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あ、どうも。

「アルベルト」

自衛団のお兄さんに声を掛けられるとしたら、その人だろう。

同じ街で育った幼なじみのアルベルト。私と同じ二十二歳の、短く切った鈍い金混じりの茶髪に赤茶の瞳の爽やか青年で、今日は白いシャツにグリーンのハーフパンツを穿いて、よく日に焼けた肌の腕の部分には自衛団の赤い腕章を巻いて、鞘に入った剣も腰につけている。

同じ街で生まれ育ったのに、私と同じ様に少し離れたこのカヒノで自衛団員として働いている。


アルベルトを含めて六人のお兄さん方が「え、誰?アルベルトの彼女?」「俺知ってるよ、喫茶店やってる子だよ」やら盛り上がっている。


「なんだー、後で店行こうと思ったのに。木の日だったな、今日」

「本当?まあ、無理しないでよ」

「いやいや。してないしてない。レイチェル、お前連絡入れても無視するのやめろよなあ」

「ああ、ごめんね。そうじゃなくて、ついチェック忘れちゃって」

この世界の連絡手段は何種類かあるものの、一番一般的なのが魔術道具のアクセサリーを使って行われる映像によるものだろう。

アクセサリーや発信者受信者によってその質に差はあるものの、十六桁の文字記号数字を合わせた識別番号さえ知っていれば同大陸内では立体でのやり取りも可能だ。

大陸をまたぐ場合は他にも制約があるから、その場合は紙でやり取りした方が安全かもしれない。

着信があった場合、音が鳴ったり光が点滅したりでその仕組みもアクセサリーによって様々だけど、着信の知らせがあり、大抵の場合はボタンがあって、そのボタンを押すと術者にもよるけど単色の光で五センチ大の何らかのアイコンか、ただ単に文字だったりが音声付きかどうかも設定次第だけれど…で再生される。

プライバシーの問題もあるので、単純に文字再生だけにしている人もいる。

再生方法をどうするかもあるので、番号を教える時には話し合うため慎重になるのが一般的だ。


私は花のデザインの小さなイヤーカフ型のものを使っていて、葉っぱの部分がボタンになっている。

そこを押すと表示と再生を待っている三センチ大のマーク達がいくつか出てくる。

昨日寝る前にチェックしたものの、私は他の人に比べて連絡が取れにくいと他の友達にも注意されたっけ。

振動でお知らせじゃなくて音でお知らせに変えた方がいいのかなーと思いつつ、ヴィリン様が訪れるきっかりにもなった職人さんでもたずねてみようかなあと思い立つ。でも忙しいかな。簡単な変更ならアクセサリーショップに行った方が早いか。


「って、連絡ないじゃん」

表示されたマークはお母さんと友達のものだけだ。マークを選ぶと再生するものがある場合は文字かアイコンが再生され、連絡が必要なら発信を選べる。

「いや、今じゃなくて、いつもの話な」

「なんだー。紛らわしい」

「なんだとはなんだ」


「仲良いな、お二人さん」

と、そこで自衛団で一番年上だと思われるおじ様が私とアルベルトの肩に腕をかけてくる。

「えっ!?いえいえ、ただの幼なじみです」

「アルベルト、そろそろ行くぞ」

「あ、はい。じゃあな、また連絡する」

「はいはい。あ、失礼しました。お仕事頑張って下さい」

と、他の団員さん達にも挨拶するとそれぞれ笑顔で手をあげたりして返してくれた。



それから私は氷菓子を買って食べつつ、三十分くらいかかって豆職人さんの店にたどり着いた。

いつもと同じ時間くらいだから焙煎も袋詰めも終わっているだろう。

「こんにちはー」

「おー。待ってたぞ」

ザラザラと豆を焙煎する音が聞こえている。

店と言っても作業場のような殺風景な所ではあるけれど、腕は確かも確かだし、店主のおじさんにはとてもお世話になっている。


「アイス用の豆も入れて八種類だよな、準備出来てるぞ」

「有難う御座います。今週はアイスは勿論ですけどなぜかナーロマウンテンが良く出たので少し儲かりました」

「景気良いんじゃないか?良かったな」

「はい!えっとブレンド十二袋にツヌが二袋サスムスが一袋に…」

今週はちょっと多目に頼んだからか詰めたリュックが重くなりそうだ。

「足りなければまた連絡してくれ」

「はい」

良く出る傾向はあってもそれが全てとは限らないのも難しい所だよなあ…と思いながら代金を払う。

材料が足りなくて出せなければそれまでだけれど、注文にはなるべくこたえたいとも思う。

アパートの家賃はいるけど、お店の家賃が要らないのは救いだなあ。

お店用のお財布を確かめながら、詰め終わったリュックを背負うとやっぱりずっしり重い。

入りきらなかった分はリュックに折り畳んで入れていた布のトートバッグに詰めた。

「じゃあ、火の日には注文書届くようにしておきますね。来週もよろしくお願いします」

「はい。ありがとな」

「いえ。時間がある時に焙煎も教えて下さいね」

「お、後継いでくれるか?」

「い、いえ。そこまではちょっと…」

「冗談だよ。本気になったら来なさい」

「はは…はーい」

勢いで言ったのはお見通されていたみたいだ。気を付けよう。

このあたりの作りでは珍しい引き戸の扉をあけて、外に出る。


太陽が更に昇って日差しが眩しい。

帰りはどうしよっかな、と、トートバッグとリュックの位置を少しずらす。

下りの坂道四十数分。



日射病には気を付けながら、もうちょっと頑張ろっかな。

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