平和だった夢
今日はレイナ、緑葉と食料などの買い出しに出ていた。
僕と緑葉で買い出しに行こうとしていたらレイナもついて行くと言い始めたのだ。人手が多いことに越したことはないが、レイナは既に、
「人多すぎ…死んじゃう…」
と言っている。
「レイナが買い出し行くって言うから珍しいと思ったら案の定ギブアップ寸前ね」
緑葉は半分呆れたようにそう言った。
確かに、レイナは性格的にも能力的にも外出することが少なそうなイメージだったし、今まで本人や周囲の人から聞いた上ではその通りだったので、僕も不思議に思った。
「今日買い出し行くなんて言い出したのはどういう気の変わりようなの?」
僕は意を決して聞いてみた。
レイナは僕の声に気づき反応したが、何故かこちらを見ずに、
「べ、別に僕だってたまには外に出たい気分になることもあるんだよ…」
と答えた。
「そうなんだ、まぁ、たまには外に出た方がいいよね」
特に聞き返すことも無く、当たり障りのないような返答で会話は終わった。
ここ最近はABの発生やABUの動きも無く、平和な日常が流れていた。今後もそのままでと僕は思いながら2人と一緒に目的のスーパーへと歩いていった。
買い物も済ませ、帰り道。
いや、帰り道と言っても基地への扉が人目につかないように路地裏から帰ると言うだけだが。
「なぁ蒼野、少し買いすぎじゃないか…?やっぱりピーマンは要らなかったんじゃ…」
ふと、レイナが右手に持った買い物の中を覗きながら呟く。どうやら、レイナはピーマンが嫌いなようで、買うときでさえ、ピーマンを食べたような顔をしていた。
「レイナはピーマン食べたくないだけでしょ」
緑葉に図星を突かれ、レイナは嫌そうな顔をしながら再び袋を片手に僕と緑葉の少し後ろを歩き出した。
しばらく歩いて、周りに人も居なくなって路地裏まであと少し。
ふと、つむじ風が吹いた。
ドサッと何かが落ちる音。
「レイナ、荷物重ければ持つよ?」
僕はそう言って少し後ろにいるはずのレイナの方を見る。
そこには──
右腕の無い、藍川レイナが居た。
「レイナ!」
倒れ込むレイナをすぐさま抱き上げる。恐ろしいほど滑らかな肩の断面からはドクドクと血が流れ出し、止まる様子はない。元々不健康と思えるほど白かった肌は、白を過ぎて青くなっていく。
「緑葉!敵だ!」
緑葉に向かってそう叫ぶ。緑葉は辺りを見渡す。
「敵らしきものはない!」
鬼気迫った返答。しかし、その返答はより絶望感を増させただけだった。
「蒼野…」
腕の中からか細い声が。レイナは朦朧とした顔で続けた。
「ヒトミに伝達した…。きっと…皆が…助けに…」
そう言ってレイナは気を失った。
敵が見つからない以上、とにかくレイナを安全な場所にと基地への扉があるはずの路地裏へレイナを抱えて走る。
その時、また風が吹いた。
下半身に鋭い痛み。
見る暇は無いが切られたのだと直感した。
幸い傷は浅く、可能な限りの速度で走った。
路地裏に着いて、基地に戻ろうとした、そのとき。
再び突風が吹いた。今までよりも強い風が。
僕は死を感じた。死なないはずなのに。
「蒼野くん!目をつぶってしゃがんで!」
瞬間、稲光のような光が辺りを塗りつぶす。
瞬間訪れた白い世界。何も見えない。
今度こそ訪れる有り得ない”死”を僕は待った。
「蒼野くん、もう大丈夫よ」
緑葉の声が聞こえた。
僕が目を開けると、腕の中には瀕死のレイナ。
そして目の前は、見慣れた基地だった。
……To be continued