藍川姉妹
病院襲撃から数日後。
灰坂の頼みから、僕は身内との縁を完全に切り、というよりも身内の記憶を操作してからも、約2日が経とうとしていた。
学校に行く意味ももう無いだろうと、僕は、灰坂の異空間(『ポケットマンション』と言うらしい)で1日を過ごしていた。
と言ってもやることもなく、朝起きて、ご飯を食べ、何かで時間を潰し、ご飯を食べ、風呂や歯磨きをして寝る。という、味気なさすぎる日々が続いていた。
不思議なことに、その間、この組織の未だ面識のないメンバーとは1度も会わなかった。
そして今日も、異空間の中をウロウロしている時だった。
廊下に、見慣れないものがあった。
それは一見、まっくろくろすけかと思うほど黒かったが、人間の子供ぐらい大きく、更には、なにか喋っているようだった。
僕はそれに恐る恐る近づいた。
それはやはり生き物のようだった。
僕は得体の知れないそれに手を伸ばし…
思ってた以上にもさっとした感触のそれに触った。
「うぎゃあぁぁぁぁ!!」
「うわぁぁぁぁぁぁ!?」
触った瞬間、それは飛び上がり叫びだした。
僕も釣られて叫んでしまった。
それは飛び上がったあと、小さく蹲っていたが、少しずつこちらを向いて、
「誰だ…!僕の髪の毛を突然、もさっと触ったのは…!?」
それは人だった。
その人は、背は150センチもないかもしれない小柄な体型に、天然パーマなのかもっさりとした黒髪を太ももほどまで長く伸ばした人間だった。
僕がそれを見てまず思ったことは、
(こいつ…男?女?)
だった。
すると涙目でこちらを睨んでいた人は、
「僕は女だ…!悪かったな、分かりにくくて…!」
と、言ってきた。
僕は考えが読まれたかと、一瞬ぎょっとしたが、顔に出てしまったのだろうと考え直し、再び話しを始めた。
「君、名前は?」
未だにこちらを怪しく思っているのか、睨んでいる彼女は、ボソボソと話し始めた。
「僕は…、藍川 レイナだ…」
意外と可愛らしい名前だなぁと思っていると、
「どうせ、僕は可愛くないよ…!名前負けだよ…!」
と、涙目で言ってきた。
先程のこともあり、僕はひとつの結論を聞いた。
「もしかして、君の能力は、『人の心を読む力』じゃない?」
ぎくっと、彼女はなる。
隠してたつもりなのだろうか、冷や汗を垂らしている。
しかし、諦めたように項垂れる。
「そうだよ…!僕は、「視認できているか顔と名前が一致する人物を思い浮かべるとその対象の今考えていること」がわかるようになった…。でも…いいことなんかひとつもなかった…」
彼女は最後は泣きそうに言っていた。
それはそうだろう、人の心の内が見えるのだ。
その中の黒さは、恐らく自分より年下であろう彼女にはとてもストレスなものだったに違いない。
そんなことを考えていると、
「僕はもう成人している…!23歳だ…!悪かったな…!ちびで童顔で…!」
と、涙目で言われた。
というか、泣いていた。
「うぅっ…うぅ…」
「待って!泣かないで!ごめん…いや、年上だからごめんなさいか!?いやそうじゃなくて!」
僕はかなり焦った。
恐らく周りから見れば幼い少女を泣かしている人にしか見えないだろう。
幸い、ここは灰坂のポケットマンション内だ。人目に付くことは──
「お姉ちゃん!そんなところにいた!どうしたの!?」
と、突然声が聞こえた。
慌てて周囲を見渡すと、いつの間にか近くに女性がいた。
そして僕は再び驚いた。
女性にしてはありえないほど背が高いのだ。
僕が知っているこの組織のメンバーは灰坂が1番高かったはずだ。
しかしその彼さえも170センチ中盤と言ったところなのだ。
しかし、彼女は180センチは優に超えるだろう。
そして、何よりも──
「お姉ちゃんってことは、妹さん?」
「はい、藍川 ヒトミです。お兄さんは蒼野 ソラさんかな?」
「お前今、『この姉妹似てなさすぎ』って思っただろ…!」
未だに涙を目に貯めた藍川(姉)は僕を目の敵にし始めたようだ。
しょうがないだろう、下手をすると、今考えていることまであちらには筒抜けなのだから。
「どっちも藍川だけど、それぞれなんて呼べばいいかな?」
僕は念の為聞いてみた。
確かに、同姓の場合、どちらかを又は両方を名前で呼ばなければならないのだ。
一応、女性なので、名前呼びはしにくいと考えていると、
「僕の事はレイナと呼んでくれて構わない…」
と、心を読まれて答えられた。
すると、妹の方も、
「私のことも、ヒトミでいいですよ?」
と、言ってくれた。
ここで僕はひとつ質問をする。
「そういえば、妹さん──ヒトミの能力って何?」
「私の能力は『考えていることを周りに発信できる力』です」
発信と聞いて、僕は最初ピンと来なかった。
すると、彼女が説明してくれた。
「つまり、私が考えていることを周りに教えることが出来るんです。さらに私は、信頼している人の考えも発信できます。今は…お姉ちゃんだけですけど…」
少し、俯くような顔を見て理解した。
彼女も心に傷を負い、それを心の扉で塞いで、隠しているのだ。
それが自分も持ってる以上、深く追求するのは良くないと分かっている。
そんな考えをまたしてもレイナに読まれてしまい、彼女は少し安堵した表情で、
「お前、優しいところもあるじゃないか…」
と言ってきた。
なんだか恥ずかしくなった僕は、早急に話を切り上げ、またいつか会う時にと、別れを告げ、その場を離れた。
そして、強襲ではない初めての敵が現れた。
……To be continued
次は本編ではなく、人物紹介2となります!
ですが、紫野君は紹介されません。
ドンマイ!紫野君!(笑)