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導入へ
ああ、死にたかった。
それなのになぜ僕の心は、
生きたいと願ったのか。
生存欲という本能に負けた僕の理性は、
思いもよらない枷を付けられた。
僕はある日自殺した。
しかし、マンションの屋上から飛び降りた瞬間、
世界が、儚がりに包まれた。
すると、何も無いところから、黒スーツを着た男が姿を現した。
「貴様、死ぬのか?」
僕はそう問われ、小さく頷こうとしたが、落下中だったので、出来なかった。しかし、男には分かったようで、
「そうか、では死ぬ前に一つ願いを叶えよう」
死んでしまったら元も子も無いのに何を願おうというのか。
僕はそう思って黙る。
「答えぬのなら、貴様の心の最深部の願いを叶えよう」
心の最深部の願い?
それだってきっと、死ぬことだろう。
そう思って、僕は目を閉じる。
すると、頭の中に、さっきの男の声が響く。
「お前の願いは聞きとどけた」
そして、男は僕に、死ねない身体を与えた。