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職人技

先程の坊主頭の店員さんと、私より少し年上そうなハニーブロンドの長い髪に紫の瞳をしている綺麗なお姉さんが立っていた。


「夜会用の髪飾りに髪型ですか?」

「え、あ、はい」

お姉さんのどこかツンとした口調に、戸惑いを覚えながらこくりと頷く。


「ドレスはどんな?」

「薄い紫のボートネックのロングドレスです」

坊主頭の店員さんが全身用鏡の前のスペースに椅子を置いてくれ、簡易美容室のようになった。

「夜会と言っても格式によるだろうけど、どうなの?」

「そこまでかしこまった会ではない」

「そう、わかりました」

フランクと言うよりかは、無愛想なお姉さんの言葉と、セルジュ様のやり取りは必要最低限を伝え合ってるように思えた。


坊主頭の店員さんが「すみません、愛想不足なもので…」と、フォローになっていないフォローを入れている。


無愛想なお姉さんが腰に着けたシザーバックから髪を整えるのに必要なものを取り出して、あっという間に髪型を作りあげていく。

後ろの高い位置で少し盛るようにして髪をまとめ、坊主頭の店員さんに指示して持ってきてもらった、透明なクリスタルのビジューが沢山ついたカチューシャをつけて、髪の毛を少し散らしていけば、十数分ぐらいで髪が出来上がってしまった。

実に鮮やかな手付きで、熟練の技を持っているかのような手さばきだった。


「凄いですね!気に入りました!セルジュ様、どうですか?」

「ああ、派手すぎず良くにあっているよ。どうする?夜会の日にこの店で仕上げてもらうか?…すまないが予約は可能なんだろうか?」

「夜会はいつですか?」

「五日後の夕方からだ。昼下がりに空いているだろうか?」

「私なら大丈夫ですが…」

「じゃあ、お願いします!」

ヴィリン様には少し待っててもらうしかない。

でも腕の良い人にやってもらいたいのは確かだ。

「では、今のうちに当日の分も含めて会計しておけるだろうか?」

「はい、可能です」

坊主頭の店員さんをよそに髪を結ってくれたお姉さんは「じゃあ私は…」と二階に戻っていく。


「はい。では当日はこちらのカードをお見せ下さい。会計済みのしるしですのでなくされないようにお願い致します」

「はい。わかりました」

会計が済んだセルジュ様のわきのレジ前で、オレンジのカードを受け取る。

自分のお財布の中にしまいながら、そう言えば当日のバッグはどうしようと思い立つ。

前に友達の結婚式に持って行ったものがあるからそれで良いかな。

これ以上セルジュ様に甘えるわけにもいかないだろう。

今使っている長財布は入らないから、カードも忘れずに小さなお財布にうつしておかなきゃ。



もう五日後なんだと思いながら、店を後にした。



「セルジュ様、今日は色々と有難う御座いました」

「いや、ドレスもまだ預けたままだし、それに帰りも送るから」

「あ、そうでしたね」

すっかり終わった気になっていたけれど、ドレスは預けたままだった。


ここ、ルアノーブ帝国で皇太子であるセルジュ様にここまでしてもらっていいのかと思いながら、またドレスショップまでの道を歩きだした。





魔術でカヒノのお店まで戻ってくる頃には日も傾いていた。


「セルジュ様もお疲れになったでしょう」

「ああ、多少な」

「ささやかですが、お店でご飯を食べて行きませんか?実は午前中に準備だけしておいたんです」

カヒノ特産の魚のブイヤベースだけど、気に入ってもらえるだろうか。

それとももっとがっつり系が良かったかなと思いつつ、作り置きしていた鍋を火にかけてあたためる。


その前に心ばかりの冷やしていたアイスコーユを注いでセルジュ様に出す。


「すまないな」

「いえ、私のための買い物なのにセルジュ様は一体いくら払うんだろうと正直少しだけ困惑していたんです」

ちなみに買ってきたドレスはお店のコートかけに、あとは奥のテーブル席の椅子のところに置いてある。


「そうだったのか。でも側室達の買い物はもっと凄いぞ」

「あはは…興味あるようなないような…」


バゲットを切ってトースターにかける。

まだまだ知らない事も多いんだろうけど、必要なものも揃ったし、帝国がどんなところかも少しは知れて楽しかったな。


メッセージも来るかもしれないけど、今度ルクレチア様が来たら色々お話してみよう。


煮立ってきたブイヤベースをお皿に取り分けて、温めたバゲットを添えて出す。

ケーキはともかく、セルジュ様には食事系は出したことなかった気がするなあ。


「良く出汁が出ていて美味しいよ。鮮度も良いからかな」

「そうですか?良かったー」


セルジュ様がゆっくりされて、帰ったらドレス一式持って帰るの少し大変そうだなあと思いながら、私もブイヤベースに口をつけるのだった。


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