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BLゲームの主人公の弟であることに気がつきました(連載版)  作者: 花果 唯
IF ありえた未来2

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あけましておめでとうございます2025

 本日は元旦。あけましておめでとうございます。

 お正月には羽根つき! ……ということで、現在春兄と青桐兄弟、そして楓を巻き込んで羽根つきトーナメントが行われている。


 どうしてこうなかったというと、最初は春兄と兄、僕の三人だった。

 そこに楓から連絡がきたので、一緒にどうかと誘ったわけだ。


 すぐに来た楓を加え、3年組VS1年組を行ったら……もちろん僕たちが負けた。

 楓はとてもいい動きをしたのだが、僕がダメダメだった。

 兄にうまく右へ左へと振られ、ついて行けず……。

 完全に敗因は僕である。

 でも、「兄に振り回された」と思ったらどこか嬉しさもあるので、僕のブラコンは末期かもしれない。


 そのあと、兄と楓がテニス部対決をして、それを春兄と談笑しながら見ていたら会長からメッセージが入った。

 僕が送っていた『あけおめ』に返してくれたのだが……。


「春兄、ピース」

「?」


 言われるがまま、きょとんとしながらもピースをしてくれる春兄の写真を撮る。

 スタンプ代わり送ってあげよう。

 春兄の背後には楽しそうにしている兄も写っているが、別に煽っているわけではない。

 楽しい写真は縁起がいいからね、うん。


 ……と思っていたら、すぐに会長から電話がかかって来た。

 そんな気がしていたので、すぐに電話に出る。


『あの馬鹿は新年早々押しかけているのか!』

「押しかけているっていうか、毎年そうなんで」

『……今から俺も行く』


 え、来るの!?

 忙しいだろうから来ないかもしれないと思ったのだが目論見通——ごほん。


「あ、夏緋先輩も連れてきてください!」

『? 分かった』


 ふう……ちゃんと保険もかけられてよかった。


「央?」

「ナンデモナイヨ」


 春兄が怪訝な顔をしているので、たぶんバレただろうけど笑顔でごまかした。


 ※




「真! 央! あけましておめでとう!」


 速攻で家を出たのか、30分ほどすると会長が現れた。

 親戚の用事でもあったのか、スーツではないがフォーマル寄りの格好だ。

 黒のロングコートを着ていてかっこいい。


「夏希? あけましておめでとう」

「会長、おめでとうございまーす」


 突然現れた会長に兄は驚いていたが、にこやかに新年の挨拶をしている。

 たぶん、『どうせ央が呼んだんだろうな』と分かったんだろうな。

 春兄と楓は『余計なことをしたな?』という顔をしているが気にしない。


「あ、夏緋先輩! 新年あけましておめでとうございま……す」


 会長の後ろにいる夏緋先輩の元へ駆け寄ったのだが『お前、新年早々巻き込んでくれたな?』という冷気を放っている。さ、寒いな~……。


 夏緋先輩も少しかしこまった格好で、グレーのロングコートだ。


「元旦から兄貴に連れ回されるとは思わなかった」

「ブラコンとして幸先がいいじゃないですか、いたーっ!」


 また笑顔でごまかしていたら頬を引っ張られた。

 新年一発目の暴力だ!


「にいちゃーん!」

「!」


 助けを求めて叫んだ瞬間、夏緋先輩は頬を離した。

 兄と会長がこちらを見たが、夏緋先輩は何もなかったような涼しい顔をしている。

 やっぱり兄たちに叱られたくないのだろう。

 ふふ……ここは天地家、僕のフィールドだ。

 今回は見逃してあげるが、本気になったら会長と兄を全力で味方につけるぞ!


「青桐、何しに来たんだ。帰れ。暇でも家で寝てろ」

「暇じゃないし、ここはお前の家じゃない。お前に言われる筋合いはない」

「忙しいなら尚更帰れ。何しに来たんだよ」


 新年早々、会長と春兄の小競り合いが始まりつつある。

 二人も羽根つきで勝負をつけたりしないかなあ。

 それが見たくで煽ったところもあるのだが……と思っていたら、兄が会長に羽子板を渡した。


「羽根つきをするのか?」


 受け取った会長が羽子板を見ている。

 赤の羽子板だから似合うな。


「そう。一緒にやろう」

「……それはいいな」


 兄に誘われたからか、会長も嬉しそうだ。

 今から兄と会長がするようだが、会長VS春兄も見られるかもしれないと思っていたら……。


「2対2で勝負しよう! 春樹と夏希はもっと仲良くした方がいいから同じチームね」

「「!」」


 びっくりしている二人に構わず、兄は夏緋先輩に声をかけた。


「君はオレと一緒にどう?」

「……いえ」


 夏緋先輩も驚いていたが、すぐに断っていた。


「え、兄ちゃんとやればいいのに! 見たい!」

「勘弁してくれ……」


 グイグイと押してみるがまったく動かない。

 会長と対決するのが嫌なのか、兄と同じチームなのが気まずいのか……両方か?


「じゃあ、楓。オレと一緒にやってくれる? 二人で春樹と夏希を叩き潰そう!」

「! はい!」


 兄から羽子板を渡され、楓は目を輝かせて受け取った。

 誘って貰えたことが嬉しかったようだ。

 ちなみに僕を誘わなかったのは戦力外ということですか?

 ま、いいけどね! 夏緋先輩と一緒にみんなに茶々いれるから!


 テニス部の二人はやる気スイッチが入ったのか面構えが変わった。

 すごいことになりそうな予感がする……!


「ここじゃ狭いから、近くの公園の方に行こうか」


 そこまで本気になるの!? と思ったが、会長と春兄が本気を出したら、羽根で天地家のガラス窓とか粉砕されるかもしれない!

 公園も近いし、近所迷惑になるかもしれないから移動した方がよさそうだ。

 僕はどさくさに紛れて帰ろうとする夏緋先輩の腕を掴み、みんなで公園に移動した。


 ※


 近くの公園に移動し、運動場のような広場に向かう。


「バトミントンのコートくらいの広さでいいよね」

「そうですね」


 兄と楓が落ちていた木の棒で、地面に線を引いてコートを作っていく。

 僕も手伝おうとしたが「線を引く目印代わりに立っていて」と言われたので、ただのピンと化した。

 残りの3人もそうだ。随分イケメンな目印ピンだなあ。


 会長は羽根つき自体には乗り気のようだが、春兄とペアということには納得していないようだ。

 それは春兄も同じようで、「兄弟でペアを組めばいいじゃないか」と言っていたが、夏緋先輩は聞こえないふりをしていた。


 無事にコートができたので、一旦集まって話をする。


「もちろん、負けた方は顔にらくがきされる罰ゲームだよね? 終わったら家に帰って墨で描くから」

「「!」」


 兄が言い出した言葉に、会長と春兄だけじゃなく楓も「えっ」という顔をしている。

 でも、「大丈夫、オレと楓なら絶対負けないから!」と言われて再び気合を入れ直していた。だ、大丈夫かな……。


「何で俺が青桐と……」

「こいつと組むくらいなら俺は一人でいいのだが」

「はいはい、春樹も夏希も文句を言わずに位置について」

「アキラ、ボクを応援してね~!」


 気合十分で配置につく兄と楓とは違い、会長と春兄は嫌々動いている。


 会長と春兄は、身体能力とパワーはバカ強いけどチームワークは絶対悪い。

 兄と楓は、テニス部エースと期待の新人ペアでチームワークは抜群だろう。


「夏緋先輩、どちらが勝ちますかね?」


 僕と夏緋先輩は審判をするため、センターラインの横に立って話し始めた。


「兄貴の方じゃないか?」


 でたよ、ブラコン。

 自分の兄一人でも負けないと思っているのだろう。気持ちは分かる。


「僕は兄ちゃんと楓が勝つと思います! だから、お互い応援している方が負けたら一緒に罰ゲーム受けません?」


 つまり、僕は兄たちが負けたら罰ゲームを受けるということだ。

 そして、会長たちが負けたら夏緋先輩も罰ゲームを受けて貰う!


「そんなことするわけ——」

「それはいい。夏緋。そうしろ!」

「…………」


 僕たちのやり取りを聞いていた会長の言葉に、夏緋先輩は絶望した顔になった。

 その直後、絶対零度の目で僕を見てきた。

 ごめんなさい! でも、後悔してない!


「あ、僕は兄ちゃんと楓チームの点数を手でやるので、会長と春兄の方は夏緋先輩がやってくださいね」


 気を取り直し、コートに目を向ける。

 僕が兄と楓側に立っていたので、会長と春兄側は夏緋先輩に頼む。


「……はあ」


 深いため息をついてはいるが、やってくれるようだ。


「夏緋先輩、誤審があると会長に叱られて1月2日を迎えられなくなりますよ」

「元旦早々に物騒なことを言うな」


 早速始めて行くわけだが羽根つきの正式なルールが分からないので、バトミントンのようにラリーポイント方式にするようだ。

 羽根を落とした方が負けで、点を取った方がサーブをしていく。

 とりあえず10ポイント先取で勝利ということにしたらしい。


 兄と楓は集まって作戦会議のようなことをしている。

 二人とも上着を脱いで後ろのベンチに置いたし、ガチだ……。


 一方の会長と春兄はというと、上着をきたまま離れてドーンと立っている。

 協力する気ゼロだなあ。


「サーブはそちらからでいいぞ」


 会長が腕組みをして兄たちに言っている。


「お前が仕切るな。まあ、そっちからやってくれ」

「そう? じゃあ、お言葉に甘えて。楓、オレがやっていい?」

「どうぞ!」


 兄が羽根を持っていたので、そのままサーブに移る。


「……行くね」


 そう言った瞬間に兄の目つきが真剣なものになった。


 ――シュンッ


「「!」」


 は……早っ!

 真剣な兄ちゃんかっこいい! と思っている間に羽根は会長と春兄の間を通り抜けて地面に落ちた。

 兄と楓チームの先取。

 会長と春兄、そして夏緋先輩も目を見開いて驚いている。


「い、1点……」


 スコアボードなどないので、兄チームの点数を僕が指で表す。

 兄&楓のポイントなので、続けて兄がサーブをするわけだが……。


「「…………」」


 兄の真剣さが伝わったのか、会長はコートを脱いで夏緋先輩に投げた。

 春兄も「ベンチに置いてくれ」と言って僕に投げてきて、二人ともちゃんと試合をするような構えになった。


 兄はそれに不敵な笑みを見せている。

 攻め二人に挑戦的な笑みを向けているなんて最高だ……!

 これは記録に残さないと!


「夏緋先輩。僕、兄ちゃんの写真撮るんで。ちゃんと見ていてくださいね」

「オレに丸投げするな」


 動画で撮りたいが……夏緋先輩にすべて押し付けると僕は凍ることになりそうだ。

 仕方ないので写真だけとり、再び試合に集中する。

 兄が打った羽根は、すごい速さで春兄の方に飛んで行った。

 春兄はさすがの運動神経で打ち返したが、楓がすぐにそれに反応して返す。

 羽根は会長と春兄の間に飛んで行った結果——


「「!?」」


 お互い打とうとして、ぶつかりそうになった。

 すぐに動きを止めたから、そうならずには済んだのだが……羽根は二人の間を通り過ぎて落ちた。


「青桐、ボーッとするな!」

「お前こそボーッとするな! どう考えても俺のエリアだろ!」


 攻めたちが揉めている間、兄と楓は「いえーい」とハイタッチしている。

 和む……これも写真を撮らねば……!


「会長たち、負けるかもしれませんね」

「まだ始まったばかりだぞ」


 涼しい顔をしているが、内心は「兄貴がんばれ!」なのだろうか。

 そう思うと可愛いな。

 僕も負けずに兄を応援しよう!


 また兄が素晴らしいサーブを打ち、春兄が返したが、それを楓が会長の足元に叩き込んだ。

 素晴らしい対応力を見せた会長が拾って返したが……羽根はコート外に落ちてしまう。


「楓! すごいぞ!」


 思わず拍手すると、笑顔でピースをしてくれた。可愛い!

 すかさず写真を撮っていると、隣の夏緋先輩から冷ややかな視線を感じた。

 何ですか? 文句がありますか? 写真は消しませんけど!


 そんな静かな攻防をしているうちに、今度は楓のサーブから始まった。

 楓も兄ほど威力はないものの、いいところを攻める素晴らしいサーブだ。

 カンッ、カンッといい音を立て、初めてラリーが続いた結果……楓が打ち損じてしまい、会長と春兄が初めてポイントを取った。


「真先輩、すみません……!」

「大丈夫、よく返せてる! さすがだよ」


 部活の先輩後輩! という感じがいい。

 僕と夏緋先輩も生徒会室に呼び出される先輩と後輩という関係性だが、こんな青春を感じられることはない。


「夏緋先輩……テニス部の関係性、僕たちには眩しいですね……」

「何を言いたいのか分からないが、オレは無関係だ」

「関係大ありですから! 僕たちも青春してみましょうよ! 一緒に会長を倒すとか!」

「はあ?」

「やっぱり『会長に呼び出され部』としては、会長の支配から卒業することがクライマックスというか。あ、でも夏緋先輩って自主的に来ている……? ということは、部員は実質僕一人?」


 ……なんてことを考えていると、「央、ちゃんと見てるのか!」と会長に叱られた。怖い!


「あ、すみません!」

「……お前ひとりでアレを倒せるのか?」

「無理です」


 僕と夏緋先輩がそんなやり取りをしている間も——。


「サーブは俺がやる。お前は一人でバスケでもしていろ」

「お前に任せた馬鹿みたいに飛ばして無駄になるだろ? 俺に渡せ!」


 今度はどちらがサーブをするかで揉めている。

 チームワーク抜群なテニス部ペアに対して、この攻めペアときたら!


「あんまり揉めてたら向こうのサーブにしますよ!」


 二人にそう叫ぶと、「そんなルールはないぞ!」と揃って帰って来たが……。


「今は僕と夏緋先輩が審判、神なので! ね! 夏緋先輩!」


 夏緋先輩の後ろに隠れて大口を叩く。


「オレを巻き込むな」


 夏緋先輩はこんなことを言っているが、「賛成!」という声が兄たちから聞こえる。


「タイムアウトでボクらのサーブでよくない?」

「もうじゃんけんしなよ」


 兄に言われて、渋々二人がじゃんけんをしたら……会長が勝った。

 それにドヤ顔をする会長に、春兄はイラっとしている。気持ちは分かる。


 会長のサーブとなったわけだが……兄のときよりも大きく羽子板が強くカッ!! と鳴り、羽根が高速で飛んでいった。早いっ!

 でも、兄が綺麗に返し、春兄もそれを返したが……最終的には、楓がうまく会長と春兄の間を狙ってポイントを取った。


「青桐、お前……」

「馬鹿が……本当にお前は足手まといだな」


 駄目だこりゃ!

 兄と楓も、完全に二人の連携が悪いところを突いて点を取っているし……。


「夏緋先輩、会長の顔に何描きます?」

「……描くのはオレじゃないだろ」


 夏緋先輩ですら、負けは否定しなくなってしまった。

 そして、会長たちと一蓮托生で自分も罰ゲームを受ける運命なので改めて絶望しているようだ。


 会長と春兄の劣勢は続き――。

 とうとう9対3、兄たちがあと1点取ると勝ちというところまできた。


「1年のときの二人は強かったのになあ」

「「!」」


 兄のつぶやきに会長と春兄が反応している。

 もしかして、3人が1年のときに、こういう競技で会長と春兄がペアになったことがあったのだろうか。

 そのときは今のようにギスギスしていなくて、仲良くプレーしたのかな。

 兄との恋愛でのいざこざでそれが崩れたのかと改めて思うとせつない……。


 会長の立場から考えると、振られた相手から春兄と仲良くしろと言われるなんてつらいだろう。兄もそれは分かっているはずだ。

 でも、兄は会長なら乗り越えられると信じているから、春兄と1年の頃のような関係に戻って欲しいと願っているのだと思う。


 みんなそれを察したのか静かになったが、会長は「はあ」とため息をつくと春兄に話しかけた。


「……仕方ない。お前が好きに動け。俺がフォローしてやる」


 え、会長がフォローをするの!?

 隣にいる夏緋先輩も驚いている。

 あ、でも、会長ってなんでもできるタイプだから、フォロー役は向いてるのかも?


「お前に指図されたくないが……好きにやっていいなら、そうさせて貰おうか」


 春兄も会長の言葉に納得しているし、二人のギスギスした空気が消えた。


 そこからは会長と春兄の動きが変わった。

 兄と楓はコミュニケーションを取らないと落としてしまいそうなところを狙っていくが……。


「青桐!」

「櫻井! 俺が取る!」


 二人が声を掛け合って、しっかりと返して行く。


「会長と春兄がお互いの名前を呼び合って必死に勝負をしているなんて……!」


 そんな姿に僕は感動してしまった。

 反抗期の息子がプレゼントを買ってきてくれたら、こんな気持ちになるのかもしれない!

 それに、連携する二人の動きはすごい! 目で追うのが大変なのだが!


「夏緋先輩、すごいですね!」

「そうだな」


 そっけない返事だったが、夏緋先輩も夢中になって試合を見ている。

 内心『すごいぞ! 兄貴!』でフィーバーしているのかもしれない。


 覚醒した会長&春兄ペアが連続で点を取り、勢いよく巻き上げていくが……。


「やっと手ごたえのある試合ができるようになったよ」

「真先輩、おもしろくなってきましたね!」


 兄と楓も楽しそうだ。

 とうとう9対7まで追いつてきたので、もしかして逆転勝ちしてしまう!? と思っていたら、やけに周りがざわざわしていることに気がついた。

 公園に来ていた人たちの目に留まり、いつの間にか注目を集めていたらしい。

 学生よりも中年層が多いように見える……と思いながら周りを見ていたら、ご近所のご婦人方をみつけた。

 散歩でもしていたのか?

 ご婦人の一人は僕と目が合うと、遠慮しながらも駆け寄ってきた。


「央君! 今、何対何なの!?」

「10点先取で9対7です」

「真君とあの可愛らしい子のペアがあと一点なのね!? 私たちも応援するわ!」


 そう言うとご婦人は集まりに戻って行った。

 なるほど、あのご近所の集まりは兄応援団なのか。さすがご近所に愛されている兄。


 その間にも会長と春兄チームが点を取ったので9対8だ。

 かっこよすぎて何をしているのか忘れちゃうが、これって羽根つきなんだよなあ。


 今度は春兄の力強いサーブから始まっている。

 最初とは違い、気持ちのいい音を立ててラリーが続く。

 この勢いのまま同点に追いつかれるのかと思ったが……。


「あ!」


 兄の綺麗なスマッシュが会長と春兄の間に落ちて、僕は思わず声を出してしまった。


「10点! 兄ちゃんと楓の勝ち〜!」


 僕が大声で宣言すると、「わああああ!!」と歓声があがった。

 その声にプレーをしていた四人がびっくりしている。

 今まで集中していてギャラリーに気づいていなかったようだ。


 兄は「真くん、かっこよかったわよ!」というご近所軍団の声に和かに手を振っている。


「楽しかったよ。やっぱり春樹と夏希が本気でやると強いね」


 兄の満面の笑みに、会長と春兄が照れている。

 なんてちょろい攻めたちなんだ。


「アキラ! ボク、すごかったでしょ!」

「楓、めちゃくちゃかっこよかったぞ! すごいな〜! テニス部の次のエースは楓だな!」

「えへへ~」


 腕に絡んできた楓に賛辞を送っていると、また隣から冷ややかな空気を感じた。

 また男同士がどうとか考えているのか?

 楓も夏緋先輩に「文句ある?」みたいな顔してさらにくっついてくるし、正月なんだからもっと平和にいこうよ!


「じゃあ、罰ゲームだね! 家に帰って習字セット出さないと」


 兄の言葉に全員「あ、ほんとにやるんだ」という顔をしている。

 でも、会長と春兄、そして夏緋先輩までらくがきされるなんて楽しみだ!


 また、ナチュラルに帰ろうとしている夏緋先輩を楓がいない方の腕で掴んで天地家に戻った。

 いやあ、正月早々両手に花だなあ。




 家に帰るとみんなでリビング行く。

 運動していた4人はあまり寒くないようだが、審判をしていた僕と夏緋先輩は寒いのですぐにこたつに入った。


 兄は習字セットを出さなくても筆ペンがあったことを思い出し、すぐに持ってきた。

 今は兄が会長と春兄というイケメン過ぎるキャンバスに何を描こうか楽しそうに悩んでいる。

 楓はさすがに「ほんとに描いていいのか?」と戸惑っているようで兄に任せると言っていた。


「うーん、何にしようかな」

「「…………」」


 悩む兄を前にして、会長と春兄は公開処刑を待っているようだ。

 夏緋先輩は追加で罰ゲーム対象になったことを、なかったことのように振る舞っているが、僕はちゃんと覚えていますよ。

 でもまあ、あまり派手なのは可哀想だから……。


「猫のヒゲとかは? 傷がある猫とか」

「あ、それいい!」


 僕が何気なくいった案が採用されたようで、兄が春兄の左頬に三本、右頬に三本のヒゲを描いた。

 あと、おでこに『メ』の字のような傷もつけた。


「うん、可愛い」


 満足している兄の隣で会長は『次は俺がこんな目に遭うのか?』という顔をしている。そうですよ。


 とりあえず僕はカシャカシャと十枚くらい写真を撮った。

 春兄は鏡を持ってきて何とも言えない顔をしているし、楓も「笑っていもいいのか分からない」という微妙な表情だ。


 夏緋先輩なんてまだ「我関せず」という顔でスマホを触っている。

 会長の次はあなたですよ。


 そんなやり取りをしている間に、会長猫が完成していた。

 春兄と同じ6本のヒゲと、反転している『メ』の傷が描かれている。


「同じところに傷があるなんて仲良しだね」


 二人を見て満足している兄に僕は声をかけた。


「あと夏緋先輩も」

「…………」

「あ、そうだね。じゃあ、央が描いてあげて」

「…………」


 目で「描いたらお前を消す」と訴えないでください。


「よし、俺が描いてやろう!」

「早く描け」


 会長に描かれるよりはマシだと思ったのか、夏緋先輩は僕に催促してきた。

 じゃあ、と描こうと思ったが……。

 このイケメンフェイスにらくがきするのは罪悪感が湧く。


 あと、夏緋先輩に顔を差し出されるのはちょっとドキッとしてしまう。

 でも、描かないと待たせるだけなので、ヒゲと傷をパパッと描いた。

 傷はおでこに描いても髪に隠れて見えないので、猫のヒゲの下にした。

 ……結構上手く描けたかも!


「夏緋先輩、可愛いですよ! ……って、そんなに睨まないでくださいよ」

「いいじゃん! ネコ3匹で可愛いね! 並んでよ!」


 兄の頼みを聞いて三人が並んだので、僕たちはパシャパシャと写真を撮った。

 楓も勝利の記念にするのか、写真を撮っている。


 猫三人は不機嫌そうだが、お揃いの仲良しでいいですね!

 1番仲良くできなさそうな三人がこうして仲良く並んでいるので、今年はいい年になりそうです!



このあと真が「このまま初詣に行こうか」と言い出したそうです。

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