組織の日常1
今回は緩い回。
組織の日常はこんな感じ。
「ふわああぁぁぁ」
僕の隣で寝転んでいた赤宮セツナは、大きく欠伸をした。
暇なのである。
D C Uは基本暇を持て余していたりする。
さらに言えば、基本的に皆、訳ありで帰る場所もないので、灰坂の作った、「ポケットマンション」で暇を潰すしかないのだ。
「やることないですね〜」
僕も暇そうに言う。
できることは幾つかあるが、それらもとっくに飽きてしまっていた。
「小腹が減った程度かぁ」
赤宮が言う。
それを聞いて僕は、気分転換に食料庫に行こうとする。
「お、行ってくれんの?ありがとな」
赤宮が礼を言う。
僕はそれを聞いて、食料庫へ向かった。
食料庫へ向かう途中。
「うぅ…やめろ…!近づくんじゃない…!」
どこかで聞いたことのある、ハスキーな女の子の声がした。
「いやいや〜♪そんな逃げないでよ〜♪」
もう1人、あまり聞き覚えのない声がする。
声のする方向を見ると、思っていた通り、藍川レイナがいた。
その前にいるのは、あまり面識がない男性だった。
「あっ…、ソラ…!」
こちらに気付いたレイナが、僕に寄ってきて、先程の男性から隠れるように僕の後ろに立ち、服の裾を掴む。
そして、この面識のない男性は確か…
「やぁ〜♪蒼野くん♪こうしてきっちり顔を合わせるのは初めてだね♪僕は白野原ケイだよ♪今は、レイナちゃんで遊んで…じゃなかった、レイナちゃんと遊んでたんだよ〜♪」
絶対嘘だ。僕でもわかる。
明らかにレイナは白野原のことを警戒している。
それはまるで、威嚇する犬みたいだった。もちろん犬種はチワワだが。
と、考えたところでレイナが裾を掴む力を強くする。
「おいソラ…?誰がチワワみたいだって…」
明らか怒っている。僕でもわかる。
それを見て、白野原がケタケタと笑う。
「レイナちゃんに、隠し事は通じないよ〜♪心読めちゃうから♪」
と言う。
レイナは白野原を強く睨み、こう言った。
「お前のだけは読めないんだよ…!お前の能力は、「相手の能力を無効化する」能力だから…!」
「アチャ〜♪なんで言っちゃうのさぁ♪自分で言いたかったのに〜♪」
白野原は嬉々としてそう言う。
「そうだよ♪僕の能力は相手の能力を無効化できるんだ♪まぁ、常にじゃなくて意識しないと出来ないけど♪だから、やろうと思えば君も殺せるよ♪死にたがりの蒼野くん♪」
白野原がこちらを見る。
確かに、それが本当なら僕を殺せるだろう。
しかし、僕は既に桃谷と約束をしてしまっているのだ。
「遠慮しときます」
僕は一言だけそう言った。
白野原は「そっか〜♪」とだけ言って、どこかに行ってしまった。
「あ、レイナ。僕今から食料庫行くから、そろそろ手を離してくれないかな…?」
しかし、依然としてレイナは手を離そうとせず。
「一緒に行く…」
と言った。
仕方なく、そのままついて行かせることにした。
食料庫に到着し、ドアを開けると、
「あっ…アイ姉…!」
レイナが突然そう言った。
そこには、先程出会った白野原にそっくりな目を閉じた女性がいた。
「え…?あれ?」
僕は困惑してそう口にする。
レイナが説明を始めた。
「さっきの白野原のお姉ちゃんだよ…!白野原アイって言うんだ…。ケイと違って、すごい優しいんだよ…!」
意外と熱弁していた。
白野原姉は、こちらに向き直ると、
「白野原アイです♪あ、目を閉じてるのは気にしないで!私の能力は「目が合った相手を消す」能力だから…」
俯いて彼女は言った。
「き、気にしないでください!…というか、目を閉じたままで生活出来るんですか?」
僕は気になったことを聞く。
すると、白野原姉は、閉じた目をパチクリとさせたのか、少し驚いた様子で、
「いや、大丈夫だよ!この能力の派生で心眼が使えるんからね!」
「え?ホントですか!?」
僕が本当に驚いたように言うと、白野原姉は再び驚いて、そのあと笑った。
「冗談だよ、冗談!」
ケタケタと笑う姿は、確かに弟の白野原ケイにそっくりだった。
「もう慣れたのよ、見えない生活が」
白野原姉はそう言う。
ただ、何かを秘めているような顔つきで。
僕はもう一つ、気になったことを尋ねた。
「なんで…、そんな能力に?」
「やっぱ気になる?うん…、私の願いは、「みんな目の前から消えてしまえ」よ」
「その願いは叶いましたか?」
「叶うわけないじゃない。今もこうして、目をつぶって生活してるぐらいだし。あと、ケイとだけは目を合わせられるし」
出てきたのは、先ほど出会った白野原弟。
確かに、白野原ケイの能力ならば、目を合わせられるだろう。
「ケイさんはなんであんな能力になったんですかね?」
「簡単よ。「お姉ちゃんのそばに居たい」とか願ったのよ。そしてあんな能力を手に入れた。あぁ見えて、重度のシスコンなんだから」
と、うざったいように言う白野原姉だったが、顔は嬉しそうだった。
ふとレイナの方を見ると、レイナが、
「嬉しいのに、素直じゃないんだ…!この2人は…」
と言っていた。
どうやら、この組織の姉妹系の人達はみんな素直じゃないらしい。
ここで、赤宮を待たせていることを思い出し、食料庫を後にする。
途中でレイナと別れ、再び赤宮の元へ。
赤宮のところへ行くと、紫野フウマがいた。
「やぁ、蒼野くん。今日も相変わらず暇だね」
苦笑いで彼はそう言う。
当たり障りのない返事をして、紫野も僕と赤宮の傍に座り込んだ。
「てか、蒼野。随分時間かかったんだな?」
「あぁ、途中で白野原姉弟とレイナに会って時間食ってたんだよ」
「あの三人に出会うって蒼野くん、なかなかだね」
紫野が言う。
僕はどういうことかと問う。
すると、赤宮が説明する。
「あの三人、部屋からなかなか出ないんだよ。まぁ、藍川姉は分かるだろうけど、白野原姉もあんな能力だから人と会うのを拒むし、弟はお姉ちゃん大好きで、いつでも姉の部屋に一緒にいたりするからさ。まぁ…もっとレアな人もいるけど…」
赤宮の最後の言葉が気になったが、ケイの方が外へ出ないのは意外だった。
確かに面識は少ないが、それもたまたまかと思っていたからだ。
「蒼野くんは今のところ誰がわかるんだい?」
紫野に聞かれる。
僕は、指で人数を数えながら言う。
「まず、2人。あと、灰坂さん、桃谷、黒雨さん、緑葉さん、藍川姉妹、白野原姉弟、とそんな所かな」
合わせて10人、この前の会議で見た時とはあと1人か2人足りない程度だ。
「おー、あと一人だね。でも、彼はすぐ逃げちゃうから、なかなか会えないと思うよ」
「彼って?」
僕は紫野の言葉にそう質問した。
「最後の一人、黄賀シバくんだよ」
初めて聞く名前に首を傾げる。
それが誰かを問う前に、紫野は説明を始める。
「能力とかは、出来れば本人からの方がいいんだけど、彼は「あらゆる音を操る」能力。だから、小さな足音でもなんでも聞こえるんだ。さらに言うと、極度の人見知りだから、すぐ逃げちゃうし」
音を操るというのは、意外と汎用性も応用力も高そうだがと思っていると、
「緑葉はよく会うらしいぞ。光、つまり視覚と音、つまり聴覚の二人はよく偵察とかに使われてるからな」
赤宮がそう補足する。
紫野はそれを聞いたあと、切り上げるように、
「まぁ、いつか会えるよ」
と言った。
話に区切りがついたところで別の話を切り出す。
「ところで、紫野さんの願いってなんだったんですか?」
不意に紫野の動きが止まる。
「聞きたいかい?」
そう聞かれたので、僕は頷く。
「僕の願いはね…「忘れられたい」だよ。他人に記憶されたくなくて、いつも人目につかないことを努力してたよ。今はもう違うけどね」
と、少々訳ありではあったが、簡潔に終わった、紫野の身の上話だった。
こうして、今日も何事もない新しい日常が通り過ぎていくだけだった。
いつまでもこれが続けばいいと、ふと思う僕だった。
……To be continued