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バレンタイン小話

全キャラ、夏緋寄りバージョンです

 今日はバレンタインデーだ。

 攻略対象のみんなは当然モテるので、隙があればチョコを渡されるという男の夢のような体験をしている。

 ……まあ、受け取っているのは楓くらいなのだが。

 楓は自分も作ってきているので、貰った人にはその場でクッキーを食べて貰ってお返しにしているようだ。

「誰に貰ったか分からなくなるし、ホワイトデーが大変だもん」と言っていた。

 さすが長年モテ男子をしているだけあって、切り抜け方を心得ていらっしゃる。


 ……ということで、僕も楓の作戦を真似てクッキーを作ってきた。

 僕も兄へのお荷物カウンターとして預かったりおこぼれで貰ったりと、割とチョコを貰う方なのだ。

 クッキーは兄と一緒に作って貰ったので半分以上兄お手製だ。

 だからおいしい……はず。

 不思議なことに同じ材料を使って同時に作ったのに、見た目のクオリティーが全然違う。

 兄が作ったものはお店の売り物のように綺麗なのに、僕は厚さがバラバラで歪だ。

 逆に手作り感があっていい! と思うことにした。


 兄は受け取っている年もあったが、今年はホワイトデーには卒業していて返せないからと断るという。

 春兄はチョコを渡してくる女子たちに「俺は好きな人からしか受け取らないんだ」と、兄の隣で堂々と断っているのを見かけた。

 無言で照れている兄とセットで尊いものを見せて頂いた。ありがとう、ハッピーバレンタイン!


 柊も外で女子に付きまとわれていたが、ガン無視しながら作業していた。

 一瞬見ただけなのに僕に気づいたのか、こちらを見たから焦って逃げてきた。

 今、クッキーを持っているから渡してもいいのだが……。

 ホワイトデーにとんでもないお返しを貰いそうなのでやめた。


 そして今、生徒会室へ続く廊下の先に会長を見つけたのだが——。


「「「…………」」」


 色んな学年の女子が壁に身を隠したり、一定の距離をとってただ歩いているだけのフリをしながら会長を追跡している。

 明らかに会長にチョコを渡したい女子たちだ。

 会長の関わるなオーラがすごいから気やすく話しかけることができず、渡せるタイミングを見計らっているのだろう。

 諦めて生徒会室の前に置いていく子が多いそうだが、今いる女子たちは果敢にも手渡しチャレンジをしているようだ。

 ……仕方ない。僕が乙女たちの救世主になってやるか。

 僕は女子たちを追い抜いて会長に近づいた。


「会長!」

「? 央か」


 振り返った会長が足を止めた。

 周りのチャレンジャーたちが僕たちに注目しているのを感じる。


「あれ? 会長、手ぶらですね!? バレンタインのチョコは貰わなかったんですか? 寂しいですね」

「あ? そんなものいらな——」

「あのっ!!」


 おそらく会長が「いらん」と言いかけたそのとき、すかさず女子が現れた。

 一人が出てくると、それに続いて続々と女子たちもこちらにやってきた。

 余計なことは言わず、「お納めください」という感じでサッとチョコを差し出している。


「すごい! さすが生徒会長!」


 会長は少し顔を顰めて断りそうな雰囲気を出していたから、拍手して盛り上げる。

 すると、多少気を良くしたのか、「はあ」と息を吐いた会長が受け取る姿勢を見せた。


「返しはしないぞ?」

「はいっ!!」


 女子たちは受け取って頂けるだけで光栄です! という顔で会長に次々にチョコを渡し、きゃーきゃー騒ぎながら去って行った。

 その様子を見て「よかったねえ」とにこにこしながら、女の子っていいな……と和んだ。

 それにしても……。


「チョコ、山盛りですね。持って帰るのが大変そう」

「夏緋に手伝わせるか」


 夏緋先輩、安定して気の毒だ。


「っていうか、貰ったものは全部食べるんですか?」

「さすがに全部は無理だ。夏緋に食わすか」


 兄の何でもお手伝い係にされている夏緋先輩、ほんとに可哀想……。

 僕の知り合いの中で、もっとも手作りというものを食べない人なのに……。


「とにかく、これを生徒会室に置いてくるか」


 会長は山のようなチョコを持って階段を登って行った。

 あんなに抱えているのにどっしりと歩いて行けるのがすごいな。


「天地?」


 上の階に消えていく会長をボーッと見送っていると、廊下の向かい側からやってきた人に声をかけられた。


「あ、夏緋先輩。しー!」


 今会長に見つかると荷物持ちとかさせられる。

 可哀想なので回避させてあげよう……今くらいは。


「……それは?」


 夏緋の視線が、僕が持ち歩いているクッキーを入れた紙袋に向けられている。


「これは僕と兄ちゃんが作ったお礼用バレンタインクッキーです」

「お礼用?」


 あ。

 少し首を傾げる夏緋先輩の背後にも、チャレンジャーの女子たちを発見した。

 夏緋先輩もポケットに手を突っ込んで受け取らないオーラ全開だから渡しにくいのだろう。


 また救世主になるべきか? と思ったが、夏緋先輩がジーッと紙袋を見続けていることが気になった。

 まさかと思うけど……お腹空いてる?


「食べますか?」


 紙袋を開けて見せたがジーッと見ているだけなので、一つ手に取って前に突き出してみる。


「……歪だな。お前が作った方か」

「そうですけど……失礼な。芸術的だと言ってください」


 星型なのにヒトデに見えるのは気のせいです。

 食べないとは思うけど、あーんするように口元に持っていくと……食べた。

 びっくりして、手を下ろせずに固まっていたら——。


「普通」

「おい」


 まあ、「まずい」よりはいいけれどさ……。


「口直しに兄ちゃんが作った方を食べますか」

「いらない」


 拗ねモードで紙袋を差し出すと、夏緋先輩はいらないと言ったのだが……手を入れてクッキーを取った。

 そして食べるんかい。

 しかも、形が歪な方……僕が作った方だ。


「なぜ文句をいいながらおかわりするんだ……あっ」


 ホワイトデーに何か催促しようと考えていたところで、チャレンジャーの女子たちを思い出した。

 渡したいのに邪魔をして怒らせちゃったかな!? と思ったのだが……。


「?」


 チャレンジャーたちは怒るどころか、にこにこと暖かい空気を放ちながら去った。

 あれ、渡さなくていいの!?

 そして、なぜかいた佐々木楓子もサムズアップをしてウキウキしながら消えていったのだった……。

 おい、僕で栄養補給するんじゃない!


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