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夏祭り

少し日が経ってしまいましたが、7月17日にコミカライズ第24話が更新されました!

夏緋攻略がついに……!

最高すぎてずっと放心してます。

コミカライズ24話の一週間後くらいのイメージです。

 放課後、僕はいつも通り生徒会室に向かった。

 会長は用があって今はいないが、すぐに戻ってくるらしい。

 夏緋先輩と二人きりになったので、チャンスだと思って今日一日考えていたことを話す。


「夏緋先輩、今日は夏祭り――」

「行かない」


 夏祭りがあるので一緒に行きませんか? を言う前に断られてしまった。

 ダメだろうとは思っていたけれど、最後まで言わせてくれてもよくないか!?

 今日は華四季園から歩いて行ける距離の商店街で夏祭りがあるから、クラスではその話題がよく出ていた。

 放課後に行こうと話し合っているが聞こえてきて、僕も行きたいなあと思ったのだが……。

 人は多いし暑いし、夏緋先輩が嫌う要素が満載だから可能性は低いと思っていたけど残念だ。


「二人で行きたかったなあ」


 しょんぼりしながらつぶやく。

 窓の外に目を向けると楽しそうに下校している人たちがいたが、全員が祭りに行くように見えてきた。

 いいな……うらやましい……。


「……はあ。長居はしないぞ」

「えっ、いいの!?」


 しょんぼりの圧が効いたらしい。わーい!

 嬉しくて思わず立ち上がったところで、生徒会室の扉が開いて会長が戻ってきた。


「何だ? 二人してへらへらしやがって」

「してないだろ」


 夏緋先輩が即否定している。

 たしかにちょうど喜んでいた僕はともかく、夏緋先輩はいつも通りのクールフェイスだったのでは?


「いや、していたぞ。央を見てこの辺が緩んでいたな」


 近づいてきた会長が夏緋先輩の頬をつまんで引っ張っている。


「触るな」


 夏緋先輩が手で振り払うが、会長はしつこくつまみにいく。

 おお……青桐兄弟がじゃれている! もっとしてください。


「央がへらへらしているのは前からだったな」

「失礼な。へらへらしてません」


 ちゃんとニヤニヤするのを耐えていたのに心外だ。

 ほっぺを押さえて抗議すると、会長はため息をつきながら椅子にドカッと座った。


「まったく、じゃれるなら他でやれ。暇なら二人ででかけてこい」

「「!」」


『でかけてこい』だなんて言うのはめずらしい。

 もしかして……二人で祭りに行くように気を使ってくれた?

 びっくりして思わず夏緋先輩と目を見合わせた。


「会長、夏祭りがあるって知っているんですか?」

「そうなのか? それはいいことを聞いた」


 そう言って会長がニヤリと笑う。

 あ、余計なことを言っちゃった?

『一緒に行くぞ!』のパターンなのか!? と焦っていたら――。


「兄貴は邪魔だ」


 夏緋先輩が先手を打って断った。

 それにしても率直すぎません!?


「……お前も言うようになったじゃないか」


 会長がさらにニヤリと笑う。

 あ、やっぱり『行くぞ!』になるのかと思ったが、会長は「はっ!」と笑うと手で僕たちを追い払った。


「俺はまだやることがある。さっさと行け」


 あれ? 夏祭りがあることを知っていたけど、自分も行くふりをして焦らせただけ?

 やっぱり行かせてくれるつもりだったのかも……?

 ため息をつきながら生徒会室を出て行く夏緋先輩のあとに続き、扉を閉める前に会長に声をかける。


「会長、仲間外れにしてごめんね」


 謝ると鬱陶しそうに舌打ちをされた。


「いいから早く行け!」

「はーい! いってきます!」

 怖くてすぐに閉めてしまったが、行かせてくれてありがたいからおみやげくらい買ってこよう。


 ※


「暑い」

「一言目から文句はやめてください」


 夏緋先輩は外に出た瞬間に顔を顰めていた。

 まだ華四季園の敷地内ですが!?

 たしかに暑いしジメジメしているけど……。

 夕方になってきたので日差しが弱くなっているのが救いだ。

 水分補給をするためにコンビニで飲み物を買ってから向かう。

 まわりに目を向けると祭りに向かっている人もたくさんいて、浴衣姿を多く見かけた。

 祭りらしくていいな。


「僕も浴衣で祭りに来たいなあ。花火がある祭りのときは浴衣で行きません?」

「…………」


 無言で次があるのか? という顔をしないでください。


「僕の浴衣姿が見られますよ」

「それはいい誘い文句だな」


 ニヤリと笑ってますけど、本当にそう思ってます?

 普通、恋人の普段見られない恰好を見たいって思うだろ!

 僕だって夏緋先輩の浴衣姿を見たいぞ!


「まあ、花火なら人ごみの中に行かなくても見られるな」

「穴場とか知っているんですか?」

「親の伝手で利用できるホテルから花火が見える。子どものころに何度か行ったな」

「!」


 ホテルで花火鑑賞……セレブだ……。

 快適そうだけど僕は委縮しそうだ。


「ホテルで浴衣デートとかやらしい……」

「は? 期待に応えてやろうか?」

「すみませんでした」


 僕には異次元の話だったから何とも言えず、ちょっとふざけただけなのに目が本気だ。

 怖いような、顔が熱くなるような……!

 兄に男の尻を追いかけるなと言っていた人が今や誰よりもリアルにBLしている事実に頭がバグりそうになる。

 しかも相手は僕だし。

 そんなちょっとした複雑恐怖体験も味わったが、進むにつれて増していく賑わいとともにワクワクしてきた。

 屋台が見えてきて「わー!」と思わず声をあげる。

 入口の辺りには食べもの系の屋台が多く、かき氷やたこ焼き、りんご飴やチョコバナナが見えた。

 ソースの匂いがするから焼きそばもありそうだし、先にはからあげやポテト、きゅうりの一本漬けなんかもある。


「何か食べま――」

「食べない」

「即答~」


 こういう屋台の食べ物はやっぱりだめか。

 でも、僕はお腹が空いてきたし何か食べたい!


「暑いし、かき氷食べたいなあ」


 がっつり食べたい気もするが、今はちょっとでも涼しくなりたいかも。


「……買ってきてやろうか?」


 僕が見ていた屋台を見て顔を顰めているから、『氷の水は綺麗なのか』『虫が入ったりしていないのか』とか考えているんだろう。

 それでもやめろと言わずに買ってきてくれようとしていることが嬉しいし、なんだか面白い。

 僕が食べるのも顔を顰めて見るんだろうなあ。

 想像して思わず笑ってしまった僕を不思議そうに見ている夏緋先輩に「自分で買ってきます! ちょっと待ってて」と伝えて屋台に向かった。

 かき氷の屋台はいくつもあるが、近くのところが空いていたので少し待てば買えるだろう。


 何味にしようかな~練乳は欲しいな~。

 いちごは真っ赤だから会長が浮かぶなあ。

 ブルーハワイは青で夏緋先輩っぽい。

 でも、ブルーハワイって結局何味なんだ?

 食べたことあるけどよく分からなかったな。

 そんなことを考えている間に順番が回ってきて焦り、結局無難なメロンにした。


 氷がてんこ盛りになっているから零さないように気をつけつつ夏緋先輩を探すと、人の流れから少し外れた端の方にいたのだが……。

 浴衣を着た二人の女の子に話しかけられていた。


「ナ……ナンパか!?」

 衝撃の光景に僕は盛大に戸惑った。

 でも、夏緋先輩なら軽く流すか無視してそう……ってあれ、普通に話している?

 どういうこと?

 夏緋先輩に限ってナンパに応えることはないと分かっているが、楽しそうに話している女の子を見いるとなんだかモヤモヤしてきて、不機嫌になりつつ近寄っていった。

 僕の彼氏ですが! とか言ってやろうかなと思っていると、女の子がこちらを見てぱあっ! と笑顔になった。


「あ、央君だあ」

「え?」


 僕を知っている人?

 顔を見たけれど僕は知らない人だ……たぶん。


「私たち、青桐君と同じクラスなの」

「え、そうなんですか?」

「うん! お祭りに青桐君がいるからびっくりしちゃって、声かけてたの!」


 なるほど、華四季園の人だったから僕のことを知っているのか。

 納得すると同時に「僕の彼氏ですが!」を言わなくてよかったと心底ホッとした。

 危なっ! 冷や冷やさせんなよ~!


「あ、青桐とお気に入りの一年じゃん!」


 後ろから声をかけられて振り返ると同年代の男子が二人いたのだが、片方に見覚えがあった

 僕の中で好感度が高いモブ顔の人!

 浴衣の女子生徒と一緒に来ていたのか、買ってきたからあげを渡している。


「青桐! お前、祭りに来るのかよ~。何度誘っても秒で断るから祭りに行かない村の人かと思ってたのに。びっくりしたよ」


 モブ顔のクラスメイトが夏緋先輩に文句を言っている。

 何回も誘われていたのか……。

 嫌なのに僕の誘いは受けてくれることが嬉しくて、さっき不機嫌になってしまっていたのにニヤニヤしてしまいそうだ。


「ねえ、二人の邪魔しちゃ悪いよ! じゃあね、青桐君。また明日!」


 女の子たちが男子の背中を押す。

 ああ、と短く返事をする夏緋先輩に四人のクラスメイトは元気に手を振ると去って行った。


「いやー、夏緋先輩がナンパされてるのかと思いました」


 買ってきたかき氷を食べ始めながらつぶやく。

 まさかクラスメイトだとは思わなかったなあ。


「それで怒ってたのか?」

「え? お、怒ってないですけど……」

「こっちに来るとき目が据わってたぞ」


 見てたのかよ!


「……気のせいですよ」


 怒るというか、妬いてるところを見られていたのかと思うと照れる……。

 誤魔化そうと黙々と食べていたら頭がキーンとなったし!


「ナンパだったとしてついていくわけないだろ? お前にしか興味ない」

「ソウデスカ」


 照れを誤魔化そうとしているのに、余計に顔を赤くさせるな!


「ナンパならお前の方が心配だろ」

「どういう意味ですか? ナンパについて行きそうってこと? そんなことありえないし、そもそも声かけられることなんてないし」

「お前、それ……本気で言っているのか?」

「?」


 呆れられているが、僕の方も変なこと言うなあと呆れてますよ。


「うっ、頭が痛すぎる……」


 一気にかきこんで食べるとさらに頭がキーンとした。


「もう食べられない……食べてください……」

「オレが食うわけないだろ」


 そう言いながらも受け取ってくれたから不思議に思っていると、スプーンで口に運んで食べさせられた。

 食べてくれるんじゃないのか……。


「あいつら……ったく」

「?」


 夏緋先輩の視線を追うと、クラスメイトの人たちをみつけた。

 にこにこしながらこちらを見ているし、あの……撮影はやめてください……!


 ※


「食ったんだからさっそと行くぞ」

「はーい」


 頭痛に苦しみながら完食したあと、サッサと歩き始めた夏緋先輩のあとについていく。

 時間が経つごとにどんどん人が増えてきたから、並んで歩くのが難しくなってきた。

 夏緋先輩の顔もどんどん険しくなっていく。

 人とぶつかるのが嫌なんだろうな。

 ずっと小声で「暑い」「くさい」「ベトベトする」と文句を言っているし。


「おい、はぐれるなよ」


 少し後ろにいたら、夏緋先輩が手を引いてくれるようになった。

 暑くて人に触れるのは嫌なのに僕はいいのかとまたヘラヘラしそうになる。

 歩くのも疲れてきたし、少し楽になるから助かる~。


「あ、会長におみやげ買っていきません?」


 危ない、楽しくて忘れそうになってしまっていた。


「いらないだろ」

「一人寂しく作業して泣いてるかもしれないじゃないですか。たぶん、祭りがあるって分かってて送り出してくれたんだし」

「兄貴が泣くわけないだろ。……買うなら食べ物はやめろ」


 渋々という感じだが、了承してくれたので早速探しながら進んでいく。

 くじびきの景品とかでもいいかなあ?

 一回引いてみると、普通にハズレでピンポン玉くらいのカエルの顔がついたクリップを貰った。

 これが五百円か……。

 もったいないので夏緋先輩の前髪が顔にかからないように止めてあげたのだが、無言で外された。

 テーマパークで浮かれている人みたいでいいのに……夏緋先輩がつけていてくれたら五百円以上の価値になるのに……。

 そんなことをしながら進んでいたら、お面が並んでいるのをみつけた。


「あれ見たい!」


 お面を指差す僕に夏緋先輩は「あんなのいらないだろ」という顔をしている。


「ほら、キャラものだけじゃなくて『ひょっとこ』とか和風のものもありますよ! 鬼とかゴリラとかあるかもしれないじゃないですか」

「勝手にしたらいいが……お前が渡せよ? オレはどうなっても知らないからな」

「何言ってるんですか。ボコられるときは一緒ですよ」

「…………」


 もちろん連帯責任です!

 無言は了承と解釈し、僕の方が手を引きながらお面の屋台に向かう。

 近づいてみると和風のお面もたくさんあってテンションが上がった。

 その中でも……。


「夏緋先輩……狐面、似合いすぎません?」


 白地に朱色と黒、金で顔が描かれた伝統的な狐面と夏緋先輩と交互に見る。良すぎるだろ。

 どうしても被ってみて欲しい。


「買っちゃおうかな……」

「自分で被れよ?」

「…………。モチロン」


 買ってしまえばこっちのものだ。

 何かと理由をつけて被って貰おう。

 これは『買い』だと決め、続いておみやげも探す。


「般若のお面があるけど、会長は般若じゃないんだよなあ。『赤鬼』なんだよなあ」

「なんのこだわりだ」


 これだ! というものがなかったので、ここでは狐面だけ買った。

 千円は僕の財布的には結構痛いけど悔いはない。


 それから色々屋台を見ていたが、楽しそうなものはたくさんあったけどおみやげによさそうなものはなかった。

 もうりんご飴とかにしようかなと思っていた矢先、先の方に射的をみつけた。

 普通にやりたいと思ったし……夏緋先輩、銃も似合うのでは!?


「射的やりましょう!」


 絶対やるぞ!

 返事も聞かずに夏緋先輩の手を引いて突き進み、早速並ぶ。

 順番待ちをしながら景品を見ていると、おみやげにとてもいいものをみつけた。


「夏緋先輩、見て! あれいい! 絶対取りましょう!」


 僕が指差したのは手のひらサイズのゴリラのぬいぐるみだ。

 ふわふわで可愛いが、偉そうに腕を組み、あぐらをかいて座っている。

 あのふてぶてしさ、会長じゃん!


「がんばれ」

「何を他人事みたいに言っているんですか。一緒にやりますよ!」

「銃を触りたくないんだが……」


 何か言っていたが順番が来たので「二人です!」と答え、弾を五発受け取った。


「何でこんな不特定多数がベタベタ触ったものを……」


 ぶつくさ文句を言っている夏緋先輩に苦笑いしたが……銃を構えている姿を見て思わずニヤけた。

 やっぱり……いや、思った以上にかっこいい!

 周りにいる人たちもざわついていて、夏緋先輩に注目しているのが分かる。

 僕もゆっくり観察したい……写真を撮りたい!


「おい、さっさとやれ。次の人が待ってるだろ」

「分かってますよお」


 写真を撮っていたら注意されたが、後ろにいる人たちもあなたに釘付けになっているから大丈夫です。

 そうは言っても長く時間を取るわけにはいかないから、短時間で連写してから射的を始めた。


「お! ……あれ?」


 隣の夏緋先輩がゴリラを狙って当たったが……倒れない。

 重くて動かないのかな?


「頭の方を狙ってねえ」


 屋台のおじさんがそう言ってきたが、本当に頭に当たったら倒れるのだろうか。

 夏緋先輩、綺麗に当てたのになー!

 悔しくなりながら僕も狙ってみたが当たりもしなかった。

 もう一度やってみると胴に当たったが倒れなかった。


「くそ~」


 ほんとに倒れるのか? と疑いながら弾をつけていると、隣の夏緋先輩が撃った。

 ゴリラに見事命中、しかも頭!

 ぐらりとぬいぐるみが動いたのが見え、「お!?」と声をあげながら見守っていると……。


「倒れた!」


 拍手をすると、周囲からも拍手が起こった。

 やっぱりすごく見守られていたようだ。


「おめでとう~景品ゲットだよ~」


 おじさんが大きな声で祝いながら、倒れたぬいぐるみを夏緋先輩の元に連れていく。

 受け取った夏緋先輩はすぐにそれを僕に渡してくれた。


「やった! 会長~!」

「ははっ」


 大喜びで出迎えたら笑われた。

 いやー、無事会長をお迎えできて僕は嬉しいです!


「帰るぞ。手を洗いたい」


 もう少し遊びたい気もしたが結構時間も経っていたし、おみやげもゲットできたので帰ることにした。

 近くに公園で手を洗い、ゆっくり歩きながら家を目指す。

 人ごみから離れて静かになると涼しくなったし、とても快適になった。


「楽しかったでしょ?」

「まあな」


 来るのは嫌がっていたが、夏緋先輩もそれなりに楽しかったようでよかった。


「来年も来ましょう」

「次はホテルで花火だろ?」


 その話って本当に本気だったの?

 横を見るとニヤリと笑っていた。


「花火を見るだけですからね!」

「希望に応えなくていいのか?」

「希望してませんから!」


――翌日


「会長のおみやげは会長です」

「……どの辺りが俺なんだ?」

「この太々しさです!」

「……お前たちに気づかいは不要のようだな」

「ゲットしたのは夏緋先輩です!」

「お前……!」

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