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惜しい

夏もようやく折り返しを過ぎたものの秋にはまだ早い頃合い。


店内にはカウンターに座ったルクレチア様と、一番奥のテーブル席に座ったカップルが一組だけだけれど、ルクレチア様がいるだけで心なしか店内が華やかになる。美少女、恐るべし。

そんな彼女の愛しのヴィリン様が訪れるのは明後日のお昼なんだよなあ…今日来たら流石に明後日は来ないよね、ルクレチア様…と口には出せずにいる。

でも一度ヴィリン様に聞いてみようかな。でもなあ…あまり良い結果になるとは思えない。セルジュ様も一緒かもしれないし。


最近は執事さんとは一緒ではなく一人で来店されるルクレチア様。

相変わらず尽きないお喋りは絶好調だけれど最近は縁談の話が増えてきていて、食傷気味らしい。


「まだ十七なのに、貴族のご令嬢は大変ですね」

そうなのだ、彼女はまだ十七歳。私より五つも年下だったのだ。

彼氏ナシなんて威張れないな。と、どうでも良い事を思いつつ、目の前の少女の未来を憂う。

「貴族の令嬢としては適齢期ではあるものの、わたくし個人としてはヴィリン様という思う方もおりますし、まだやりたい事もありますし…どうしたものやらです」

「やりたい事?」

それは初耳だ。


「そうなんです。どこかの…一番可能性があるのはテールン領ですが、の魔術師団に入るか、それが無理なら同好会的なものでいいから結成したいなあと思っておりまして」

半分程にまで減った彼女の飲みかけのレモーネアイスティーに入っている氷がカランと鳴る。

「それは…結婚してからも出来そうではあります…ね?」

思わず口を衝いて出たけれど、どうだろう。

子供が出来た時の事を考えれば大変そうではあるものの、無理ではなさそうに思える。

「そうかしら?そう思う?」

「努力次第ではあるかもしれませんが」

「でも、そうしたら問題なのは結婚ですわね。わたくし、好きでもない殿方と一緒になれるかしら…ヴィリン様なら貴族でなくても両親も認めてくれそうな気はするのですが、今のところ特別な接点もないし…」


まさかデートと言う単語つきで識別番号交換しました。とは言えない私は洗っていたグラスを思わず落としそうになる。

あ、危ない。


あの後、用事をすませて夕方に自分のアパートに帰ってからチェックしてみたら、早速文字でだけどメッセージが入ってたりした。

それからもたまにたまに連絡を取り合っていて、ここ僅かでだいぶ距離が縮まったような気がする。



勿論通ってきてくれるのは有難いのだけど、悩みの種も尽きない。



「そう言えば、ルクレチア様が嫁がれて家を出るとしたら伯爵家はどうなるんですか?」

「三つ年上のお兄様がいるもの。何も問題はないわ」

「そうなんですか」

ルクレチア様のお兄さん…さぞや美形なのだろう。

華やかな男性か…ヴィリン様もセルジュ様も華やかだけどなあ、色々と…。


うーん。遠いなあと思いながら窓の外に目を向ける。



「付き合い出してから段々好きになる事もあるかもしれませんよ?」

それは好きと言うより愛着かなと言ってから思ったけど、ルクレチア様は目を丸くしながらアイスティーのグラスを傾けている。

「でも申し込まれる数も多いの。次々に会っても、ちょっと混乱してしまいそうだわ」

それはそうだろうなあ。

もし私が男だったらこんな美少女、多分ほっとかない。


なら、ヴィリン様やセルジュ様はどうなんだと思ったけど、あの二人の場合モテそうだし、女の人には困っていなさそうだしとも思う。


なんて…本当のところはわからないんだけど。


セルジュ様なんて二人側室がいらっしゃるしなあ。


このフラスレ共和国とルアノーブ帝国、文化や階級制度の違いもあるだろう。


「もう何人かと会ってみてはいるんですか?」

「ええ、そうなの。でもわたくしもまだまだ力不足だわ、きちんと断る事も出来ないなんて」

「将来がかかっているんですから、そんなに簡単に決められなくて当然です…」

私なんて何も考えていない。

「好みって意外と難しいなって思うの」

「そうですね。それは、確かに」

ルクレチア様に入ってくる縁談なら生活の心配も必要ないだろうし、決め手はきっとそこなのだ。


「憧れだとわかっているけど、やっぱりヴィリン様と会った時の事も忘れられないの」


う…そうか…。


「もしまた会えたらどうしますか?」

「うん…いきなり告白したら引かれてしまうわよね…」

「そうですね…お見合いとも違いますし」

「そうね…まずはお友達…になんてなれるかしら…駄目だわ。ヴィリン様に申し訳ないもの」


…なかなか拗れているかもしれない。



「…実はヴィリン様の識別番号知ってるって言ったらどうしますか?」

「それは…!羨ましいわ!」

弾かれたように顔をあげたルクレチア様を見て、ちょっと諦めに似たような気持ちを覚える。


仕方ないか。


「聞いてみるだけですよ?」

「ありがとう!何て言ったらいいのか…でもありがとう」



私もチャンスを逃してるのかなあ…と思いながらイヤーカフのボタンを押す昼下がり。

店内に差し込む日差しにはまだ強さが残されている。

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