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過程も大事だと思いたい

「そ、それは良かったです、セルジュ様」

仕切りなおして、三人分のお茶とケーキの準備をはじめる。

奥の窓側に座ったルクレチア様は、もうアイスティーを飲み干そうとしている。

出すにはまだ少し早い気もするけど、難しい顔をしているルクレチア様と、ヴィリン様の背中を見ていると雲行きはあまり良くはなさそうだ。



「わりと本気なんだけどな」

「え、何がですか?」

様子が変なのはルクレチア様だけじゃなかった。

意味深なセルジュ様の発言をどう受け止めるべきか迷ってしまう。



ケーキをカットして、お皿に並べフォークを並べ終えたところでちょうどお湯が沸く。


「好きだな」

「え?っと…」

「ケーキ…」

「あ、日替わりのとは別なんですが、今日は試作品なので是非感想聞かせて下さい」

何だか今日のセルジュ様はいつもと違う。戸惑いながら、笑顔を浮かべる。

「ああ、有難くいただくよ」

「そっか。良かったです。今お茶もいれるので待ってて下さいね」

「そうだな」

火を止めると、ヴィリン様とルクレチア様の声が店内にいき渡る。



「ですが、わたくしどうしても」

「そうだね、気持ちは嬉しいんだけど…ごめんね、俺には応えられそうもなくて」




トポトポと音を響かせながらお茶を入れるけど、気まずい雰囲気は変えられない。



「そうですか…いえ、いいんです。有難う御座います。はっきり言って頂けて良かったですわ」

ルクレチア様が顔を上げたようだった。


私はトレーに入れたばかりのお茶とケーキをのせて、奥のテーブルへ持っていく。

「お店からです」


「ああ、今日も…悪いね」

「いえ、ケーキは試作品なんです。よろしければ」

「有難う御座います」

ルクレチア様は落ち着いているようだった。


二人のテーブルに届けた後、カウンター席に座っているセルジュ様にもお茶とケーキを出す。

「有難う。早速いただくよ」

「はい。是非」


所作も綺麗だよなあと思いながらセルジュ様を見る。


奥の二人はもう話も終わったのかと思いきや、何やら魔術の話をはじめたようだった。

もう心配はなさそうだ。


「チーズケーキのようだけど、後味がさっぱりしていて美味しいな」

「今回は味見していないので不安だったんですがそう言っていただけて安心しました」

「日替わりにしても充分いけると思うぞ。ただ、クセはあるから好みはあるかもな」

「そうですか…わりと簡単に出来るので二種類出すことも可能かもしれないんですが、いつもとなると現実的じゃないかなー」

「予約制にしたらどうだ?」

「んー…そうですね。隠れメニューと言うことにしておきます」

セルジュ様と会話をして、チーズケーキの行く末を決める。

甘党の人の意見は貴重だ。



「…私にも教えてくれないか?」

「はい?」

何を、だろう…。


「識別番号なんだが…」

「え!?」

「ダメかな」

「でもセルジュ様には側室の方もいらっしゃいますし…」

私なんかの番号を聞いて、というか私なんかと番号を交換して大丈夫なんだろうか。

それに私には聞かれる事はないだろうなあと思ってたばっかりなのに。


「そうだよな…信頼にはあたいしないか…」


「いえ、そういうわけではないんですが、言い方が難しいですね」

「なら、悪いようにはしないので教えてもらえないだろうか」

ダメという理由もない…。

けど、ヴィリン様の時と違って一呼吸おきたくなってしまうのは何故だろうか。


ルアノーブ帝国は現在も領土拡大を続けていて、そのうち北西大陸全土をその手中に収めてしまうんじゃないかとも言われていたりする。

まさかそこまでいくとは限らないだろうという意見もあるが、もし仮に帝国がこのフラスレ共和国も飲み込んでしまった場合、帝国の貴族制度がこの国にも適応されたりするのだろうか。

フラスレ共和国は表立った貴族は存在していないものの、政治を動かす特権階級は存在している。

国家元首を長として議会も権力を握っている。

でももし帝国の統治下に入った場合、皇太子であるセルジュ様なんて気安く話すことも出来ない人になってしまうかもしれない。

フラスレ共和国は、北西大陸の西の隅にある国だ。

主に大陸の東が領土の帝国とは距離があるからまだ安心かもしれないけれど、どうなるかなんて誰にもわからない。

もしセルジュ様が皇帝になったらその心配も少しは減るのかもしれないけど、今はまだ皇太子殿下だ。

それでもその影響力は計り知れないのだけど。


改めて凄い人なんだよなあと思うと気後れしてしまうのかもしれない。


でもヴィリン様も凄い人ではあるんだよなあ…。


ヴィリン様の方が知り合ってからは長いからかな。


理由を探すけどとくに見つかるわけでもなく、無言で待ってくれているセルジュ様になんて答えていいのかもわからない。


「そ、うですね…。セルジュ様が良いと言うなら別に私は困る事もありませんし」

「アクセサリーはいつも身につけているから心配しなくていい」

「あ…はい」

セルジュ様もヴィリン様もどんな人が登録されているのだろうと思いかけて、それ以上はやめておく。

アクセサリーのプライバシーに関わる安全性は保証されているので、なくさない限りは安心だし、それなりのものになると本人認証もついてたりするから他の人が使えないようにもなっているものもある。と言うか、そちらの方が主流だ。



何はともあれ、側室の方は心中穏やかではないんじゃないかなとも思いつつ、私はイヤーカフのボタンを押すことにした。

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