休日の過ごし方
お店は毎週木の日を定休日にしている。
自営業なのでいつでも良いと言えばそうなんだけど、その日が一番都合も良いのだ。
週末になるとお客さんも増えるし。
休みの日にまずやることと言えば、それは勿論(?)二度寝である。
営業日にやると寝過ごす可能性のあるし休みの日だけに出来る贅沢である。
「んー…」
住んでいるアパートは、お店から少し下った市街地の方にある三階建ての二階部分だ。
でも崖のようになった土地に建っているためか、建物も密集しているためか、防犯上はそんなに心配ない。
ので、暑い夏の事。窓を少し開けて寝ている。
タオルケットに包まれていれば寒いことも無い。
日差しが狭いアパート内を照らしていて、カーテンが緩く揺れている。
そろそろ起きなきゃなあ…。
徐々に覚醒してくる頭で洗濯しなきゃ…と起きたらまずやる事を考える。
起き上がり、背伸びをして首を左右に動かすと軽くボキボキ鳴る。
でもこれってあまりやらない方がいいんだっけ…。
ベッドからおりて、スリッパで玄関の方にある洗面所へ向かう。
昨日脱いだ洗濯物が魔術で動く洗濯機の横に山になっている。
私はまず、顔を洗って歯磨きをして化粧水をつけてから、今使ったタオルと一緒にたまった洗濯機をまとめて洗濯機の中に放り込む。
香りの良い柔軟剤も使いたい所だけれど、食べ物を売る接客業、そこは我慢だ。
でもいつも綺麗なものを着られるようにしている。
今日は休日だからターコイズブルーのタンクトップと白いショートパンツでいっかと、パジャマも着替えて洗濯機へ入れて、スイッチを押す。
朝は何にしようかなあと、部屋に戻って冷蔵庫を覗く。
コンロの脇にバゲットがあるからそれと、生ハムサラダにしようと決めて、準備に取り掛かる…前に、食料品店で買った甘酸っぱいベリージュースをコップに注いで一気飲みする。
一息ついてから、改めて朝食の準備をして部屋の真ん中に置かれたテーブルにセットして、窓をもう少し開けてから椅子に座る。
優しい色合いをした天然木のテーブルセットは人が来ても良いように椅子は二脚だけど、友達を呼ぶと足りない場合もあってその時は部屋の壁際に置かれたベッドに座って貰ってる。
ちょっと模様替えしようかなあと思いつつ、休みの日には仕入れに行くこともあってか結局そのままになってしまっている。
休みの日の仕入れは、主にコーユの豆だ。
食べ物類はその日の朝、開店前に朝市で買うことが多い。ケーキの材料が足りなかったりすると、営業が終わった後に買いに行ったりする事もあるけれど、出来ることはその時にやってしまうようにしている。
まだちょっとぼーっとしながら朝食をとりおえて、さっと食器を洗ってメイク道具をテーブルの上にひろげる。
鏡はメイク用に拡大鏡もついたものだけど、いつも普通の鏡の方しか使ってなかったりする…。
休日だし、と少し濃い目にメイクを終えて、壁にかけていたフックから紺色のリュックを取る。
出勤の時は小さなポシェットだけど、豆を運ぶ必要がある今日は大きめの布のリュックだ。
使い込んでいるからくたびれてきているけど愛用してきたからか、なかなか変えられずにいる。
「あとは戸締りをして…」
鍵も持って。
スリッパもサンダルに履き替えて外に出る。
玄関は建物の内側にあるため少し暗いけど、下に降りて外に出れば夏の日差しが降り注いでくる。
「あ、お早う御座います」
「あら、おはよう。今日はお店お休みだったわね」
「はい。今日も暑くなりそうですね」
「そうねー。気を付けて行ってらっしゃい」
「はい。行って来ます」
アパートの前を掃き掃除しているオーナー夫人と目が合って軽く会話をする。
さあ、お店よりももっと上にある集落でコーユ豆の焙煎をしている職人さんの所へ豆を受け取りに行かなければ。
毎週木の日の恒例行事だ。ちなみに行けない時はちゃんと魔術で連絡を入れております。
魔術で行く事も出来るけれど、そんなに遠くない距離なのでゆっくり歩く。
途中で氷菓子でも買っていこうかな。手作りの美味しいお店があるのだ。
そう言えば、髪の毛まとめてこようとして忘れてたと思いながら、坂道を登る。
ずっと続く住宅地と各家々が工夫を凝らす緑や花達。
ある家の門扉から覗ける芝生の庭の木の下では、チルスという愛玩動物が日除けをしながら寝転んでいる。
そんな中、ガヤガヤと前の方から自衛団のお兄さん達が歩いてきた。
この国には、軍隊がない。代わりに市や街単位の自衛団が存在して、その土地の治安維持につとめている。
外での見回りも大変だよなあ…とすれ違いざまに一礼した所で、ふいに名前を呼ばれて立ち止まる。
「レイチェル!今日は休みか」