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プロローグ
「闇に飲まれ、人々の心はやがて消える」
晴れた五月の空の下、僕は声を聞いた。
そこは、家の近くにあるなんの変哲もない林の中だった。
自分の背丈より数倍もある木々がそびえ立ち、青々とした草地が広がる。
あたりを見回したが、誰もいない。
木漏れ日が射す草地をそっと風が揺らすと辺り一面が波のように煌めいた。
僕はふと空を見上げた。
「光さえも失われてしまう」
聞き覚えの無い声だった。でも、怖いという感情は押し寄せて来なかった。
儚げな、今にも消えてしまいそうな声。まるで、誰かに語りかけているかのように。
透き通ったその声はどこか懐かしさと物悲しさを漂わせているようにも思えた。
「誰…?闇ってなに…?」
僕は呟くように尋ねると、強い風が木々を揺らした。
まるでくすぐられて笑っているのかのようにざわざわと木の葉が音を奏でる。
「全ての輝きは全ての命。失われし心の光は、命の光。君には聞こえる。
この世の全ての輝きが。」