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気軽にとはいきませんが…

「すみません、お水いいですか?」

「あ、はい」

奥の席から男性の声と氷の残ったコップを振る音がする。

私はお水のポットを持って、カウンターを抜ける。


「すみません、お待たせ致しました」

金属製のポットに氷を沢山入れているために傾けるとカラカラ鳴って、その音を聞いているだけでも涼しくなれそうだ。


作業着を着た男性二人と、若い女性の二人組が二組のテーブル席。

真ん中のテーブルにはお客様がいないけど、女性のお客様のコップにも水を足して下がる。


カウンターに戻れば、セルジュ様がゆっくりアイスコーユとミルクレープを味わっているようだった。


吸水性のあるマットの上にお水のポットを置いた後、食器を拭き始める。

これが終わったらひと段落。

そろそろお腹も空いてきたけど、まだちょっと我慢かな。

何にしようかなーと、後で在庫確認も含めて冷蔵庫のチェックをする事に決めながら溜まっていた食器を片付けていく。



「…今度」

「はい?」

セルジュ様がカチンと、ケーキのフォークを置く。



「今度、帝国の城で夜会があるんだが良ければ来ないか?立場上、エスコート出来ないのが残念だがヴィリンを呼んでも良いし…」

「え!ええ…っと」

どう答えたものか…。

帝国の夜会…興味がないわけじゃないけれど、私が行ってもいいものなのか。


ルクレチア様に相談してみようかな。



「そうですね…でもヴィリン様にも都合があるかもしれませんし…」

「本意ではないが…他の男性を紹介しても良いし、夜会に必要なものは私が用意したいと思っている」

「え、そんな…」

「日頃のお礼だと思って受け取って貰えないだろうか?それで…夜会の前に一日付き合って欲しいのだが…」

よく見れば、セルジュ様の白い頬が赤く染まっている。

何だか急に気恥ずかしくなってきて、私まであたふたしてしまう。


「…や、夜会はいつなんですか?」

「二週間後だ」

「なら、来週ヴィリン様といらっしゃる時にヴィリン様の都合を聞いてから決める…じゃダメですか?」

「あ、ああ…ドレスは完全な既製品になってしまうだろうがそれで良ければ…」

「あ、はい。私には勿体無いくらいです…」

ヴィリン様次第なのは申し訳ないし、もしかしたら断る事になってしまうかもしれないけど、セルジュ様の気持ちだけでも十分だ。


「取り敢えず、良かった」

そう言って椅子に深く腰掛けなおすセルジュ様は緊張をほぐすようにアイスコーユのグラスを持ち、ストローを吸っている。



私もどきどきする心臓を落ち着けようと深く深呼吸をしてみたけど、どうにも落ち着きは取り戻せそうになかった。





☆★☆



「え?うん、いいよ」

出てきた言葉はあっさりとしていた。


ヴィリン様とセルジュ様は今日もカウンター席に座っていて、冷たいドリンクをオーダーしてくれていた。

ミルクの入ったアイスティーと、セルジュ様好みに淹れた真っ黒なアイスコーユのグラスを見ながら「それじゃあ…」と、呟く。


「レイチェルの休みはいつだったか」

「明後日ですが、午前中は店の用事もあるので午後からでないと空いてないです…」


「そういえばそうだったね」

なんて頷いてるヴィリン様を横目に、セルジュ様は困った顔をしている。



「明後日の午後か…よし、何とかしよう。むかえに来るのはこの店で良いか?」

「え?あ、はい」

「いいな。俺も付き合って良い?って抜け出せない予定が入ってるけれども。でもエスコート出来るだけで良しとするか」


識別番号を交換してるんだから、この店で話すことでもなかったかな?と思いつつも、確認を取り合いながら気軽に話せる雰囲気も悪くない。


でもヴィリン様のエスコートで帝国の夜会…その前にセルジュ様と半日お出掛け。

十分過ぎる予定に頭がついていけていない。



ルクレチア様にこの旨を伝えたら、『羨ましい…わたくしもヴィリン様にエスコートをお願いしてみたい!その日はあいにく不参加ですが、予定が合って行くようでしたら楽しんで来て下さい。行ってみたら意外と楽しめますよ』と返ってきた。

そんなものなのかな。

会えるかと思っていたから残念だし、少し寂しい。



「どんな方達が集まる夜会なんですか?」

「主には帝国の貴族かな。一部他国からの賓客もいるけれど、かしこまった会ではないから気負わなくていい」

「お酒も入って踊りも音楽もあれば知らない間に盛り上がったりするし…でもしっかりエスコートさせてもらうから任せて」

「よろしくお願いします」

二人に軽く頭を下げる。

お城で行われる夜会なんてはじめてだから様子を見ながら楽しむ事くらいしか出来なさそうだ。


でもそっか、ヴィリン様も職業柄パーティーには慣れてるんだろうな。

改めて知る事も多くて、まだまだですね…。と言いたいところをぐっとおさえて、私は再び会話を始めた二人の言葉に耳を傾けていた。

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