とは思えないほど上がった。
言い換えればつまり、愛は別の人格に変わったことだ。
今までの動きに惑わされ、今の動きの速さに反応できなかった男は、まんまと攻撃を食らった。
その一撃に心臓が直撃された男はそして、倒れた。
これで戦いが終わったと思うと、そうでもない。
何故なら男の死体はまた水たまりとなったからだ。
だが今度はさっきと違ってその水たまりから戻ることはなかった。
その代わりに、彼女と一旦距離があるところに倒されたはずの男が立っている。
「分身……」
そう、愛の反撃を予想していたからか、さっき彼女に不意打ちをしたのは男が水で作り上げた分身に過ぎなかった。
裏人格になってどうやらエレメントに対する知識を増えて、愛は目の前のことを一瞬で理解できた。
同じ体とは言え、戦いの経験も、エレメントの知識も、裏人格の方が上回っているみたいだ。
裏人格の攻撃を直接に食らっていなっかとは言え、男は驚いた。
「これは……一体……」
男はそう呟いたら、水たまりとなってそのまま消えた。
彼が逃げたとわかって、「愛」は戦闘態勢を解いて、武器を締めた。
すると、いつもみたいに、彼女は力が抜けたように倒れた。
火焔は女の子を近くの森まで誘導した。
「わざわざこんなところまで誘導して、どういうつもりだ?」
そうする理由がわからない女の子は嫌味を言った。
年頃の女の子を人影がない森の中に連れ込んで、火焔は一体どういうつもりだ、悪い意味で。
だがそんな彼女の言葉は、火焔からすればただの強がりにしか見えない。
「悪いが、子供には興味がない」
人がいない森まで彼女を連れてきた真意を火焔は口にする。
「ここなら、お前の能力は使えないからだ」
「なにを……」
火焔が何を言っているのかわからない……ふりをした彼女が隠したいことを、火焔はバラす。
「お前のエレメントは、水でも、氷でもない――」
さっきの戦いで女の子は水と氷、二つの属性のエレメントを使って火焔と戦った。
だが実は、彼女のエレメントは水でも、氷でもないと、火焔は戦いの最中に気がづいた。
火焔はまだ自分の能力の正体に築いていない、それを確信して女の子は彼の誘いに乗ったんだろう、だが本当はバレていだ
それを知って女の子はいきなり慌て始めた。
「私の力を封じるために、こんなところまで来たのか……」
「ああ、お前は他のユーザーの能力をコピーできる、あの男の水玉、愛の氷の壁、そして俺は火球……」
火焔が言っている火球はさておき、さっき女の子が使い出した技――水玉、氷の壁、それらは全部彼女以外の二人がさっきの戦いで使っていた技。
それらを自分の力のように使うのが彼女の能力。
その能力を持つエレメントはたった一つ。
「いや、コピーっというよりは反射っと言うべきか……な? 鏡のユーザーさんよ」
そう、彼女は鏡のエレメントを持つユーザーだ。
鏡のエレメントの能力は「反射」。
ユーザーの目に入った技を、例え自分が持っていないエレメントでも、自分の物のように使える。
だが、欠点としては、目に入った技しか使えない。
彼女がさっきようやってその能力を活かしたかというと――
まず一回目の水玉、男は武器を持っていない手で自分の後ろに水玉を生成した。
草むらの中に隠れてそれを見た女の子はそうして火焔を襲う水玉を作ることが出来た。
二回目の水玉もそうであろう。
彼女がエレメントを使う必要がある度、男はエレメントを駆使して、彼女を手伝う。
この二人はそういうコンビだったんだ。
続いては氷の壁、女の子が壁を作り出した時、隣ではちょうど愛が壁を作って男の攻撃を防いていた。
だからこそ、彼女は愛をコピーし、火焔の斬撃を止めることができた。
そして、最後は火球、それはどういうことかと言うと。
さっきの戦いで、女の子は火焔に空へ投げられたとこがあった。
空で逃げ場がなくなった女の子に、火焔は火球を使って攻撃した。
それなのに、女の子は大した傷をうけていなかった。
つまり、彼女は何らかの方法で火焔の火球を防いただろう。
その時に彼女の目に焼き付けられるエレメントの技はと言うと、火焔の火球しかない。
だから彼女は火球を反射し、二つの火球をぶつけさせたて、自分への直撃を防いた。
火焔はあの時で初めて彼女の本当の能力を気づいた。
「っ……」
図星を突かれた女の子はなんとも言い返せない。
「お前は目に映した技を使える、つまりここだと、俺がエレメントを使わない限り、お前はなんにもできない」
今、この森ではこの二人しかいない。
つまり、火焔がエレメントを使わない限り、女の子は反射の能力を使えない。
「鏡のエレメントを……私をなめるんじゃない……」
痛いところを突かれたかたか、火焔の言葉を聞いて、女の子は悲しく叫んだ。
そしたら、女の子は白い魔法陣に見える「セーブ」から自分の武器、マシンガンを取り出し、火焔を撃った。
それをすぐに反応できて、火焔は避けた――と思った瞬間、後ろからまた弾が襲いかかってきた。
そのありえない現像に、さすがに予想できなかった火焔はすぐ、炎の壁でなんとか防いだ。
そのあと、火焔は何が起こったかを探るために自分の後ろを見た。
そこには、二人並みの高さを持つ大きな鏡が知らぬ間に現れた。
それを見て、さっき何が起こったか火焔はやっとわかった。
さっき打ち出された銃弾は鏡に入り込んだ、そのあと鏡から打ち出されたように後ろから火焔を襲った。
つまり、鏡が銃弾を返したわけだ。
そうしか考えられない。
もしそうだったら多分、鏡のエレメントの能力は他のエレメントをコピーするだけじゃなく、鏡像を実体に、実体を鏡像に変える力も。
その能力を活かしたら……と、嫌な予感をした火焔はすぐ頭を振り向いた。
すると、彼が思ったように女の子はもう居なくなっていた。
そして突然、さっきのと同じような鏡が何個も出現して、箱みたいに火焔を囲んだ。
地面以外どの方向を見ても鏡、そんな奇妙な空間に火焔は閉じ込められた。
その空間に火焔一人しかいないのに、そのうちの一枚に女の子の姿が映った。
「鏡の中に逃げ込んたのか……」
鏡の世界に入る、どうやらこれも鏡エレメントの能力だ。
火焔に応えず 鏡の中の女の子はただ銃を構えて、撃ちまくった。
どうせさっきみたいに銃弾が鏡に当たると反射されるから、彼女は狙うすらせずただひたすら撃ちまくればいい。
まして周りは全部鏡の空間にで、返された銃弾は別の鏡に当たるとまた反射される、火焔が無事にいられるはずがない。
そう確信した鏡の女の子であった。
あっという間に、空間内には無数の銃弾が飛び回っている状態になった。
弾切れになるまで撃ち続けていた女の子はそして止まって、火焔の状況を確認した。
だが、彼女にとって意外な結果で、火焔はまるで何も起きなかったように、その鏡だらけ空間の中心に立っていた。
傷一つも残らない彼を見て、女の子は衝撃を受けた。
「もう終わりか?」
そんな彼女の反応を“鏡越し”に見た火焔は煽った。
「何故た! なぜ当たんない!」
一発も当たらなかったというありえない事態に、女の子は焦って質問を投げ出した。
「悪いな、こんな訓練、十年間ずっと続けたから」
今みたいに無数の弾を避ける訓練を、火焔は十年間ずっと続けていた。
ちょうど二週間前、彼は愛の叔父さんのことについて悩みながらそのようの訓練を受けた。
彼にとってこの程度は朝飯前だった。
そして、彼は地面を叩いた。
そこから蛇を象った炎が鏡の数だけ現れて、それぞれ鏡に突っ込んで破壊した。
鏡の世界に居られなくなった女の子は、仕方なく実体を表した。
自分にとって不意義なことが次々と起きて、女の子はショックを受けてその場にへたりこんだ。
そんな彼女に、火焔は剣を持って近づいた。
お互いユーザーで、こっちからいきなり攻めてきた。
それなのに負けた、多分殺されるだろうな、と女の子は不意に目を閉じた。
だが、また彼女の考えが外れて、火焔はトドメを刺していなかった。
「お前の仲間に伝えろ、お前らが来た本当の理由を知ってる」
その言葉に女の子はまた驚いた。
戦いが始まる前に、火焔は襲いかかった二人の狙いを推測した。
火焔の行動がギルドに損を与えたから、ギルドからその二人が派遣されて火焔を襲うんだろう、と。
隣に隠れた女の子ももちろんそれを聞いたた。
だが、それは違った。
二人の狙いは火焔ではなく、愛だった。
それを知っている火焔は愛の前で、わざと見当違いのことを言い出したのだった。
愛に彼らの本当の狙いを隠すために。
何も言い返せない、ただ「どこまで知ってんの?」みたいな顔をする女の子を見て、火焔は続けた。
「あいつは、お前らには渡さない……今はな」
それを言い終わって、火焔は剣の持ち手で彼女のお腹をぶん殴って、気絶させた。
「さって、あいつはどうなったかな……」
こっちの戦いが終わって、あっちはどうかなと、火焔は愛の方の戦況が気になった。
戦いではほぼ素人の愛と違って、男は戦いのプロだ。
裏人格に変わったらやり合えるかもしれないが、もしかしたら裏人格に変わる前に倒されているかも知れない。
それを知って尚、火焔は愛と男を二人きりにさせた。
二人の狙いをわかっているのに、火焔は愛に隠すためにわざわざそんな危険な真似をした。
襲いかかってきた刺客を一人片付けた以上、彼は早く戻らないと。
* * *
戦いが終わってから、しばらく経った。
意識が戻った愛は自分が学校の保健室にいることに気づいた。
「あれ? 私、なんで……」
自分は戦っている時に気絶して、起きたら保健室にいた。
この状況をまだ理解していない愛に答えたのは美月。
「私が運んできた」
どうやら、戦いが終わった愛をここまで運んできたのは美月だった。
「そうなんですか……」
そして、愛は火焔がまだ戦っていることを思い出した。
「そうだ! 火焔くんは?」
だが彼女の質問に、美月はただ知らないと頭を振った。
「私探してきます!」
火焔のことが心配で、彼を探すために愛は駆け出した。
* * *
「雨……」
火焔が学校に戻っている途中。
突然雨が降ってきた。
降水率0%のはずのこの日に突然の大雨。
その理由を気になって火焔はつい足を止めた。
彼を見て、傘を持って歩いていた一人の女性が彼の前に止めた。
そして、傘を持っていない火焔に、彼女は声を掛けた。
「大丈夫?」
…………。
* * *
火焔を探している愛は、一つの路地に足を止めた。
なぜなら、彼女の前に黒い霧が現れたからだ。
そのおかしい現像に気づいた愛はすぐ戦う構えをした。
そしたら、黒い霧の中から、誰かが歩み寄ってきた。
フード付きの黒いロングマントを着ていたその者は、体型、性別とも判別できない。
フードで顔を見ることはできないが、口だけが見られる。
その者は愛を見て、二ヤッと笑った。
その不気味の笑顔を見て、愛は怖くて、一歩下がった。
次回予告/雑談
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火焔と愛の前に現れた、「ユーザー」を管理するギルドから仕向けた刺客。
撃退こそしたものの、いつまた戻ってくるのかわからない。
だがそれに構う暇もなく、二人にまた新たな謎が襲いかかる。
二人の前にそれぞれ現れた謎の人物は一体……?
そして、火焔の新たな力が登場!?
次回、第八話、「天使、降臨」