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土地柄

「すまないが、まだ買い物があるのでまた受け取りに来る。それまで預かってもらえないだろうか」

「はい、お預かりしておきます」

さり気なく私の手をひいてソファから立ち上がったセルジュ様の広い背中を見上げるながら私も立ち上がる。


お姉さんは嫌な顔一つせず、笑顔で頷いた。

ドレスをカバーにしまってくれていたけど、思い出したように私に話しかけてくる。

「着用なさる日が近いようであれば、シワにならないようにカバーから出してかけておかれても良ろしいかと思います。楽しんで下さいね」

「あ、ありがとうございます」

そういえば、セルジュ様の側室の方々は大丈夫なのかな…見ず知らずの女性に、夜会に必要なドレス一式を贈ったりするなんて度量が大きくなければ耐えられないかもしれない。

私が気にしても仕方ないかもしれないけど、側室ってどんなものなんだろう。どんな方達なのだろう。



「ありがとうございました。品物は確かにお預かり致しますので、ごゆっくり買い物をなさって来て下さい」

「ありがとう。よろしく頼む」


二階の奥の部屋から出て、扉を閉めた後セルジュ様が話しかけてくる。

「夜会までもう少し時間があれば腕の良い個人店のドレス職人も紹介出来たんだが、それはまた今度だな」

「い、いえ。そんな何度も呼んで頂くわけには」

いつの間にか、私の左手がセルジュ様の腕にくるように自然に私の手を動かしてくれた事にも驚きながら、それってオーダーメイドですかっと驚くタイミングを逃した事にも気が付く。


一階に降りるためにゆっくり階段を踏みしめれば、セルジュ様の革靴と私のサンダルの音がカツカツ、パタパタと鳴る。

階段の手摺は金属製で、でも私はセルジュ様の腕を掴んでいるので手摺に触れる事はなく階段を降りきる。


そこまで暑くはないけど、まだ寒くもない港町カヒノ仕様で来てしまって失敗したかなあ。

ドレスショップのお姉さん達は制服なのだろうか、みんなスカートスタイルのスーツだけど、帝都カタラルレに着いてドレスショップまで少し歩いた限りでは、街ゆく人達はもう秋の装いをしていてピンクベージュのカーディガンを羽織っている私は、秋と言うより春かもしれない。

何も考えてなかったなあとセルジュ様を見れば、カーキのシャツにベージュのズボン、茶色の革靴。

セルジュ様の正装はどんな感じなんだろう…それも今度の夜会で見られるのかと思えば、緊張半分、楽しみ半分かもしれない。

ヴィリン様は「俺は代わり映えしないけど、ごめんね」と謝っていたけれど、アーユフェル魔術師団の正装もヴィリン様に良く似合っていて好きだ。



私はセルジュ様とドレスショップを後にして大通りに出る。


「少し休憩しようか」

「そうですね、小腹も空きましたし」

実はドレスの試着ということもあって、お腹ぽっこりにならないように昼食は控え目にしか食べていなかった。

目的も達成したし…と思いかけたところで、夜会まで太るわけにはいかないなと気が付く。

今日明日でどうにかなるものでもないけど、折角のドレスが台無しになる事は避けたい。


でも、帝都名物の編み状の焼菓子は食べたいと思ってたんだよなあ。


それ以前にこれから行くところにあるのかな。あったとしてもどうしよう…と悩みながらもセルジュ様の後をついていく。

道も歩道も広いものの、馬車が行き交ったり歩いている人も多い。

魔術で移動が出来るとは言え、近距離の移動では徒歩も車内で自由に出来る馬車も廃れてはいない。

車窓や風景、雰囲気を楽しむのも嗜みの一つだからだろう。

人が多い場所では魔術での移動制限がかけられているところもあって、その場合は歩いたりするしかない。


「何だか、悪いです」

「ん?何がだ?」

「セルジュ様にもですが、セルジュ様のご側室のお二人にも…」

「ああ、気にする事はない。二人とも我が国の貴族令嬢であったし、側室同士仲良くもしているし、今回の事も話してきている。それに夜会にはどちらかが来る予定になっているから、もしかすれば紹介する事も可能かもしれない」

「えっ…!」

セルジュ様を疑うわけではないけれど、額面通り受け取っていいものなのだろうか…。

い、いや。ヴィリン様もいる事だし、おかしな事にはならないはず。

でも、「殿下がお世話になっております」なんて言われたらどう返せばいいのだろう。

今のうちからシミュレーションしておいた方がいいのかな。


人の波のスピードに合わせながらしばらく歩いていると、オープンテラスもある店の前でセルジュ様が立ち止まる。

舗装された道路にアイアンのフェンスが組まれ、蔦が絡まっている。

店の外装は黒く塗装されていて、屋号は金の文字でしるされている。


一歩店の中に入ってみると、天井が高く、備え付けのコーナーソファのように半円状なっているテーブル席が沢山あり、所々にある彫刻の施された木の柱が何とも言えない雰囲気を醸し出していた。

うちのお店とは全然違うし、広くて大きい。

帝都がそうなのか、セルジュ様のチョイスがそうなのかわからないけど、勉強のうちかもと、ウェイターさんに案内されるまま奥の方の席に着いた。

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